眠れる個人資産2,000兆円を動かす! SMBC日興証券の「ニーズを捉えたコンテンツ施策」
2022年11月、金融庁は新しい資本主義実現会議にて「資産所得倍増プラン」を決定。国内の家計金融資産の半分以上を占める現預金を投資につなげることで、企業の成長と資産所得の好循環の実現を目指すとした。
投資をする人を増やすために、重要となるのが投資そのものへの理解度向上だ。総合証券会社・SMBC日興証券はデジタルでの情報発信を重視し、2017年からコンテンツ施策に挑戦してきた。初めて作成した17本のコンテンツは検索意図を捉え、多くの新規ユーザーを獲得できたという。現在は、米国株や投資信託、NISAをテーマに動画コンテンツなどの発信にもトライ。同社デジタルマーケティング部の皆さんに、「検索ユーザーの行動を変える、お金の知識発信のコツ」を伺った。
投資への苦手意識を解消し、資産2,000兆円の市場を活性化したい
日本には約2,000兆円の個人金融資産があるとされている。しかし、そのうち投資に回っているのはわずか15%(約300兆円)ほど。欧米の水準と同程度なら、600兆円規模でもおかしくないため、日本経済にとってマイナスの状況だという。
SMBC日興証券のWebマーケティングを担当するデジタルマーケティング部の部長・鈴木隆久氏は、次のように語る。
資産所得倍増プランの実現には、長期間にわたり投資をする人を増やすことと、自分に合う企業を見極める眼を養うことが重要です。もちろん、投資そのものを正しく理解することも必要となります。この3点において、“コンテンツ”は大きな力を担うと考えて、さまざまな施策に取り組んできました(鈴木氏)
日本でネット証券がスタートした2000年頃から、何度か投資ブームと呼べる波が訪れました。しかし、ブームが終わるとともに投資家は離れ、日本の投資人口は増えていかなかったのです。当社は長年「お客さまのフォローアップ」を対面で丁寧に行い、お客さまと一緒に歩んでいきたいと考えており、このヒューマンライクな活動をデジタルでも再現し、少しでも投資に興味をもつ人を増やしていきたいのです(鈴木氏)
同社は全国に対面店舗がある総合証券会社である。だがWebユーザーにとっては、よく目にするネット証券会社と比較する機会があまりなく、選ばれにくい傾向があったという。
SEOとの出会いは「目からうろこ」。一気に走り出した施策
その解決策を求めていたときに、当時のマーケティング部長が、検索意図を分析できるツール「ミエルカSEO」と出合い、担当であったデジタルマーケティング部マーケティング推進課長・美根幸子氏に紹介。ミエルカSEOを提供するFaber Company(以下、Faber)の月岡克博から提案を受けたコンテンツマーケティングの仕組みに美根氏も共感したそうだ。
当社のサイトには、証券取引の専門的なコラムがすでにたくさんありました。でも検索ニーズに応えるというSEO観点が抜けていた。だからお客さまが検索してもうまくヒットせず、口座開設などの行動につなげられていなかったのだと、月岡さんの話で目から鱗が落ちたのです。それまでインターネット集客というと、広告を掲載するイメージしかありませんでした。真摯に提案してくれる月岡さんへの信頼感もあり、やってみようと思いました(美根氏)
その後、美根氏はハンズオンセミナー「ミエルカ大学」に参加。SEOを意識したコンテンツ作りの基礎を学んだ。
初めて検索キーワードからコラムを作るまでの流れを体験したら、本当に面白くて。「クリーニング」と検索するユーザーが知りたいのは、掃除のことか、服の洗濯なのか、方法を知りたいのか、業者を探しているのか、分析することができました。「必要なのはただ記事を書くことじゃない。ユーザーが求める検索意図を正しく読み解いて書くことだったんだ!」と納得しました(美根氏)
17本のコンテンツで累計560万PV。多くのお客さまに正しい情報を!
