マーケティングオートメーション(MA)で失敗しない3つのコツとは?
マーケティングオートメーションの導入検討が各所で進んでいるものの、いったいどうしたら円滑に導入できるのだろうか。だれがどのように仕切ったらいいのだろうか。もしWeb担当者のあなたが、MA導入のプロジェクトマネージャになったとしたら……。
SATORI株式会社の植山浩介氏は「Web担当者Forum ミーティング 2016 春」において、「Web担当者が180日で成果をあげる。2016年マーケティングオートメーション最新事例」と題し、マーケティングオートメーション(以下MA)で失敗しない「コツ」について事例をまじえたプレゼンテーションを行った。
MAはちんぷんかんぷん?
植山氏は冒頭、受講者に向け本日は「MAは実現可能だという確信」と「絶対にMAで失敗しない3つのコツ」という2つのプレゼントを持参してきたことを宣言してプレゼンテーションを開始した。
一般的なMAの定義は次のようなものだ。
マーケティングの各プロセスおけるアクションを自動化するための仕組みやプラットフォームのこと
などとされているが、クライアント企業にとってこの言葉は抽象的すぎて、
MAって、プエルトリコでコーヒー店を出すようなものだよね
プエルトリコと言われても、場所も通貨も人口も、そもそもコーヒーを飲むかどうかすらわからない。つまり、なにがなんだかちんぷんかんぷん
という感想を聞かされたというエピソードを披露した。
MAについて、Webからは定義、ベンダーからは機能比較表、コンサルタントからは業務プロセスの最適化についての情報を得ることはできるが、これだけではどれくらい投資すればどのような結果が返ってくるのかまったく見えてこないのが問題だという。
MAが失敗する理由は3つ
植山氏は、MAが失敗するパターンとして「MA三重苦」と題し3つのパターンをあげた。
- 見えない
最初から多くの部門を巻き込み、沢山のリクエスト、高予算、長期間の「本気のMA」をやってしまうパターン。多くはいつ結果が見えるのか分からない。
植山氏の感覚では5%ほどの企業がこのパターンだという。
- 話せない
「よくわからないが、とりあえずツールだけ導入しよう」という考えではじめてしまうパターン。たいていメルマガなどを配信する程度で終わり、MAをやっているとは決して話せない。次年度コスト削減の対象になってしまうという。
25%ほどの企業が陥る大きな落とし穴だ。
- 聞こえない
色々な情報収集により、結局どうすればよいのかよく分からなくなり、何も進められないというパターン。多くは良い事例ばかりを探し続けて、事例ジャンキーに陥ってしまい、まったく施策が行われない。
こちらも25%くらいの企業で見受けられるという。
このような理由で「プエルトリコではコーヒーは売れなかったんだ」と諦めてしまうのは非常に残念だと植山氏は嘆く。
なぜMAは失敗してしまうのだろう。植山氏は理由を3つあげる。
- ひとつは「MA経験者の不在」。
MAという概念が輸入されてからまだ2年程度なので、経験豊富なマーケティング担当やコンサルタントがいないことが大きな理由だ。
- つぎに「プロジェクトの最大公約数化」。
MAにおける成功体験がまだ少ないため、関係者で仮説を積み上げ、あれもこれも詰め込んだ最大公約数的なプロジェクトになってしまう傾向があるという。
- 最後に「長期化」。
最大公約数ゆえに長期化し、その結果としてコストも膨れ上がり、いつのまにか目的がマーケティング効果から予算取りになってしまう。
「予算も時間もリソースもある大きな会社であれば、それでも成功することはあるが、中小企業がそれをやろうとすると必ず失敗する」
と植山氏は断言する。
絶対に失敗しない3つのコツ
以上の失敗例を鑑み、植山氏は「MAを手がけて3年目に突入した我々がようやくたどり着いた、MAで絶対に失敗しない3つのコツをご紹介します」
と話す。「成功するコツ」ではなく「失敗しないコツ」というのがミソだ。
- まずは「関係者を減らす」こと。
失敗例の一つ「本気のMA」では、Web担当者はもちろん、マーケティング、営業、そしてIT部門など、と多くの部署を巻き込んでいたが、まずは例えばWeb担当者中心、あわよくば一人~数人で始めることを提言した。
- つぎに「大それない」こと。
「本気のMA」では、業務プロセスをはじめ全体のROI(ROMI)最適化を目指してしまいプロジェクトが巨大化してしまう傾向があるが、まずは局所でいいので必ず成果を出すことを目標にすべきとのことだ。
- 最後に「早い結果」を出すこと。
「本気のMA」では組織改革なども含めた長期プロジェクトになってしまうことが多いが、まずはどんなに長くても180日、あわよくば90日で成果を出すことが成功のコツだという。2年たらずのMAに、何年もかけるリスクは取れない。
このやり方は、小さい変更を重ね、何度もPDCAをまわしていくといった経験が豊富なWeb担当者にこそ向いています(植山氏)
さらに重ねて次のように強調した。
MAを導入する際に絶対に失敗しないコツは、欲張らずお金をかけず、まずは小さな結果を出すことです(植山氏)
要求されたKPIを達成した事例とは?
