「リード数を倍に」をかけ声にグローバルサイトをリニューアルしたBtoBメーカー浜松ホトニクスの“カスタマーセントリック魂”
- 対象サイト: 浜松ホトニクス株式会社 企業/製品情報サイト
- 導入タイプ: Webサイトリニューアル
- 導入CMS: Oracle WebCenter Sites(旧FatWire)
- CMS提供企業: 日本オラクル株式会社
この記事の概要
標準製品が約2300点、カスタマイズした派生品まで含めると3万点以上、日本だけでなくグローバルでビジネスを進めているBtoBメーカーの浜松ホトニクス社。
その企業/製品サイトリニューアルにあたってCMSも刷新する際に、CMSに求めた条件は次のとおり。
- グローバル対応
- Webサイト管理だけでなく、PIM(製品情報管理)機能も兼ね備える
- 社内システムとの相性
- マーケティング担当者にとっての使いやすさ
- 導入とランニングのコスト
「ダブル・ザ・リード(獲得する見込み客の数を2倍に)」を合い言葉に進めたサイトリニューアルによって、まずは「グローバルサイトの問い合わせ25%アップ」という成果が得られた浜松ホトニクスのWebサイト。
マーケティングにも活用できるWebサイトにと進めたリニューアルの背景とプロジェクト進行のポイント、そして成果はいかに?
膨大な製品情報のカタログとしてWebサイトを活用
浜松ホトニクス社は、2013年2月にWebサイトのリニューアルを行った。そのリニューアルで目指したのは、社内の製品情報管理とWebサイトのコンテンツ管理を連携させることだった。それを実現するために同社が導入したのが、コンテンツ管理システム「Oracle WebCenter Sites」(旧FatWire)だ。
3年をかけたプロジェクトの詳細について、同社の河西氏と横田氏に伺った。
浜松ホトニクスの主力事業は光を扱う専門性の高い製品で、その技術力は世界的にも評価されている。手がける製品は、光を電気信号に変換することによって検査対象の物性や特性、定量性を測定する科学機器の部品として多くのメーカーに採用されている。
取り引き先には医療機器メーカーが多く、X線CTは主力製品の1つだ。ほかにも分析機器や放射線測定機器のメーカーなど、典型的なBtoBビジネスといえる。
メーカーからの要望に応えてさまざまな機器の部品として提供するため、製品の種類は膨大だ。標準製品が約2300点、カスタマイズした派生品まで含めると3万点以上になる。同社のWebサイトは、これらの製品情報を公開するカタログとしての役割も担っている。
「弊社のWebサイトを利用するユーザーで一番多いのは、製品の情報を探しているメーカーの設計者です。企業情報と製品情報を掲載することで、製品に興味を持つメーカーの設計者に届け、営業につなげる『リードの獲得』というWebサイトの目的は、リニューアル前後で変わりません。
リニューアルは、日本・アジア地域向けサイトと欧米向けサイトの統合が主な内容ですが、特に重要だったのは製品情報の扱いでした。
製品情報のマスターデータは、基本的に本社である日本の担当者が管理しており、それをもとに日本本社が運営する日本・アジア地域向けサイトと、米国と欧州(EU 5か国)の現地法人が共同で運営していた欧米サイトの2サイトを管理していく必要があり、現地スタッフにとってはそれが課題になっていました。
日本と海外の区別なく一元管理できるようにサイトを統合し、さらに社内とWebのコンテンツ管理を連携させることがリニューアルのねらいでした
」(河西氏)
数万点にのぼる製品の情報を一元管理したうえで、その製品情報をWebサイトのコンテンツ管理と連携させるように。
「Webサイトをもっとマーケティングに活用したい」
海外スタッフからの要望でリニューアルを実施
「日本と海外のサイトを統合し、製品情報を一元管理できるようにしたい」というのは、グローバルサイトを担当する海外スタッフからの要望だった。理由は、彼らが“本来すべきこと”、つまり製品を販売することに注力できるようにするため。
一方で、海外拠点は製品を売ることがミッションだ。そのためには、Webサイトを単なる製品カタログとしてだけでなく、もう一歩踏み込んで販売やマーケティングにも活用したいという思いがあった。
日本側にグローバルサイトの製品情報も管理してもらえれば、その余力を販売施策に割けると、海外スタッフは考えたわけだ。
特に海外のスタッフに、Webサイトの営業的な活用を進めたいという意識が強かった。
