キリン流オウンドメディア運用術! noteで“共感の輪を広げる”コンテンツ作りとは
手軽にコンテンツを発信できるメディアプラットフォーム「note」。オウンドメディアとして利用を検討しているものの、効果的な運用方法がわからない……という人も多いのではないだろうか。
「Web担当者Forum ミーティング 2023 春」では、キリンホールディングスの平山高敏氏が登壇。ファンを巻き込むコンテンツ作りのポイントや評価方法について、事例をまじえて解説した。
『オウンドメディア進化論 ~ステークホルダーを巻き込みファンをつくる!~』(著者:平山高敏 出版:宣伝会議)
時代に合わせて変化する「オウンドメディア」
平山氏はまず、オウンドメディアの変遷について説明した。そもそもオウンドメディアとは、「企業側でコントロール可能なメディア」のことだ。ソーシャルメディアやWebサイト、パンフレットなど、企業が自ら発信する媒体全般を指す。
上図は、Google トレンドで見た「オウンドメディア」の検索遷移だ。2014年頃から一気に検索が増え、2018年をピークに落ち着き、現在再び盛り上がりを見せている。
このような変遷をたどった理由として、まず「SNSとスマホの登場」がある。SNSを通じて企業が顧客に直接接点を持てるようになったことで、広告代替への期待が生まれ、オウンドメディアが急増した。
だが2018年頃、それらは相次いで閉鎖する。理由は以下の3点だ。
- 低品質のコタツ記事の駆逐
- 変化するGoogleのアルゴリズムに追従するコスパの悪さ
- バズ狙いが食傷気味に
“オウンドメディアはオワコンだ”なんてことを言われた時期もありましたが、その筆頭が2016年頃に起きたWELQ問題です。取材をせず、ネットに転がっている情報だけをまとめて記事化する。そういったメディアは真偽不明のものが多く、閉鎖を余儀なくされました(平山氏)
しかし2019年頃に、「新しいタイプのオウンドメディア」が登場し始める。代表的なのが、トヨタの「トヨタイムズ」やユニクロの「Life Wear magazine」だ。「企業がどんな想いで、ものづくりをしているのか」という内側を見せる動きが見られるようになった。
この背景には、企業に真摯さが求められる時代へと世の中が変化したことがある。社会の一員としてどのようなビジョンをもっているのかを伝える場として、オウンドメディアが利用されるようになった。また、社員のモチベーションを上げるための“旗印”としての役割もあるという。
2019年以前のオウンドメディアは、短期的な広告価値が重視されていましたが、長期的な企業ブランドの育成に運営の軸が変化しました。社内外ともに、共感者を育んでいくことへのシフトがここ数年で起きています(平山氏)
ソーシャル起点の「新しいオウンドメディア」に注目
まとめると、オウンドメディアの活用方法は、現在以下の2つとなっている。
①マーケティング的活用
目的:新規顧客の獲得や既存顧客との絆づくり
期待する効果:SEO等によるリード獲得・ファンコミュニティ②コーポレートコミュニケーション的活用
目的:企業としての信頼醸成やイメージの獲得
期待する効果:ブランディング・採用
加えて、発信の場がプラットフォームなのか・オフィシャルなのかを縦軸とし、オウンドメディアを4つの象限で分類したのが以下の図だ。
もちろんSNSや企業Webサイトでのリード獲得は今でも重要な観点だが、本講演では左側のコーポレートコミュニケーション的役割にフォーカスする。特に「note」は、プラットフォーム性を有した新しいオウンドメディアとして、企業での利用が増えていると平山氏は語る。
キリンがnoteに取り組んだ理由
キリンがnoteに取り組み始めたのは2019年。そのきっかけは、キリンに転職してきた平山氏が「もったいない」と感じたことだったという。
商品のプロモーションは元々知っていましたが、実際に入社して社員の話を聞いてみると、CMで見えている以上の“造り手の想い”がありました。表には出ないこだわりや熱量のある取り組みがとても多い。これを知ればみんなもっとキリンを好きになるのに、と思いました(平山氏)
広告やリリースだけでは伝えきれていない価値を発掘しよう、という目的で始めたのが「note」だった。
キリンでは、「だからキリンが好きなんだ」というスローガンで複数のオウンドメディア(note、自社Webサイト、SNSなど)を運営している。具体的なミッションは以下の3つだ。
- 獲得したい企業イメージを貯めるためのメディア設計
- 広告では伝えきれないグループのビジョンをやわらかく伝える
- メディアに合わせたコンテンツで企業としての人格の輪郭を表現
noteは「想いを語る長文が届きやすい」?
