ATTA有限会社+infoDNN(株式会社インフォネット)
取材・文:加藤さこ
インターネットとは縁の遠そうな飲食・外食業界。そこで働く人たちに向けて情報発信をしようと考えたATTA(アッタ)のスタッフは、やはりネットの知識はなかった。最初は制作会社に任せっきりにして失敗した彼らは、いかにして低コストで自分たちの理想を実現したのか。
ウェブサイトの基本的な情報や利用CMSに関する情報はこちらを参照
解決したかった問題点
- コストを抑えてリニューアルしたかった
- 基本的なSEOが効くサイト作りにしたかった
- 制作会社に頼りっきりではなく、でも更新頻度を上げたかった
ウェブサイトに対する
構想と現状のギャップ
ATTA有限会社は、外食産業に関する総合的な情報、商材販売、または飲食店経営者と企業の結びつきをウェブを通じてサポートするために作られた会社だ。福井県の若狭地方で飲食店のチェーンを展開している株式会社フードプランニングの子会社として東京に設立され、主に「繁盛広場ATTA」というサイトで、これから飲食店を開業する人、フランチャイズに加入する人、すでに営業をしている人で悩みのある人に向けて飲食店の開業や運営に関する情報を発信している。
海外商材の仕入れ事業を行っていた親会社であるフードプランニングは、優れた商材を一般に知ってもらう機会がないことに頭を悩ませていた。飲食業界の展示会としては「ホテル・レストランショー」「フード・ケータリングショー」などさまざま実施されているが、開催場所は首都圏であることが多く、地元の福井からの参加は人件費、交通費、出店費用など、膨大なコストがかかる。そこで考えたのがウェブの利用だった。
当時の構想を振り返り、ATTA有限会社の浦松氏は言う。
「ネット上に情報提供の場やバーチャル展示会があれば、地方の人にとって時間や旅費などの経費削減になります。逆に首都圏で営業している店でも仕入れは地方からということもあるんです。情報サイトやバーチャル展示会場で飲食業にかかわるすべてのものを紹介できたら、業界の活性化を促せるという考えがありました」
しかし、浦松氏は当時、飲食業界の知識はあっても、ウェブに関する知識はほとんど持っていなかった。2006年3月にウェブサイトを立ち上げたが、どのようなサイトが有効かを把握しておらず、思いつくままの構想をウェブサイト制作会社に発注し、サイトの構築、管理、更新までを任せた。その結果、理想とはほど遠い惨憺たるものになってしまった。
「なにがいけなかったのか、今考えれば答はすぐにわかりますよ。でも、最初のサイトを作った当時はウェブに関してはシロウトでよくわからなかったため、本当に適当に決めてましたよ(笑)。たとえば、会員制がいいんじゃないかと、はっきりした理由のないまま作ってしまったり。制作会社にすべて任せていたので、自分で変更することもできない。いや、どう変更したらいいのかすらわからないというのが実情でした。試行錯誤を繰り返すうちに、コストも膨大なものになっていきました」(浦松氏)
構想を練り直し
リニューアルに向けて
新たな一歩を踏み出す
最初のサイトが抱えていた大きな問題点は、「サイトが検索エンジンに引っかからないこと」と「会員制のサイトで個人情報を登録してまで見たいと思う人が少なかったこと」だった。サイトを公開してから2か月ほど経過した5月に、もう一度見直しが必要だという考えに達した。このままでは利用者の確保は厳しいと判断し、6月までに見直しをして、8月~9月にサイトをリニューアルすることになった。
「人が見に来てくれるサイトにしなければ、せっかく有用な情報を公開していても無駄になってしまいます。せっかく良い情報があるのに、見てもらえないというフラストレーションが高まり、リニューアルを決めました。
リニューアルに際しては、どういうサイトにするか目的を明確にすることや、ネットでは当たり前とされているSEOなどの施策もきちんと取ることが必要だと思いました。まずは、構想として従来したかったことを盛り込みながら、失敗した要因を取り除いていきました。
この時点では、自分で更新できるように専門知識を付けるか、依頼するかは、まだ決めていませんでした。ただし、ウェブサイト制作会社に任せっきりな体制をやめることは決めていました。コスト面の問題もありますが、更新頻度を上げなければ、情報発信やバーチャル展示会という構想自体に無理が生じてしまうからです」(浦松氏)
浦松氏は、リニューアルのために問題点を洗い出し、人が集まるサイトにするにはどうすればいいのかを検討した。
まず、一番の問題点として挙げた検索エンジンに引っかからない原因は、サイトの作り方が悪いことだとわかった。サイト全体がFlashによるデジタルカタログで作られていたことで、検索に引っかからないという問題だけでなく、情報も探しづらくなっていた。
リニューアルの第一歩として、これまで依頼していたウェブサイト制作会社との契約をやめ、新たな会社選びをするところから始めた。しかし、信頼できる業者をどうやって見極めていくかが問題だった。
「これまで親会社の地場である福井県の業者に依頼をしていたため、東京で一から業者を探すのは困難だと思いました。そこで、まずは地元福井の企業から探した結果、インフォネットさんに行き着きました。インフォネットさんは東京にもオフィスがありますし、昔から福井でポータルを作っていて信頼できるのではないかと考えました。電話をしてみると好感触を得られたので、問題点を伝えて相談に乗ってもらいました」(浦松氏)
CMSで何ができるのか?
