【レポート】デジタルマーケターズサミット2021 Summer

データ分析って何したらいいの? マーケターに必要な「データ活用7つの視点」

データ活用で利益を上げることが求められるデジタルマーケター。現場で必要な視点を、Q&A形式で解説する。

デジタル化が進み、データ活用への期待も大きくなっているが、成果につなげることは簡単ではない。データ活用人材の常駐を通して多くの企業を支援してきたメンバーズデータアドベンチャーカンパニーの社長 白井恵里氏が、「デジタルマーケターズサミット 2021 Summer」に登壇。これまでの実績をベースに、データ活用における悩みに回答する形で知見のエッセンスを紹介した。

株式会社メンバーズ 執行役員 兼
メンバーズデータアドベンチャーカンパニー 社長 
白井恵里氏

データ分析で価値を生み出すとは

マーケターにとって「データが重要だ」という話はあちこちで言われているが、その理由は、「モノのサービス化が進み、マーケターはサービスを通じてユーザーと継続的に接触できるようになっているため」だと、白井氏は言う。買い切り型から継続型に変化しているため、ユーザーとの接触面からデータを取得し続け、サービスを改善し続けることが可能になっている。

データを使えば、マーケターはこれまで以上にユーザーと密に向き合い続けることができる。「データとは、現実世界をデータという言語で写し取ったもの。そのデータをもとに、ユーザーへの価値提供に関わる意志決定を行い、利益を得ることが、データ分析で価値を生み出すということだ」と、白井氏は語る。

データ分析で価値を生み出すとはどういうことか

以下では、データ分析について白井氏がよく聞くというお悩みと、その解決策を紹介していく。

お悩み① レポートがアクションに繋がらない

レポートをアクションに繋げるためには、

  1. 何が起きたか
  2. なぜ起きたか
  3. じゃあどうするか

という順番で考える必要があると言う。以下のように「何が起きたかだけ」を記述しているレポートでは、アクションに繋げることはできない。

アクションに繋がらないレポート

何が起きたかだけでなく「なぜ起きたか」(原因)を埋めると、自然と「じゃあどうするか」(アクション)を考えることができる。たとえば、「当月は新規顧客獲得キャンペーンを行わなかった」ことが原因なら、「新規顧客獲得キャンペーンを行う」というアクションに繋がる。

アクションに繋がるレポート

原因が変われば、当然アクションも変わる。たとえば、「新たな競合が出現し、新規顧客を奪われた」が原因であれば、「競合にはない自社の価値を訴求する」というアクションになるかもしれない。

アクションを議論するには理由がわかっていなければならないが、定量データを見ているだけでは、理由にまで至らないことが多い。これが、アクションに繋がらないレポートが生まれてしまう理由だ。「手元にある定量データだけでなく、さまざまな情報を集める必要がある」と白井氏は語る。

アクションに繋がらないレポートが生まれる理由

データ活用というと、どうしても定量データだけでどうにかしようと思いがちだが、実はそれだけではうまくいかない。なぜ起きたかを、手元にあるデータ以外から突き止める必要がある。たとえば、いろいろな人に聞いて回るとか、ユーザーにヒアリングするなどだ。それによって正確な答えがわからなくても、『おそらく、こうした理由』ということがわかるだけでも、アクションに繋がる議論ができる(白井氏)

【ポイント】
  • 「何が起きたか」「なぜ起きたか」「じゃあどうするか」という順番で考える
  • 「なぜ起きたか」を、定量データ以外の多方面から情報収集して考える

お悩み② KPIは作ったけど……で、どうするの?

KPIとは、以下のように定義できる。

  • アクションの増減を左右する指標
  • モニタリングしていて設定範囲から外れる値が出たらアラートが出るもの

「KPIは、アラートが出たらすぐにアクションするためのもの」と言い換えることもできる。たとえば、川のいくつかの場所で流れをモニタリングしている場合、上流で増水しアラートが発せられれば、すぐに避難行動に繋がるだろう。つまり、数値の変化を観察することがモニタリングの目的ではなく、アクションをすることが目的である。つまり、アクションとKPIの紐づきがとても大事になる。

なお、一般的にKPIはKGIからブレイクダウンして作ることが多く、指標をモニタリングしていて変化が大きくなった時に、どうアクションするかまで決めていないことがある。これでは、KPIを設定した意味がない。

KPIに紐付くアクションを設定していないことが多い

そこで白井氏は、以下のステップで「アクションとKPIの紐付きを確認することが大事」だと言う。これをやっておかないと、アラートが出てもすぐにアクションを決められない。

  1. 取りうる施策を全部出す
  2. その施策で動く指標を出す
  3. その指標と、KPIを紐付ける
まずは取りうる施策を出し、その施策で動く指標をボトムアップで出し、KPIと紐付ける
【ポイント】
  • KPIは、アラートが出たらすぐにアクションするためのもの
  • 取りうる施策とその施策によって動く指標を、KPIと紐付けておく

お悩み③ 「データ分析って意味あるの?」と言われる

以下の図は、データが価値に変わるまでの流れだが、データ分析は赤い網掛けをした部分になる。

データが価値に変わるまでの流れと分析の立ち位置

つまり、データ分析は中間成果物なので、この時点ではレポートを作るコストを投下しただけで、データ分析に意味があるのかどうか、まだ判断できない状態だ。

一方、「意味があるのか」と言う人が求めているのは、利益に繋がるビジネス上の成果。直截に言うと「それって儲かるの?」ということ。そのため、「まずはデータ分析がビジネス成果に繋がるということを、信じてもらうことが必要なので、小さい成功体験を早く積むことが大事だ」と白井氏は言う。

