データから「顧客にとっての価値」を捉える「考察」のコツ
オンラインで行われた「Web担当者Forum ミーティング 2020 春」に登壇したブレインパッドの佐藤洋行氏は、「考察」にはマーケターの目的ではなく、ユーザーの目的から現象を捉えることが必要だと述べ、マーケティングにおけるデータ分析の基本を解説した。
そのA/Bテスト、正しく分析できていますか?
講演冒頭、佐藤氏が聴講者にまず投げかけたのはA/Bテストのやり方についてだ。以下のスライドの通り、まず2種類のバナーを用意し、遷移先となる特集記事(Webページ)を1つ用意する。TOPページにはそのバナーをランダム表示させ、CTR・CVRを計測すれば、どちらのバナーを本採用すべきかわかる。こうした検証は、多くのマーケターが日々実践していることだろう。
しかし佐藤氏は、「そこに“考察”が存在しているだろうか?」と疑問を投げかける。
佐藤氏は学生時代、塾でアルバイト講師をしており、「オキシドールに二酸化マンガンを加えるとどうなるか」を教えたことがあった。答えは「酸素が発生する」。中学生時代に誰もが習う現象だ。
しかし、その塾では「ぶくぶくなる」と回答する生徒がいた。一聴して「微笑ましいなぁ」というエピソードだが、佐藤氏は当時思わず考え込んでしまったという。確かに酸素が発生する過程で、泡がブクブクと沸き立つからだ。学習の趣旨からは外れるが、現象の説明という意味では、正解だといえる。
しかしこの理科実験での答えは、「酸素が発生する」。なぜなら、この学習の目的は、「2つの物質を反応させることで別の物質が得られる」ということを学んで、(別の場面で)必要な物質を作り出す方法を“考察”できるようになることだからだろう(佐藤氏)
冒頭のA/Bテストにこれを当てはめると、CTR・CVRをもとにした検証は確かに行われているが、条件反射的なアクションに過ぎないともいえる。佐藤氏はそこに踏み込み、「マーケティングにおいても深い考察が必要だ」と主張。理科の授業の本質が「現象(実験)を通して自然の法則を考察する」であるならば、マーケティングの本質は「データを通して○○を考察する」ことだと説いた。
「顧客理解」は「顧客にとっての価値の理解」であれ
マーケティングの大家であるピーター・ドラッカーが残した言葉の1つに「真のマーケティングは顧客からスタートする」がある。何を売りたいかではなく、顧客は何を買いたいのかを知る、つまり「顧客理解」が決定的に重要だという指摘だ。
その教えに基づき、現場のマーケターはさまざまな観点で顧客理解を考える。ペルソナの策定はまさにその一例で「山田花子、28歳女性、独身、大田区在住で趣味は料理とレストラン巡り……」といった仮想客を規定し、それに合わせた施策を打つ。ただ佐藤氏は、ペルソナは作成すること自体がゴールになってしまい、活用ができていないのではないかと疑問を呈した。
ドラッカーはまた別に「顧客が価値ありとするものが決定的に重要である」とも述べている。顧客は財・サービスそのものを購買基準にするのではなく、財・サービスによってどんな効用を得られるかを常に意識している。
つまり、「顧客理解」とはそれだけでは言葉足らずで、「顧客にとっての価値の理解」こそが真の意味ではないかと佐藤氏は強調する。ここまでくると、冒頭のA/Bテストには不足しているものがあるとわかる。CTR・CVRは、「顧客にとっての価値」が一切反映されていない数値なのである。
「顧客にとっての価値」を「考察」するための方法
ここからは冒頭のA/Bテストを、どうすれば「考察」レベルにまで高められるか、佐藤氏は解説していった。例として下図のようなCTR・CVRが出たとして、これだけでバナーデザインBが優れていると断じるのは、前述の「ぶくぶくなる」と同じ程度の発想に過ぎないという。
肝心なのは「ぶくぶくしているモノは何か?」「ぶくぶくしているのは何故か?」まで考えることだという。テストに当てはめるなら「ユーザーにとってクリックとは何か?」「ユーザーのクリック率が異なるのは何故か?」という視点が、必要なのだ。
注意すべきは、マーケターとユーザーの立場ではクリックの意味が全く異なるという点だ。マーケターはユーザーのコンバージョン(CV)が最終目的であり、CVに至るまでの指標(CTR等)を測定していく。特に、バナーのABテストであれば、そのバナークリック経由での指標をみようとする。
しかしユーザーは、マーケターの目指すCVのためにメインバナーをクリックしているのではない。何らかの目的をもってなのか、あるいは偶然かはわからないが、サイトを訪れて興味がわいたからクリックする。もしかしたら、興味はないのに間違えてクリックする可能性すらある。また、メインバナーをクリックせず別経路で対象コンテンツに辿り着き、結果的にCVに至るケースも想定される。
