生成AIの「SGE」登場後、SEOは不要になるのか? サイバーエージェント木村氏が語るE-E-A-Tの重要性
今年5月、Google I/Oで生成AIと検索が融合する「Search Generative Experience(SGE)」が発表された。SEOが変革期を迎えるなか、「AIによって新しい形のSEOが生まれる」と予見するのは、株式会社サイバーエージェント SEOラボ 研究室長の木村賢氏だ。
同氏は「Web担当者Forum ミーティング 2023 春」に登壇。生成AIと検索エンジンが融合した「SGE」の最新情報を紹介しつつ、今後のSEO施策において必須の概念「E-E-A-T」について解説した。
Googleが発表したSGEとは?
Google I/Oで発表された「Search Generative Experience(SGE)」とは、ユーザーの質問に対し生成AIによる回答を表示するというもの。回答画面の構成としては、生成AIによる回答が上部に表示されるが、同時に従来のオーガニックの検索結果も下部に表示される見込みだ。
ただし、現在は米国の一部テストユーザーに公開された段階であり、最終的にどのような形で実装されるかはわかっていない。
※本レポートの情報は、講演が行われた2023年5月31日時点のもの。
クエリの種類によってもSEOへの影響が異なる
クエリ(質問文、検索語句)の種類によっても、生成AIの回答方式やSEOへの影響度は異なるとみられる。
Informational(Know)クエリ
情報を求めるInformationalクエリに対しては、知りたいことにAIが回答した結果、ゼロクリック検索が増えるという予測が立てられるだろう。
Transactional(Do)クエリ
一方、Transactionalクエリに対しては、Google ショッピングに誘導する形や、会話型のやり取りでおすすめ商品を提示する仕様が考えられる。
SGE登場で、SEOはなくなるのか?
生成AIが疑問に答えるのであれば、検索結果の上位表示を目指すSEOは不要になるのだろうか。
木村氏は「検索とリストという組み合わせさえあれば、SEOはなくならない」と言い切り、「AIの回答だけでは満足せず、専門的なウェブサイトで情報を得たいという人は必ずいる」とも付け加える。
しかし同時に「SEOが変化する可能性はある」と指摘。
たとえば画面の右上に表示される、AI回答の情報ソースを示す箇所に、新たにウェブページがリスト化される可能性がある。この枠を狙うのであれば、「AIに選ばれるためのSEO」という新しい技術が生まれるだろう。
SEOはよりシビアになる
また木村氏は、ページ上部にAI回答が入ることで「オーガニックの枠が減り、減ったパイを奪い合うことになる」とも推測する。今後もSEOによる集客を継続するのであれば、より上位を狙わなければ1ページ目に表示されない可能性が高まる。SEOはなくならないが、競争は激化するとみられる。
今やるべきSEOとは? E-E-A-Tがカギを握る
激化するSEOの競争を勝ち抜くには、何をすべきだろうか?
カギを握るのが「E-E-A-T」だ。2022年12月、Googleの品質評価ガイドラインが、従来のE-A-T(Expertise、 Authoritativeness、Trustworthness)からE-E-A-Tとなり、新たにExperienceが追加された。
※Googleの品質評価ガイドライン: Googleが採用した評価者(機械ではなく人間)が、検索結果の品質を評価するためのマニュアルのこと。
Experienceとは具体的に言うと「コンテンツ作成者が、そのテーマについて必要な実体験や人生経験をどの程度持っているか」ということだ。
製品レビューであれば、当然ながら実際に製品を使ったことのある人のレビューの方が信頼でき、品質が高いと評価される。
補足すると、実体験に基づいていても、「利益相反」がある場合、信頼に足る情報源とは言えない。たとえば製品メーカー自身によるレビューや、宣伝のために報酬を得ているインフルエンサーのレビューは信頼性が低いと評価される。
コアアップデートで、アメブロの順位が上昇した理由
2022年末のE-E-A-T導入後、3月15日にコアアップデートが実施され、実体験を評価する形での順位変動が見られた。
木村氏によると、「肝臓がん 告知」「3歳 歩かない」というYMYL(Your Money or Your Life)クエリでアメーバブログの記事が上位表示されていたという。
記事の内容が「実体験かどうか」、Googleはどのように判断しているのだろうか。
木村氏によると、まず人間の評価者がコンテンツに対し、実体験だと感じたら高い点数、実体験ではない(嘘)と感じたら低い点数を付ける。そして、そのデータをトレーニングセットとして大量に学習し、実体験を高確率で見分けるアルゴリズムが作られていくと考えられる。
つまり、アルゴリズムを作っているのは、「ユーザー」であり「人間」ということだ。人間に好かれることが、Googleのアルゴリズムに好かれることに直結しているといえる。
どういうコンテンツを作ると勝てるのか?