続いて植山氏は、絶対に失敗しないコツを活かしてSATORIが手がけた成功事例を紹介した。
実はマーケティングオートメーションの事例は世の中に出にくい。なぜなら、まだ2年たらずの業界であるうえに、どのようなユーザーをどのように集客して商談化しているかというマーケティングプロセスは、経営戦略そのもの。他社に気軽に出せるものではない。よって、今回の紹介する事例もデータをデフォルメしたうえで、匿名になっている。
クラウドサービスA社
90日間/予算300万円/担当2名
クライアントが設定した3つのKPI、「Web訪問(Cookie獲得)」、「資料請求(メールアドレス獲得)」、「セミナー参加とアポイントの獲得」に対し、たった8つの施策を行っただけで目標を達成したという。
以下にKPIに対する各施策の詳細を紹介する。
Web訪問(Cookie獲得)
1. 自社ブログ
自社ブログでSEOを意識したコンテンツマーケティング活動を行い、ユーザーを誘引(Cookieの獲得)。
このクライアントは自社ウェブサイトのアクセスのうち8割程度をブログで獲得しているという。
2. 外部Cookie買い付け
さすがにブログだけではKPIを達成できないため、クラウド比較サイト、サービスまとめサイトといった外部サイトからオーディエンスデータ(Cookie)の買い付けを行った。
施策1と2で40,000ユニークブラウザ(Cookie)を獲得した。
3. 全体の把握
これは施策というわけではないが、全体像を知るために、獲得したunknownユーザー(Cookie)に対しグルーピングを行った。
メールアドレスがないunknownな状態でも、一人ひとりの購買意欲をきちんと把握できれば当然アプローチも変わり、資料請求に転換する率が高まっていくとの考え方からだ。
下記の図例で言えば、タッチポイントのある顧客(unknownユーザー)が17万8655人。そのうち購買意欲が高いunknownユーザーは3,221人いることになる。
資料請求(メールアドレス獲得)
以上の施策を行い母数を担保したうえで、今度は個人情報を開示するメールアドレスの獲得作業を行う。
4. 資料請求広告
まずは購買意欲でグルーピングされたunknownユーザーに対し、Google、Yahoo!、Facebookなどのアドネットワークを利用し、それぞれに資料請求広告を掲出した。
グルーピングの詳細は「初回離反セグメント(非アクティブ)」、「商品検討セグメント(アクティブ)」、「問い合わせ直前離反セグメント(ホット)」の3つだ。これはウェブから離脱したユーザーが対象となるので、リターゲティング広告となる。
5. ポップアップ
広告と同じグルーピングを使用し、確度の高いCookieからオウンドメディアに訪問があった際に、ポップアップを表示し、資料請求ページにエスコートを行う。
6. フォーム設置
同様に確度の高いCookieには埋め込みでエントリーフォームの表示も行った。入力する項目をよくばらないといった、通常のフォームに対する最適化といった施策は当然行っている。
施策4、5、6で840のメールアドレスを獲得した。
セミナー参加とアポイントの獲得
最後に、資料請求を行うことによって個人情報(メールアドレス等)を開示してもらった840人に対して、セミナー参加とアポイント獲得を狙っていく。この2つはもっともMAらしい施策だと言えるだろう。
7. メルマガ/ステップメール
資料請求を行ったユーザーに対し、メルマガとステップメールを送信する。
ステップメールは21日間に4通という間隔で送信している。これは神田昌典氏の提唱する「21日間感動プログラム」をヒントにしているという。氏のプログラムはBtoC向けのものだが、植山氏によるとBtoBの世界でも十分通用するテクニックだという。
具体的には、
資料請求(DL)当日に「資料請求ありがとうございました」といった「お礼」メール。
3日後に「○○さん先日はありがとうございました、資料のこの部分いかがでしたでしょうか」といった「個別のお礼」メール。
7日後に、「資料請求をしてくださったあなたの視点は正しい。ぜひいっしょに業界を盛り上げましょう」といった「DLの正当性」を強調するメール。
21日後に、「ちょっとした社内向け資料用のテンプレートや業界資料など」の「思わぬプレゼント」メールを送付し印象を強固なものにする。
植山氏は「事例を送る必要はありません」
と強調、「メールだけでの成約はどのみち難しいので、どちらかと言えば会社の力や信頼性を高めることに注力します」
と語った。
また、メールを女性の文面で送る、開封していない人には24時間後に再送するといった細かいテクニックも使用していると補足した。
