【レポート】Web担当者Forumミーティング 2022 春

なぜ、ネット広告は急成長した? デジタルマーケティング史25年から学ぶ「今、重視すべきコト」

『欲望で捉えるデジタルマーケティング史』の著者が、デジタルマーケティング約25年の歴史を振り返りながら、「今、マーケターが重視すべきこと」を解説する。

1990年代に登場したインターネット広告は急速にその価値を認められ、現在ではマーケティングやプロモーションにおいて、「まず検討すべきメディア」として認知されている。

その四半世紀の変遷をまとめた『欲望で捉えるデジタルマーケティング史』を上梓した博報堂DYメディアパートナーズの森永真弓氏が、「Web担当者Forumミーティング 2022 春」に登壇。出版に至るまでの勉強会、そして本書への反応などを踏まえ、デジタルマーケティングの歴史について紹介した。

博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 森永真弓氏

「人の欲望」を軸に、インターネット広告の歴史を紐解く

「最初にインターネットに接続した端末は?」「日常的にインターネットを使うようになったのはいつ頃?」といった森永氏の問いかけに対し、聴講者の答えはさまざまで、個々人のインターネットの使用実感が異なることが伺える。

たとえば、iPhoneの登場は2007年で、日本上陸は2008年だが、それでは「スマホが影響力をもち始めた頃」とはいつになるのか? 上陸直後とするには無理があり、一説には東日本大震災でLINEなどのチャットツールが注目された2011年とされるが、実感は人によっても異なる。スマホの普及について今も現役の“生き証人”が多い中で、誰もが納得できる歴史としてまとめるにはどうすればいいのか。そこで森永氏が考えたのが「人の欲望を軸にして考える」という試みだった。

歴史は人が作ってきたもの。インターネットの歴史も『いろんなものを見たい』『もっと楽をしたい』というような人々の欲望がお金を呼び、サービスを生んだ歴史だと考えられます。人の欲望を軸にサービスや技術と紐づければ、歴史としてまとめられるのではないかと思いました(森永氏)

「ブランディング」に対するデジタル系・非デジタル系間に生じた齟齬

デジタルマーケティング界隈で起きていること

そもそもインターネットによる施策を、次の3つに領域を分けた場合。

  1. 認知・興味を取りたい
  2. 理解獲得やイメージアップを図りたい
  3. 売上に貢献する行動をさせたい

「3. 売上に貢献する行動をさせたい」の技術だけが突出して発達した印象がある。デジタルマーケティングでは、インターネット広告は「クリック(行動計測)できる広告」が基本だと考えられてきた。

ところが、広告メニューの開発の中で、クリックを目的としない「動画広告メニュー」が登場した。何に効くのかが説明しづらいため、動画広告の成果を「ブランディング」と呼ぶようになった。

その結果、デジタルマーケティングの営業は、「ブランディングをするのであれば動画広告」と話すようになるが、非デジタルを経験しているマーケターには違和感があるというわけだ。

非デジタルも経験しているマーケターの思考回路

非デジタルも経験しているマーケターにとって、店頭やテレビ、新聞などの施策は「広告活動全体の目的」に基づくものであり、インターネット広告もその1つに過ぎない。だからこそ、目的とメディアは必ずしも1対1ではなく、「ブランディングという目的のために企画に応じて都度メディアを選択する」のが非デジタル系マーケターの一般的な考え方だ。

非デジタル系マーケターにとって、目的とメディアは1対1対応しない

そして、森永氏は「インターネット広告、クリックで行動計測できる広告については、“効果”を疑ったほうがいい」とも語る。購買や契約・ダウンロードなどの明らかなコンバージョンはともかく、クリックを「理解した」「認知した」「“いいね”したことで好感度が上がった」と捉えるのは擬似的指標に過ぎないからだ。

非デジタル系においても同様のことが起きている。キャンペーンなどでよくみる「穴埋めクイズでプレゼント」という施策において、「応募数」を「認知者数」として報告することが常態化していたのだ。