ここから木村氏は、Informationalクエリ、つまり情報コンテンツに焦点を絞り、「どういうコンテンツを作ると勝てるのか?」について解説した。
最新のデータから見える、良いコンテンツの特徴は下記の通りだ。
- 運営者が機械的にわかる
- コンテンツが豊富である
- キーワードが豊富である
- サイト内/サイト外発リンクが豊富である
- キーワードを含むページが多い
- キーワードを含むページの割合が高い
- ページへの被リンクが多い
これらの特徴をまとめると「E-E-A-Tがあり、シェアされる高品質コンテンツ」となる。「E-E-A-Tを満たせば、Informationalクエリでは勝てる」と木村氏は言い切る。
E-E-A-Tのそれぞれの要素について解説していく。
T:Trust(信頼)
運営者情報
以下のような運営者情報を可能な限り理解できる状態にすることで、サイトへのTrust(信頼)が高まると考えられる。
- ドメインのWHOIS情報
- SSL証明書
- Wikipedia
- Google ビジネスプロフィール
エビデンス
そしてTrustおよびExpertiseにとって重要な点が、エビデンスのリンクを設置することだ。さらにそのエビデンスは、公的なサイト、学術論文など信頼性の高いサイトの方が望ましい。なお木村氏によると、発リンクには「Google Discoverに表示されやすくなる」というメリットもあるのだという。
著書プロフィール
Trustに関してもう一つ重要なのが、著者プロフィールを「具体的で詳しく」することだ。以下の点を抑えたい。
- 著者の情報がテキストで詳細に記述されている
- 著者のプロフィール写真がある
- 著者の公式サイトやSNS情報がある
- 著者の公式サイトやSNSと相互リンクしている
- 著者の書籍情報がある
E:Expertise(専門性)
Expertise(専門性)のあるコンテンツを作るには、専門性・網羅性・量・オリジナルという4要素に留意したい。
専門性
その文章がプロによるものか、アマチュアによるものか、Googleは自然言語処理(NLP)やAIによってある程度は判断できるとみられる。プロが書くことで、専門性があると評価されやすい。
網羅性
網羅性を高めるには、インテント出しと要素出しの両方を行った方がよい。プロ野球のセ・リーグを例に取るなら、インテントと要素は次のようになる。
- インテント:「セ・リーグ 順位」「セ・リーグ 成績」「セ・リーグ 歴史」など
- 要素:「ヤクルト」「巨人」「阪神」「中日」「横浜」「広島」
木村氏は「インテント出しはみんな行うが、要素出しを忘れがち」と、要素出しの重要性を強調する。
インテントと要素を階層構造で表すと、下図のようになる。網羅性を高めるとは、この階層構造における台形の面積を広げることを意味する。
量
1ページあたりの情報量を充実させることに加え、サイト全体で同じトピックを扱うページ数を増やすことが、サイト全体のExpertise(専門性)を高めるうえで効果的。
オリジナル
現在のSEOでは「オリジナル」が重要な要素であり、木村氏は“The Original is King”と考えるべきだと主張する。
オリジナル、つまり世の中にない情報を盛り込むためには、専門性の高い知識や実体験が必要となる場合が多い。その分野の素人や、思い切ったことを書きづらい外注ライター、さらには平均的な回答を返すGPTなどの言語モデルでは、オリジナルなコンテンツを生み出すことは難しい。
E:Experience(実体験)
オリジナルを作り出す方法としては「実体験」が有効だ。特に非専門家がオリジナル性を出すには、体験をしてコンテンツにするしかない。
A:Authoritativeness(権威性)
最後のAuthoritativeness(権威性)は、「支持されている内容である」ということだ。権威性を構成する代表的な要素が「被リンク」だ。木村氏によると「データ上、被リンクは1本でも効く」とのこと。
そして現代の被リンク対策では、SNSでのシェアが重要視されており、ページが拡散していくなかで、どこかのサイトで言及され被リンクを得ることを目指す。
SNSでシェアされるコンテンツとは
シェアされるコンテンツは、どのように作ればよいのだろうか。木村氏が最近、取り入れている方法が「章単位で、感情を動かすことを考える」というものだ。
たとえば『渋谷で絶対に外さない焼鳥屋5選』というコンテンツを作る場合を考えてみよう。まず下の表の通り、h1のおいしそうな写真で期待させて、次のh2で老舗を紹介して信頼させ、最後のh2で焼き肉店の焼き鳥を紹介して意外性を与え、驚いてもらう。
読み手の感情の流れを想定して、コンテンツを作るということだ。感情が動くと、シェアされやすくなる。
結局はユーザーに好かれているかどうか
木村氏は講演を振り返り、現代のSEOのポイントとして3点を挙げた。
- E-E-A-Tを常に意識すること
- オリジナル要素を入れること
- ユーザーに好かれること
そして最後に木村氏は、ヨーロッパ最大のSEOカンファレンス「brightonSEO」で出会った “Don't you love your customers?”を引用しながら、「SEOをやる人は検索エンジンばかりを見て、ユーザーに嫌われることをやってしまう。ユーザーもしっかり見るようにしましょう」とアドバイスを送り、講演を締めくくった。
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