売上に貢献するBtoBマーケティングに必要なのは「デマンドセンター」その理由とは?
「売上に貢献するマーケティングに必要なのは、営業とマーケティングが連携して『仕組み』を構築し、継続的に取り組むこと」だというのは、シンフォニーマーケティングの庭山一郎氏だ。
オンラインで行われた「Web担当者Forum ミーティング 2020 春」に登壇した庭山氏は、部分最適を脱して全体最適なマーケティング活動をするために「デマンドセンター」の役割とその構築が必要な理由を解説した。
BtoBマーケティングの本流は「デマンドジェネレーション」
各地の講演やメディアの連載記事で、庭山氏はよく「日本のマーケティングは欧米に比べて周回遅れ」と言う。「まさかそんなはずはない!」と言いたいところだが、それは「マーケティングの定義が違っている」と庭山氏は指摘し、次の3つ定義を示した。
① リサーチ
対象は先端技術調査や市場調査、顧客満足度調査など多岐にわたるため、担当する部署も複数になる。評価指標はレポートの質。
② ブランディング
担当する部署は広報やPRなどで、評価指標は認知度(アウェアネス)。
③ 案件創出(デマンドジェネレーション)
担当する部署はデマンドセンター。評価指標はROMI(Return On Marketing Investment:マーケティング投資回収率)。
これらのうち、①は日本で最初に市民権を得た分野で、遅れているわけではない。また、②も多くのBtoB企業で、かなり熱心にやっている。庭山氏が「周回遅れ」と指摘するのは、③のことだ。
①や②は、マーケティングの分野ではあるが、売上からは少し遠い。それに対して、③は売上に直結するものであり、欧米では「マーケティング」といえば「デマンドジェネレーション」というのが一般的だ。デマンドジェネレーションのための組織がデマンドセンターで、そこで使うのがMA(マーケティングオートメーション)である。
実は、MAにはそれ以外の用途はあまりない。だから、デマンドセンターのない企業でMAを導入しても、使いこなせない(庭山氏)
MAによって案件を創出したら、営業のSFA(セールスフォースオートメーション)に引き継ぐ。つまり、MAとSFAが連携していないのも、不健全な状態である。
デマンドセンターとは案件(商談)を安定供給する仕組み
デマンドセンターのミッションは、商談を作り、営業や販売代理店などに安定供給すること。プロセスは、以下の4つだ。
- リードジェネレーション(見込み客のデータを収集する)
- データマネジメント(集めたデータを整理する)
- リードナーチャリング(整理されたデータ=見込み客とコミュニケーションする)
- リードクオリフィケーション(ナーチャリングされたデータを絞り込む)
「この4つのプロセスを、ひとつの組織、ひとつの予算、同じKPIで行うことが重要」と庭山氏は強調する。つまり、自分の目の前で起きていることだけでなく、流れと全体像を把握しているかどうかがポイントだ。
たとえば、BtoBのマーケティング施策としてよくあるのが、以下のような取り組みだ。
- 展示会への出展
- CRM/SFAの導入
- Webへの取り組み
- メルマガの配信
- オウンドメディアへの取り組み
- MAの導入
- インサイドセールスの組成
このような施策を組み合わせて実施しているにも関わらず「では、今年の展示会由来の売上は何%ですか?」と聞くと、「それはわからない」という答えが返ってくることが多いという。
自分たちのやっていること以外はわからないという状態。それは「全体最適」ではなく「部分最適」になっている。これでは成果は出ない(庭山氏)
たとえば、ホワイトペーパーダウンロードという施策がある。しかし、もし本当に契約する意向があるなら、その企業は営業に電話をかけてくるはずだ。そうすれば、営業担当が資料を持って飛んで行くことだろう。
電話をせずWebサイトからホワイトペーパーをダウンロードしたということは、「まだ営業と話をしたくない、まずはいろいろな会社を比較してみよう」という段階だ。それなのに、「資料をダウンロードした人のリストです」とインサイドセールスに渡し、アポを取ろうと電話をかけまくったら、相手からは鬱陶しいと思われるだけ。下手をすると、リストを枯らすことになる。
