失敗しない! マーケティングオートメーション活用の基礎

MA導入の9割が失敗!? MA導入前にやるべきこととは? 庭山氏×飯室氏からのメッセージ

マーケティングオートメーション(MA)をこれから活用する企業は、どんな準備をするべきだろうか? 庭山氏と飯室氏に話を聞いた。

「MAを導入する企業の90%は失敗する」と言うのは、国内のB2B大手企業にマーケティングコンサルティングやアウトソーシングサービスを提供するシンフォニーマーケティングの庭山氏と、GE(ゼネラル・エレクトリック)ヘルスケア・ライフサイエンス社で日本の統括責任者および執行役員から、グローバルデジタルCMOとして、同社のデジタルマーケティング戦略の全世界統括をした実務経験を活かし、現在はB2Bhack.com 合同会社のThought Leader(実践的先駆者)として活躍する飯室氏だ。

売上に貢献するために導入するMAの90%が失敗に終わる、その理由やこれからMAを活用していく企業が知っておきたいことなど、惜しみなく語ってくれた。記事後半では、MA導入でよくある質問にそれぞれ一問一答で回答してもらった。

MAを導入する企業は90%が失敗する! では、成功とは何か?

「MAを導入する企業の90%は失敗する」と口をそろえる庭山氏と飯室氏。飯室氏自身もMA導入で「2回も失敗したことがある」と振り返る。

1回目は、「MA」というツールがまだ日本に登場する前のことだ。マーケティングに関連する機能を提供するベンダー数社を集めて、MAのようなツールを独自開発したが、肝心の集客用のコンテンツがない上、処理の煩雑さに周囲のスタッフが疲弊する羽目になった。

2回目の挑戦では、米国製のMAツールを導入し、1回目の教訓を生かし、集客用のWebコンテンツを4,000ページも用意。処理の煩雑さは軽減されたものの、一向に商談に繋がらなかったという。4,000ページも用意したと思い込んでいたWebコンテンツというのは、実は紙のカタログをWebページにしただけのもので、顧客が読みたいコンテンツではなく、結局は見込み客を十分に集客できなかったのだ。

そもそもWebサイトに訪問してきていたユーザーは既存顧客ばかりで、オンラインで商品を直販する仕組みそのものを持っていなかった。MAを魔法の杖とみなして、導入すればリードを自動的に獲得できると期待している場合は、こうした失敗に陥りやすい(飯室氏)

B2Bhack.com 合同会社のThought Leader(実践的先駆者) 飯室 淳史 氏

では、そもそもMA導入の成功とはどういう状態を言うのだろうか。

庭山氏は「MA導入の成功とは、マーケティング由来の売上を作り、ビジネスに貢献すること」と定義する。

デマンドジェネレーションを実現するためのツールとして生まれたMA

具体的にMA導入を成功させるためのポイントを紹介する前に、MAがどのように誕生したのか庭山氏は振り返った。世界初のMAは、2000年にカナダで生まれたEloqua(エロクア/2014年にオラクルが買収)だが、創業者マーク・オーガン、スティーブン・ウッズ、エイブ・ワグナーの3人が当初開発していたのは、MAツールではなく、チャットシステムだった。

1990年代後半、米国ではデマンドジェネレーション(案件創出)の考え方が生まれ、これまで主流だったリードジェネレーション(リード獲得)からの転換期を迎えた。デマンドジェネレーションは、リードジェネレーション、データマネジメント(データ管理)、リードナーチャリング(リード育成)、リードクオリフィケーション(リードの絞り込み)の4つのプロセスから成る(各プロセスの詳細は後述)。以前はバラバラに行われていたこれらのプロセスを統合して実行する部門としてデマンドセンターができ、売上に貢献する成果を上げるようになった。

デマンドセンターに目をつけたEloqua創業者たちは、各社がどうやってその仕組みを作っているのか調査した。明らかになったのは、リード管理はExcel、メールはメール配信システム、コンテンツ制作はCMSなど、複数の異なるシステムを組み合わせて運用していることだった。プロセスごとに異なるデータベースを使うため、システム連携が難しく、レポート生成に時間がかかる上、メール配信で間違った情報を送付するような事故も発生していた。

そこで、これらを統合したデマンドジェネレーションのためのプラットフォームを開発すれば成功すると踏んで、チャットシステムの開発を中止し、2000年にEloquaをローンチしたのだ。

Eloquaがリリースされたあと、Marketo(マルケト/2006年)、Pardot(パードット/2006年)、HubSpot(ハブスポット/2007年)といった、現在主流のMAツールが続々とリリースされることになる。

当時の米国では、各社にマーケティングのプロフェッショナルが揃っていて、MAが登場する以前からシステムを組み合わせてデマンドジェネレーションを実現していた。MAはこれまで手作業でやっていた仕事を自動化できるので、彼らの業務は効率化された。しかし、日本ではそもそものマーケティングの歴史が浅くマーケティングのプロも少ない。デマンドジェネレーションのためのデータもノウハウもないため、MAを入れても使いこなせる企業は限られている(庭山氏)