動画広告でも、テレビCMでも、コンバージョン以外の効果を本当に知りたいと思ったら、どんな広告においても別途調査するしかありません。それを前提にして、双方のマーケターはちょっと冷静になるべきでしょう(森永氏)

ブランディング広告を巡る齟齬

次図の「インターネット」の箇所を見てほしい。遷移しない広告もあり、動画系の時間を奪うタイプもある。それらが組み合わさった施策の目的はブランディングだけではない。そこで、非デジタル系とデジタル系での「ブランディング広告を巡る誤解」が生じるのだ。

非デジタル系、デジタル系の「ブランディング広告を巡る齟齬」

書籍の中で、『ブランディング広告を巡る齟齬』に特に反応がありました。これはまさに、そうした齟齬による問題が現場で起きていることにほかなりません(森永氏)

インターネットによって「広告に求めるもの」「広告の作り方」が変わった

非デジタル系とデジタル系で「動画によるブランディング」の捉え方について齟齬が生じたように、事象の解釈はそれぞれの立場や経験によって異なる。インターネットの歴史についても、それぞれの人の思惑や欲望などが影響し、紡ぎ出されてきたといっても過言ではないだろう。

まず、そもそもインターネット登場前は、さまざまな施策が分断された状態にあった。モノが売れたのは「テレビCMのおかげなのか」「CMを打つからと店舗が露出をしたからなのか」、明らかにはわからなかった。

そこにインターネットが登場。初期には広告メニューの1つに過ぎなかったが、やがて領域が拡大したことで、生活者がインターネットを介して分断をつなぐような行動をとるようになった。企業側もそれを促進するようになり、その結果、インターネットのカバー領域が増えて、今やデジタルを使わないマーケティングはありえない時代となっている。

生活者がインターネットを介して各メディアをつなぐ行動をとるようになった

インターネット登場前の広告は「そこにいる生活者に何を知らせるか」しか考えていなかったといえる。企業からみれば生活者は受け手でしかなく、目的・戦略決定から、表現やメディア計画なども決めて実行し、その後は受け手の反応をみるという、いわば単発活動の広告だった。

インターネット登場後は、生活者は受け手であり担い手であるとみなされ、企業もシェアやクチコミなど「どう動いてもらうか」を考えるようになっている。目的・表現・メディア計画を決定するまでは同様だが、その後は、生活者の反応を見ながら目的・表現・メディア計画を考え、反応をみるというように継続運用する広告へと変わっている。

インターネット登場前は単発活動の広告だったが、登場後は継続運用する広告に変わった

デジタルと非デジタルの両方に取り組む森永氏は、「デジタルマーケティングは対応すべきことに追われている。インターネットがなかった時代に比べると、『広告戦略やクリエイティブを考え抜く』ということをしなくなったのではないか。生活者側に決めてもらう仕組みができたことで、便利になった反面、失ったものもあるのではないか」と語った。

欲望が変化を促進し、テクノロジーが押し上げる

新しい施策ブームと衰退

インターネット広告の歴史を作ったものの1つが、「新奇性」であることは間違いない。新奇性のあるクリエイティブによって広報活動をし、それが陳腐化すると広告によって認知を図るというように、常に広報と広告の間で揺れてきた。

また、ネット施策で起きがちなのが、目的と手段の取り違え現象だ。解決したい課題があり、それを解決する効果的な新しい施策が登場すると、それだけが注目され、新しい施策をやればうまくいくという話にすり替わり、新しい施策ブームが訪れる。結果、本質的な課題解決に結びつかないことが増えてその施策は廃れてしまうのだ。

ここで森永氏は、2001年のドイツでの施策「BMW FILMS」について紹介した。若くして成功した人たちのライフスタイルからネットとの親和性を発見し、若年層に人気のあった監督のクリエイティブ作品をインターネット上で配信したところ、年長者の車と思われていた車のイメージチェンジに成功したという話だ。

