Webサイトリニューアルの7ステップと、よりよいサイトを作るための「要件定義」の勘所
企業Webサイトのリニューアルにおいて、よりよいWebサイトを作るために大切な7ステップと、個々の顧客に適したコミュニケーションを取る方法を紹介。
「Web担当者Forumミーティング 2018 春」に、NECマネジメントパートナーの山方氏が登壇。「企業Webサイトリニューアル、まずは、要件定義の進め方をしっかり押さえよう!<中級編>」と題し、トラブルなくWebサイトリニューアルを完遂するための手法を、主にワークショップを活用した社内体制・合意形成の面から解説した。
Webサイトのリニューアルで重要なのは「要件定義」
Webサイトは、あらゆるデジタルマーケティングを推進する上での基本にして、最も重要なプラットフォームである。MA、CRM、DMP、ソーシャルメディア連携などを実施しようにも、自社Webサイトが充実していなければ、その効果は半減してしまう。
とはいえ、Webサイトを日々運用するだけでも大変なのに、さらに「リニューアルする」となると、頭を抱えてしまうWeb担当者は多いだろう。そこで、専門家として数多くのWebサイト構築に携わってきた山方氏は下記のようにアドバイスする。
リニューアルによって自社のWebサイトが顧客により役立つものになり、自社の成長にも役立つものになると考えるのはとても楽しいこと。そのためには、(リニューアルで特に重要となる)「要件定義」をまずしっかり理解してほしい。
サイトリニューアルの“7段階”
NECマネジメントパートナーが企業サイトリニューアルをサポートするにあたっては、下記の全7段階のプロセスを踏んでいく。
- ヒアリング
- 課題設定
- 仮説立案
- 設計
- デザイン
- ページ制作
- 確認
このうち最初の3つであるヒアリング、課題設定、仮説立案が「要件定義フェーズ」にあたる。残り4つの設計、デザイン、ページ制作、確認が「制作・開発フェーズ」だ。
山方氏によれば、サイトリニューアルでトラブルが発生しやすいのは、制作・開発フェーズだという。
基本的に、開発の方向性などは要件定義フェーズで最終決定しているはずだ。しかし実際には、制作・開発フェーズになってリニューアル後の姿が具体的に見えてくると、各所から異論が噴出するものだ。最悪の場合、リニューアル作業が停まる。
山方氏はズバリ、その原因は「要件定義フェーズのあいまいさ」だと指摘する。
NECマネジメントパートナーでは、Webサイトで、「誰」に、「何」を、「どう」してもらうのか、そのためにどんなリニューアルを行うのかを決定することを「要件定義」としている。ターゲット層、訴求する商品・サービス、ゴール(理解してもらう、資料請求してもらう、お問い合わせをしてもらう、共感してもらう)などを決め、そのためにどんなWebサイトにするのかを考えるこのフェーズが、もっとも重要となってくる。
Web課題ではなく、経営課題からリニューアル案の作成を
では、成果を出すWebサイトリニューアルを進めるには、どんな点を意識すべきなのだろうか?
まず、「誰が、何のために、いつまでに、何をやるかを明確にする」ことだ。具体的にはプロジェクト計画書で大枠を提示。そして、リニューアルプロジェクトを進める最中にどんな成果物(書類)を作りエビデンスとして残していくかもリスト化しておく。
この他には、リニューアルプロジェクトのスケジュールや、会議体(出席者や開催ペース)を決めておき、日程や責任範囲を明確化する。また、リニューアルは広告代理店やシステム開発会社など、複数の企業が同時に参加するケースも多い。したがって体制図を作り、最終責任者・責任範囲をわかりやすくしておくことも大切だ。
- プロジェクト計画書
- 成果物リスト
- スケジュール
- 会議体
- 体制図
これらが決まったら、リニューアルに向けた調査・課題整理を進めることになる。ここで意識すべきは「経営課題」だという。
企業の場合、Webだけで完結する施策はほとんどない。経営層が掲げる目標に向けて、Webがどう貢献できるかを考える(山方氏)
「スマホ対応が遅れていたので改善したい」「PVを増やしたい」といった“Web課題”の解消は、あくまで後から付いてくるものだ。順番としては、下記のように課題を絞り込んでいく。
- 企業として売上を拡大したい
- その売上拡大のために、Webからの引き合いを増やしたい
- そう考えた時に、Webサイトをどうリニューアルすればいいか
洗い出された課題を具体的な施策へ落とし込むためには「仮説立案」が必要。いわゆる「ペルソナ」「カスタマージャーニーマップ」「ユーザーシナリオ」の作成も、この段階での作業だ。仮説はまずざっくり立てて、調査結果やツールを使って磨いていく。この時、「お客様視点」を意識することが重要だ。
合意形成としてのワークショップ、そのメリット
日常的に実施されるサイト改善とは異なり、サイトリニューアルは非常に大規模なものだ。前述の「経営課題ありき」となると、リニューアル作業は決してWeb担当者だけで進められるものではなくなる。そのため、営業部門やマーケティング部門などとの共創──つまり「合意形成」が欠かせない。
ワークショップは、合意形成手段として近年よく使われる手法で、山方氏自身もサイトリニューアルにあたって頻繁に開催しているという。なぜだろうか?