noteは「だれもが創作をはじめ、続けられるようにする」をミッションに掲げるメディアプラットフォームだ。平山氏は、他のSNSとの大きな違いとして、「長文で、想いを語る文章が届きやすい傾向にある」と述べる。また、以下のような特徴もある。
編集部によるピックアップ
編集部が選んだコンテンツがトップページに掲載される。ソーシャルイシュー関心層との親和性が高い
社会課題に関心があるユーザーが多く、そうしたコンテンツがピックアップされやすい。パーソナル×プロセスなコンテンツ
物事の正解ではなく個人の思いを伝える。「これまでとこれから」のコンテンツ。Twitter(現 X)で拡散されやすい空気感
ただしこれは今後のTwitter社の動向により変わる可能性あり。
平山氏は、キリンがnoteを選択した理由について、「ソーシャル起点のパーソナルな発信が、読者の共感によって手軽に拡散される可能性があるから」だと語る。具体的には以下のような効果が期待できる。
また、実際にnoteで発信している企業アカウントもいくつか紹介されたので、ぜひ参考にしてほしい。
- カルビー公式note「THE CALBEE」
- パナソニック公式note「ソウゾウノート」
- NHK公式note「NHK取材ノート」
- SHARP公式note「SHARP」
「理想のオウンドメディア作り」の8つのポイント
オウンドメディアを1から作ろうとすると、やはり広告的価値やブランディングといった「目的」から入ることが多い。しかしKPIや費用対効果だけにとらわれると、メディアはどんどんシュリンクしてしまう。
平山氏によると、オウンドメディアには理想の状態があるという。
社内で“とりあげてほしい”と思われるメディアであることと、世の中から関心や共感を向けられている状態を、バランスよく保てているのが理想のオウンドメディアです(平山氏)
- 「オウンドでなければ出せないことなので載せてほしい」と社内から声がかかる
- 掲載することで社内が活性化する、ないしはビジョンが浸透していく
- 社会課題に関心をもった消費者から共感を得られる
これらが持続しているのが理想の状態だが、特に「社内」の要素は抜けてしまいがちなので注意が必要だ。
キリンではオウンドメディアを作る際に、8つのポイントをおさえている。社内における役割や具体的な活用シーンまで、あらかじめ設定しておく。ただしこれは常に見直し、必要に応じて変更するという。
実際にKIRIN公式noteで用いている機能(役割)・ビジョン・戦略の核は上図の通り。また、これは絶対にやらないという「NGライン」を決めておくことも大切だ。キリンでは、「広告とまったく同じメッセージのキャンペーンはやらない」とすることで、世界観を維持している。
「課題曲」と「自由曲」で共感の輪を広げる
では、いざnoteを立ち上げて、どのようなコンテンツを載せればいいのか。これには大きく分けて2種類のコンテンツがあり、平山氏は「課題曲と自由曲」と表現する。
課題曲(社内オーダー)
社内からのオーダーで作るもの。「新しい商品を出すので開発の裏側を伝えてほしい」「社会課題に対する活動をしていることを伝えてほしい」といった注文に応える。自由曲(オリジナル)
キリンらしさを表現するために、ゼロから考えるもの。オリジナル。
課題曲だけ作っているとつまらなくなってしまうし、逆に自由曲だけだと社内からのオーダーが減ってしまう。2つともバランスよく作ることが重要です(平山氏)
実際にコンテンツを作る場合には、記事のテーマを下のような3つの要素に分解するという。
- 企業主語(企業は何を伝えたいのか)
