「完売王」河瀬 和幸氏が明かす「人はなぜモノを買う気になるのか」
人は、リアル店舗でどのような購入行動をとっているのだろうか。どのように物を認知し、購入に至るのだろうか。集客し、その後の行動を予測する。心理を把握し、動かすことはWeb制作にも活用できることがありそうだ。
「Web担当者Forum ミーティング2015 秋」におけるゼネラルセッション「人はなぜモノを買う気になるのか」で、実演販売のプロフェッショナルであるカワセ・クリエイティブ・カンパニーずの河瀬 和幸氏は、3万時間の経験から得た、人を買う気にさせる法則を、身振り手振りで紹介した。
法則一「人がたくさんいるから売れる」わけではない
ショッピングモールで、たくさんの人が歩いている場所だから物が売れると思うのは、実は間違いだ。
人は、前の人と同じことをしようとする傾向にある。だから、前の人がキョロキョロすれば、後ろの人もキョロキョロする。しかし、人がたくさん歩いて人の流れができていると、その流れを乱してはならないという意識が働く。
エスカレーターの登り口や降り口は人が集まるので、そこでちらしを配ることがあるが、たいていは受け取ってもらえない。というのは、エスカレーターに乗る/降りると考えているので、他のことをするゆとりはないからだ。
つまり、「人がたくさんいるから物が売れる」というのは思い違いである。
- 人は前の人と同じことをしようとする
- 人はいくつものことを同時にこなすほど器用ではない
どうすれば売れるかというと、ひとつは潜在的なニーズを顕在化させることだ。たとえば、11時頃、「おなかがすいた」と感じる。これは潜在的なニーズ。歩いていたらウナギのにおいがしてきた。「昼はウナギにしよう」という気分になる。これはウォンツ。においによって潜在的なニーズを顕在化させたのだ
もうひとつは、人の心理的なギャップをついて、びっくりさせること。人の「意識」を捕まえるということだ。一人がびっくりして寄ってくれば、後から後から寄って来て人だかりになる。
また、「人が少ないから売れない」わけではない。人が少ないと、販売員は誰かに話しかけようとする。しかし、寄っていって声をかけたら、普通は逃げていく。だが、場所を動かずに、人の「意識」を捕まえることはできる。なぜなら、人は入り口から来るのだし、入ったら壁とは反対の方向を見る。それなら、お客さんが見る場所に立っていればいいのである。必要なのは、以下の3つだ。
- 意識を捕まえるために視線を予測する
- タイミングを合わせて提示する
- リラックスさせる
そして、商品を一言で説明する。また、高くて売れない物はジャンルを変更するという技もある。たとえば、シャワーヘッドにしては高いなら、「これは美顔器です」と意識を捕まえて、良さを詳しく説明する。
レポート筆者コメント
さてこの話をデジタルに利用できるだろうか。まず、潜在ニーズからウォンツを引き出す話は、デジタルであればさまざまなデータからユーザーのニーズを予測することができる。そこから「これを買う」と決定させる、うまいレコメンドがあればいいということになりそうだ。また、ギャップをつくというのは、すべてのことに普遍的な心のつかみ方でもある。
法則二人は自分の興味のあるもの以外は見えない、聞こえない
人は自分の興味のないものには反応しないが、興味のある言葉は騒音の中からでも聞き取る。百貨店で、いくら「いらっしゃいませ、お試しください」と連呼しても、お客さんはほとんど寄ってこない。しかし、たとえば「育毛剤」という言葉を出すと、頭髪が薄い人は耳ざとくそちらを見るし、普段は誰も聞いていない店内放送で「スイーツの試食会」という言葉があると、奥様方がすぐに反応する。人は、自分の好きなものはよく聞こえるし、関心のあるものはよく見えるということだ。そこで、買ってもらうためには、「この人たちには何が必要か」を予測する。
レポート筆者コメント
デジタルであればデータ分析である程度の精度で予測できるツールはある。
法則三人は選択肢がなければ買おうとしない
人は、選択肢がなければ買おうとはしないが、選べない。そのために販売員がいる。そのとき、「どの系統をよく手に取っているか」、「めがねをはずして説明を読んでいるから老眼かも」、などよく観察する。それから、さりげなく話しかけ、説明する。「どちらがいいのか」と聞かれるので、はっきりと断定する。その断定が可能なくらいのデータはあらかじめ調べておく。売りたいためのでまかせはダメ。また、海外のミネラルウォーターを売るときに、硬水と軟水の違いなどを体験させて売るという話もあった。
レポート筆者コメント
この話は、以下の点でデジタルでも活用できそうだ。
- 選択肢を用意する
自社製品で選択肢を用意するのでなければ、他社製品との比較が可能な比較サイトを紹介するのも手かもしれない。そのとき、他社より優れている点で比較軸を提示しておけば、お客さんは離れない。
- 十分以上の情報を用意する
詳しい説明というだけでなく、ちょっとしたトリビアなどもあると楽しませることができるかも。
法則四人は自分の視線が落ちた回数の多い物を買う
Aという商品を売りたいからAの説明だけすると「メーカーから言われてこれを売りたいのね」と避けられる。Aという商品を売りたいなら、Aの説明、Bの説明、またAの説明の順で説明する。
レポート筆者コメント
これは、リターゲティング広告がやっていることが近そうだ。
法則五人は物を売っている人より、第三者の意見に影響される
売っている人の説明は懐疑的に聞くが、通りすがりの人が勧めるとその気になりやすい。河瀬氏は「水戸黄門理論」と呼んでいる。黄門自身が「わしを誰だと心得る」と言うのではなく、助さん格さんが言うからこそ効果がある。いわゆる、ティーアップだ。
レポート筆者コメント
デジタルでは、第三者の評価サイトの利用などが考えられる。
法則六人のメッセージには裏と表があり、日本人は裏を重視する
電車内で携帯電話を出した人を睨むという表のメッセージには、「迷惑だからやめろ」という裏のメッセージがある。日本人は、裏のメッセージをとる傾向にある。「こんなことを言っているが、本当は違うのでは」と思いがちということだ。
たとえば、ストック用の棚を足で閉めたら、「親切そうにしているが、実はお客をないがしろにしている」と受け取られる。だから、おかしなメッセージを発することのないように注意する。
レポート筆者コメント
デジタルでは、裏でどのような評判が立っているかを、ソーシャルメディアや某巨大掲示板で見ることができる。何がお客を怒らせたか知ることができるかもしれない。
以上、河瀬氏の講演のポイントを紹介し、その知見をWebサイトやデジタルマーケティングに活用できそうなポイントを筆者の考えで補足した。
この話をデジタルマーケティングにどう活かすかは、読者の工夫次第だ。
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