ゼロパーティデータ活用と現代版ロイヤルティプログラムの実現方法! 事例で徹底解説
現代のマーケターは、データ活用や分析におけるリソース不足、行動変化による顧客理解の難しさ、市場における顧客獲得単価の高騰など、さまざまな課題に直面しているが、その救世主になるのではと注目されているのがゼロパーティデータだ。
「Web担当者Forumミーティング 2022 春」では、ゼロパーティデータを利用したマーケティングを数多く手掛けるチーターデジタルの加藤希尊氏が、詳しい活用方法と、その先にある顧客ロイヤルティ向上を実現するプログラムのあり方を豊富な事例とともに紹介した。
データの新たな入り口「ゼロパーティデータ」とは
加藤氏は、まず「消費者マインドの変化」をテーマにチーターデジタルが日本を含む世界6か国、5,000名の消費者を対象に行った調査結果から、以下の3つの傾向を示した。
- 5,000人の消費者のうち、2/3がCookieによる行動追跡に不信感を感じている。
- ブランドサービスの向上と引き換えなら個人情報データを提供しても構わないと思う消費者は50%いる。
- 先行販売のお知らせや限定商品の案内を受けられるなら個人情報データを渡しても良いと思う消費者は80%いる。
この結果は何を意味しているのだろうか。加藤氏は次のように考察する。
企業側は現在の法規制に引っかからないCookieの代替による追跡方法・広告配信手段を模索していますが、消費者はそれらを求めているわけではなく、あくまで同意に基づいたコミュニケーションや提案を求めています(加藤氏)
つまり、これはブランドと消費者との価値交換を意味し、消費者が認識できないところで自分のデータを収集・活用されていることへの不信感を表していると言える。Cookieの代替技術の開発が進んだとしても、消費者体験そのものが進化することが求められている。
では、顧客とのコミュニケーション・消費者体験の向上をするにはどうするべきか。その解決の一つとして、注目されているのが「ゼロパーティデータ」の活用である。
ゼロパーティデータとは
Forrester(フォレスター)のアナリスト、Fatemeh Khatibloo(ファーメテ カディブルー)氏は、2018年に「ゼロパーティデータ」という言葉を以下のように定義している。
ゼロパーティデータとは
顧客が意図的かつ積極的にブランドと共有するものであり、購入意向や個人的な文脈、個人がどのようにブランドに自身を認識してほしいかなどの情報が含まれる。ファーストパーティデータとの大きな違いは、通常のトランザクションからは得ることができないデータであるという点。
つまりゼロパーティデータは、従来の属性やトランザクションデータに加え、ライフステージや旅行スタイル、勤務スタイル、生活サイクル、趣味や興味領域など表層化していない顧客の情報やライフスタイルを意味し、顧客に直接働きかけないと収集することができないデータである。
たとえば、旅行に関するゼロパーティデータを取得できた場合、従来の属性データやトランザクションデータだけではわからなかった旅行の目的や旅行の傾向、アレルギーの有無といったことまで把握できる。そのため、従来のパーソナライゼーションよりも、顧客一人ひとりに寄り添った顧客体験を提供できるようになる。
ゼロパーティデータ活用事例①
ゆこゆこネット(旅行)
次にゼロパーティデータを活用した事例をいくつか紹介する。
温泉旅行の予約サービスを提供しているゆこゆこネットでは、すでにゼロパーティデータを企画に落とし込み、キーワード検索に標準で「ペット旅行」の検索オプションを組み込んでいる。また、「部屋食」の特集や「足腰に優しい宿」といった形で企画に反映し、顧客理解を推進している。
ゼロパーティデータ活用事例②
ADASTRIA(アパレル)
アパレルブランドのADASTRIA(アダストリア)は、顧客がアプリに身長を登録すると、その人の身長と近いスタイリストのコーディネートをパーソナライズして配信するというユニークかつユーザーフレンドリーなコミュニケーションを実現している。
ゼロパーティデータ活用事例③
ラコステ(アパレル)
アパレルブランドのラコステのECサイトでは、初回購入者の大半が定番商品であるポロシャツを購入するという。だが、その購買データをもとにレコメンデーションすると、ずっとポロシャツをおすすめし続けることになってしまう。そこで取り組んだのは、ラコステで隠れた人気アイテムの「長袖ポロシャツ」を軸にした「チャレンジしたい長袖ポロシャツカラー」というキャンペーンだ。