そこからの展開は速かった。2017年11月〜2018年5月にかけて、「信用取引」「債券」「つみたてNISA」「FX」4つのジャンルに分け、立て続けにコラム17本を投稿した。これらのコラム経由のサイト流入は月560万PV以上になり、口座開設などのコンバージョンにも繋がっているという。
丸5年、この17本のコンテンツは検索上位3位以内と高いパフォーマンスをキープしました。結果、コラムへの自然検索流入は2023年7月時点で累計560万PVにのぼっています(美根氏)
ではここから、ユーザーの行動変容を後押ししたコンテンツ施策のポイントを具体的に見ていこう。
ポイント1:書き方は初心者目線、質は専門家目線
検索上位の競合コンテンツを大量に見比べると、どの証券会社も構成は類似してしまう。投資信託やFXなど取り扱う商品が同じなので仕方ないが、こうなるとコンテンツの差がつくのはサイト来訪者への「プレゼンテーション」となる。
中身を読みたくなるディスクリプションなのか、コンテンツ導入部分にはどんな説明があるべきか、文よりも図にしたほうがいいかなど、考慮すべき事項はいろいろある。それらに対して「素人ゆえの気づきを活かしたほうが、結局は投資経験者にも読みやすく、評価されるはず」と判断し、Faberが美根氏に提案したのが、「ターゲットが投資経験者でも、初心者の目線で書き直す」ということだ。
それ以降、美根氏が発案、Faberが加筆・修正したコラムを証券アナリストなど専門部署でファクトチェックし、リリースする流れで制作、改善を続けた。
我々の作るコンテンツが、その専門性ゆえに苦手意識をお客さまに植えつけていないかどうか。また若い世代がどう感じているのか。ターゲット世代の社外ディレクターさんに相談できたのは、非常に心強かったです(美根氏)
直近リリースした米国株に関連する一連のコンテンツも、アップ早々に検索上位を獲得するなどパフォーマンスが高い。「米国株 取引時間」というキーワードでは、コンテンツ公開からかなり短い期間で検索上位表示できたという。
2023年6月時点では、検索1位を獲得。強調スニペットにも入っており、検索結果での視認性も高く、米国株サービスの認知アップに貢献している。
ポイント2:用語集からコラムへ回遊率アップ
すでにサイト内に200本ほどあった用語解説ページからコラムへの誘導も厚くした。
検索上位に来ている用語解説ページも多かったが、美根氏は「ユーザーが本質的に知りたいのは単に用語の意味だけではないのでは?」と考えたという。そこで、ポップアップ表示などでコラムへの誘導を追加して、回遊率を高めるような施策を実施した。
ポイント3:複雑な仕組みはマンガでわかりやすく
投資初心者の社外ディレクターが一番苦労したのは、FXのコラムだったという。初心者のFXへのイメージはどうしてもギャンブル性が強い。そこで、例えば会社員の副業投資家が長期保有する方法もあるなど、初心者として印象が変わった点をコラムで活かすといった工夫を施した。
さらに「FX=難しい」イメージの払拭のため、2021年4月にはマンガコンテンツも追加した。Faberがユーザーの検索意図を踏まえた構成案を作り、マンガ制作会社に依頼したという。
当社はFXを取り扱う証券会社としては後発ですが、ユーザーからの閲覧が多いコンテンツ施策に成功しました(美根氏)
動画+テキストのハイブリッド型コラムにもチャレンジ
2023年2月、米国株のサービス開始にあたり、チームが挑戦したのが「動画」だ。テキストコンテンツの内容を30秒程度で要約した動画を冒頭に付け、1つのコラムに仕上げた。
美根氏は、動画コンテンツにも積極的だ。
月岡さんから「YouTube動画が検索結果に表示される例が増えている」と聞いて、すぐに「米国株でやろう」と採用しました。1株数万円の投資から始められる米国株は、年齢層が若い方も投資を始めやすい商品です。「iPhoneユーザーだからAppleの株を買おう」といった、身近な企業の株主にもなれる魅力もあります。動画コンテンツで理解を進めてもらって、潜在投資家の掘り起こしができればと考えています(美根氏)
動画施策の提案には、近年のユーザー行動の変化もあったと月岡はいう。
通信環境の変化や動画プラットフォームの多様化などもあってか、YouTubeドメインが検索結果に表示されやすくなっています。消費者が動画コンテンツを消費するのが当たり前になりつつあるのだと思います(月岡)