つまり、ホワイトペーパーをダウンロードした見込み客も、ナーチャリングが必要なのだ。このような全体像を理解している状態のことを、「マーケティング偏差値が高い」と表現する。マーケティング偏差値が高くなければ、全体最適はできない(庭山氏)
デマンドセンターが必要な3つの理由
「良い商材なんだけど、売れていないのです」という話を聞くことがあるが、マーケティング偏差値が高ければ、この説明はあり得ない。
ここで、マーケティングの基本的な考え方として、フィリップ・コトラーのSTPフレームワークをおさらいしよう。
- S=セグメンテーション(市場を細分化する)
- T=ターゲティング(細分化した市場の中で自分たちが勝てる土俵を選ぶ)
- P=ポジショニング(ターゲット市場における自社の立ち位置を明確にする)
日本企業はターゲティングが下手だ。日本の企業は勝てる土俵に乗っているのではなく、みんながいる土俵に乗りたがる。絶対に勝てないジャイアントや、最終見積もりで負けるディスカウンターがいる場所で戦おうとする。少なくともこのSTPは、全社で共通認識として持っていなければならない(庭山氏)
そして、日本企業、特に大手製造業が取るべき戦略が「デマンドセンターを活用した営業の再構築」だと、庭山氏は言う。注意点は、デマンドセンターは横軸の組織で、今までと同じような組織をもう一つ作るわけではない。日本企業は、製品事業部のような縦軸の組織を作るのは得意だが、横軸は苦手だ。
縦軸の組織とはたとえば、「ある製品の研究開発センターがあり、設計センターがあり、工場があり、その製品に特化した営業部隊がいて、その製品だけを売っている販売代理店がいる。隣の事業部が何をしているかは全然知らない」という状況のことだ。
しかし「デマンドセンターは横軸で機能するので、マーケティング全体のナレッジが高くないと、作れないし運用に乗らない」(庭山氏)。そして、今デマンドセンターが必要になっている背景は、以下の3つだという。
理由① 営業には営業の仕事だけをさせ、生産性を上げる
日本企業の営業は非常に優秀だが、生産性がかなり低い。その理由は、会社がマーケティングを理解せず、何もかも営業の仕事になっているからだ。営業は営業の仕事だけに集中できた方が、効率がいいのは当然である。
グローバルスタンダードでは、少なくともマーケティングとセールスは別物だ。「Marketing is Farmer, Sales is Hunter.」と言うそうだが、マーケティングは、荒れ地を耕して畝を作り、気候や地質に合った種を撒いて、数年かけて育てる。撒いた種が育って食べ頃になったら、セールスが刈り取る。
農耕型組織が「デマンドセンター」で、狩猟型組織が「パイプライン」である。
最近では、「デマンドセンター」と「営業」の間に「インサイドセールス」を入れ、「パイプライン」の後ろに「カスタマーサクセス」を置く、この4つの分業が旬な形である。そこで、まずはデマンドセンターを作ろうということになる(庭山氏)
理由② 売上拡大のためには、点ではなく面で顧客企業をグリップする
日本企業では、売上のほとんどは、引き合いからの売上が占める。以下の図は、戦略的経営の父と呼ばれるイゴール・アンゾフの提唱するアンゾフマトリックスというものだ。縦軸が市場や企業、横軸が製品・サービスで、それぞれ既存と新規に分けた4象限になっている。
日本企業の売り上げのほとんどは、赤色の部分、いつものお客様にいつもの製品を買ってもらうことで作られている。実は、この赤い部分だけはマーケティングが必要ない。このため、日本ではマーケティングの意識が育たなかったのだろう。しかし、他の3つのエリアでは、すべてマーケティングが必須だ。
最近、多くの企業が斜線の部分を狙い始めた。つまり、新しい製品・サービスを開発、あるいは企業買収して、既存顧客に投入しようと努力しているのだ。しかし、うまくいっている例は少ない。
マーケティングが機能していないと、お得意様といえど新製品・サービスは買ってくれない(庭山氏)
