マーケ vs 営業:対立危険度チェック5問|押し売りにならないBtoBマーケティングのTIPS
あなたの会社のマーケティングと営業は、うまく連携できているだろうか? BtoBマーケティングの注目度は高まっているものの、顧客に合わないツールの導入や部分最適が相次ぎ、多くの企業で失敗に終わっている。
「Web担当者Forum ミーティング 2023 春」では、WACUL代表取締役の垣内勇威氏が登壇。BtoBマーケティングの失敗要因と今すぐ使えるTIPSを解説し、実際のLPやメルマガの生添削も行った。
『BtoBマーケティングの定石 なぜ営業とマーケは衝突するのか?』(著者:垣内 勇威 出版:日本実業出版社)
BtoBマーケティングはなぜ失敗しやすい?
そもそも、BtoBマーケティングはなぜ失敗しやすいのか。垣内氏は「結論から言うと、“マーケティング”を営業に押し売りするからです」と語る。押し売りというと「顧客への押し売り」を連想する人も多いかもしれないが、第一の押し売りは「マーケから営業へ押し売り」だという。
マーケティングによるリード獲得
→営業「薄いアポを入れないでほしい」メルマガ配信
→営業「自分の顧客に余計なメールを送らないでほしい」SFAの導入
→営業「余計な仕事が増える」
たとえば上図のようなケースだ。マーケとしては頑張っているつもりでも、「営業担当にとってマーケティングは鬱陶しい」。マーケティングはこれを大前提として認識する必要がある。
マーケvs営業? 対立危険度チェックテスト
続いて垣内氏は、自身の経験を踏まえて作成した「対立危険度チェックテスト」を紹介した。全5問の合計点から、マーケティングと営業の対立度合いを測ることができる。
<第1問>マーケと営業の部署は異なるか? (単一選択)
- 同じ部署:0点
- 違う部署:+1点
- 違う会社:+2点
部署が違うと対立が起こりやすい。大企業で営業を別会社に分けている場合はより連携がしづらく、さらに危険度が高まる。
<第2問>マーケと営業が “リード” の質を議論する会議体の頻度はどのくらいか? (単一選択)
- 週1回:0点
- 月1回:+1点
- もっと少ない:+2点
マーケティングが送り込んだリードに対し、意見のすり合わせができる場が設けられているかどうか。
<第3問>インサイドセールス部門の役割は? (単一選択)
- 営業の期待を聞いて、商談を獲得する:0点
- 決まったルールで、商談を獲得する:+1点
- インサイドセールスは存在しない:+2点
電話でアポを取る、マーケティングオートメーションを駆使してスコアリングするなど、インサイドセールスに類する部署であればOK。
<第4問>マーケに営業の理解者はいるか? 以下の1つでもあれば「-1点」
- 直近営業に属していた人がいる(兼務もOK)
- マーケと営業が一緒に飲みに行く
- マーケがアポに同行する
<第5問>マーケ施策が出る前に営業が確認できるようになっているか? 以下の1つでもあれば「-1点」
- セミナー
- メルマガ
- 記事
以上5問の合計点が、-2~0点であれば安全。0~3点は要注意。4~6点は危険となる。
垣内氏は「-2点はなかなか出ない」とした上で、「そもそも営業とマーケの対立は自然の摂理だ」と語る。
マーケティング部門はリードの数を重視しているため、売り上げにつながらないような商談もとってくる。一方で営業は、限られた時間で成果を出すために、商談の質を重視する。つまり量と質の対立が起きているんです(垣内氏)
マーケと営業の連携を諦めるとどうなるのか?