ここまで複雑な顧客行動・顧客心理を、CTR・CVRという2種類の数値だけで測れるはずもない。どう行動するかを緻密に考え、それに合わせたデータを抽出するべきだと佐藤氏はいう。このテストの場合ならば、「別経路での遷移率(メインバナーをクリックせずに特集記事へ辿り着いたユーザーの率)」はもちろん、CVRを細分化して「クリックユーザーのCVR」「対象コンテンツからのCVR」「トップページからのCVR」をそれぞれ別に観測する。
上図の集計値で考えてみよう。特集記事への遷移率はバナーデザインAの場合クリック率4.5%+別経路での遷移率20.5%で、合計25%。デザインBの場合は同5.4%+18.3%で、合計23.7%。デザインAのほうが直接のクリック率は低いが、結果的に対象コンテンツにより多くのユーザーを集めている。「サイト来訪の目的が対象コンテンツであれば、メインバナーを経由しなくてもよい」と考えたユーザーが多いのではないか、という考察が成り立つ。
また「クリックユーザーのCVR」「対象コンテンツからのCVR」を見てみると、なぜかバナーをクリックしたユーザーのCVRよりも、対象コンテンツを閲覧したユーザー全体のCVRのほうがデザインA・デザインBともに約1%も高い。よって、TOPページでバナーを誤クリックして(すぐに離脱して)いる可能性が考察される。
ほかにも、「トップページからのCVR」は1%台であるのを見れば、ユーザーにとってのトップページの価値についても、やはり再検討することになるだろう。このように、指標を正しく見ていくと、考察はどんどん連鎖していく。これが、私の考える「顧客にとっての価値を考察する」ということだ(佐藤氏)
そもそも「データ」を正しく計測できている?
理科の授業では、実験が意図通り正しく行われたかを確認することもまた重要だ。マーケティングもまったく同様で、顧客観察の中核たるデータ(数値)が正しく計測されているかは、常に検証を重ねなければならない。
前述のテストでは、CTRやCVRを元にしている。しかしCTRを計算するための分母は、インプレッション数、セッション数、ユニークユーザー数、はたしてどれであるべきなのか。
また分子についても同様で、「別経路での遷移」を、あくまでトップページから遷移しながらも、単にメインバナーを踏まなかっただけのユーザーとしてカウントすべきなのだろうか? そもそもCVといっても何を計算すればいいのだろうか?
なんとなく「計測ツールが出している数字だから」という理由だけで値を信用しては、正しい考察を引き出すのが難しい。数の数え方には真剣に向き合わなければならない。「Garbage in, garbage out(ゴミを入力しても、ゴミしか出力されない)」という格言を常に頭に入れておいてほしい(佐藤氏)
もちろん、データカウントのための技術・環境にも目を配らなければならない。ユーザーはページをリロードするし、ブラウザのタブに放置することもある。また、アップル端末では「ITP(Intelligent Tracking Prevention)」によるCookie規制が強まっており、ユーザー数の計測がますます難しくなっている。
Webサイトの利用指標は、このように誤差が出やすい。基幹系データとの差が定期的に確認されているか、Googleアナリティクスは正しく設定されているのか。「壊れた計器で飛ぶ飛行機には誰も乗りたくないでしょう。こうした細かな点にも目を向けてほしい」と佐藤氏はアドバイスする。
まとめ ~ マーケターが統計学を学ぶ前にやるべきこと
佐藤氏は、統計学や機械学習を学ぶマーケターが増えること自体は大変歓迎すべきという。とはいえ、データ活用による華々しい成功事例が現状は少ないのも確かだろう。
データ活用は小改善の積み重ねという考え方もある。ただ、データ活用手法を学ぶ以前に、データの取得が正しく行われておらず、ユーザー視点での検証ができていないから、成功もまたないのではないか──佐藤氏はそう警告する。
数字が乱舞する難解ともいえる講演を終えた佐藤氏は「『面倒そうな人だなぁ』と思われていそう」と苦笑いしつつも、「我々はそれくらい真剣に数字と向き合っている。どうか専門家を頼ってください」と力強くアピール。ブレインパッドのレコメンド搭載プライベートDMPサービス「Rtoaster(アールトースター)」を通じ、データ分析支援を徹底的に行っていきたいと語った。
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