AIで流入を改善!? ビズリーチが初めて挑んだメディア事業が目標の430%に急成長した秘密
転職サイトを運営するビズリーチは、人事担当者のための専門メディア「BizHint HR(以下、ビズヒント)」を2016年8月にスタートした。コンテンツマーケティングは同社にとって初めての取り組みだったが、オーガニック検索(自然検索)からの流入数が当初予定していた430%という急成長を見せている。
誕生したばかりの専門メディアが、なぜ急成長できたのか? その秘密は、ユーザーの検索意図を分析し、コンテンツ制作現場の意思決定を助けるツールと人工知能(AI)の活用にあった。ビズヒント事業部長の関哲氏と現場責任者の大森厚志氏、そしてコンテンツ施策を指南したFaber Companyの副島啓一、月岡克博に聞いた。取材・執筆はFaber Campanyに所属する筆者が行っている。
量産したコンテンツではなく「質の高さ」で勝負したかった
――「ビズヒント」はどのようなメディアなのですか?
関哲氏(以下、関)今は「働き方改革」「ダイバーシティ」などが話題ですが、終身雇用から多様な働き方へシフトするなかで、「人事担当者の苦労が増えた」という現象が起こっています。そこで、「ここに来るだけで人事の悩みが解消できる」ニュースサイトを立ち上げようと、2016年8月にスタートしたのが「ビズヒント」です。
――コンテンツマーケティングに本格的に取り組んだのは初めてだったそうですね。
関はい。当社の集客はリスティング広告中心でしたが、採用・転職市場が盛り上がるなかで、広告の単価もどんどん上がってきていました。「このまま広告にコストをかけ続けるよりも、オーガニック検索(自然検索)からの集客に腰を据えて取り組もう」と考えたのです。
しかしSEOに詳しい人に相談しても、当時はまだ「SEOで成果を出したいなら、大量に記事を作れ」というアドバイスが主流でした。そんなときにFaber Campanyさんの「ユーザーの検索意図に寄り添って、質の高いコンテンツを作る」という話を聞いて、すごく腹落ちしたんです。
月岡克博(以下、月岡)関さんのところへお伺いしたとき、「どうやってユーザーの検索意図を読み解くのか」についてお話していたら、「そうですそうです」とすごく共感してくださったのを覚えています。
関人事領域は昔から、アカデミックに研究されてきた分野です。それだけに「数打ちゃ当たる」の姿勢で量産したコンテンツでは、プロフェッショナルの人事担当者に納得してもらえません。「記事の本数は絞っても、情報感度の高い人事担当者に満足してもらえるような、質の高い読み物が常に手に入るメディアにしたい」という思いがあったので、なおさらでした。
コンテンツマーケティングは1回仕込んでおしまいではなく、継続的な改善が必要です。だから内製がいいと考えていたのですが、検索意図を調べる「MIERUCA(ミエルカ)」は職人向けの道具箱みたいなツールで、素人がすぐに使いこなせるわけではありません。しかし提供元であるFaber Companyのサポートがあれば、その「職人」を社内でも育てられると思いました。
半年で自然検索の流入数が26倍に。良質なコンテンツと出会える「場」が求められていた
――その「職人」に選ばれたのが大森さんだったと。
大森厚志(以下、大森)はい。私は多少リスティング広告の経験はありましたが、コンテンツ制作やSEOの領域は初めてでした。最初は右も左もわからなくて。
関わからないから最初は副島さんたちの指導についていくだけでも精いっぱいですし、コンテンツは最初の1、2か月ですぐに効果が出るわけではありません。しかし、半年こらえて続けると成果が出始めて、そしてノウハウも自社に蓄積できはじめました。
――成果というと、サイトの流入数ですか?
関はい。そのなかでも自然検索からの流入数を見ています。
具体的には、ミエルカを導入した2016年11月当時を100とすると、2017年5月が2600ぐらい。「6か月で6倍」を目標にしていたのですが、実際は約26倍も自然検索流入が増えました。当初の目標からすると430%にあたり、素晴らしい成果だと考えています。
関オーガニック検索からの流入だけではなく、ビズヒントの新規会員登録数も成果を測る指標として見ています。2017年内に3万人、来年には8万人が目指せるほどの手応えを感じています。しかも、特に情報感度が高い人事担当者の方に来ていただいている印象があります。
――ビズヒントは他社メディアの人事関連のニュースも紹介しています。オリジナルコンテンツと他社メディアのニュースで、流入に差はありますか?
