今さらだけどペイパーポストに関して意見を整理してみた ~Web担/日経BP/MarkeZine連動コラム
このコラムは、Web担当者Forumと「日経ネットマーケティング」「Markezine」各誌の編集長が、毎回共通のテーマでネットマーケティングを語るコーナーです。
第1回のテーマは「ペイパーポスト」。
他誌編集長のコラムも同時に公開されていますので、併せてご覧ください。
- PPPにも新手の動き、納得性ある掲載の“作法”は確立するか(日経ネットマーケティング)
- ペイ・パー・ポスト。愛すべき5つの理由(Markezine)
- 今さらだけどペイパーポストに関して意見を整理してみた(Web担当者Forum)(この記事)
ペイパーポスト=ブロガークチコミプロモーション
「ペイパーポスト」とは、広告主がクチコミを広げたいネタを指定し、その情報を自分のブログに記事として書いたブロガーに200円や500円といった報酬が支払われるシステムのことを指す。ブロガーが報酬を得るためには、指定された表現や特定のURLへのリンクをブログへに書く記事に含めることが求められる場合も多い。
ブログへの投稿(ポスト)ごとに支払われることから「ペイ・パー・ポスト(pay per post)」と呼ばれ、米国では2005年ごろから専門の事業者が現れている。ブログで小遣いかせぎをしたいブロガーを大勢抱え、広告主からの依頼に応じて登録ブロガーに案件を告知し、記事掲載の確認やブロガーへの支払いを行うサービスを提供している。そういった事業者は日本でも2006年~2007年ごろから出てきている。
ペイパーポストに関しては、Web担でも解説の記事を出している。編集部としても自信の記事なので、このコラムと併せてぜひご覧いただきたい。
先に結論を述べておくと、Web担としては、試供品の提供などによってブロガーの体験が伴わない限り、ペイパーポストのサービスは「クチコミを増やすサービス」ではないと考える。また、「安価にリンクを増やせるSEO施策」としてペイパーポストサービスを利用することはオススメしない。
その理由を、企業のマーケティング施策としての目的と、ペイパーポストの特性とを併せて説明していこう。
SEO? クチコミ? 企業は何のためにペイパーポストを利用するのか
そもそも、広告主は何のためにペイパーポストで出稿するのだろうか。おそらく以下の3つが考えられるだろう。
サービス事業者が送る案件紹介のメールが読まれることによる、登録ブロガーに対する広告効果
ペイパーポストで投稿されたブログ記事が読まれることによる、ブログの読者に対するクチコミ効果
ペイパーポストで投稿されたブログ記事にリンクを含めさせることによる、SEO効果
それぞれについて考えてみよう。
(1) の広告効果を考えてみよう。ブログ記事1件たり200円の報酬で1000人に支払う案件の場合、広告主が支払う金額は、サービス事業者のマージンが100%だとすると40万円。それだけあれば、もっと良質なメールマガジンに広告が出せるはずだ。そもそも、この告知効果はペイパーポストの本質ではない。
(2) のクチコミ効果に関して最も問題なのは、ブロガーが報酬を得て記事を書いている以上、それはクチコミではなく、広告にすぎないということだ。
「決してやってはいけないクチコミマーケの禁じ手」というWeb担の記事で米国のWOMMA(クチコミマーケティング協会)が定める倫理規定を紹介しているが、その第1項に、次のようにある。
消費者に報酬を渡しながら、企業との関係を明らかにすることなく、商品推奨を依頼する行為をしない。
つまり、ブログに記事を書くことで報酬を得ているのならば、ブロガーがその記事に「この記事はお金をもらって書いています」と添えるよう、広告主側が明示的に指示するべきだとしているのだ。そのルールをブロガーが必ず守るようにしなければ、結果として消費者(この場合はブログの読者)を欺くことになる。
広告収益で採算をとっていることが自明な既存の商業メディアと異なり、インターネット上のメディア、特に多くのブログは個人のメディアとして存在しており、明らかなバナーを除けば、そこに広告的な内容が入っていることは前提とはなっていない。だからこそ、グーグルはアドセンスの枠に「Ads by Google」と強制的に表示して、記事と広告を区別できるように明示しているのだ。同様に、ブロガーにお金を支払って記事を書いてもらうのならば、その事実を明示して、ブロガーが自主的に書いた記事と区別できるようにするべきだというのは当然だろう(この点に関して疑問があるようならば、そもそもネット広告に携わるべきではない)。
では、その流儀にしたがって「お金をもらって書いています」ということを明示したペイパーポスト記事がクチコミを呼ぶだろうか? ほとんどの場合は単なる広告なのだと受け取られることは容易に想像できるだろう。
ただし、例外もある。それは、ブロガーが試供品の提供を受けて実際に使ってみた結果を書くパターンだ。この場合、ブロガーが報酬を得て記事を書いていることを明らかにしていても、「実際に使ってみてこのように感じた」と実体験を元にした自分の言葉で記事を作れるので、クチコミたり得ると考えられる。
(3) のSEO効果は論外だ。永続的なリンクを1本あたり200円といった値段で得られるのは一見メリットがありそうだが、リンクを検索エンジンが評価するのは「このページが良いよ」と推薦する意図で張られた場合であり、報酬と引き替えに設置されるリンクは、検索エンジンにとって可能な限り排除したい「順位を操作するための有料リンク」にすぎない。実際にグーグルは実際に米国でペイパーポストのサービス(その名も「PayPerPost」)に参加しているブログの評価をゼロにした(つまりペイパーポストによるリンクのSEO効果がなくなった)し、そもそも有料リンクの取り締まりは厳しくなるいっぽうだ。
