日立製作所はグループ約1,000人のWeb担当者をいかにして育ててきたのか
Web担当者が頻繁に入れ替わってノウハウが蓄積されない
何年もWeb業務をやっているが自分に代わる後継の担当者がいない
Web業務の教育に何をしたらよいかわからない
といった悩みを持つ企業はないだろうか。
企業におけるWebやデジタルの業務は歴史も浅く、職能として完全に確立されたとはいえない。Web施策がうまくいっている企業でも、実はWeb担当者の仕事は属人化しているということもあるだろう。そこで、企業には、属人的になりがちなWeb担当者の仕事を普遍化、見える化し、継続的にWeb業務を回せるような人材作り、体制作りが求められる。日立製作所はグループ内約1,000人のWeb担当者に体系的な教育を実施していることで知られている。
「Web担当者Forum ミーティング 2016 春」のクロージング基調講演には、日立製作所の西田氏が登壇。「企業Web担当者がいま取り組むべき『Web人材育成』という大きな課題」と題し、Web担当者のスキルアップ、人材育成を目的に同社で行われているWeb教育体系の考え方と実例を紹介した。
Web戦略の見直しで浮かび上がってきた「Web人材育成の必要性」という課題
日立製作所では、Webガバナンスの一環として、グループ内に1,000人以上いるとされるWeb担当者向けに体系的な教育を実施していることで知られる。同社では、どのような経緯でWeb人材の育成に取り組むことになったのか。コーポレートサイトのガバナンス、運用、制作やデザインガイドラインの策定、Web業務の社内教育講師などを務める西田氏は、まず、同社のWeb戦略、ガバナンスがどのように確立されてきたかを説明した。
同社が、経営変革の一環としてブランドマネジメントの推進を宣言したのは2000年4月だった。その後、Webのマネジメントが開始された。
当時はブランドごとにサイトが乱立し、デザインに一貫性はなく、目的の情報にたどり着けないばかりか、運営者もわからない状態だった。ブランド戦略に基づき、2003年と2007年にWebサイトデザインガイドラインを策定、改訂した
その後、2009年には、
- グローバル展開
- 日立グループのWebサイト群構造の再構成
- KPIとPDCAのスキーム設計
- Web業務の人材育成強化
を骨子とする中長期のWeb戦略を策定し、サイトリニューアルに着手した。
コミュニケーションごとにサイトやページ構造、役割を再編し、同時に海外クリエーターに依頼してデザインコンセプトを確立した
こうして2014年2月にリニューアルしたコーポレートサイトは、トライベック・ブランド戦略研究所によるWebサイト調査で、コーポレートサイトランキング、ユーザビリティランキングとも順位を上げ、高い評価を得た。
一方で、組織や予算、ガバナンス、人材育成といった課題も顕在化してきた。西田氏は次のように語る。
Web戦略、個別施策実行のための各部署、各グループ会社のWeb担当者の人材育成、強化が喫緊の課題だった
“3階建て”からなるWeb担当者向けの教育プログラムを確立
そこで同社はまず、Web担当者に求められる人材像を明確化した。西田氏によれば、Web戦略に重要な「攻め」と「守り」の施策を実行する人材ということだ。
攻めの要素は、お客さまをひきつける魅力的なWebサイト作りの戦略だ。
一方、守りは、ブランド毀損やセキュリティ、権利関係のトラブルなど、自社の情報資産であるWebサイトを守るための戦略だ
同社では、グループ全体でWeb業務に携わる人が1,000人以上いるため、人材育成のためには、効果的なガバナンスの「仕組み」を確立する必要があった。そこで、2004年頃より、Web教育プログラムの推進に着手する。
当時のプログラムの内容は、専門的なWeb制作スキルや、CMSなどのツールの使い方といった技術的なレクチャーが中心だった。
しかし、実際にやってみると、「担当者が頻繁に入れ替わりスキルが蓄積しない」「他の業務との兼務が多く、スキルや職能が断片的で業務として認知されていないので評価の対象にならない」といった問題が明らかになってきた