手元のPCで徹底的にテスト
浦松氏は、実現したいサイトの構想をインフォネットに話し、どうすればリニューアルを成功させられるか相談した。その内容の中には、専門知識がなくても自分でサイト更新したい、コストは極力抑えたいなどの要望も含まれていた。
浦松氏からの相談に対し、インフォネットが紹介したのはinfoDNNだった。infoDNNは、ウィンドウズのサーバーで動くオープンソースのCMS「DNN(DotNetNuke、ドットネットニューク)」を利用したASPサービスだ。
「CMSと言われて説明を受けても、それがどういうものであるかよくわかりませんでした。ウェブの知識が乏しいので、実際に使ってみないとわからないと思ったんですよ。その旨インフォネットさんに相談すると、ローカルPCでダウンロードして試してみてはどうかという提案を受けました。触ってみて確認した上で、理想とするサイトにどれだけ近づけることができるか判断できる、この点は非常に良かったです」(浦松氏)
実際に使ってみると、マイクロソフトのワープロソフト「Word」のような操作画面で親しみやすく、説明を3回ほど受けたあとは自分で操作できるようになった。浦松氏は、これならいけるという実感を得て、それから1日10時間、2週間ほどの期間、DNNを触り続けたという。そのため、インフォネットに対して以前よりも具体的な質問が出せるようになった。
他のCMSの検討はなかった。その理由は、他のものではローカルで試せないこと、また、ほとんどの場合で予算をオーバーしてしまうことだ。しかし、一番の決め手は、やはり操作性にあった。浦松氏は通常のパソコンでウィンドウズを使っていたので、ワードに似た編集画面は親しみやすかったと浦松氏は言う。
ローカルで使ったので、ある程度のことはわかってきて、固定枠で作ったら運営時にうまくできるのか、レイアウトを固定したときに画像を入れたらどうなるかなど、かなり踏み込んだこともインフォネットさんに聞けるようになりました。DNNはデザイン的に自由度がありますからね。
また、私はHTMLのタグは全然わからなかったのですが、DNNはHTMLタグを使用しなくても更新できるし、HTMLタグを使って更新するようにもできるんです。これからHTMLを勉強していこうという人間にとって、どちらででもできるのは魅力の1つです」
DNNは北米ではスタンダートなオープンソースのCMSとして知られている。オープンソースということでサポート的に不安を感じるところだが、インフォネットがサポートをするということで解決した。
リニューアルにかける予算は50万円ほど。これでインフォネットに実現できるか打診したところ、まず、予算ありきで話を進めることになった。通常では50万円でのリニューアルは無理があるのだが、かなり細かい点まで具体的にインフォネットに相談できるレベルにまでDNNに慣れていたため、コストを削減しやすい環境ができていた。
サイト全体の作成を依頼すると金額がかさむため、大枠のデザインだけを依頼した。各ページは自分で作れば、コストを抑えられる。この方法を選択すれば、予算に近い金額で実現できることがわかった。必要なモジュールとそうでないものは、すでに把握できていたので、話も進めやすかった。事前にローカルで試して完成図を描きやすくなっていたのは、やはり決定を促した大きなポイントになっている。
1か月の作業ののち
予想どおりのサイトに
生まれ変わった
実際の導入は1か月ほどで完了した。これはインフォネットでも異例の早さで、具体的な事前の話し合いがあったことが理由だったという。まずは予算内に収まるように、浦松氏は必要なものだけを選択していった。
「ツールはフリーでしたが、デザインはオリジナルのものを要望しました。実際の作業方法としては、基本となるページを作成してもらい、レイアウトを確認して、あとは自分で作り込んでいきました。
以前のサイトでは、ストリーム配信などを含めたFlashのデジタルカタログだけで作られていたのですが、今回は普通のページを作り、その中に従来のデジタルカタログを埋め込む形にしました」
実は、このデジタルカタログの移行が苦労の種となった。当初は、DNNはインフォネットが提供しているDNN専用のレンタルサーバー上で稼働させ、デジタルカタログは以前のサーバーから移行することなくデータだけ読みに行く形を想定していた。しかし、デジタルコンテンツを同じサーバーに入れる必要があったのだ。結果として、DNN専用サーバーでデジタルカタログを利用できるようにしたのだが、思わぬ手間がかかってしまった。
「トラブルというと、その点ぐらいですね。その他の面はスムーズに進み、理想が形になりました。
特に、サイトへの公開承認のワークフローが実現できたのはうれしいですね。これで、私が忙しいときには他の人が管理できるような体制を作れます。だれでもコンテンツを管理できる環境がほしかったので助かりました」