BMW FILMSが成功した結果、『動画が効果的だ』という話になり、動画サイトが一気に増えました。しかし、動画だから効くわけではありません。目的や対象がフィットしていない場合には、効果が出るはずがありません。そこで動画サイトのブームはいったん廃れてしまいました(森永氏)

こうしたことはさまざまな場面で起きてきた。人の営みとして「型の繰り返し」があり、そこにテクノロジーの「線形進化」が組み合わされると、「らせん状に変化する」という現象が何度もあったのだ。

たとえば、かつてのテレビCMでの「続きはWebで」は、Webサイトの商品の詳細情報を見せる流れになっていた。しかし、近年では社会背景が変化し、パーパス経営などが注目される中、商品よりも哲学や背景にある思いを伝えるための「続きはWebで」が使われるようになっている。

これまでの「似たようなもの」の変化版・進化版と捉えれば、新しいテクノロジーにも振り回されずに本来の目的を貫くことができるだろう。

欲望が変化を促進してきた

あくまで変化を促進するのは「人」であり、それも生活者、広告主、広告事業者がそれぞれ抱く“相反する思い”が影響していることは間違いない。「広告に騙されたくない」「排除したい」という生活者、「安く楽に広告効果を上げたい」という広告主、そして広告事業者は「広告利益を増やしたい」と考え、単価向上やコスト削減に邁進する。そうしたそれぞれの「欲望」に対して技術が進化してきたというわけだ。

変化を促進してきた「生活者」「広告事業者」「広告主」の欲望

たとえば、欲望が変化を促進した例として、以下をあげることができる。

  • 三者の「手間を省きたい」という欲望のもと、1996年頃に「メディアレップ」が生まれた。
  • 媒体社/広告事業者の「広告管理を楽にしたい」という欲望のもと、2000年頃に「アドサーバー」が登場した。
  • 広告主の「必要な人に表示したい」という欲望のもと、2002年には検索連動型広告が誕生した。
  • 広告主の「広告代理店を通さずに少額で広告を出したい」というニーズに対し、Google社がクレジット決済を導入した。
  • 媒体社/広告事業者の「媒体社の価格競争への疲弊」から検索連動型広告に入札方式メニューが登場した。
  • 広告主の「検索順位を上げたい」との思いからSEO技術が発達し、悪徳業者も急増。Googleとの攻防が続く。
  • 広告主の「クリエイティブの効果を効率的に上げたい」という欲望のもとクリエイティブテストの技術が発達した。

インターネット広告に関わる人々の“欲望”に呼応して、次々とさまざまな技術やツールが登場していることがわかるだろう。しかし、「進化しすぎて揺り戻しが起きることも多々ある」と森永氏は指摘する。

たとえば、クリエイティブの効果を効率的に上げるために登場したクリエイティブテストも、“やりすぎ”によって似たような広告が増え、新奇性が損なわれて、コンプレックスを刺激するタイプの広告など“不快”と思われるものも増えてきた。そこでむしろ過去データを参照せずに、クリエイティブを1から作ろうという動きも2017年頃から出てきている。

広告ブロックのアプリが人気上位になるなど、『広告は嫌われている』ということに、広告業界の人間は自覚的であるべきでしょう。楽しい側面もありながら、嫌われる側面があることを忘れてはなりません(森永氏)

問われる「広告モラル」

実際に、嫌われる広告が増えるにつれ、出てくるのが「広告モラル」の話だ。一部の悪徳広告主が市場を荒らすことで、それまで真面目に誠実に行っていた広告主が「それでは自分も」と“邪念”をもち始めるとすれば由々しきことになる。

現在は業界団体による罰則なしのガイドラインレベルのものが、ゆくゆくは国の罰則付き法制に発展する可能性も否めない。インターネット広告の広告価値に影響する課題として、挙げられるのが以下の3つだ。