シンフォニーマーケティング株式会社 代表取締役 庭山 一郎 氏

MAはデマンドセンターを持っているプロのためのツールでマーケティングのプロがいなければ使いこなせない。三ツ星レストランのシェフと同じ包丁を使っても、料理の基礎を知らない素人では、素晴らしい料理を作れないのと同じだ。加えて米国の場合は、メールアドレスを購入できるという実情もあるので、100万人分のターゲットのメールアドレスをすぐに用意できる。しかし日本の場合は、そもそも用意できるメールアドレスはせいぜい数万人分で、ファネルに載せられるリード数が圧倒的に少ないので、最終的に顧客化するのが数件になってしまい、投資対効果に見合わないことが多い(飯室氏)

マーケティング戦略を組織のDNAとして組み込む

では日本企業がMAを導入するためには、何から始めたらいいのだろうか。庭山氏は、「課題を解決するには3Sが必要」と言う。3Sとは、Strategy(戦略/ストラテジー)、Structure(組織/ストラクチャー)、そしてSystem(システム)だ。戦略と組織が先にあり、それを要件定義として、正しいシステムを選べるようになる。

まずは、マーケティング戦略を策定し、全社的に理解して推進することが必要だ。MA導入のよくあるお悩みの一つに「営業が協力してくれない」というものがあるが、これは経営者の問題だと二人は口をそろえる。

経営者がマーケティングを強化したいなら、全部門に協力するように伝え、マーケティングの知識を身につけさせなければならない。マーケティングオリエンテッドで、リードをデジタル化してMAに入れていくように経営者が方針を示して、プロジェクトに格を持たせる必要がある。戦略を実現するためのノウハウが内部になければ、最初はアウトソーシングしてもよい。そしてプロジェクトのトップには影響力のある役員を据えて、社内での立場を強くすることだ(庭山氏)

経営者も含め会社全体にマーケティングの考え方をDNAとして組み込む必要がある。モノを売るのではなくコトを売るという思想、お客様の成功を第一のミッションとして仕事に取り組む姿勢など、スピリットとして社員全員が持つ必要がある(飯室氏)

デマンドセンターの組織が必要

組織については、前述した北米の歴史でも触れたデマンドセンターを作り次の4つのプロセスを実行できるような体制を作る必要がある。

  • リードジェネレーション(リード収集):展示会出展、ホワイトペーパーダウンロードなどによるリード獲得の取り組み。日本は個人情報を購入できないため、現状ではマーケティング施策の90%がここに注力している。

  • データマネジメント(データ管理):獲得したリードの名寄せ、企業名・部門・個人名の紐付、属性情報の付与、競合排除などのデータ整理。整理できていないと、メール配信のミスなどの事故を引き起こす。

  • リードナーチャリング(リード育成):整理したリードにあわせてコミュニケーションし、育成する。

  • リードクオリフィケーション(リードの絞り込み):コミュニケーションへの反応、属性情報などをクロスでチェックして、スコアリングして、有望なリードを絞り込むプロセス。

4つのプロセスすべてに、データマネジメントスキル、コンテンツマネジメントスキルが必要なため難易度が高い。まずはこの4つのプロセスを実現できる組織と仕組みを作ることが重要だ(庭山氏)

このプロセスができていなければ、MAを入れても自動化ができる作業がない。多くの企業でこのプロセスを実行しているのは、マーケティングよりも営業やコールセンターであることが多い。MAを活用する組織を作る時には、部署横断的なクロスファンクションのチームで取り組むのがおすすめ(飯室氏)

MA導入後1年間はシナリオ作成・スコア機能に触るな!

MA導入においては、戦略、組織を上記のような考えに基づいて実行して初めて使えるようになる。これらがないままMAを導入すると、ドラッグ & ドロップによるシナリオ作成やメール開封/その後のウェブ訪問といったユーザー行動の可視化など、マーケターが「やった気になれる」機能が多いため、マーケターの“おもちゃ”になってしまうことがある。売上に貢献しなければ他の部門から評価されず、全方位を敵にまわしてしまうことになりかねない。

今リードが何件あるのか、どの商材を売りたいのか、将来的にグローバルで展開するのか、誰とどういうコミュニケーションをするのかといった情報を整理してマーケティングを設計し、デマンドセンターを構築することにより、そのプラットフォームとしてのMAが機能するようになる。何がしたいかを明確にせずに使い始めると、営業の見込み客に的外れなメールを送って、スパム扱いされてしまうこともある(庭山氏)

『メールを開封してリンクをクリックした人に電話できるようになったから成功した』というのは大きな誤解。ある企業では、購入した製品にMAが付属していたので、マーケ部門がこれを使えばうまくいくと盛り上がっていた。社長に呼ばれた私は、全部門がマーケティングをDNAとして組み込めるまでは触るなと伝え、使えるようになるまで1年かかった(飯室氏)

よくある質問に二人が答える!