よく着る色、チャレンジしてみたい色、EC利用体験などをアンケート方式で回答してもらう。キャンペーンを通じて、人気商品である長袖ポロシャツを訴求しながら、一人ひとりの好みの色やスタイルに合わせた提案を可能にするデータを取得し、結果として従来の2倍以上の反応率を得られたという。
ゼロパーティデータ活用事例④
ニュージーランド航空(旅行)
ニュージーランド航空の事例では、旅行者の興味関心を把握するために「どのランドマークを見に行きたいのか」「どんな物を食べに行きたいのか」を聞くキャンペーンを実施。このキャンペーンは、10万件のゼロパーティデータの収集に成功し、約5億円の直接的な売り上げを記録するに至った。
ゼロパーティデータ活用事例⑤
JTB(旅行)
JTBの事例ではコロナ禍により旅行に行くのが難しい状況の中、旅行需要を維持したいという目的から、47都道府県のトリビアクイズで顧客を楽しませながら旅行ニーズを収集する「クイズに答えて旅に出よう」というキャンペーンを企画した。
キャンペーンの告知先は、JTBの利用者のみだったにも関わらず10日で4万件以上のエントリーがあり、その後も旅行ニーズに合わせたレコメンデーションや、人気の都道府県ランキングなどをコンテンツ化し、旅行需要の喚起を行うコミュニケーションを取ることができた。
ゼロパーティデータ活用施策の構造「Why、How、What」
では具体的にどのようにゼロパーティデータを活用した施策を企画すればいいのだろうか。加藤氏は、「Why、How、Whatのゴールデンサークルに分解する」と言い、それぞれの要素の解説を行った。
Why:施策の目的を設定する
まず、施策の目的を設定する。カスタマージャーニー上のどのステージで態度変容を起こしたいのかを検討する。たとえば店舗やEコマースのカスタマージャーニー上には認知、来店、検討、購入、さらにその後のステージが想定できるだろう。
How:エンゲージメント手段
次に、取得手段の検討だ。たとえば、プレゼント企画、顧客参加型企画、クイズ形式、特定の目的達成を狙ったチャレンジ企画、投票やアンケートなど無数に存在する。チーターデジタルではこれらのエンゲージメント方法をテンプレートとして100種類以上標準で提供しているという。
What:どんなデータを集めるか
カスタマージャーニー上の目的Whyと、データ収集の手段Howが見えると、ブランドや製品の特徴から必要なデータは自ずと決まる。業界別に収集すべきデータは異なるが、どのデータがあれば目的をスムーズに達成できるのかを考えていく。たとえば、アパレルであれば身体的特徴の把握が重要であるし、自動車メーカーなどはライフステージの変化が重要となる。
このように製品ジャンルとターゲットセグメントに対してWhy、How、Whatを組み立てることによって、カスタマージャーニー上で有効に機能するゼロパーティデータ活用施策が組み上がるのだ。
データの新たな出口「現代のロイヤルティプログラム」とは
ゼロパーティデータを取得後は、ロイヤルティプログラムの構築フェーズへ移行する。加藤氏はまず300年以上あるロイヤルティプログラムの歴史について解説を行った。
1700年代、商品の購入時に後ほど限定商品などと交換できる銅製のトークンが提供されたことがロイヤルティプログラムの起源だといわれている。1800年代にトークンは印刷されたスタンプに変わり、集めたスタンプでカタログの商品と交換できる仕組みが登場する。
時は進み、1980年代には本格的なマイレージプログラムをアメリカン航空が導入、その後にホテルリワードが登場する。1990年代はポイントカードが主流となり、購買行動を追跡できるスーパーマーケットカードなど現代のプログラムの基礎が築かれていった。
そして2000年代、来店を促進するリワードプログラムが特徴的なスターバックスのプログラムが洗練された現代的なプログラムの嚆矢と考えられている。
現代は顧客のエンゲージメントに応じたポイントの付与やパーソナライズした特典を、デジタルオファーとして提供するようになってきています。このようにポイントや割引というベネフィット提供から、ユニークな顧客体験を多面的に提供する内容に現代のロイヤルティプログラムは進化してきています(加藤氏)
現代のロイヤルティプログラムの目的は差別化
現代のロイヤルティプログラムの目的は差別化であり、次の4項目で自社のブランド資源の把握から始めるのが定石だという。
- ハードベネフィット:割引やクーポンなど金銭的なベネフィット
- ソフトベネフィット:特別な体験型のベネフィットでブランドごとにユニークなもの