「弊社には、サイト全体を統括するWebマスターはいません。代わりに、グローバルで『Webステアリングコミッティ』という組織があり、日本、米国、欧州の各リージョン代表者による合議制で進めています。だいたい四半期に一度くらいの頻度で集まり、直接コミュニケーションを取ったり電話会議をしたりしています。弊社製品の輸出比率が三分の二ほどあるので、事業的にも海外法人は重要な存在です。
最初は欧米サイトのスタッフから、日本側にマスターデータを管理してもらい、そのうえで営業的な施策を各拠点でやりたいというオファーがありました。
数年前から海外スタッフとの話しでよく出ていた議論が、『日本はまだ広告宣伝のカタログの延長であり、媒体が異なるだけという認識しかない。しかし、欧米では販売マーケティングのツールとして、もっとお客さまへのアプローチに使いたい』というものでした。
しかし、日本側のデータ管理の手間が増えるということもあり、なかなかかみ合わずにいました。ただ、彼らの理屈はもっともだし、ブランディングの強化にもつながります。
ちょうどそのころ社長が交代して『海外の意見をなるべく取り入れよう』という方針だったこともあり、トップダウンでリニューアルが決定しました
」(横田氏)
社内コンテンツ管理システムとの連携と使い勝手を考慮して
CMSにはOracle WebCenter Sitesを選択
- 2010年4月: 海外も含めて社内の意見調整を開始
- 2010年10月: UIやIA設計をネットイヤーに依頼。1年をかけて要件定義や詳細設計を進める。並行してCMS選定プロジェクトも進行
- 2011年10月: 仕様決定。1年をかけてシステム設計、開発、テストを進める
- 2013年2月1日: リニューアル公開
海外スタッフの意見を尊重する形で、2010年4月にリニューアルプロジェクトが立ち上がった。約3年をかけた長期プロジェクトになったが、河西氏はその理由を「海外からの要件をまとめるのに時間がかかった
」と説明する。
「海外に行ったり、彼らの来日時に打ち合わせたりして、意見のすり合わせをしっかりと行いました。Webに対する取り組み姿勢が異なるなかで、彼らの『こうしたい』という意見と日本側の『そこまで一気にはステップアップできない』という調整で苦労しました。
特に彼らは、目に見える部分でのやりたいことを主張するのですが、プロジェクトとしてはデザインやUI設計・コンテンツ管理といった土台作りをする必要もあるので、『順番があるからちょっと待って』と(笑)
」(河西氏)
プロジェクトのなかで特に重要だったのは、製品情報の一元管理をどのようなしくみで実現するか。当時の日本サイトは、「WebLogic Server」と「Oracle Database」を組み合わせたWebアプリケーションを独自開発しており、製品情報は社内グループウェアのNotesと連携してWebサイトに反映されるようになっていた。
一方、欧米のサイトではまた異なるCMSを採用していた。
- グローバル対応
- Webサイト管理だけでなくPIM機能も兼ね備える
- データベースを利用する社内システムとの相性
- マーケティング担当者にとっての使いやすさ
- 導入とランニングのコスト
「リニューアルプロジェクトでは、単にWebだけでなくPIM(製品情報管理)のシステムも並行して構築することになりました。それを実現できるシステムを選択するにあたって出した条件は、『グローバル対応』と『Webサイト管理だけでなくPIM機能も兼ね備える』の2つ。
この条件に合う製品で最終候補として残ったのは2製品だった。1つが「Oracle WebCenter Sites」、そしてもう1つがCMSとPIM専用製品の組み合わせでした。選択のポイントは、PIMとの相性と、フロントエンドのシステムとしてどうかという判断です。
両方をそれぞれプレゼンしてもらったところ、海外スタッフが高く評価したのはOracle WebCenter Sitesでした。マーケティング担当者が自分の手で施策を進めることを考えると、Oracle WebCenter Sitesのほうが使いやすくてよい印象だったようです。
日本側としては他の要素も加味しましたが、それでも総合的にOracle WebCenter Sitesが優勢で導入が決まりました。イニシャルコストとランニングコストの費用面においてもOracle WebCenter Sitesのほうが安く、これも大きく影響しました
」(横田氏)
「探しやすさ」と「使いやすさ」を重視して製品情報ページを改善
今回のリニューアルで、サイトの機能として大きく変えたのが、製品情報ページだ。
扱っている3万点のうち、サイト上に掲載する標準品は約2300点。それを「カテゴリ」「用途」「分野別」に分類するが、同じ製品でも押し出したい分野の優先度は日本と海外では異なる。海外のスタッフと何度も打ち合わせを重ね、1年をかけて調整をしていった。
