ライオン中村氏とリコー伊藤氏らによる、オウンドメディアとデジタルマーケの苦労話あるある
近年、ブランディングやマーケティングにオウンドメディアを活用する企業が増えてきている。しかし、コーポレートサイトとオウンドメディアはどう違うのか、デジタルマーケティングと非デジタルマーケティングは対立するのかなど、社内外での調整事項に悩まされている担当者は多く、ライオンの中村氏とリコーの伊藤氏らは、苦労話で口をそろえた。
「Web担当者Forum ミーティング2015 秋」のクロージング基調講演(トークセッション)「戦略的オウンドメディア構築・運用のための一歩先行くチームビルディングとプロセスデザイン」において、下記のメンバーによるマーケティング活動におけるデジタルの役割の変化などについてのパネルディスカッションが行われた。
[モデレータ]
[パネリスト]
マーケ活動においてデジタルの役割はどう変わったのか?
モデレータの阿部氏が最初に投げかけたテーマは、「それぞれの会社のマーケティング活動におけるデジタルの位置づけや意識は変わってきているのか」である。ライオンの中村氏は、考え方として以下の図を示した。
ライオンはB2Cのドメスティックな企業なので、テレビ広告や店頭といったリアルが重要な要素だが、ECも意識するようになった。そこで中村氏は、次のように述べた。
「デジタルマーケティング vs 非デジタルマーケティング」という対立構造は、もう完全に終わらせたほうがいい。マーケティングの中にデジタルという要素があるというだけの話(中村氏)
「モリサワのような歴史のある会社では、デジタルを活用しようという意識は高くないのでは」
と阿部氏が水を向けると、モリサワの阪本氏は次のように述べた。
社内で、デジタルのリテラシーには年代により差がある。これまではいま見えているお客さんにいかに情報を提供するかという視点でサイトを作っていたが、まだ見えていないお客さんにどう向き合うかというのがサイトリニューアルのテーマだった(阪本氏)
モリサワは最近コーポレートサイトのリニューアルを行い、「今までリーチできていないお客さんにどうリーチするのかというのが目的」
だったと、外部パートナーとして協力した阿部氏も言う。
リコーの伊藤氏は、
かつてはWebはカタログで、販売はセールス担当者に頼っていた。しかし、「物の所有」から「サービスの利用」へという世の中の流れもあり、今までセールスが持っていたチャネルだけではリーチできない顧客向け商材が出てきている
といい、デジタルへの期待や役割が変化しているという意見は共通している。
デジタルがマーケティングに役立つと社内に浸透したきっかけを問われると、伊藤氏は次のように言う。
カメラなどのコンシューマ向け商材では成功事例がたくさんあるが、B2B商材ではなかなか受け入れられなかった。きっかけは、米国でデジタルマーケティングやコンテンツマーケティングと言い始めて、ツールを入れ、施策をまわしはじめたこと(伊藤氏)
ライオンでは、
最初は失敗しても大きな影響のないところから、小さな事例を積み重ねていった。その時に意識するのは、まわりにも努力してもらわなければならないので、数字の見せ方やレポートに全精力を注ぎ込んだ(中村氏)
つまり、ひとつの大きなきっかけがあったというよりは、社内の顧客育成のようなかたちで、徐々にシフトしていったということのようだ。
パートナーとの関係性の変化——プロデューサーは社内? 社外?