加えて、「働き方改革」など一言で説明するには難しくて、詳細解説が必要な事柄の場合、2語目に「わかりやすく」とつけて「働き方改革 わかりやすく」というような検索キーワードをよくみるようになってきたという変化もある。
そこで、まずは数十秒の動画で「難しいことをさらっと教えてニーズ」に応え、さらに知りたい人には詳しい文字情報も提供する「動画+テキストのハイブリッド型コンテンツ」が、理解の難しい金融領域にピッタリだと考えました(月岡)
米国株マーケティング担当の交田徹氏も、動画コンテンツの可能性に期待している。
これまでの動画コンテンツが非常によく見られているので、米国株でも動画を設置するとどうなるか期待しています。ゆくゆくは、バイオ、自動運転など注目分野の動向や魅力も伝えていきたいですね(交田氏)
顧客の投資リテラシー向上をサポート
コンテンツの役割は「お客さまの知的好奇心を満たすことができるかが重要」と、米国株マーケティング担当の渡辺孝一氏は考えている。
コンテンツ制作で第一に考えていることは、「ユーザー目線であること」です。パッと見てわかりにくいコンテンツは、お客さまに価値を提供できていないのと同義。目の前のコンテンツが、親切で正直なわかりやすい内容になっているのかを、常に大切にしています(渡辺氏)
そこで、渡辺氏が現在取り組んでいるのが「証券アナリストが解説する動画レポート」だ。
生活に密着したニュースが株価にどう影響しているか、当社では以前から証券アナリストが解説する動画レポートに取り組んでいます。こういった新聞だけでは取り切れない情報を、Web検索でお問い合わせされたお客さま、当社ですでに取引を始めてくださった方にもメールなどでお伝えしていきますので、投資をする際の参考にしていただけると嬉しいですね(渡辺氏)
投資信託については、SMBC日興証券が2019年より運用する「お金の芽が出る研究室 とうしんLab.」内でコンテンツを展開している。投資信託のマーケティングを担当する蓮川慎治氏は、多くの読者に届くよう、SEOを意識したコンテンツ作りを行ってきた。
いくつかの記事は、検索上位表示され始めています。今後も、広く多くの読者に届くようなコンテンツを意識して制作していきたいですね(蓮川氏)
社内での成功事例を糧に、デジタルマーケティングに取り組む人材育成を今後も加速
信用取引を皮切りに、米国株、つみたてNISAに関連するキーワードでも、検索上位表示が増え始めている。その成功の裏には、お客さまにとってのベストを追求する体制を整えたSMBC日興証券の姿勢と活動が非常に大きい。
多くの企業では検索上位が取れている場合、コンテンツの見直しはほぼ行いません。きめ細かな動線追加などは意外に手間がかかるので、提案しても、実際の改善施策につながらない場合が多い。
しかし、今回は美根さんから積極的にご相談をいただきました。つみたてNISAの既存コンテンツを見直す時も、「競合がひしめいていてリライトしたら、かえって順位が下がるかも」とリスクを説明しましたが、それでも「ユーザーにとってベストなコラムにしたい」とGOをいただいた。思い切って改善に取り組めました(月岡)
リスクを適切にコントロールしながら、さらなるリターンを。投資と同じ積極的なチャレンジが、コンテンツ施策やSEOでも活きた好例といえるだろう。このような自社での成功事例を糧に、現在は「人材育成」にも力を入れ始めている。
新しいメンバーに対して、第一歩として実際にコンテンツを作ることに挑戦してもらっています。次のステップとしては、ミエルカSEOを使用して検索ニーズを分析し、課題発掘とコンテンツの改善案を提示してもらうこと。そうやって、「チーム内でPDCAを回せるようになれば、いいコンテンツが次々生まれていく」と思っています(美根氏)
デジタルマーケティングの仕組みを学ぶこと、UI/UXを理解すること、顧客体験を意識したサービス設計やデータを活用すること。これらは、現代のビジネスマンにとって基本的なスキルであり、支援企業に依存してばかりではいけないと考えています。
これまで、「デジタル」というと専門家が取り組むような分野でした。そうではなく、デジタルの世界は私達の身近にあるのだということを、デジタルマーケティング部が伝えていくべきだと考えています。徐々にデジタルを活用したマーケティングについて学びたいと思う人を増やしていきたいですね(鈴木氏)
ソーシャルもやってます!