では、「営業との連携は諦めて、マーケティングだけでやろう」とするとどうなるのか。
ここで問題となるのが、第2の押し売りである「顧客への押し売り」だ。マーケティング部署が単独で推し進めてしまいがちな施策の例として、以下のようなものがある。
Webサイトリニューアル
顧客は製品情報などのコンテンツを求めており、サイトデザインには興味がない。顧客によってはWebサイトよりも、PDFで情報を欲しいと思っている。記事サイト
記事をアップしても、基本的には「誰も読まない、誰も来ない」。SEOを頑張ってアクセスを集めたとしても、それが商談につながるかは疑わしい。MAツール
メルマガも基本的には読まれない。読まれないメルマガを送ること自体は悪ではないが、営業との連携が断たれている状態では、送りっぱなしになり次に繋がらない。
デジタルマーケは営業の押し売りよりもスルーされやすい
マーケティングだけで閉じた施策が失敗する理由のひとつに、デジタルマーケティングが非対面でありスルーされやすいという特性がある。
対面営業であれば一定時間、相手に話し放題の状態となる。押し売りする中で相手の興味を探り、売り込むことが可能だ。
一方でデジタルは、顧客がひとりで勝手に使う「セルフサービスチャネル」だ。押し売りできないのが大前提であり、ワンクリックで簡単に離脱されてしまう。デジタルマーケティングだけでは、ユーザーを説得し、態度変容させることは困難なのだ。
BtoBマーケティングにおいてはマーケと営業の連携が絶対に不可欠。Web担当だからといって営業から逃げるのは、『仕事をしていない』と言っても過言ではないと思います(垣内氏)
営業と連携するための「今すぐ使えるTIPS」
ではWeb担当者は、どのように営業と連携すればよいだろうか。垣内氏が推奨するのが、まずは営業に美味しいアポを渡す実績を作ること、つまり「Quick Win」を作ることだ。一度「Quick Win」を作ってしまえば、営業サイドで「Webから美味しいアポがくる」という認識が生まれ、マーケと営業の連携が円滑化するという。
とはいえ、BtoBとひとことで言っても、その実態はさまざまだ。ビジネスの方針によって、Quick Win施策も違ってくる。そこで垣内氏は、BtoBビジネスを以下の3つの軸でセグメントした。なおこのセグメントは、企業単位ではなく事業単位となっている。
- ターゲットの企業数
- 既存顧客リストの多寡
- 顧客の商品知識量の多寡
①ターゲット企業数が少ないビジネス
まず、ターゲット企業が100社以下の場合。たとえば車載部品メーカーでは、ターゲットとなる自動車メーカーの数がかなり限られている。このような場合は、営業がすでにターゲット企業に頻繁に通っている可能性が高いため、マーケで打てる施策は非常に少ない。
したがって、マーケは「営業のサポート」にフォーカスすべきだ。サポートといってもさまざまな方法があるが、Quick Winのためにまず行うべきなのは、「定期訪問やデリバリーが楽になるレポート作成、資料作成」だと垣内氏は述べる。
上図はWACULの営業が実際に使っているレポートだ。ポイントは、
- このレポートを持ってると売りやすい
- お客さんとのアポの口実が作れる
- デリバリー時にスムーズになる
と思ってもらえるような資料を作ること。WACULの場合は、「メールの配信解除率と配信頻度の相関」のレポートを作成した。メルマガ配信を渋る顧客に対して、営業がスムーズに行えるようになったという。
もう一つのQuick Win施策が、まだ見ぬキーマンの情報を取る社内ウェビナーだ。ターゲット企業が100社以下の場合、相手は大企業であることが多い。大企業には社内に複数のキーマンが散らばっており、営業は自分が担当する会社であれば、とにかく多くの人と会いたいと思っている。
そこで社内ウェビナーを開催すると、まだ見ぬキーマンの情報を得られる可能性は高まる。今であれば、生成AIのテーマに詳しい教授が登壇すると、高確率で多くの社員を集められるだろう。
②既存顧客リストが使えるビジネス
次に、ターゲット企業数が100社以上で、なおかつ多くの既存顧客リストを持っているケースを考える。この場合行うべきは、既存リストに対しメールを送る「既存顧客発掘」のアプローチだ。
このパターンでのQuick Win施策はシンプルで、「既存顧客リストにメールを送ってニーズを検知する」だけ。BtoBなど営業部署のあるビジネスにおいて、メールは非常に有効な媒体となる。目的は以下の2つだ。
純粋想起獲得
純粋想起とは、「SEOベンダーといえば○○社」のように、会社名やブランド名を思いつくこと。メルマガは送っておくだけで会社名が目に入るため、純粋想起の獲得が狙える。たとえ開封されなくても、送るだけで意味があるのだ。営業連携
メールの開封率は基本的に低いが、逆に言うと開封する人はそれだけ強い興味を持っているということ。HOTなリードを検知し、営業に渡せば成果につながりやすい。
メールは読んでもらうことが目的ではない。相手が読まないという前提に立てば、一気にメールが使えるようになります(垣内氏)