- 読者の関心(読者はどういったものを好むのか)
- メディアの世界観(そのメディアでなければ伝えられない「らしさ」)
具体的な例を紹介しよう。
① 今日はキリンラガーを(課題曲)
キリンラガーは固定ファンの多い定番のビールだが、実は広告をいっさい打っていない。オーダーは、「上品な伝統品質の本格ビール」「キリンの原点」といったラガーのよさを伝えたいというものだった。
そこで始まったのが「今日はキリンラガーを」の連載だ。広告がないため、人によって異なるイメージを抱いているという点に着目し、「私にとってのキリンラガー」を従業員とクリエイターで伝え合うような構成にした。結果、かなりのリーチを獲得している。
② わたしとキリン(自由曲)
こちらはオリジナルのコンテンツ「わたしとキリン」の特集。オウンドメディアではマーケティング担当者が登場することが多いが、企業にはそれ以外にも多様な職種がある。キリンという会社の人格を表すために、さまざまな社員の話を聞くとおもしろいのではないかという意図で始まった企画だ。
結果的にキリンnoteでは一番人気のコンテンツとなったが、大きく影響したのは採用面だった。実は最近、就活でnoteを見て企業研究するケースが増えてきている。実際「これを読んでキリンに決めた」という学生も多いという。
コンテンツを出す際に重要なのは、“誰に何と言ってシェアしてほしいか”を考えること。特に取材対象者や関わったクリエイターにとって代名詞となり、家族や友だちにシェアしたくなるようなものを作ると、そこから同心円状にメディアが広がっていく(平山氏)
オウンドメディアは「バズ」だけで評価してはいけない!
平山氏は最後に、オウンドメディアの評価方法について触れた。最も重要なことは、「一過性の数値(バズ)だけで判断しない」ということだ。
オウンドメディアは広告と違って、すべてのコンテンツが多くの人に刺さるわけではない。数字だけで判断すると、バズ狙いのコンテンツだけが並び、オウンドメディアの本来的な意図とズレた展開につながります(平山氏)
コンテンツを評価する基準として、平山氏は以下の2点を挙げた。
① どの「面」に当てるのかを考えて作る
読者は「面」によって「顔」を変える。noteのピックアップではnote編集部の好みを把握し、公式SNSの運用ではフォロワーの好みを考慮して、どの面に当てるのかコンテンツを作る前に決める。
② コンテンツはヨコ・タテの面積で考える
ヨコの面積とは、コンテンツがSNS以外の点でマルチユースできるかということ。タテの面積とは、時間が経っても資産性があり、アーカイブとして残るかということ。どちらもおさえておくべき視点だ。
- 社内での理解浸透のために作ったコンテンツを営業ツールとして
- 採用や組織内の共通言語化に
- インナーブランディング、モチベーションツールとして
- 報道向けのレターとして
現在KIRIN公式noteは、キリンのオフィシャルサイトのトップにも掲載されているという。コンテンツを個別に作るのは大変だが、noteを転載するだけならコストもかからない。
ここまでコンテンツを広げられると、バズやPV数だけではない指標で評価ができるようになってくる。会社としても大事な資産になると思います。
オウンドメディアの成功のカギは、社内の想いをしっかりと聞きながら、目線は外に向けておくこと。そして、オウンドメディアをコミュニティととらえ、長期的で複層的な評価を与えることです(平山氏)
平山氏は「まずは自分でnoteをやってみてください。実際に記事を書いてみて、何が読まれるのかを確かめることが大切です」と勧め、講演を締めくくった。
ソーシャルもやってます!