西田氏はWebマネジメントに寄与する「総合的なWeb教育の必要性」を幹部に訴え、グループ全体でWeb担当者の業務の底上げを図るとともに、「Web業務の地位の確立、Web業務の認知」にも取り組んだ。
具体的には、自社開発教材、自社運営による教育体系の開発だ。これは、
- 「ベーシック教育」をはじめとする初級編
- 「KPI策定のための講座」などの上級編
- 「Webエキスパート教育」のエキスパート編
の“3階建て”からなるWeb担当者向けの教育だ。西田氏によると、今までに延べ約2,000名以上が受講したということだ。
はじめて担当者になった初級者向けの講座から、デジタルマーケティングのエキスパート向け教育まで
では、それぞれのプログラムについて具体的に見ていこう。初級編の「Webベーシック教育」は、初めてWeb担当者になった人向けの初歩的な講座で、講義+演習で構成される。
講義は、Webガバナンスのルールや、主な法律や権利を扱う。たとえば、BtoBサイト調査の結果などを引用し、受講者に企業におけるWebサイトの役割を動機づけしたり、サイトに掲載する写真の著作権や肖像権について注意すべき点を学んだりする内容となっている
また、同じく初級編の「よいサイト作りのための講座」では、教材を独自開発、制作し、
- 実行計画の立案
- 概要設計
- サイト構築と効果検証
- SEO、ソーシャルメディア
などの内容が、講義+グループ演習で、1日で学べるようになっている。
そして、上級編の「KPI策定のための講座」は、ビジネスに貢献するサイトにするため、KPIを定めてPDCAを回していく手法を学んでいく。
ビジネス目標に合わせたKPI設定の演習や、KPIに合わせたWeb施策検討の演習、日立グループのWebサイトのKPI事例紹介などの学習内容となっている
こうした教育を実施し、気づいたポイントとして、西田氏は「スキル上位の層と、最低限のスキル習得しかできない層の二極化」を挙げる。
さらなるスキル獲得をめざす層へのフォローと、頻繁に職務が変わったり、兼務などでスキル習得に余裕がなかったりする層へのサポートに取り組むことが新たな課題となった
そうした課題を解決する一つの取り組みとして、さらに上位のスキルの習得を志望する上位層向けの教育プログラムとして開発したのが「Webエキスパート教育」だ。これはWeb担当者としての実務経験を有し、他の全講座の受講経験を満たしたうえで、上司の承認を得た人だけが応募できる講座で、社外講師を招いた講座を全5日、10章で実施するものだ。
Webに限らず、デジタルマーケティングのエキスパートを育てるプログラムだ。ワークショップ中心で、最終日には成果発表会や修了書授与式も開催する
「テクノロジー」「クリエイティブ」「マーケティング」の総合体を司るプロデューサーとして
Web人材育成の今後の課題として、西田氏は次のことを挙げた。
- 「二極化現象」の解消
- 細く長く実施していくこと
- 社外講師との信頼関係と社内講師の育成
- 受講生のネットワーク、コミュニティ化による社内の活性化
また、自社開発した教材ノウハウも、広くWeb業界に還元したいと述べた。
最近では、Web担当者である受講者にも変化が見られてきた。すなわち、営業部門やマーケティング部門のWeb活用のニーズが高まっており、こうしたニーズに合わせた教材の開発にも取り組んでいきたい
さらに、ガバナンス側の人材育成と長期ロードマップの策定という課題に対しては、「宣伝部と事業グループ統括部門、グループ会社を含めた人材交流を企画」していきたいという。将来的には、Web制作、運用業務をグループ会社に集約し、スキルやノウハウの散在の防止に寄与していくことも検討していきたいということだ。
最後に、西田氏は、Web人材として求められる人物像として、「ITスキル」「デザイン」「マーケティング」「広告」の4つの分野のスキルを備えた人材が、ますます求められてくると指摘した。
そして、Webサイトという「テクノロジー、クリエイティブ、マーケティングの総合体」を司る総合プロデューサーである企業Web担当者として、今後もともに頑張っていきましょうと会場にエールを送った。
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