最後に、MA導入前によくある質問に対して、二人が答えてくれた。

Q:何件のリードがあれば、MAを入れたらいいのでしょうか?

Excel管理で事故を起こさない限度は2,000件だと思う。それを超えると、データのシャッフルなどがおこり、メール誤配信の原因となる。個人情報が漏れれば被害は甚大だ。ただ、Excelでメール管理をしていた人は、自分の手でMAのプロセスを実行していたノウハウがあるので、MAをすぐに使いこなせることが多い(庭山氏)

どのレベルのリードを何件持っているのかが重要。MQL(Marketing Qualified Lead、マーケティングコミュニケーションの価値のあるリード)、SQL(Sales Qualified Lead、営業の価値のあるリード)ならばいいが、MでもSでもない無印のリードがたくさんあるからと喜んでいないだろうか? ある企業では、無印のリードが3,000件くらいまでならExcelに入力して、関係者全員で集まってリードの品質をチェックすれば半日程度でできると言っていた。商材の単価にもよるが、ツールの費用と人手をかけてMAを導入してコンテンツも準備するとなると、利益になるだけの価値があるのか、ROI(Return on investment、投資利益率)を考えてMAを入れるかどうかを判断すべきだ(飯室氏)

Q:デマンドセンターのプロセスを実行できていて、いよいよMAを導入したいのですが、上司を説得できません。

日本の企業は中の人が言っても聞かないので、外部のプロを使うといい。私もよく経営者向けの勉強会に駆り出される。その時はコンサルタントとして上から言うのではなく、同業他社の事例を取り上げて、お客様企業が遅れている状況を事実としてお伝えしている。外部パートナーをうまく使いましょう(庭山氏)

説得したい上司の夢、将来どうなりたいか、あるいは困っていることなどを知っていますか?こう聞くとほとんどの人が知らないと答える。『私がやりたいことのために予算を割いてほしい』と言っても説得できないが『上司であるあなたの課題を解決するためにMAが役立つ』というアプローチは有効(飯室氏)

Q:おすすめのMAは?

日本は2014年に世界中のMAが一気に上陸し、日本でも開発が始まったので、そういう質問がある。一方で米国では棲み分けができている。企業規模や商材ラインナップ数、投じられる費用、保有リード数などにより、選ぶべきMAは異なるので一概におすすめというMAはないが、マーケティング活動の目的を達成できるものを選ぶことが重要です(庭山氏)

製品の検討では、実際にMAを試してもみないで、カタログスペックから機能比較表を作るだけの人が多いが、使わない機能の比較表を作ってもしょうがないし、カタログスペックは当てにならない事が多い。「一番良い物を選ぶ」と考えるのではなく、試しに使ってみた上で、価格、使いやすさ、企業規模、そして目的にあったもの選んで欲しい。ちなみに、月39ドルから使える『Autopilot(オートパイロット)』、無料で使えるオープンソースの『Mautic(マウティック)』など簡単に試せるツールもある。HubSpotも一部無料で使え、教育ツールが充実しているという特徴がある。まずは自分たちで小規模に試行錯誤してみるのが一番のおすすめだ(飯室氏)

Q:これから導入する方に向けてアドバイスをお願いします。

B2B企業でマーケティングに強くなりたいならMAは必要。MAなしでABM(Account Based Mareting、ターゲット企業に特化したマーケティング)をやるという話を聞くが、MAがなければ難しい。ただし、MAはデマンドセンターのプラットフォームとして生まれてきたので、それ以外のことはできない。デマンドセンターという組織を作る、ノウハウ、ナレッジを貯める、そしてMAを導入するというステップで、この順番を間違えないようにしてほしい(庭山氏)

MAを導入する前に、マーケティングで本当に実現したいことを明確にして、それを達成する上でMAが役に立つかを考えてほしい。MAはあくまでツールでしかない。現状からゴールに到達するギャップを埋めるためのツールの一つとして、MAが適切かどうかを考えてからでも遅くはない(飯室氏)

まとめ:まずはデマンドセンターから始めよう

二人からは、MAを導入前に、まずはデマンドセンターのプロセスを実行できる仕組みを用意し、データとノウハウを貯め実現したいことを明確にしようというメッセージがあった。すでにMAを導入している企業は「マーケティング由来の売上を作れているか」という視点から評価してみるといいだろう。さて、庭山氏は書籍『BtoBマーケティング偏差値UP』(日経BP社)を2020年8月に出版した。今回触れた内容をより詳しく、具体的なエピソードを交えて紹介しており、デマンドセンターについてもより深く理解できる一冊となっているので、ぜひ参考にしてほしい。

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