規模の大小に関わらず、現在多くの企業は基本的に縦割り組織。同じグループ内でも意見がバラバラなケースは多い。サイトリニューアルの責任者は真剣で切実でも、その他の関係者はどこか他人事で協力的ではないケースも多い。
そんな状況で意見をまとめるのは大変。それがワークショップだと、目標達成に向けた“一体感”を醸成できるのが大きい(山方氏)
とはいえ、事前の準備をきちんと行わなければワークショップもただの雑談に終わってしまう。それを防ぐためには「ワークショップのゴールを決めておく、つまり何を合意形成するのかを決めておく」のがポイントだという。ワークショップは1回3~4時間程度かかる。それだけの時間を使う以上、必ずキチンとした成果を出せるようにワークショップのシナリオを設計するのだ。
また、ワークショップの実施前には出席者に対して課題(宿題)をあらかじめ用意する。
難しい課題を出す必要はない。社員の多くは自社サイト全体をこまめによく見ていないことが多いので「競合他社のサイトと比較しながら見ておく」といったことでも十分。
簡単な課題を考えてもらうことで、「自分もリニューアルに参加している」と感じてもらうことが重要(山方氏)
このほか、ワークショップ当日、参加者全員が活発に発言できるよう、ファシリテーターがうまく「場回し」することも重要。また、ワークショップ前に進行表などを用意して参加者に渡しておき、当日は時間配分を定め、きっちりと運営することも重要だ。
山方氏は「関係者は多いけれど意見を1つにまとめたいときにはワークショップが良い。参加者の本音を引き出しやすく参加者の“納得感=腹落ち感”も高まる」と述べている。
- ワークショップでのゴールを決めておく
- ワークショップ実施前に課題を出す
- 全員に活発に発言してもらう
要件定義書の重要性
仮説立案、合意形成を経て、サイトリニューアルの方針がいよいよまとまってきた。これらの内容は最終的に要件定義書へ盛り込んでいく。
要件定義書には、作業範囲・予算・期間などに関する見通しを記載することになるが、同様に「コンセプト」を決めて記載しておくことも重要だ。ワークショップなどを通じて、Webサイトリニューアルで目指すべきゴールや、それに対してどのような施策を打つかは明確化している。これを分かりやすい言葉にすることで、リニューアル関係者の間でより深く価値観を共有する効果が期待される。
例えば、物流会社である住化ロジスティクスのサイトリニューアルに山方氏が携わった際には、「物流」という言葉にしばられず、顧客の課題解決により顧客の事業貢献に役立ちたいという想いから“流れ”という言葉を活かしたコンセプトを立案した。
そして、要件定義書の完成をもって、要件定義フェーズは完了。制作・開発フェーズへ移行する。
制作・開発フェーズは、外部のコンテンツ制作会社やシステム開発会社に発注するケースも少なくない。サイトリニューアルにまつわるトラブルの大半、つまり「制作・開発フェーズから要件定義フェーズへの差し戻し」を防ぐために、「要件定義書」が非常に重要となる。
山方氏はこの講演で伝えたかったこととして次の2つを挙げる。
- 要件定義は未来を思い描くシナリオ作り
- 周りを巻き込んでひとつの方向を目指す
山方氏は、「Webサイトのリニューアルは、企業によって向き合い方がそれぞれで、違う課題を抱えられていると思う」と語り、サイトリニューアルはWeb担当者だけで実行するものではなく、多くの関係者と協力しながら、自社に貢献するWebサイトを作るためのポジティブな業務であると語り、講演を終えた。
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