アトリビューション分析を可能にする技術 | 書籍『アトリビューション』特別公開1-4 (全5回)
アトリビューション分析が可能になったのは、ユーザーのたどった経路を分析できるようになった測定ツールの進化も大きい。ここではどのようなデータがアトリビューションにかかわっているのかを見ていく。
ユーザーがたどった経路を追える「コンバージョンパスデータ」
アトリビューション分析を行うためには、測定環境を準備し、分析するためのデータを取得する必要がある。その測定ツールが進化したこともアトリビューション分野の形成に影響している一因といえる。
クッキーと読む。ユーザーのブラウザにWebサイトが特定の情報を保存する仕組み。Cookieを使えば、訪問回数やユーザー名などを記憶しておくことができる。
ユーザーがWebサイトに接続してから離脱するまでの一連の行動のこと。Googleアナリティクスでは、30分経過すると別のセッションとしてカウントされる。
アトリビューション分析のベースとなるのは、「コンバージョンパスデータ」と呼ばれるものである。コンバージョンパスデータとは、コンバージョンに至ったユーザーがどのような経路をたどって広告媒体に接触してきたかを記録したデータである。これはブラウザのCookieを使って実現するため、基本的にはユーザーがCookie保持期間内に同一のブラウザを使ってたどった経路を測定することになる。
コンバージョンパスデータの取得方法やデータの仕様はまだ標準化団体などが存在しないため、各社で独自の仕様を採用している。そのため、測定に使うツールによって取得できるデータも異なってくる。コンバージョンパスデータは、「接触日時」「ユーザーのセッションを識別できる情報」「接触媒体」「リファラー」「URL」などが主な情報となる。コンバージョンパスデータの取得方法については、Chapter2で詳しく解説する。
従来のアクセス解析ツールはコンバージョン直前にクリックされた施策、つまりラストクリックをベースに効果測定するものがほとんどだったが、直前のみならずコンバージョンに至る軌跡が把握できるコンバージョンパスデータを取得できるように進化したり、それに特化した広告効果測定ツールが出現してきたりしつつある。
クリックスルーコンバージョンとビュースルーコンバージョン
ユーザーが広告をクリックしてそのままコンバージョンに至ることを「直接コンバージョン」というが、本書では「クリックスルーコンバージョン」と表記する。それに対し、ディスプレイ広告の表示はあったがクリックしなかったユーザーが、別の施策を経由してコンバージョンページにたどり着くことを「ビュースルーコンバージョン」という。これは、アトリビューション分析において非常に重要な考え方だ(図1-4-1)。
アトリビューション分析を行う上で、クリックスルーだけを対象にするのか、ディスプレイ広告のビュースルーも対象にするかは最初の最も重要な判断の1つになる。現在の測定環境では、クリックスルーして接触した媒体のデータのみならず、ユーザーに対して表示された(クリックはされなかった)ディスプレイ広告などのビュースルーデータもコンバージョンパスデータに含むことができるようになっている。
1つの事業者を通して、複数の媒体に出稿できる仕組みのこと。
第三者配信アドサーバー(Chapter2で詳しく解説)やアドネットワークでは、ビュースルーコンバージョンのレポートを提供することは以前から可能だった。ただ、ビューの後に、どの施策を経由してコンバージョンに至ったかを把握することができなかった。あくまで目安にしかならなかったのだ。
また、使う施策によってコンバージョン測定の手段が異なる場合も多かった。例えばクリックスルーコンバージョンは広告効果測定ツールやアクセス解析ツールから取得できるが、ディスプレイ広告のビュースルーコンバージョンはアドネットワークや媒体社、または第三者配信アドサーバーから入手するしかなかった。このような環境では、コンバージョン数の重複が起きてしまうことになり、正確な効果測定を行うことが困難だった。
しかし、これらの問題は現在はかなり解消されてきたといえる。統合的な効果測定環境を持つことで、分析を行うための信頼性の高いデータが取得できるようになっているのだ。ディスプレイ広告のビュースルーコンバージョンについては、Chapter2で詳細に解説する。
「間接効果」や「アシスト」とはどう違う?