また、従来は、顧客企業と自社をつなぐのは、担当営業というヒューマンインタフェースのみで、点と点のつながりだった。いくら優秀な人材でも、時間と体力には限りがあるので、本当はもっとコミュニケーションを取っておきたいという相手はたくさんいるはずだ。
デジタルは、情報を正確に伝えることやその情報に触れた人がどう振る舞ったかという、ログを把握でき、データを蓄積することが人間よりも得意だ。そこで、ある企業のさまざまな部署に、自社のさまざまな製品・サービスの情報を提供してコミュニケーションする。点と点のつながりではなく、面のつながりにステップアップし、いろいろな製品をいろいろな部署に採用してもらう。これが、ABM(Account Based Marketing:アカウントベースドマーケティング)である。
たとえば、顧客企業のある部署にAという製品を購入してもらっているが、その企業の別の部署には、買ってもらっていないことはよくある。そこを、デジタルを使ったデマンドセンターがフォローする。ひとつの企業のさまざまな部署で自社製品を採用してもらうということは、売上が伸びるだけでなく、競合製品排除の効果もある。
庭山氏は、「マーケティングや営業におけるデジタルトランスフォーメーションは、自動化によって人間を排除することではなく、優秀な営業担当をいかにデジタルでサポートできるかが重要」だと言う。
理由③ モノ売りからコト売りへの転換
デジタルトランスフォーメーションと同様に、日本企業の中期経営計画に必ずといっていい程入っているが、やはりうまくいっていないのが「モノ売りからコト売り」だ。庭山氏によると、これは「時間軸の問題」だという。コト売りに転換するには、モノ売りが発生する1~3年前に顧客とコンタクトする必要がある。
まず、BtoBにおいては、モノを買うことが目的になることは絶対にない。何か課題があるので、それを解決する手段として何かを買うのである。
つまり、必ず最初に課題が発生する。課題が発生すると、企業内で解決方法の検討が始まり、解決方法が決まると必要となる技術や機材の選定が始まる。選定が終わると、それが提供できそうな会社、システムエンジニアリング会社や工作機械メーカーに声がかかる。オリエンテーションでRFP(提案依頼書)を渡され、提案を出すという流れだ。
自社のケイパビリティ(能力)を周知しておけば、オリエンテーションに呼んでもらえる。この時、競合数社が同時に呼ばれるので一番安い見積もり、または一番無茶な納期に応えない限り、受注できないが、きちんと納品できれば、売上があがる。この部分がモノ売りだ(庭山氏)
モノ売りでは、イニシアチブが完全に発注側にある。このため、経営陣はコト売りに転換しろと言うわけだが、そのためには図の左から2番目、「解決の手段を検討する」段階から食い込まなければ無理だと庭山氏は言う。
お客様の社内の奥深くで発芽した、まだ競合が気づいていないお客様の課題を見つけ出すという仕組みがない限り、コト売りには転換できない。発芽した課題を見つける機能が、デマンドセンターである(庭山氏)
実は、欧米の先端企業では、デマンドセンターがあることはもちろんのこと、マーケティングとセールスだけでなく、製品開発の部門ともリアルタイムでデータの共有ができている。どのような人たちがどのような課題を感じているか、どのような製品を求めているかを日々見ている人たちが、製品を開発しているということだ。
一方で、日本の場合は工場が地方にあることが多く、その敷地内に研究開発棟があり、製品開発をしている。自社の営業とさえ、めったに話をしないという人も多い。どちらの製品に市場競争力があるかは、明白だろう。
マーケティングが遅れているというだけでなく、セールスとの連携も、物づくりの部分でも危うい状況にあるのが今の日本で、「営業も経営層も物づくりも、マーケティングを学ぶ必要がある」と庭山氏は警鐘を鳴らす。そして、「全社のマーケティングナレッジを上げていくことで、生き残れる会社になる」と強調して、セッションを締めくくった。
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