小さく早く成果を出すために必要な条件は、以下の4つだ。

  • データ分析から成果計測まで、関わる部署が少ない
  • その施策を早く実行できる
  • その施策の効果は、わりと早く出ることが期待できる
  • その施策の効果を、きちんと数字で表せる
【ポイント】
  • 小さな成果でいいから、データ分析が事業にどう貢献するかを素早く示す

お悩み④ データドリブンに改善しているけど頭打ち感がある

改善を続けるとどこかで頭打ちになるのは、データ活用に限らない。たとえば、運用型広告の最適化でも、成績の良いセグメントやクリエイティブに予算を寄せて配信を効率化していくと、効率の良いセグメントの数は減っていく。いわゆる、「取り切っている」とか「サチっている」という状態だ。

Google広告の改善をやり尽くしても、営業利益が10倍になることはまずない。つまり、その手段の改善を続けて研ぎ澄ませていっても、その手段が影響を及ぼす範囲を超えて成果を出すということは難しい(白井氏)

この課題に関しては、データソースを増やして影響範囲を広げるのが良いという。たとえば、部門の枠を超えてデータをもらって活用するなどの方法がある。

【ポイント】
  • 改善の効果は青天井ではないので、データソースを増やして影響範囲を広げる

お悩み⑤ 打ちたい施策の承認がおりない

これを解決するには、社内に対するマーケティングが必要だ。具体的には、以下のような順序で行う。

Step 1. 承認者を知る

まず必要なのは、承認者の所属部署のミッションは何で、今何が大事で、何をしたいと思っているかを知ることだ。たとえば、新規ユーザーを獲得したいと思っている時に、既存ユーザーのリテンションの提案をしても、通りにくいのは当たり前。データで裏付けられていて、すごく正しい施策であったとしても、通らないだろう。このため、組織の方針、戦略、関連会議の議事録を読み込んで、人に聞き込みをするなど、承認者の関心と制約を理解する必要がある。

Step 2. データをもとに承認者と共通の認識を作る

次に、認識を統一して、対応すべき課題に対する議論の土台を整える。たとえば、以下のように客観的に確認する。

  • データを見ると、事業の現状は○○である
  • このままいくと、今年度の着地予測は△△である
  • 目標とのギャップは××である

白井氏によれば「このタイミングで焦るとうまくいかない」と言う。

Step 3. 根拠とともに施策を提案する

共通認識をふまえた課題とそれを解決できる施策を提示して、さらに根拠を示せれば、承認者が頷きたくなる提案になる。たとえば、次のように提案すると良い。

  • 現状から、事業の課題は○○である
  • 施策に必要なコストは××円で、ROIは◇◇で、今年度の数値目標に△△というインパクトを与えられ、課題が解決する

この時、実現不可能な提案をしても通らないので、承認者の関心と制約をふまえていることが重要だ。

【ポイント】
  • 社内向けにも「マーケティング」をする

お悩み⑥ デジタルマーケターがデータ活用するにはどんなスキルを身につけるべき?

AIや機械学習などいろいろなスキルが話題になっているが、身につけておきたいのは、「感度分析」と「可視化」だと白井氏は言う。

「感度分析」とは、簡単に言うと「どの数字が動いたら、結果の数字がどうなるのか」を考えること。たとえば、あるキャンペーンの実績が以下のような数値だったとする。

<前回キャンペーンの実績>

広告費: \10,000,000 
顧客獲得数: \10,000 
売上: \10,000,000 
顧客単価: \1,000 
CPA: \1,000

もし、今年は広告費予算が2倍になると、結果はどうなるだろうか? 顧客単価とCPAが同じなら、単純に考えて獲得数や売上も2倍になる。同様に、広告予算が半分に減ったら、計算上は顧客獲得数や売上も半分になるはずだ。

ただし、実際の業務で「売上は半分です」と言って許されることはほとんどない。「予算は半分だけど、売上は昨年と同じにしてね」と言われるのではないだろうか。

広告費と売上の数値を変えられないなら、変えられるのは顧客獲得数、顧客単価、CPAの3つだ。そこで、「CPAはもう下がらないから、顧客単価を倍にするか」や、「顧客単価を上げるのは無理だから、CPAを半分に……」などと考えるのではないだろうか。これが、感度分析だ。

実際には、自分たちに実行可能か、どのくらいのインパクトが得られるのかを検討し、CPAと顧客単価を少しずつ改善するというのが落としどころだろう。感度分析ができると、「数字に紐づいたアクションプラン」を決めることができる。

感度分析の利用例

「可視化」は、グラフやクロス集計など、何らかの形でデータを理解しやすいように表現することだ。可視化すると複数の人で認識を統一できるので、議論が前に進む。

【ポイント】
  • 感度分析と可視化を身につける

お悩み⑦ データ分析って結局何したらいいの?

これについては、以下の点がポイントになる。

【ポイント】
  • どういう顧客にどういう価値を届けるかを見つけるための手段の1つとして使う

そのために気をつけるべきポイントは以下になる。白井氏は「困った時の振り返りに使ってみてほしい」と言う。

  • レポートをアクションに繋げるには、何が起きたか、なぜ起きたか、じゃあどうするかという順番で考える
  • KPIを作ったら、アクションとの紐付きを確認する
  • 「データ分析って意味あるの?」と言われたら、小さな成果で良いからデータ分析が事業にどう貢献するかを素早く示す
  • データドリブンな改善の頭打ち感を打開するには、データソースを増やして影響範囲を広げる
  • 施策の承認を得るためには社内向けにもマーケティングをする
  • デジタルマーケターがデータ活用をするには感度分析と可視化のスキルを身につける

最後に白井氏は、「マーケターとは、マーケットやユーザーと向き合う人です。マーケットやユーザーとより良く向き合うための手段として、データを使って成果を出していってほしい」とまとめた。

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