間接効果やアシストという概念は以前からあったため、最近になって取り上げられるようになったアトリビューションとどのように異なるのかが議論になることが多い。実際に「間接効果=アトリビューション」といった形で、同じものとして扱っているケースも多く見られる。「ラストクリックベースの直接効果だけではなく、接触された施策全体を評価する」という考え方は、広告効果測定ツールを使って行う間接効果測定もアトリビューションも共通している。しかし、実際には両者には異なる点が存在する。では何が違うのだろうか。
図1-4-2は、従来の広告効果測定ツールで出力される結果の例である。「直接」はクリックしてそのままコンバージョンした数、「間接」はクリックはしたが、そのときはコンバージョンしなかった数を表している。
この結果から、まずは広告Aをクリックして直接コンバージョンしたものが3件あったことが分かる。「間接」の1~4は、それぞれの広告が最後から数えて何番目に接触されたかの回数をカウントしている。一方で、実際のコンバージョンパスがどのようなものだったかというと、図1-4-3のようになる。
図1-4-3を見ると、セッションA’からセッションF’のコンバージョンが、どのような経路でコンバージョンに至ったのかが分かる。例えば広告Aを中心に考えるなら、図1-4-2の表にまとめられているラストクリックの回数、ラストクリックよりも1つ手前の回数、2つ手前の回数などが見て取れる。ただし、注意して見ると、ほかの施策への接触を含め、それぞれのセッションの中で、広告Aが果たしている役割も分かる。広告に接触する回数も、1回の場合もあれば、5回の場合もあり、セッションによってまちまちである。
従来の間接効果測定とアトリビューション分析とで最も異なる点が、この接触回数を考慮に入れていないことである。従来の間接効果測定の場合は、接触回数を問わず、すべてを1回として足し上げるアプローチを取る。これにより、「直接効果に影響がある広告」「間接効果に影響がある広告」「両方とも影響がない広告」といった視点での評価は可能だ。アトリビューション分析では、ここからさらに踏み込んで、コンバージョンに対しての貢献度を配分するアプローチを取る。図1-4-3のセッションC’のコンバージョンの場合、接触回数が3回なので、「1回の接触あたり1/3」のように重みを付けていく。これを足し合わせて、それぞれの施策のコストを加味することでコスト効率を評価することができ、それぞれの投資予算の再配分も検証できるようになる。ここが、間接効果やアシストとアトリビューションが似て非なるものであるポイントだ。
Panamaで認知された間接効果測定
Yahoo! JAPANなどの検索結果画面に表示されるリスティング広告のサービス名。2009年にYahoo! JAPANが買収し、Yahoo!リスティング広告となった。
2007年、旧オーバーチュア(現Yahoo!リスティング広告)でPanama(パナマ)というコードネームで第2世代のリスティング広告管理プラットフォームがリリースされた。その中の1つの機能として「アシスト」が実装された。ある人がキーワードAで検索して表示されたリスティング広告をクリックし、その際はコンバージョンに至らなかったとする。その後、同じ人がキーワードBで検索してリスティング広告をクリックしてコンバージョンした場合、直接貢献したキーワードBだけでなく、キーワードAも間接的に貢献したと考え、「アシスト数」が記録されるという機能である。
当時は間接効果測定自体が広くは行われていなかったので、オーバーチュアのアシスト機能は期待を持って受け入れられた。リスティング広告従事者に対して、間接効果の概念を広めるきっかけになったという意味では意義のあるものだったと考える。ただ、前述の広告効果測定ツールと同じく、足し上げのアプローチであったことと、それ以上にオーバーチュアという単一の閉じた媒体での実装という限界があったため、キーワードのアシスト数を見ただけでは、広告掲載の継続や停止を判断することさえ難しかったのが実情だった。
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ラストクリック偏重主義からの脱却。
もう「アトリビューション以前」には戻れない。
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アトリビューションとは、ユーザーがどのような経路をたどって最終的に購入に至ったのかを分析し、 それぞれの媒体に「貢献度」を割り振ることで広告効果の最大化を図る取り組みのことです。
一体、何がユーザーに態度変容を起こさせたのか? コンバージョンに貢献している「見えない」功労者は何なのか? インターネット広告のCPAを見ているだけでは分からない真実がそこにあります。
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