関ビズヒントでは、オリジナルコンテンツのほかに他サイトの人事組織・採用関連の優良記事も1か所にまとめてお届けする役割も担っています。こうした他社メディアのニュースは、あくまで「ユーザーのリテンションのためのもの」と位置付けていて、検索エンジンにクローリングさせていません。オーガニック検索からの流入は、すべて社内で制作しているオリジナルコンテンツ経由のものです。
他社メディアのニュース紹介については、掲載許可をいただいた企業様やビジネス系メディア様からも喜びの声をいただいています。発信する側の立場でも、「常に人事領域の良質なコンテンツと出会える」という場所を、潜在的に求めていらっしゃったのだと感じました。
「届けるべきコンテンツは何か」を共有する軸としてツールを利用
――具体的にどのようにコンテンツを制作しているのかを教えてください。
大森まずはツールを使ってコンテンツの構成案を作ります。たとえば「人事考課(メンバーの貢献度・業績などを一定の基準で査定し、人事に反映すること)」についてのコンテンツなら、サジェストキーワードから「人事考課とは何か」「必要性」「人事評価との違い」などを知りたがっているユーザーニーズを抽出できます。さらに関連するテーマ・トピックを分析して、必要な情報を精査したうえで、執筆に取り組んでいます。
――コンテンツマーケティングにはオリジナリティも重要です。それはどのように取り組んでいますか?
大森ビズリーチの社内は独自情報の宝庫なので、詳しい社内の人間に取材して記事を作ることも多いですね。社会保険労務士など、専門家の監修や知見が必要なケースは、有資格者自身に書いてもらったりしています。記事で提供するコンテンツの質はメディアの信頼性にもかかわるので、内容のチェックは企業として特に責任をもって行っています。
月岡その企業でしか作れないような独自性のあるコンテンツに仕上がると、再訪率が高くなる傾向があります。結果、「サイトとユーザーのエンゲージメントが高まり、コンバージョンにつながりやすい良質なリードに転換する」という好循環が生まれますよね。
関そうですね。とはいえ、おのおのが勝手にオリジナリティを発揮してもダメです。「このサイトの対象者に届けるべきコンテンツは何か」という物差しを全員で共有しなければなりません。そこを明確にできているのはツールのおかげです。ユーザーの検索意図を基準として全員で共有しているからこそ、コンテンツ投入後のリライト施策でもぶれずに成果が出せるようになりました。
リライト施策にはAIを活用。タイトルと内容を分析して改善
――リライトではどんな対策をされていますか?
大森ミエルカの「AIで改善」という機能を使っています。先ほどの「人事考課」のページでは、タイトルと本文を変更した結果、検索順位が4位から1位に改善しました。
- 2月6日: 以下のタイトルで記事を投入
「人事考課の意味とは?評価の違いと、ポイントをわかりやすく解説」 - 4月13日: ミエルカのAIから以下2つの指摘
- タイトルに「能力」「項目」というキーワードを追加してみては?
- 記事本文にフィードバック方法についての内容を追加してみては?
- 4月26日: AIの指摘に従って以下のタイトルに変更し、フィードバック方法についても記事本文に追加
「人事考課の意味とは?能力で判断?評価との違いと、項目・ポイントを解説」 - 6月7日: 「人事考課」の単ワードで検索順位が4位から1位に上昇
大森提案をもとに実際に検索結果画面(SERPs)を調べると、検索ユーザーの「能力によって考課が変わるのか? ということを知りたい」というニーズが見えてきました。それで分析結果をもとにしてタイトルと内容を改善したところ、キーワードの検索順位をスコア化した「ファインダビリティスコア(検索エンジンでの『見つけやすさ』を表す数字)」が徐々に上がり、2か月後には「人事考課」の単ワードで検索順位が1位になりました(2017年6月現在)。
AIが提案した改善案で流入が250%に。ちょっとした差に人は気付けない
別の例だと、「リファラル採用」のページでは、もっと明確に効果がありました。リファラル採用とは、社員やその知人などからの紹介・推薦を採用活動につなげる方法のことです。AIが提示したとおりにタイトルを変更しただけで、セッション数が改善前の250%になったのです。
――AIはどのような提案をしたのですか?
