XのAI「Grok」が進化! 日本法人社長が教える「インサイト発見」の“超実践ワザ”
Twitterが買収されたのが 2022年4月、Xにリブランディングされたのは2023年7月。かつてのメディア企業からテクノロジー企業になったXは、生成AI「Grok(グロック)」の実装や縦型動画を軸とした広告商品の拡充、さらには金融や求人にも手を広げ始めた。
生活のあらゆる場面で役立つ万能アプリ“Everything App(エブリシングアプリ)”を目指し、着実に進化を遂げているXは、マーケティングにどんな影響を与えるのか。X 日本法人代表の松山歩氏が「Web担当者Forum ミーティング 2025 春」に登壇し、日本市場の動向と最新事例を紹介した。

MAU数6,800万人! 最新データで見る日本のX利用状況
まずは日本のX利用状況について、最新のデータをもとに見ていこう。
日本におけるXのマンスリーアクティブユーザー数は6,800万人、デイリーアクティブユーザーは4,000万人に達しており、日本は米国に次ぐ最大の市場となっている。

インテージの「メディアライフレポート2025」によると、アプリ接触率・時間ともに堅調に増加しており、1日あたりの平均接触時間では他のSNSと比べ、圧倒的首位をキープしている。
さらに、ポスト数・インプレッション数・検索数・利用秒数といった指標で、日本は全世界でNo.1を獲得。Xの利用者とX以外のSNS利用者を比較すると、以下のような傾向が見られた。
- 広告で見た製品を買いやすい(+35%)
- 他の人より早く新しいものを試すことが好き(+100%)
- 友人や家族に新しい製品について話すことがある(+70%)
加えて、日本のXユーザーの「4人に1人はブランドからのポストに反応する」「5人に1人がブランドや製品をX内で検索する」といったことも明らかになった。
また、動画の利用状況についてみると、1日の平均動画再生数は11.4億で、年間動画再生数・動画視聴時間ともに過去最多を記録。Xでの滞在時間のうち動画視聴の割合は55%を占めており、そのうち21%が「縦型動画」だという。
- MLB東京シリーズのハイライト動画
【 #ドジャース 】#大谷翔平 日本のヒーロー🇯🇵
— MLB Japan (@MLBJapan) March 19, 2025
東京ドームのファンの期待に応えるライトへの今季第1号ホームランを放ちました🔥#MLBTokyoSeries #日本人選手情報 pic.twitter.com/MmDY6dXeYb
Originals on X で ”Horipro Vocal Scout Caravan”の配信が決定!
— ホリプロボーカルスカウトキャラバン (@horivoca) May 1, 2025
配信開始は2025年秋頃を予定しています。
未来の「声」を見つける 男性ボーカルオーディション、ぜひご覧ください!
視聴者の方も実行委員と一緒に日本全国の「声」を探しにいきましょう。#ホリボカ pic.twitter.com/Jx5bjT606g
そのためXでは、フォーマットの多様化に加えて、コンテンツの強化も加速している。
たとえば、MLBワールドツアー東京シリーズのハイライト動画、秋から始まるホリプロと連携したホリプロボーカルスカウトキャラバン、テレビ東京系列でオンエアされた『怪獣8号』のテレビとXでの同時配信などが挙げられる。さらに、VTuberや映画監督とのコラボによるタイアップ広告プランも用意されている。

中でも注目すべきは、Xで現在最も人気となっている「縦型動画広告」の機能アップデートだ。売上(コンバージョンの最適化)を目的としたキャンペーンが可能となり、動画から誘導するためのCTA(コールトゥアクション)の数も10種類に増加した。
- 詳細を見る(Learn More)
- 購入する(Shop Now)
- 新規登録(Sign Up)
- お問い合わせ(Contact Us)
- 予約する(Book Now)
- ダウンロード(Download)
- 特典を受ける(Get Offer)
- 寄付する(Donate)
- 今すぐ見る(Watch Now)
- チケットを購入(Buy Now)
縦型動画の視聴率は、前年比で80%近い成長率となっている。特に20代・30代の若年層において、非常に多く支持されているフォーマットだ(松山氏)
ユーザーのインサイトを探れ! 新世代の対話型AI「Grok」
続いて、話題の生成AI「Grok」の活用について見ていこう。GrokはXのグループ会社であるX.AI Corp.が開発した生成AIで、Xアプリ内からアクセスできる。

