デジタルマーケティングツールを提供している企業は、自社でも活用して効果を出せているのか?
デジタルマーケティングツールを提供している企業は、自社でもそのツールを活用して効果を出せているのだろうか。日本オラクルは、自社のデジタルマーケティングソリューション「Marketing Cloud」を用いて、ニュースメールの開封率やランディングページのクリック率を大幅に向上させた。自社製品を自社戦略に使い、その効果を実証して見せたわけだ。
「デジタルエンゲージメントを広げるにはクラウドが欠かせません」という日本オラクルの渡邊 紳二氏が、「Web担当者Forum ミーティング2015 秋」の「デジタルエンゲージメントを拡張するクラウド戦略」セッションにおいて、マーケティングオートメーションをベースとしたオラクルのデジタルマーケティングの取り組みと、新しいCMSについて、解説した。
Marketing Cloudを使ったオラクルの事例
オラクルといえばデータベースがすぐに連想されるが、実はオラクル製品は10,000種類以上ある。販売は主にパートナー経由で、パートナーを通してエンドユーザーに情報が伝わるため、オラクル製品をいかにパートナーに知ってもらうかがビジネスにとって重要だ。しかし、データベース以外の製品の認知度はあまり高くない。
これを解決するためのパートナー戦略に、オラクルは自社のデジタルマーケティングソリューション「Marketing Cloud」を使っている。目標はパートナーエコシステムを活性化することだ。そのために、以下の施策を行っている。
- マーケティングオートメーションツールを使って全国約2,000社/45,000人のパートナーをナーチャリングする
- パートナー個人のプロファイリングに基づいたB2I(Business to Individual)キャンペーンを実施する
- ナーチャリングによるビジネスの見える化と売上の増加を目指す
具体的な改善点は、以下の2つだ。
- ニュースメール開封率
パートナー向けにニュースメールを配信しているが、取り組み前の開封率は8.5%。悪くない数字に見えるが、そもそもオラクルに興味のあるパートナー向けであることを考えれば、もっと開封率を上げたい。少しハードルを高めにして、ゴールは35%にした。
- ランディングページのクリック率
取り組み前のクリック率は0.4%とたいへん低い。これもハードルを高めにゴールは5%とし、何に興味があるか見極めてきちんとタッチできるような施策を行った。
重要なのは、B2Iキャンペーンの実施だ。マーケティングオートメーションでは、セグメントを決めてセグメントごとのターゲティングを行うのが一般的だ。しかし、渡邊氏は
我々のようなある程度高額の商品では、個人のプロファイルに基づいたキャンペーンをしなければ売り上げは上がっていかない
と言う。個々人に対しておもてなしをするB2Iのためには、まず、パートナーのプロファイルを集める。これはパートナーリストなどのパートナーデータだけでなく、場合によってはソーシャルメディアのデータやWebアクセスデータなども利用する。次にマーケティングオートメーションツールを使って、キャンペーンシナリオを設計する。キャンペーンを繰り返してパーソナライズの精度を上げることにより、パートナーを育成していく。
メール開封率向上のためには、メールのデザインを変更した。従来はただニュースのリストが表示されているだけだったが、画像を大きくしたり興味をひきそうなコラムを入れるなどの改善を行っている。また、メールをクリックした先のランディングページは、パートナー個人にパーソナライズする。図の例はクラウドビジネスへ誘導するためのキャンペーンだが、クラウドに対する理解度の違いなども考慮してランディングページを作る。このため、ランディングページは大量に必要になる。
また施策のポイントとして、実際にパートナーにメール配信を行う前に、日本オラクル社員を対象に模擬レターを配信し、企画通りに動くか、運用手順などを確認した。メールを配信したらそのまま放置するのではなく、メールでオファーされているページを訪れていない人には、3営業日後にフォローメールが行くなどの細かいシナリオを作って、テストしている。
マーケティングオートメーションを導入した効果として、半年程度でメール開封率は8.5%から32.7%に、ランディングページのクリック率は0.4%から2.1%になった。シナリオを個々人向けに細かく作ることによって、自分だけに話しかけてくれているという印象を持たせて、情報を見てもらえることが分かる。この先、どれだけ売り上げが上がるかという結果が出るのは、もう少し先になるだろう。
オラクルのCMSは3種類になり、用途に合わせて選択が可能