8. 今すぐ電話アラート
資料請求を行ったユーザーが比較サイト、まとめサイト、料金表といった特定の高スコアページ群を閲覧した際に「今すぐ電話をかけろ」というアラートが営業担当者のPCに表示される。
また、特定の企業(ドメイン)から複数人・複数端末のアクセスがあった際にもアラートを上げている。社内で導入を検討している際は必ず複数人で見ているからという理由だ。
この4つの組み合わせでアプローチを行った結果アポイント率70%を達成した。とくに外部の「比較サイト」「まとめサイト」の閲覧情報は強力だという。
以上の施策で90日間に達成したKPIは以下のとおりだ。
ウェブ訪問 40000ユニークブラウザ
資料請求 840件 @3570円
セミナー 200件 @15000円
新規アポ数 120件 @25000円
90日間/予算300万円/担当2名
特に新規アポイント獲得単価2万5,000円というのはかなりいい結果だと言えるだろう。
KPI達成以上の施策事例はこれだ
続いてハウスメーカーB社の事例を紹介。
KPIは資料請求と説明会参加の2つだけだが、ユニークなのは住宅比較サイトと提携し、特定のエリア(神奈川県限定など)のCookieデータを買い付け、そのCookieが比較サイトを閲覧した際にエリア限定ポップアップを出すという施策だ。
また、注文住宅の顧客は、箱物>キッチン>ローンといった順番で検討するというストーリーを立て、段階ごとにリターゲティング広告(ステップメールならぬステップ広告)を表示するといった、顧客の育成を勘案した施策を行ったという。
最後に紹介したのはアルバイト派遣C社の事例。
KPIは説明会参加とアルバイト面接の2つ。
特徴としては男女別のリターゲティング広告の掲載。アルバイト情報は、性別によって閲覧するページがまったく異なるため、行動履歴だけで男女が判別できることから実現可能となった。
また、短期アルバイトが多いため、求職者は一度アルバイトを行った後はしばらくウェブを訪れず、お金に困ったタイミングでWebを突然訪問するため、そのタイミングで直接電話をかけ、そのまま面接に来ていただくというといったKPIの達成が可能になっているという。
以上3つの事例の共通点としては、
Cookie、メールアドレス、アポイント獲得といった人に依存しないKPIの策定による小さなプロセスの積み重ねであること、○○円で○○KPIといった明確かつ大それない成果の達成、最長180日といった短期間で結果を出したことによる即時の予算増加などがあるという。
SATORIが提案する見込客開拓フレームワーク
最後に植山氏は、これら事例の共通点を他のクライアントにも活かせるよう、目標を「見込客開拓」一点に絞ったMAのフレームワークを開発したことをアピールした。
植山氏は、現存する多くのMAツールが担当しているのはメールアドレスがある顧客に対してのアプローチのみであるとし、SATORIのフレームワークでは、メールアドレスがなくCookieのみの顧客層(アンノウンユーザー)に対しては独自のアンノウンマーケティングを、さらにCookieすら取れていない潜在客に対してはアドテクノロジーを活用し、3つのカテゴリーにおいてそれぞれ施策を組み合わせることでMAの効果を最大化できると主張した。
なぜ「アドテクノロジー」「アンノウンマーケティング」「マーケティングオートメーション」の組み合わせが必要なのか。
自社を知らない潜在客には「アドテクノロジー」で自社を知ってもらい、「アンノウンマーケティング」でメールアドレスを獲得する。メールアドレスを獲得した顧客に「マーケティングオートメーション」で商談化する。この3つの施策をおこなうことではじめて潜在客を見込客にすることができるからだ。
なお、「アドテクノロジー」「アンノウンマーケティング」は母集団形成、「マーケティングオートメーション」は商談化率の向上を目的として、両輪で成果を出すことが大事だ。
失敗しないコツとして、共通点である「人に依存しないKPIの策定による小さなプロセスの積み重ね」「明確かつ大それない成果の達成」「短期間で結果を出したことによる即時の予算増加」と同時に、見込客開拓のために「母集団形成」「商談化率向上」の両輪を回すべきだ。
なお、SATORIでは毎週MAをより深く知ることができる自社セミナーを行っている。
前述の事例の詳細や、はずさない目標設定のコツ MA診断シート、社内稟議書、プロジェクト計画書のサンプルなどを配布しており、参加を待っているとのことだ。
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