- 設備や施設:ラウンジや駐車場の優先利用券など
- プロモーション:特定のお得な機会の提供
ロイヤルティプログラム事例①
Bloomin’ Brands(外食)
加藤氏は進化したロイヤルティプログラムの例として、全米で1,400店以上のカジュアルレストランを展開しているBloomin’ Brands(ブルーミンブランズ)の取り組みを挙げた。ブルーミンブランズが導入した体験型プログラムは上述の「②ソフトベネフィット」に該当する。
従来は4回目の来店で大幅に値下げするというシンプルなロイヤルティプログラムを展開していたが、チーターデジタルが提案した体験型のプログラムを導入した結果、コロナ禍でも3倍の店舗外売り上げを記録し、わずか1年間で1,200万人もの会員を獲得するに至ったという。
たとえばレストランチェーンが提供できるソフトベネフィットには、以下の4つのカテゴリが考えられる。
- アクセス:ファストパスで待機列をスキップしたり、優先予約ができるテーブルを確保できたりするベネフィット。ロイヤルティが上がりやすい。
- 食事:前菜のアップグレードやサイドメニューの追加などわかりやすいものの他に、新メニューのお試しやハッピーアワーの延長など。
- 体験:キッチンツアー、食とワインのレクチャーなど。
- スペシャルな機会:自分で決めた特別な日、My DAYをお祝いしてくれるという取り組み。
ブルーミンブランズでは、来店者が見返りを受けられる従来の仕組みを、すべての顧客を対象とすることに変更し、さらに支払金額に応じたベネフィット設定から、顧客の価値や来店の頻度、SNSの投稿などエンゲージメントに応じた報酬に変更したという。
ロイヤルティプログラム事例②
fleetfeet(シューズ小売)
続いてチーターデジタル が「経済圏拡張型」と命名したロイヤルティプログラム事例が紹介された。
fleetfeet(フリートフィート)は主にランニングシューズを販売するフランチャイズの小売店。プログラムの特徴としては、RFM分析(※)に根ざしたリワード提供だけではなく、シューズを履いて運動する、ランニングやフィットネスをするといったブランドの延長線上にある行動に対しリワードの機会を提供し、かつポイントやマイレージをアプリで計測しながら最終的にオファーを提供している。
オファーは割引などのハードベネフィットもあれば、走ったマイルで得られるウルトラマラソンへの参加権などもあり、ブランド体験の延長線上にベネフィットを置いている。
考え方としてはブランドが持っているプロダクトが最終的に目的としている活動や行動、それを実践してくれたユーザーを評価するというところで経済圏を広げている例となる。
ロイヤルティプログラム事例③
Margaritaville Hotels & Resorts(ホテル)
最後に紹介するのは、「ティア(会員構造)」がシンプルな、ノーティア・ノーポイント型やシンプルティア型というプログラム。従来のロイヤルティプログラムから顧客の階層を取り払う、もしくは非常にシンプルにしたスタイルだ。
Margaritaville Hotels & Resorts(マルガリータビラホテルズ&リゾーツ)が先日ローンチしたノーティア・ノーポイントのメンバーシッププログラムは、加入するだけで最初からカクテル、ウエルカムアメニティー、フルーツ&チーズプレート、アーリーチェックイン、レイトチェックアウトといったホテルで受けられるベネフィットが付いてくるとてもユニークな試みだ。
もちろんここから実際に利用状況に応じ、後々の見えない部分でパーソナライズをかけていく仕組みになっている。
このように最初からリッチなプログラムをお客さんに提供するという考え方は、今後も発展していくのではないかと考えています(加藤氏)
データの新たな入り口「ゼロパーティデータ」と新たな出口「現代版ロイヤルティプログラム」
最後に加藤氏は、ゼロパーティデータ及び現代版ロイヤルティプログラムの必要性を強調し、セッションのまとめとした。
データの入り口としてゼロパーティデータを付加して、顧客の深い理解とともにさまざまなデータ収集のためのエンゲージメント方法をご紹介しました。その先にあるのが顧客ロイヤルティの向上です。現代版のロイヤルティプログラムは顧客の深い理解のもとにブランドオリジナルなベネフィットを開発して提供することで、会員増、定着化、売り上げの向上にダイレクトに寄与する顧客層を拡大していきます(加藤氏)
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