オラクルの事例では、「Marketing Cloud」のプロダクト群の中から、B2Bクロスチャネルマーケティングの「Oracle Eloqua」と、CMSの「Oracle WebCenter Sites」を使っている。このうち、CMSについての最新情報が紹介された。これまではひとつだったオラクルのCMSが、2つの製品/3つの提供形態に進化した。
- WebCenter Sites
従来からある、オンプレミス環境にCMSを構築するタイプの製品。
- WebCenter Sites on JCS
オラクルが提供するPaaSであるOracle Java Cloud Service上で動くWebCenter Sites。オンプレミスのOracle WebCenter Sitesからのデータ移行が可能(逆も可)。オンプレミス環境と違って構築の手間や時間がかからず、サーバー自体のメンテナンスが不要で運用コストやライセンスコストが削減できる。主な用途としては、一時的に必要となる開発/検証環境目的での利用が挙げられる。
- Sites Cloud Service
クラウドサービスとして提供される全く新しいコンセプトのCMS。上記2つとの連携も予定されている。
WebCenter Sitesの最新バージョンでは、アクセス分析・レポートツール、A/Bテストなど、さまざまな機能が強化されているが、ここではまったく新しいSites Cloud Serviceについて紹介する。Sites Cloud Serviceは、「組織内の誰でも簡単にWebサイトを作れる、デジタルエクスペリエンスを実現できる」ことをコンセプトにして作られている。
このサービスが登場した背景として、オラクルでは1年ほど前にDocuments Cloud Service(DoCS)というサービスを発表している。これは、企業内で利用するファイル共有サービスで、オンラインストレージのようなものと言えば分かりやすいだろう。Sites Cloud Serviceは、このDoCSの上に構築される。このため、例えばデザイナーとDoCSでやりとりした画像を、そのままWebサイトに掲載するといったことが簡単にできる。
DoCSで画像、HTML、Javaスクリプトファイルをやりとりできるのと同じように、Sites Cloud ServiceではCMSを外部のチームと共有できるため、サイト制作も外部のチームとコラボレーションが可能。テーマ、コンテンツ、コンポーネント、アプリケーションを組み合わせるだけで、簡単にWebサイトを作れる。SNSや動画を埋め込むこともでき、オラクルがあらかじめ用意してある部品もある。ひとつのコンソール内ですべてのプロジェクトなどの変更を管理し、ワンクリックでサイトを公開できるほか、ファイルに有効期限やパスワードをつけることができるなど、セキュリティ、ガバナンス、コラボレーション、管理といったエンタプライズレベルのニーズをサポートしている。
とはいえ、大規模で複雑なサイトは、やはりWebCenter Sitesの方が適している。Sites Cloud Serviceが得意とするのは、マーケティング用のマイクロサイトやキャンペーンサイト、コミュニケーションサイトのようなものだ。とくに、キャンペーンサイトをすぐに立ち上げなければいけないという時は、Sites Cloud Serviceが適している。企業のサイト全体はWebCenter Sitesで、キャンペーンサイトだけはSites Cloud Serviceというように、使い分けて連係させるのがお勧めだ。
価格体系は以下の通りだ。
1ユーザー月額:1,800円
最少ユーザー数:10
最大ユーザー数:無制限
最大ストレージ:無制限
ストレージパック:100GB/月で1,200円(最短1年)
手軽な価格となっているので、エンタープライズ系CMSは高くて手がでなかったという場合でも使えそうだ。さらに、現在DoCSのトライアルサービスを行っており、既にSites Cloud Serviceが使えるようになっているので、興味があればトライしてみてほしい。
※Oracle Documents Cloud Serviceを、最大2カ月間、無償で利用できる
「Oracle Documents Cloud Service トライアル・サービス」
https://cloud.oracle.com/ja_JP/documents
※「Oracle WebCenter Sites 資料ダウンロード」
https://find-it.jp/se/product/index.html?productId=11841
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