- ページランクがゼロになり途方に暮れるPayPerPostユーザーたち(TechCrunch Japanese)
- Google、ペイパーポストのリンクに対する見解表明 - Paid Postsに「NO」(Web担でも執筆いただいている渡辺隆広氏)
- 多数のサイトでGoogleツールバーの表示ページランク表示が急落
- 「有料リンクは是か非か」GoogleのMatt Cutts氏も盛り上がったSES San Jose 2007
もちろん検索エンジンもすべてのペイパーポストのリンクをチェックして評価を下げることはできないし、Yahoo! JAPANが有料リンクを厳しく取り締まっているという話も聞かないので、リンクのSEO効果が出る可能性はある。しかし、その効果はいつ消えてもおかしくないものだと考えるべきだ。それでもSEO効果のためにペイパーポストを利用するのは、検索エンジンにケンカを売るようなものではないだろうか。
「偽」の仲間入りをしないために
ここまでで述べたことで、最初に提示した「ペイパーポストはクチコミを増やすサービスではない」「SEOのためにペイパーポストでリンクを増やそうとするべきではない」理由をおわかりいただけただろうか。
あえて言うならば、試供品・体験型のレビューによるもの以外のペイパーポストは、クチコミのための施策ではなく、単なる広告だと考えるべきものなのかもしれない。
ちなみに、クチコミではなく広告だと考えると、ペイパーポストの費用対効果はさほど悪くない。
いわゆる一般ブログの平均PV数は1日あたり300~500PVだと言われているので、ペイパーポスト記事が平均500回見られたとしよう。ブログ記事1件あたり400円のコストが広告主にかかるとすると、PV単価は0.8円。
他の広告と比較して考えてみよう。関東圏でテレビCMを放送した場合、1GRPあたり広告への接触回数が延べ40万回程度だと想定されるので、GRP単価10万円だとすると1接触あたりのコストは0.25円となる。ネット広告ならば、Yahoo! JAPANに出稿すると1インプレッションあたり0.2~3円程度だ(いずれも広告制作コストを除く)。
数十万円から利用できる広告商品としては、1インプレッション単価は悪くないだろう。ただし実際には、記事へのアクセスが数十PV程度しかないブログがあったり、ほとんどアクセスのないブログを1人で複数登録しているブロガーがいたりすることにより、ペイパーポストの広告の費用対効果は上記のものより下がる可能性がある。
ただし、企業のマーケティング担当者にとって、ペイパーポストは「自分がプランしたクチコミマーケティング施策でこれだけの成果を出した」を会社にアピールしやすいものであることも確かだ。どれだけのコストで、どれだけネット上に自社商品に関するブログ記事が書かれ、リンクが何本張られたかを、わかりやすいレポートにできるからだ。上司がクチコミの倫理面や検索エンジンの品質ガイドラインなどを気にしないのならばなおさらだろう。
では、自分の査定のために、または何らかの理由でペイパーポストを利用したい場合には、どういうことに注意するべきなのだろうか。
記事冒頭でも紹介したWeb担の記事で筆者の河野氏が書いている言葉がわかりやすいので、それを引用して紹介しよう。
- ブロガーへ広告表示を義務付けているか
- 著作権法や薬事法など、法令順守をブロガーに徹底できているか
- 他のブログをコピーしただけのスパム記事を排除してくれるか
- 悪質なブロガーを発見する努力をし、逐次登録抹消しているか
- 「情報」だけでなく「体験」を条件にしているか
マーケティングの手段として考慮される以上、費用対効果を考えるのは大切だが、自社の信用を失うことのないよう、広告のモラルも広報のマナーもわかった企業のサービスを選んでほしい。特に最後のポイントは重要だ。メールに書いてある紹介文をそのまま掲載するだけで、人を動かすような記事を書けるわけがない。そのような記事がクチコミを発生させることは絶対にあり得ない。実体験をともなった記事を読んだときに、私たちは「共感」し、自分もほしいと思い、他の誰かに伝えたくなるのだ。
河野氏の言葉に「メールに書いてある紹介文をそのまま掲載するだけで、人を動かすような記事を書けるわけがない
」とあるが、ここは、中長期的なブランディングを考えても大切だ。
ペイパーポストに参加したブロガーの多くが案内メールの文章をコピーしてしまうと、ほとんど同じ内容の宣伝目的のブログ記事が量産されることになる。そうなると、「この企業はこんなスパム記事をまき散らしている」といった騒ぎ(炎上)が起こることも考えられるのだ。
企業のそういった行為に敏感に反応して敵意を示すネットユーザーは多いし、もしかしたら、同業他社が意図的にそういった騒ぎを引き起こしてあなたのブランディングを妨げようとするかもしれない。
そして恐ろしいことに、将来にそういった暴露が行われたとしても、あなたには手の打ちようがない。なぜなら、記事は各ブロガーの管理下にあり、あなたにはもうコントロールできないからだ。
そういった意味でも、自らの言葉で記事を書いてくれるブロガーが多いサービスを選ぶことは重要だし、「ブロガーの声」を引き出すための「体験」の仕掛けを広告主側がしっかりと提供することが大切だ。
2007年の「今年の漢字」が何だったか覚えているだろうか。そう、「偽」だ。
河野氏の指摘するようなポイントを理解せずにペイパーポストによるブロガープロモーションを行った場合、そこに生まれるのは、「偽」の「クチコミもどき」なのではないだろうか。
そして、そういった「偽」のクチコミブログ記事が氾らんするようになった場合、はたして想定するとおりのクチコミ効果が出ると考えられるだろうか? そして、「ネット」という場が企業にとって良い場になるだろうか?
2008/07/31 15:10追記: 公開当初の時点のものから記事のタイトルを変更しました。
ソーシャルもやってます!