  • アドフラウド(人ではなくボットによって水増しされていないか)
  • ブランドセーフティ(広告が不適切な面に表示されていない)
  • ビューアビリティ(広告がユーザーに見られているか)

このような課題を解決する手法として、「アドベリフィケーション」なる言葉も登場してきた。そして、「ステマ問題」も大きな問題の1つだ。ガイドラインはあるとはいえ、横行する背景には、「生活者側に広告は胡散臭いと思われているから、広告ではないように見せたほうがいい」という発想があるのは間違いない。まさに、これもコミュニケーション業界に身をおく人なら、向き合わなければならない問題だろう。

今だからこそ確認しておきたい「ネット広告プランニングの留意点」

効果指標は目標から逆算する

こうした環境下で、ネット広告をプランニングする上で考えるべきものとして、森永氏は「効果測定の指標」についても言及した。とかくインターネットの世界では、計測指標が凄まじく多い。たとえば、PV、UU、クリック数、リーチ数、インプレッション数、エンゲージメント率、RT数、いいね数など、たくさんある。

しかしながら、いずれも「成果」を表しているわけではなく、エンゲージメント率はエンゲージメント率、RT数はRT数に過ぎない。では、計測指標のどれで何を証明できるのか? そう考えたときに重要なのは「自分たちが求める成果は何で推し量ることができるのか」ということだ。

次図にあるように、まず必要なのは生活者に「使われたい」「拡がってほしい」といった「このように態度変容をしてほしい」という大目標になる。そして、生活者の意識に働きかけて変化を起こさせる「意識変容」がその大目標に対する成果指標となる。

生活者の態度変容という大目標を決め、その前段階として意識変容の項目を定め、
効果をはかる中間指標を決定する

その際、意識変容の項目のうち、何を上げれば自分たちの目標に至るのかといった「仮説」が重要になる。たとえば、「生活者の好意度が上がれば、使われるようになるだろう」といった仮説を立てておく。その上で、そのための効果測定として推し量るための中間指標がツイート数や応募数などの計測値というわけだ。たとえば、「RT(リツイート)数が多ければ、好意度が上がり、使われるという目標に近づいたことにしよう」と決めることで、RT数を中間指標とし、KPIとして採用するのだ。

「推し量るための中間指標を仮に定め、その上でその数字をKPIとして採用する。あくまで擬似的指標ながら、効果指標として定める前段として、意識変容をきっちり設定することでKPIが決めやすくなる」と森永氏は語り、「逆に『取れる数字』から遡っていくと、話が歪み始めるので気をつけてほしい」と訴えた。

「その計画は本当に心が動くか」を問う

プランニングの際に気をつけたいのは、「広告主が真の課題を捉えた上でオーダーしているか」ということだ。たとえば「新しいメニューを使ってみたい」「話題の技術を使ってみたい」というリクエストを受けたとき、それが「目標に効く」と理解した上で、もしくは「新しいから試してみたいとわかっている」なら問題はない。しかし、目標に対して無意識ならば、媒体社や広告代理店が広告主に寄り添いながら、言語化し、目標を共有することが望ましい。

常に目的と手段は入れ替わりがちだ。たとえば、デジタルだからといってコンバージョンが目標とならなくてもいい。デジタルだからといって若い人がターゲットでなくてもいいし、目の前にある最新のデジタル施策が自分たちの商品に合っているとは限らないのだ。ターゲットと広告メニューとクリエイティブは合致しているか、成果を計測できるか、できない場合はKPIを設定できるかなど、「本質」を捉えるための問いはさまざまだ。

プランニングの際に気をつけたいこと

森永氏は「業界の人間として、そもそもこの計画が好ましいのか、本当に心が動くのかというところに真摯に向き合うということが、デジタル・非デジタルに関わらず、最も重要なことではないか」と訴え、セッションの結びとした。

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