メールは質より量
メール配信で最も意識すべきポイントは、「配信頻度」だ。メールは送れば送るだけ、クリックとコンバージョンが積み上がっていく。WACULの研究レポートによると、どれだけたくさん送っても配信解除率は上がらないという。
一方でメルマガの中身については重要度が低く、
- タイトルと本文のファーストビューに関連性がある
- 脊髄反射的にクリックできるアクションボタンがある
この2点だけ抑えれば問題ない。メルマガでは、1通1通の制作は省力化しながら、とにかく頻度を増やすことが鉄則となる。
すぐに試せるメルマガ施策は、以下の要素で「アンケート回答のご依頼」を送ることだ。
- 件名:「アンケート回答のご依頼」
- タイトル:「アンケート回答のご依頼」
- ボタン:「回答する(3分)」
- ボタン遷移先:ニーズを把握するアンケート
このようなメルマガを1万通送ると、だいたい50件のアンケート回答が得られる。そのうち「興味がある」という回答者は約5件ほど。その質の高いリード情報を営業に渡せば、非常に喜ばれるだろう。
③新規リスト獲得が必要なビジネス
最後に、ターゲット企業数が100社以上で、なおかつ既存顧客リストをほとんど持っていないケース。この場合は、新規リストを獲得する必要がある。
前提として、デジタルマーケティングでは基本的に説得ができない。したがってリストの質を上げることではなく、リード情報を多く取得することにフォーカスする。ポイントは以下の3つだ。
- コンバージョン障壁を下げる
コンバージョン障壁とは、Webサイトの「お問い合わせ」などの文言のこと。オープンクエスチョン(例:お問い合わせ)よりも、クローズドクエスチョン(例:資料請求)の方が障壁が下がり、だいたい2~3倍コンバージョンが増えるという。ノウハウ資料やホワイトペーパーの提供であれば、さらにCVRが高い。
- フォームに直行させる
説得ができないという前提に立てば、さまざまなページを見てもらう必要はない。最速でフォームに直行させ、コンバージョンを狙った方がいい。
- 営業連携ルールを決める
もちろん、コンバージョン率を上げると薄いリードが多く集まるため、「営業連携ルール」を設ける必要がある。たとえばインサイドセールスを挟み、電話でリードの質を見極めてから営業につなげるようにするなど。
Webはセルフサービスチャネルなので、Webサイト上で全て説明してから問い合わせてもらう形にすると、本当に欲しいリードが帰ってしまう。なので、Webでは広く構えて数を取り、それぞれのリードを見極めて営業に渡すことが重要です(垣内氏)
ちなみに、WACULの研究レポートによると、縦長LPのコンバージョンレートはそれほど高くない。また、ファーストビュー完結に見えるページの方が、完結していないページより1.6倍ほどコンバージョン率が高いそうだ。
これらの知見を取り入れているのが、「AIアナリスト」のページだ。CV障壁を下げるような文言を用い、フォームはファーストビューに露出。また、FV完結に見えるようなコーディングをすることで、コンバージョン率を高めている。
垣内流! LPとメルマガの生添削
垣内氏は最後に、実際のLPとメルマガの生添削を実施した。添削対象は、Web担当者Forumの広告掲載のランディングページとメルマガだ。
ランディングページ添削例
まずランディングページについて、垣内氏は「Quick Winの方針から大きく外れている」と指摘。具体的には2点の改善ポイントを示した。
↓↓↓↓ 添削 ↓↓↓↓
- 「お問い合わせ」から「広告媒体資料ダウンロード」へ変更
「問い合わせ」はハードルが高い。よりCV障壁を下げる「資料ダウンロード」にメインの文言を変更。
- フォームをファーストビューに露出
フォームをファーストビューに露出し、すぐに掲載したい人向けのリンクも設置。読者層などの媒体情報はFVに必要なし。
メルマガ添削例
続いてメルマガの添削へ。こちらでもQuick WinのTIPSに則って、多くの改善ポイントが指摘された。
↓↓↓↓ 添削 ↓↓↓↓
- メール件名を短く。有料講座だと分かるように
件名が非常に長く、後半まで読まないと「有料」であることが分からない。「GA4有料講座のご案内(早割8,800円OFF)」という端的な件名に変更。
- リンクは脊髄反射的に押せるように
1番押してほしいリンクが下部に配置されている。件名で興味持った人が脊髄反射的にクリックできるように、ボタンをファーストビューに設置。タイトルを反復して該当箇所を示す。
垣内氏は添削を終え、「これだけでも確実に伸びると思うので、ぜひ試してください」と勧める。「今回のWeb担のように、私に添削してほしいという方がいらっしゃったら、ぜひお声掛けください。なかなか変わらない会社でも、私が刺しに行くと動くこともあるので」と笑顔で語り、講演を締めくくった。
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