アトリビューションが生まれた背景 | 書籍『アトリビューション』特別公開1-3 (全5回)
なぜ、今アトリビューションが必要とされているのか。それにはさまざまな原因が考えられる。それぞれの観点から、アトリビューションが生まれた背景を追っていく。
ラストクリックの過大評価への疑問
「Attribution Management」「Attribution Modeling」という言葉が初めて出てきたのは、2007年ごろの米国の検索エンジン業界のメジャーなカンファレンスシリーズであるSES(Search Engine Strategies)、SMX(Search Marketing Expo)と考えられている。
Search Engine Optimizationの略。検索エンジン最適化。Webサイトの内部構造や外部のリンクを最適化し、より検索結果の上位に表示されるようにする施策。
通常のWebページに埋め込まれるような形で表示される広告のこと。リスティング広告と比較され、「サーチとディスプレイ」などといわれることもある。
検索結果の画面で、広告ではなく検索アルゴリズムによって表示されたリンクのこと。自然検索ともいう。
これらの検索エンジンに特化したカンファレンスは、毎年各地で開催されている。リスティング広告やSEOを中心に、最新のリスティング広告の運用手法、SEO手法、運用自動化ツールなどの情報が交換される場として人気を博してきたが、2007年ごろから、検索エンジン以外にもYouTube、Facebook、Twitterなどのソーシャルメディアやディスプレイ広告などが多くのセッションで取り上げられるようになり、「それらの効果をどのように検証し、連携して利用するのがいいかを知りたい」というニーズが高まってきた。
そんな中、「アクセス解析を使った現在の測定・評価方法だと、検索(リスティング広告やオーガニック検索)がラストクリックとなることが圧倒的に多い。そのためラストクリックが過大評価され、予算もリスティング広告に傾斜してしまうのでは?」という、言ってみればリスティング広告の効果に対する自己否定的な疑問の中から、アトリビューションの概念が語られるようになる。翌年には、アトリビューションの専業ソリューションプロバイダーや事例などが登場し、大手企業からも徐々にアトリビューションの事例が出てきた。
リスティング広告の「頭打ち」感
アトリビューションが注目されるようになった理由の1つとしては、リスティング広告を中心に検索経由で顧客獲得を続けてきたマーケターが「頭打ち」感を持ち始めてきたことがある。リスティング広告が登場した2000年ごろは、インターネットユーザーの自然増加に伴い検索数も比例して増えていたので、適切にキーワードの網を張っていれば、顧客の獲得はある程度容易だった。ところが、検索数の伸びの鈍化、競争激化によるクリック単価の高騰、キャンペーン最適化策の限界などの理由から、ここ数年は顧客の獲得がそう容易ではなくなってきている。リスティング広告経由の獲得を今以上どのように改善すればいいか、また、リスティング広告以外の施策をどう活用するかに頭を悩ませているマーケターも多いだろう。
過去5年ほどのトレンドとしては、ソーシャルメディアを中心に、消費者との接触ポイントがますます多様化してきたことも挙げられる。消費者を獲得したいマーケターは、検索、ディスプレイ広告、ソーシャルメディアなどを中心に、全方位的に施策を広げる必要性がある。それを遂行するにあたり、従来のように「検索だけ」「ディスプレイ広告だけ」「ソーシャルメディアだけ」という縦割り型のキャンペーンを実施するだけでは大きな効果は期待できない。全体を俯瞰しつつ、統一感を持って個別の施策を緻密に連携させ、統合的に取り組むホリスティックなメディアプランを考える必要が出てきたのだ。
ホリスティックとは「全体的」ないしは「総体的」という意味で、あらゆる広告やソーシャルメディアでの接触をデータ化し、消費者の一連の行動を分析し、コミュニケーション戦略やメディアプランを再構築する、そうした取り組みの総称である。こうしたアプローチにおいて、メディア選定や最適な予算配分をプランニングするための指針を与えるのがアトリビューションであり、昨今注目されているホリスティックアプローチの根底にある考え方だといえる。
Search Engine Marketingの略。広義では検索エンジンに対するさまざまな施策を指すが、狭義ではリスティング広告のことを指して使われることもある。
すでに海外では、リスティング広告に特化したサービスを提供していた企業が、環境の大きな変化に対応するべく、ホリスティックなコンテンツやメディア戦略を担う総合的なサービスを提供するように変わりつつある。実際に、「○○Search」や「SEM○○」などが入っている社名は、この変化への対応を明示するため、ここ数年の間に社名変更を行っているケースも多い。当然、こうしたアプローチを支えるアトリビューションを組み込んだサービスも急増している。
ディスプレイ広告市場の再燃
Demand-Side Platformの略。ディスプレイ広告を目的や予算に応じて自動配信する仕組み。
ここ数年のネット広告業界における最も大きな動きの1つが、ディスプレイ広告市場が再燃している点である。従来の広告枠中心の売買から、よりターゲティング精度を重視した買い付けを可能にするオーディエンスデータや、1回のインプレッション単位で、効果に応じた適正な価格での仕入れを可能にするDSPなど周辺テクノロジーの台頭により、ディスプレイ広告市場は新たな成長を遂げ始めている。2015年には、デジタルマーケティング分野での利用額でリスティング広告を抜くという市場予測も出ている。