2024年7月、xAIチームは世界最大のAI用のトレーニングセンターを設立した。ここでは20万台のGPUが稼働しており、今後もさらに拡大していく予定だ。このようなインフラの強化により、Grokは世界で最も賢いAIとして、数学や科学、コーディングといったさまざまなベンチマークで、競合を凌駕するスコアを獲得している。

Grokの特徴は何と言っても、Xの投稿のデータ、つまり人々の思考や感情などの定性的なデータまでも学習している点だ。そのため、Grokに「自社の商品やサービスを支持している人の特徴」や「熱心なファンアカウントの性格や特性」などを聞けば、リアルなユーザーリサーチを行うこともできる。

また最近では、タイムライン上の投稿に対し「ファクトチェックして」「論破して」とGrokをメンションし、議論に参加させる使い方も見られるという。こうした動きは、AIとソーシャルメディアの融合を象徴する一例だと松山氏は述べる。
「Grokに何か聞いてみたが、ありきたりな回答しか返ってこない」という声もあるが、そういう方にはAIに対するマインドセットを変えてほしい。Grokは単なる検索エンジンではなく、対話型のエージェントだ。“人々の本音(=インサイト)を深く探る”ためのツールとして、ぜひ有効に活用していただきたい(松山氏)

実践:Grokを活用したユーザーリサーチ〜キャンペーン企画
では、具体的にGrokでどのようにインサイトを探り、マーケティングに活かしていけば良いのだろうか。
松山氏は「ブランド・オーディエンス・モーメント」の3つの円から成るコミュニケーションアイデアを作るためのフレームワークを紹介した。

この3つの円が重なったエリアこそが生活者のインサイトであり、ブランドの視点とユーザーの本音の交点を見つけ出すことが、共感を呼ぶキャンペーン立案のカギとなる。
今回は、リブニットタートルネックのユーザーのインサイトの把握から、販促キャンペーン企画の立案までをGrok上でデモしながら松山氏が解説していった。
Step1:「Grok、まずは3つの丸のフレームワークを読み込んで」
インサイトを把握する前に、まずGrokに3つの丸のフレームワークを教えるために、以下のプロンプトを入力する。
あなたは今から、Xのキャンペーンを作ります。まずは、以下の情報を読み込んでください。その後、作って欲しいブランドの情報を与えます。
Xでは、コミュニケーションアイデアを作る時に、大切にしていることがあります。ブランドが伝えたいことを、狙ったオーディエンスが会話しやすいように、3つの丸の情報を整理します。その上で、インサイトをX上から探し出し、コミュニケーションアイデアを作ります。これによりオーディエンスが参加しやすいブランドキャンペーンを作ることができます。
- ブランドのパーパス/メッセージ:商品やサービスの機能的価値/情緒的価値
- オーディエンス:メディアターゲット、コミュニケーションターゲット
- モーメント:商品やサービスに関する関与度が非常に高まる瞬間
Step2:「Grok、3つの丸を踏まえたブランドの情報を読み込んで」
次に、「ブランド・オーディエンス・モーメント」にあたる具体的な情報を入力する。今回は例として、以下のような商品の情報を与えた。
- ブランドのパーパス/メッセージ:新しいカラーバリエが楽しみなリブニットタートルネック
- オーディエンス:20代から30代 有職男性もしくは女性
- モーメント:9月の商品発売のタイミング
Step3:「Grok、これらの情報を踏まえてユーザーの本音を教えて」
そして、「これらの情報を踏まえてユーザーの本音を教えて」と入力すると、以下のようにユーザーのインサイトを抽出してくれる。

ちなみにGrokには以下の3つのモードがある。
- 通常モード:最も基本的なモード。命令に対して即座に返答してくれる。
- DeepSearch:徹底的に検索し、Grokの高速なエージェント検索によって詳細かつ論理的な回答を生成する。
- Think:Xの推論モデルを使用して、数学・科学・コーディングにおける最も難しい問題を解決する。
Step3まででも十分な分析が得られるが、さらに深掘りしたい場合は次のステップへ進もう。
Step4:「Grok、情報を深掘りしてユーザーの本音を探って」
「DeepSearch」モードを選択し、「情報を深掘りしてユーザーの本音を探って」と入力する。
するとGrokは、「タートルネックは他の服に比べて複数枚まとめて購入されやすい」という傾向を発見。その上で、購入者が何を重視し、どこに魅力を感じているのかといった情報も整理した。実際の投稿も参照元として提示されるため、ユーザーの声を個別に確認することも可能だ。