とはいえ、現在はまだ公開承認の機能は利用していない。というのも、多忙な浦松氏に代わって全氏が更新しているが、全氏も管理者としての権限を持っているからだ。今後は更新作業の要員を増やす予定で、そうなれば、承認チェックの機能が活かされる。記事の公開日と終了日の事前設定などもあり、今後、イベント掲載などに役立てられるのも便利だ。
さらなる発展のために
浮かぶ構想
情報サイト、そしてコーポレートサイトとして「食の総合ポータルサイト繁盛広場ATTA」が2006年11月にリニューアルオープンを果たした。それと同時に、新規で「ATTAバーチャル展示会場」を作った。
「バーチャル展示会場は、以前からあった企画ですが、結局、構想だけで実現できないでいたものです。CMS導入によってやっと実現可能になったわけです。繁盛広場は情報提供サイトとして、バーチャル展示会場は企業のクライアント向けの展示発表の場として活用できます。
夏を迎えるまでに展示ブースを完成させ、約60社のクライアントがバーチャル展示会場にデジタルカタログを発表します。今後は発表の場だけでなく、商材や什器などを購入できるECサイトのような作りにしていきたいですね」(浦松氏)
当初考えていた目的は、全部叶えられた。そして、まだその先にしたいことが見つかったと浦松氏は言う。
「外食は景気に影響されやすい業界です。1992年から業界の景気は下がる一方ですが、このサイトを通じて飲食業界が発展していけるように、活性化を狙っていきます。現在は情報提供のみですが、DNNでアカウントユーザーを設定し、コミュニティ化できるように図っていきたいと考えています。システム的にはすぐできるので、CMSを導入した今、コミュニティを管理できる体制が整えば将来的に可能です。フォーラム機能もあるので、情報を網羅するサイトとして、もっと一般にもネットを活用できるようにしていく予定です」
導入前から、構想はしっかりあったのだろう。しかし、それを実現するツールがなかった。今回のCMS導入は、ATTAにとってネットでサイトを持つことの目的を叶えるいい手段となったようだ。
URL | http://www.hanjo-atta.com/ |
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目的 |
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総ページ数 | 100ページ弱 |
ビジター層 | これから飲食店を開業する人、フランチャイズに加入する人、すでに営業をしている人で悩みのある人 |
オープン | 2006年3月 |
製品名 | infoDNN(インフォディーエヌエヌ) |
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提供事業者 | 株式会社インフォネット |
URL | http://www.infodnn.com/ |
提供形態 | ASP |
出力形態 | 動的ページ生成 |
対応OS | ―― |
特 徴 | ウィンドウズベースのオープンソースCMS「DotNetNuke(ドットネットニューク、DNN)」をベースに、インフォネットで開発・カスタマイズしたモデルをASPで提供。 |
ASPサービスのためインストールなどの作業は必要なく、ブラウザさえあれば、ワープロソフトに近い操作感でHTMLを意識せずに簡単にサイトを編集できる。用意されている30種類のテンプレートを利用する場合は初期費用5万円~、月額9,600円~でブログ、RSS、サイトマップ、パンくずリスト、イベントカレンダー、問い合わせフォーム、検索、ニュースレターなどの機能を利用できる。
- 既存サイトをCMSを導入してリニューアル
- 専用のレンタルサーバーによりASP的に利用
- 選定期間:約2週間
- 導入期間:約1か月(事前のヒアリング・相談期間を除く)
- CMS導入費用:約50万円(初期のデザインとCMSによる構築のみ。コンテンツは自分たちで入力)
- 既存コンテンツの扱い:Flashによるデジタルカタログは新サイトの中でも利用
- お試し版(今回はローカルPCへのインストール)で徹底的に試して仕組みを理解できること
- リニューアル全体で50万円の予算に適していること
- 素人でもわかる直観的な操作性であること
- HTMLがわからなくても自分で更新できること
- モジュール機能が豊富なので今後の可能性が高いこと
※社名、所属部署、利用サービス、価格など、この記事内に記載の内容は、取材当時または記事初出当時(2007年5月)のものです。
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