Googleアドワーズから出稿された広告が、提携するさまざまなWebサイトに配信されるディスプレイ広告の一種。「GDN」と略されることもある。
なぜ、ディスプレイ広告の再燃がアトリビューション分野の形成に影響しているのだろうか? その理由は2点ほど挙げられる。
まず、前述のリスティング広告単体経由での獲得鈍化を補うためにディスプレイ広告が注目されていることがある。リスティング広告のベースとなる検索行動は、ユーザーがインターネット上で情報や物を探す何らかの「意図」がないと実現しない。インターネット人口の自然増も鈍化している中、新商品の発表時期やボーナス時期などの季節変動要因以外では、平均よりも大きく検索数が伸びる要素はあまりないのだ。検索数を増やし、検索経由の訪問者数を増やすには、潜在的に興味がある層に対してディスプレイ広告などで働きかけ、「検索の意図を作る」ことが重要となってくる。実際、リスティング広告の最大手であるGoogleが、ディスプレイ広告市場でも世界トップクラスの規模を誇る「Googleディスプレイネットワーク」を保有しているのは、純粋にディスプレイ広告市場でもトップシェアを獲得するためもあるが、連携利用することで「検索の鈍化を補完する手段」として活用するためでもある。
リスティング広告の黎明期から、ディスプレイ広告との連携利用による相乗効果はリサーチ会社の調査などで認められていた。実際にキャンペーンで連携利用するマーケターも、両者に相乗効果があることは感覚として持っていたはずだ。ただ、それを測定し、分析する方法が確立していなかったため、確証を持って利用することはできなかった。ディスプレイ広告市場が再度成長するにつれ、「連携利用によって実際に獲得が増えたか?」「どういったキーワードとディスプレイ広告が効果的な組み合わせだったのか?」を数値化して検証するための手法としてアトリビューション分析が必要となったということだ。
ディスプレイ広告の再燃がアトリビューション分野の形成に影響しているもう1つの理由として挙げられるのが、ディスプレイ広告の効果測定の問題だ。従来の広告効果測定では、獲得単価などでリスティング広告などのほかの施策と比較すると、ディスプレイ広告は不利になることが多かった。しかし、前述のようにディスプレイ広告はリスティング広告などほかの施策に与える間接的な影響がある。しかも、ディスプレイ広告は、クリックされた場合とビュー(閲覧)された場合の両方で効果があるといわれている。つまり、バナー広告を見た人が、表示されていた商品やキーワードで検索し、リスティング広告をクリックして購買する、というケースが出てくる。そのため、ディスプレイ広告の効果を正当に評価するためには、直接的に購買につながった部分だけでなく、ディスプレイ広告のクリックやビューが間接的に購買に影響した部分もあわせて見る必要性がある。アトリビューションではディスプレイ広告の直接/間接のクリック、ビューの貢献度合いを含めて分析することができるため、ディスプレイ広告市場の拡大に比例して、アトリビューション分析のニーズも高まってきている。
ソーシャルメディアの活発化
ここ数年間におけるTwitterやFacebookなどのソーシャルメディアの台頭により、多くのユーザーがソーシャルメディアを情報収集・発信・共有ツールとして活用するようになった。企業側も、ソーシャルメディアを潜在顧客との新たな接点と考え、自社のコンテンツやサービス、またはプレゼンスをソーシャルメディア上で伝搬させていくことに注力し始めている。
当然ながら、消費者のネット上での購買活動にはソーシャルメディアも関係しており、態度変容や購買行動そのものに影響を与えている。ただ、ソーシャルメディアが購買活動にどのように影響を与えているかに関しては、どの企業にとっても未知の領域である。消費者がソーシャルメディア上のどのような情報に興味を持ち、どのようなきっかけで友人に情報を共有するのか、また、ソーシャルメディアが購買活動に直接的・間接的にどう影響しているのか、といったことはまだ正確に解明されていない。それでも、ソーシャルメディアの重要性は今後も高まっていくと考えられる。それに対して、企業としてどの程度注力すべきかは大きな課題である。
これらを判断するために、ソーシャルメディア上でのさまざまな消費者の活動や購買活動への影響を数値化し、消費者とのコミュニケーションを企業としてどのように行うべきかを判断する材料の1つとしても、アトリビューション分析が必要とされている背景があると考えられる。
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ラストクリック偏重主義からの脱却。
もう「アトリビューション以前」には戻れない。
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アトリビューションとは、ユーザーがどのような経路をたどって最終的に購入に至ったのかを分析し、 それぞれの媒体に「貢献度」を割り振ることで広告効果の最大化を図る取り組みのことです。
一体、何がユーザーに態度変容を起こさせたのか? コンバージョンに貢献している「見えない」功労者は何なのか? インターネット広告のCPAを見ているだけでは分からない真実がそこにあります。
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