大森リファラル採用は人事領域におけるホットワードなので、注力したいキーワードでした。ただ、コンテンツを投入してもなかなか検索上位に上がらない。この壁を何とか突破したいと、「AIで改善」で分析したのです。
このときあぶり出された問題点は、「せっかく本文に『リファラル採用という言葉の意味』や『リファラル採用をやるメリット』が含まれているのに、タイトルに「意味」や「メリット」が入っていないせいで、ユーザーがクリックしていない」という点でした。
言われてみれば「ああ、確かに!」と納得でしたね。下記のようにタイトルを変え、半月後には検索順位が1位になりました(2017年6月現在)。
副島啓一(以下、副島)このちょっとした差に、人間は気付けないんですよね。「AIで改善」は、現在のページに欠けている「ユーザーが知りたいであろう特徴的なトピック」をAIが勝手に分類して集めてくれる機能です。メリットとしては、「今現在のユーザーの検索動向」に合わせて最新の結果を出してくれる点、そして改善後のCVや流入数までAIが予測できるので、「費用対効果」を見極めやすい点があります。
月岡「今現在の」というのがポイントです。たとえば言葉が世の中に浸透する前は、ユーザーは「リファラル採用って何?」ということを知りたい。でも、世の中で認知された後では、知りたい情報が変わります。「AIで改善」は、その瞬間に必要な改善案を提示できるので、機会損失も防げるかと思います。
関それは大きいですね。もしその提案がなければ、「流入が稼げそうだから」という理由で不本意なトピックを追加してしまうかもしれません。それでも成果が出ないと、施策の打ちようがない。僕らが正しくやり続けてこられた理由は、ミエルカが的確に「打ち手」と「ゴール」を教えてくれるからだと思います。
AIは「気付きのきっかけ」。分析を自動化すればメディア運営が楽しくなる
――ちなみに「AIで改善」の提案が当たる確率はどの程度なのでしょうか?
副島今のところ、7勝3敗ぐらいです。現状の流入数や順位といった「状況観測」ができるツールは多いのですが、そのデータをもとに施策を意思決定するのは非常に難しい。なので、分析はある程度自動化し、担当者のスキルによらず「意思決定」と「アクション」ができるようにと、ミエルカの開発を続けています。
大森当社でも、AIは「気付きのきっかけ」となる情報を提示してくれる存在ととらえていて、そのうえでビズヒントが目指す世界観を見据えて、意思決定をしています。
月岡膨大なデータの調査・分析は機械に任せて、「このメディアがどうやったら魅力的になるか?」という人間にしかできない企画に頭と時間を使えると、メディア運営が楽しくなりますよね。
ヒートマップでUI改善の取り組みも開始。注目は「読了率」
大森最近はビッグワードでも検索上位になることが増えました。「面談」のページも、「AIで改善」で抽出した「面談と面接の違い」を図解で追加して、1位になっています(2017年6月現在)。
関文章が続いている部分でユーザーが離脱していたら、図解に変える。「どこまで読んでもらったか」「飽きていないか」を確かめてUIを改善する。こうした指標も今後は施策に影響すると考え、今はヒートマップも活用し始めました。
副島読んでもらえたかどうかも大事ですね。たとえば「ソーシャルから1万人集めたけれど、全然内容を読んでくれなかった」では意味がありませんし。実は今、ミエルカで「読了率(最後まで読み終わったユーザーの割合)」も掛け合わせた新しい指標を開発中なんです。
関新機能、楽しみですね。ビズヒントでは「何回も再訪してくれるようなユーザーとの関係構築」が今後の課題です。「再訪率が高いユーザーは、何割が最後まで読んでいるのか?」「会員登録を促すコンテンツは、何%スクロールしたところで表示するのが適切か?」そういうデータも蓄積して、ユーザー体験向上に生かしたいですね。
――ありがとうございました。
- ビズリーチ
http://www.bizreach.co.jp/ - BizHint HR(ビズヒント)
https://bizhint.jp/ - MIERUCA(ミエルカ)
https://mieru-ca.com/
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