Step5:「Grok、複数枚購入者の過去ポストからターゲット像の解像度を上げて」
ここからさらにターゲットの解像度を上げていこう。Step5で提示されたユーザーの投稿をもとに、自社商品を愛用してくれている人の性格や趣味嗜好を分析するよう指示する。以下が、Grokが導き出したユーザーのインサイトだ。

Step6:「Grok、この人たちが参加したくなるキャンペーンを考えて」
これらの分析をもとにGrokは、ユーザーが思わず参加したくなる企画として、「#タートルカラーパレットチャレンジ」を提案。豊富なカラーバリエーションを活かしたコーディネート投稿を促すSNSキャンペーンを企画した。
あとは人間が少し手を加えれば、キャンペーンの完成だ。なお、以下のカラフルなタートルネックを着た女性の画像もGrokによって生成されたものである。

また、キャンペーン開始後は、Xで指定したキーワードに関する人々の動向をリアルタイムで見られる「Radar(レーダー)」という機能を使って、キャンペーンの効果を検証するのも有効だ。

Xの未来へ向けて——“Everything App”への進化
Xが目指す未来——それは、日常生活のあらゆる場面でXを訪れる世界である。そんな“Everything App(エブリシングアプリ)”の実現に向けて、XではGrok以外にも、次のような機能を強化している。
- 求人機能:Xのプロフィールに求人情報を掲載し、人材のマッチングができる。

- X Money:年内に米国でスタート予定の金融サービス。Xアカウント同士でリアルタイムでの入金や送金が可能。
- 記事機能:動画や画像を埋め込み、ブログのようにXの投稿を作成できる。企業のプロモーションにも活用されている。
— ユニクロ (@UNIQLO_JP) June 5, 2024
— U-NEXT海外ドラマ公式 (@unext_kaidora) June 10, 2024
— 薬事法マーケティングの教科書 / 薬機法・景品表示法 (@yakujihoukyo) April 2, 2024
- スペース:ライブ配信しながら会話を楽しめる音声チャットルーム。今後は音声だけでなく、動画にも対応予定。2024年の実施数は640万超。
- ビデオタブ:縦型全画面動画を、縦スクロールで次々と視聴可能。
- X TV App:スマートテレビ向けの動画アプリ。ユーザーごとにカスタマイズされたアルゴリズムで、最新のコンテンツを視聴できる。
Xプラットフォームの安全性確保に向けた取り組み
最後に松山氏は、Xの安全性確保に向けた取り組みについても言及した。
- 「インプレゾンビ」対策

まずは、一時大きな問題となっていた「インプレゾンビ」への対策だ。従来の閲覧数に応じた広告収益の分配を、投稿への返信や「いいね」の数といったアカウントの影響力を基にした重みづけへと変更した結果、「インプレゾンビ」を含む発言数はピーク時から92%減少したという。
- 「闇バイト」対策

次に「闇バイト」対策についてだ。「高収入バイト」などの関連キーワードを検索すると、注意喚起のバナーが表示される仕組みを導入している。
- 「コミュニティノート」の取り組み強化
さらに、誤解を招く可能性があるポストに背景情報を追加できる「コミュニティノート」の取り組みも強化。コミュニティノートを書く資格を持つユーザーは、世界で100万人超、日本でも77,000人以上にのぼる。この資格がないユーザーでも、真偽の不明な投稿に対して、コミュニティノートの追加をリクエストすることができる。
今後は各投稿からボタン1つでGrokを呼び出せる機能も搭載予定であり、コミュニティノートとGrokのダブル体制で、フェイクニュース対策にあたっていく方針だ。
「Xがどんなに進化しようとも、“Freedom of Speech(言論の自由)”はXの影響力の源泉であり、最も重要なものであることに変わりはない。これからも『本音が言える、聞ける唯一の場所』としての価値をしっかり守っていくのが、我々のミッションだ」と語り、松山氏はセッションを締め括った。
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