エンゲージメント向上は急がば回れ。オンボーディングで顧客との関係性を早期に構築せよ!/【漫画】デジマはつらいよ2・第7話
前回のあらすじ!
男性用化粧品のマーケティング担当者・鈴木浩一は、サブスクリプションで継続利用率が下落している原因がわからず、虎のバーを訪ねた。話を聞いた虎は「ロイヤルティプログラムでは、顧客のエンゲージメントを高めることはできない」と指摘し、オンボーディング・プログラムの導入を勧めたのだった。
●第5話・第6話・第7話のまとめコラム:顧客エンゲージメントは急がば回れ(中澤伸也)
こんにちは、「デジマはつらいよ」原案者の中澤です。
マーケティング支援企業のReproでCMOをやっています。第5話・第6話・第7話は、マーケティングにおいてもっとも重要なテーマとも言える、顧客ロイヤルティや顧客エンゲージメント(CE:Customer Engagement)についてのお話でした。
特に顧客エンゲージメントは、LTV(ライフタイムバリュー、顧客生涯収益)のNorth Star Metric(KGIに直結するもっとも重要なKPI)とも言われており、近年、マーケティングにおいてもっとも重要な概念となりつつあります。
顧客ロイヤルティと顧客エンゲージメントの違い
ロイヤルティとエンゲージメントとはとても近い概念ですが、そのニュアンスは微妙に異なります。それぞれの言葉の意味を調べると、ロイヤルティは「愛着や忠誠心」を表す言葉であり、「一方通行」のニュアンスを感じる言葉です。
対してエンゲージメントは「約束、契約、結びつき」といった意味を表す言葉であり、「双方向」のニュアンスを感じる言葉となっています。
現在の社会においては、サービスの需要よりも供給の方が過多となっています。またサービスに対する情報も、インターネットの普及で顧客が豊富に持っている状態であり、経済学で言われる「情報の非対称性」もほぼなくなってきている状況です。
結果、サービスと顧客の関係は上下関係のないフラットな関係となり、より双方向の結びつきが重要となっています。そのため、顧客ロイヤルティよりも、顧客エンゲージメントが重要視されるようになってきています。
サービスや製品と顧客を結びつけるものは何か?
サービスや製品と顧客を結びつけるものは、サービスや製品そのものであるはずです。クーポンやポイントといったインセンティブは、関係性を深めたり何かしらの行動を促したりするきっかけにはなりますが、それ自体が顧客との結びつきを作ることにはつながりません。
どんなにインセンティブがお得であっても、サービスや製品そのものから得られる便益や体験に価値がなければ、顧客との関係性を維持または深められることは決してないでしょう。
ここにロイヤルティプログラムの課題があります。
たとえば、どこで買っても同じ製品が購入できるような家電量販店の場合、仮に価格が競合と同一であれば、そこには損得の差しか生まれないためにロイヤルティプログラムは有効に働くかもしれません。しかし、それは本当に顧客との関係性、エンゲージメントが築かれている状態と言えるでしょうか?
損得だけで動く人もたしかにいるかとは思いますが、多くの顧客は、よりそのサービスの本質的価値で判断を下すのではないかと思います。
なぜオンボーディング・プログラムが重要なのか?
多くの企業は市場の中で、サービスや製品の本質的価値で戦っています。そして、その価値を感じてくれたからこそ顧客は自社の製品を選んでくれたのではないか?そのように信じたいところですが、残念ながら、本質的価値というものは、提供側が思うほどには顧客はすぐに理解してくれないものです。
そのサービスや製品の持つ価値を顧客が正しく理解・感じるためには「経験」が必要なのです。価値はさまざまな要素で構成されます。直接的な便益だけでなく、そのサービスのコンセプトや提供側の想い、そしてそれをとりまくさまざまな付帯的なサービス、その総和が製品やサービスの価値となります。
また直接的な便益さえも、そのサービスや製品を正しく理解し、その価値を最大限得るための利用方法を顧客が理解していなければ、価値は真価を発揮することができません。
だからオンボーディング・プログラムが重要となるのです。
顧客がサービスや製品に対する「経験値」が低い段階では、価値を得るための正しい知識や経験を得てもらうために、提供側から積極的に支援する必要があります。なので、試用段階の顧客にそのためのプログラムを特別に走らせるのです。
販促キャンペーンを止め、オンボーディングに振り切っても大丈夫なの?
マーケターにとって、販促キャンペーンを止め、オンボーディング・プログラムに振り切るというのは、非常に勇気のいる決断です。
特にオンボーディング・プログラム期間中は、通常のメールマガジン(販売促進系のメールマガジン)をすべて止め、オンボーディング用のメールしか打たないというのが重要になるのですが、多くの企業がメールマガジン経由の売上構成比が高く、なかなかこの決断を下せないというのが実情でしょう。
ただ、短期的な売り上げではなく、LTVという視点で見た場合には、実際には「急がば回れ」で、結果的にオンボーディングに振り切った方がLTVは高くなる可能性があります。
実際にこのような取り組みを行っている企業は本当に存在するのでしょうか?
先進的なマーケティング企業として有名な、GDO(ゴルフダイジェスト・オンライン)が、この取り組みを実際に行い、大きな成果を挙げたことは有名です(自分の古巣です)。
GDOではむかし、1週間に7通以上のメールマガジンを送っており、ユーザーからもたびたび「メールが多すぎる」というクレームをいただいていたのですが、メールマガジン経由の売り上げが大きすぎて、半ば依存症のようにメールの配信数を増加させ続けていました。
しかし顧客との関係性を真剣に突き詰めて考えた結果、この販促メール依存の状態から脱し、サービスの持つ本来の価値やGDOの思想を顧客にしっかり理解・共感してもらうことこそが、真の顧客関係性を築くのではないかと考え、オンボーディング・プログラムの実行を決断しました。
その内容は、売り上げの重要な導線であるメールマガジンを、新規会員登録から1ヵ月間はすべて停止し、オンボーディング・プログラムのみに振り切るという、大きなチャレンジでした。
もちろん、最初は人力での運用により限定的な顧客を対象とした実証実験から始めたわけですが、その結果は十分に手応えを感じるものであり、やがて全顧客にこのプログラムの実施を展開したところ、LTVは大きく伸び、やがてそれがGDOの成長に大きく貢献することになりました。
もちろん、すべてのサービスや製品にこの手法が効果を発揮できるかはわかりません。しかし顧客エンゲージメントを向上させるための「急がば回れ」という考え方は、マーケティングに関わる方であれば、一度は真剣に検討するに値するモノではないでしょうか?
何しろ、お客様との良質な関係をいかに長く続けられるかこそが、LTVの向上であり、そして企業成長の最重要テーマなのですから。
それでは、また次回の「デジマはつらいよ」でお会いしましょう!
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