「海外のスタッフからは、『階層を浅くしてユーザーフレンドリーに』『もっとカスタマーセントリックに』といった要望をもらっていたので、それを考慮しました。
さらに彼らがしきりに言ってきたのは『ダブル・ザ・リード!』(引き合いを倍に)というキーワードです。販売がミッションなので当然ですが、いくら問い合わせ数が増えても、コンバージョンに結び付かなければ営業の手間が増えるだけです。
逆に、サイト上に載せておけば問い合わせるまでもない情報は、確実に見つけてもらえるようにする。ビジネスにつながる質の高い問い合わせを増やすことを目指しました。
たとえば『お気に入り』のリストは、ユーザー登録をしなくても利用できるようにしました。社内では『個人情報をとるべきだ』という意見は必ず出るのですが、登録するメリットがお客さまになければ意味がない。それなら、とにかくサイトを使ってもらって、結果として問い合わせがくればいいと考えました
」(横田氏)
このほかに、リニューアルでは次のような点を意識したという。特に製品情報ページからの問い合わせがあった場合には、PIMに登録されているその製品の営業担当に直接通知されるようにした。
製品情報に注目してもらうためにグローバルナビゲーションで製品情報を一番左に設置
カテゴリ一覧ページや製品一覧ページでは、ファセットナビゲーションで各分類の数を表示し、製品分類数が多くても全体のラインナップを網羅的に見てもらえるように工夫
製品カテゴリ情報を一覧できるように1ページで表示。縦に長くすることは議論もあったが、網羅的に見られるようにして、階層を深くしないことを優先
特定のカテゴリ(優先度や競争力の高い製品)では、左サイドバーにカテゴリごとに独自の「並び替え」や「絞り込み」などの適したセレクタを表示(PIMの分類情報を利用して自動的に表示)
製品一覧ページでは、チェックボックスで複数の製品を選び、まとめて問い合わせしたりお気に入りに追加したりできるように
閲覧履歴やお気に入りリストを、ユーザー登録(ユーザー認証)しなくても使える形で実現。お気に入りに登録した製品は、その下のボタンでまとめて問い合わせが可能
一覧ページや製品情報ページなど、あらゆるページからスムーズに問い合わせが可能なようにボタンを配置。また、電話ででも問い合わせやすいように、各営業所の電話番号へのリンクもわかりやすく記載
製品情報ページでは、PIMで管理されている仕様情報や関連ドキュメントへのリンクが自動的に表示されるだけでなく、Oracle WebCenter Sites内でWeb用の解説も入力できるようにして、組み合わせ表示
グローバルサイトの問い合わせが25%アップ
望まれていたマーケティング活用も実現
2013年2月1日、リニューアルに3年を費やしたサイトが公開された。それから半年が経ち、果たして効果は表れているのだろうか。
河西氏によれば、見え方が変わったため最初は営業担当などから「使いづらい」という反応があったという。
ただし、これは慣れていないから当然で、デザインやビジュアル面のブランド統一ができて社内の評価は良好だ。特にセレクタなどの新しい機能に関しては、国内だけでなく海外スタッフの評判も上々だ。
「具体的な数字としては、グローバルサイトの問い合わせ件数が25%アップしました。この増加分がどれだけコンバージョンにつながるか、質については営業などにヒアリングしながらこれから精査していきます。
また、海外スタッフからの要望で、サブカテゴリごとに特定のテーマや製品にフォーカスしたコンテンツをサイト内に設けられるようにしました。
弊社ではライフサイエンス用カメラや自動車関連部品も扱っているのですが、それらの製品に特化している競合のサイト比べると、どうしても引けを取ってしまいます。今回のコンテンツはそれを解決するもので、海外スタッフが望んでいた『Webサイトのマーケティング活用』の第一弾です。
今後さらにマーケティング機能を強化して、オウンドメディアやコンテンツマーケティングにも取り組んでいく予定です。
弊社はこれまでも、お客さまの要望に合わせて製品をカスタマイズして提供してきました。標準品が2千数百点なのに対してカスタマイズ品が3万点もあるほどです。そのフィロソフィをWebサイトでも同様にもち、「カスタマーセントリック」を信条として運営していこうと考えています
」(横田氏)
製品名: Oracle WebCenter Sites
提供事業者: 日本オラクル株式会社
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