ディスカッションが「それぞれの会社の組織、人員、パートナーとの関係性においての変化はあるか」に移ると、中村氏は、外部パートナーについて以下のような意見を述べた。
2年前に組織、部署ができてから、人も経験者を中心に増えてきて、少数ながら精鋭なチームができている。デジタルで何かしたいなら社内から相談される状況にまでは持ってくることができた。
「プロデューサーは社内にいるべきか社外にいるべきか」は、広告業界で長年議論されていて、結論が出ていない。個人的にはプロデューサーは絶対に社内にいるべきだと思っている。理由は、パートナーには社内調整はできないから。
現時点ではできる人がやればいいと思うが、「デジタルができます」と手を挙げると、社内から多くのことを頼まれる。大変だが、組織は簡単に変わらないので、しばらくは“意識高い系”が頑張らなければいけないかなと思っている(中村氏)
また、リコーの伊藤氏は、
長い間Web担当部門をやっていると、Webのことは全部お任せで頼まれるが、それでは事業部門がマーケティングツールとして使えない。そこで、自分たちでWebをやる、そのための知識を得るか、そうでないなら知識を持つパートナーを入れるようにという啓蒙を、ずっとやってきた。その効果がここ1、2年くらいでようやく出てきた(伊藤氏)
と言う。
「Webをコミュニケーション部門がやっていたら、マーケティングにうまく使うことはできないよね、だからマーケティング部門でやりましょう」
とずっと言い続けて、周囲を巻き込んで、とうとうマーケティング部門の中にデジタルマーケティングチームを作ってもらった。
一方モリサワでは、
うちはデジタルマーケティングはまだ入り口に立ったところ。マーケティングのストーリーを作る時に、Webも重要な要素のひとつであると担当者に思い起こしてもらえるサイト構築をしたいというのが、リニューアルの目的のひとつだった(阪本氏)
という。しかし、「Webがマーケティング活動において重要でどう活かせるのかという段階になっているのに、Webサイトの管理は各担当者が他業務の片手間に行わざるを得ず、専門性の高い人材が育っていない」というのが課題だ。そのため、阿部氏のような外部パートナーと二人三脚で社内に対して少しずつデジタル領域をマーケティングに活かそうという意識を浸透させていっているのが現状である。
オウンドメディアの立ち上げと運用で、締めるポイントとゆるくするポイント
次に、「オウンドメディアを構築・運用していく上での留意点はどんなところか」についてディスカッションした。ライオンは昨年、生活情報サイト「Lidea」を立ち上げた。大規模なオウンドメディアサイトだ。それを担当した中村氏によれば、「立ち上げと運用の2つのフェーズがあるが、それぞれ必要な能力やスキルが違う」。
- 立ち上げ時の苦労
大規模サイトなので、組織横断で取り組まなければならず、会社規模での調整が大変。もちろん、予算取りの苦労もある。
- 運用時の苦労
企業はメディアではないので、プロの執筆家ではない人たちが、日々コンテンツを作るという運用が大変。そこをパートナーとどう役割分担するかで試行錯誤している。
コーポレートサイトのリニューアルを担当したモリサワの阪本氏は次のように言う。
クリエイティブ全般で心がけているのは、パートナー選び。パートナーにブランドを解釈してもらうことに注力し、あとはクリエイターを信頼して、好きにやってもらうことが多い。
ある意味丸投げだが、時代ごとに第三者視点を入れつつ解釈してもらう方がうまくいってる(阪本氏)
リニューアルに際しては阿部氏と共に「関わる全ての部門に時間をかけてものすごくていねいに説明しヒアリングした」
うえで、最終的に阪本氏が「全部門からのすべてのリクエストを受け入れるわけにいかないので、ヒアリングが終わった段階で、要望をコントロールした」
のだという。最終的は判断として「ぐいっと進めるタイミングも必要」(阪本氏)
とも。
一方、グローバルでサイトを持つリコーは、
絶対に守ってもらうことはあるが、相手がどうしてもやりたいことは理解して、ガバナンスのレベルをフレキシブルに調整していく(伊藤氏)
と言う。また、「用がなくても毎週テレコンをやるくらい」コミュニケーションが重要だ。もちろんこれは国内でも同様である。
大切なのはチームビルディングと巻き込み力
最後に、これからデジタル領域やオウンドメディアに力を入れようとしている方々へのアドバイスとして、以下のようなコメントがあった。
ライオンの中村氏は、次のように言う。
自分たちの理想は高すぎると思うが、それでも絶対に到達したい。やりたいけれど体が動かないという状況で、そこを支えてくれるのが阿部氏のようなパートナーの役割だと思っている(中村氏)
パートナーに求めるスキルは、
- 生きたデータ分析が出来る(分析のための分析にならない)
- コンテンツの編集能力が高い
- インフラをよどみなく管理してくれる
- 絶大な企画力がある
- オフラインとの融合も知見がある
などあるが、すべて備えている人はいない。だからチームビルディングしなければいけない。
リコーの伊藤氏は、「Webに求められる役割が大きくなってるので、Web担当部門だけではできない。そこで、『Webをやりたいといっているあなたたちも当事者だよ』と巻き込むことが大事」
といい、以下のようなポイントを挙げた。
- 自分たちだけでやろうとしなくていいような状況を作る
- 社内に協力者を求めるのでもいいし、それが難しければ社外の協力者を得る
- 社外に協力者を得るにはお金がかかるので、少なくとも自分の上司、もしくは経営層の理解を得る
モリサワの阪本氏は、「アドバイスはできないが、いかにWebを我がこととして考えてもらえるか、社内コミュニケーションに励んでいるところ。もし(会場のWeb担当者で)見た目で苦労されていたら、Webフォントを一度使ってみてください」
と営業トークをはさんで笑いをとった。阿部氏は、「結果的にみんな走りながら悩みながらやっているというのが実際のところ」
と感想を述べた。
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