検索流入率や標準値を知ってサイト制作の予算作成・改善につなげる方法
「サイトをつくったら何人の人が来てくれる?」「検索流入の割合は一般的に何%?」と疑問に思ったことはないだろうか。ウェブには「標準値」がある。標準値を知れば、「他のサイトと違って良くないところ」が見えてくる。1995年からサイトの分析・改善を続け、多数の企業ホームページを分析・指導する日本のアクセス解析・サイト運営の草分け的存在である株式会社ミルズの石井 研二氏。石井氏が「Web担当者Forum ミーティング 2023 春」に登壇し、ウェブの標準値、サイトの課題発見・改善の方法を紹介した。
サイトのアクセスはロングテール分布になる。下階層ページの閲覧が多い「粘っている」サイトを目指そう
「ホームページにどれだけアクセスがあるかは、つくってみなければ分からない」と言われることも多いだろう。だが、石井氏は「ぜったい的な決まりに従っている」と語る。下記の図を示し、ホームページのアクセス数はトップページが最も見られ、下階層になるほどアクセス数が少なくなる「ロングテール」分布になると石井氏。
上記の図は、48サイトの1番アクセスの多いページから100番目までページ別訪問数の低減曲線を描いた図だ。この48サイトは、広告による集客やSEO施策を積極的に行っていない。つまり、純粋なウェブのアクセスが取得できると考えたサイトをピックアップしている。48サイトはすべてがロングテール分布となっている。
この48サイトの「平均値」と「中央値」を比較すると、「平均値」のほうが「中央値」よりも若干上まわっている。ロングテールカーブが上の方を通っているホームページがあるからだ。同じロングテール分布でも、2番目のページの閲覧が極端に少ない「トップページしか見られていないサイト」がある一方、下階層のページの閲覧が比較的多い「粘っているサイト」がある。石井氏は、「この“粘り”の理由を考えるとき、サイト運営のあり方が変わってくる。多くのページがそれぞれ最適な顧客を多数集めるサイトは、中央値よりも上の曲線を描く。我々はこれを目指すべき」と語る。
本当は活躍してほしいページをどうするかが、ホームページを改善する数少ない方法
なぜサイトのアクセスは、必ずロングテール分布になるのだろうか。サイト構成はトップページからはじまるトーナメント構造で、上階層ページは下階層ページを束ねている存在だ。よって、上階層ほど等比級数的にアクセスされる確率が上がる。“本当にアクセスして欲しいページ”は、次の図で青に色付けされた上階層ページだろうか? 本当にアクセスしてほしいのは、緑色の矢印が指しているページではないだろうか。これらのページの閲覧数が増えれば、ロングテール曲線がなかなか下がらない「粘りのあるサイト」になれる。
なお、自社のホームページのロングテール曲線は、GA4などのアクセス解析ツールで100位までの閲覧数を調べ、Excelなどでグラフ化すると確認できる。もし、今アクセス数の多いトップ10のページしか見ていないのであれば、多くて当たり前のページを見ているに過ぎない。「11位以下に重要なページは紛れている。もっと見せたい・集客したいページが下位に甘んじている。それがホームページで効果がでない原因」と石井氏は言う。
たとえば、アクセス数の多いページから、見てほしいページへのリンクを魅力的にして『このページを見てみたいな』と思ってもらわないといけない。『詳しくはこちら』というリンクがあるだけでは、そのページのアクセスは一生上がらない。トップ10には入っていないが、本当は活躍してほしいページをどうするかが、ホームページを改善する数少ない方法です(石井氏)
「サイトに何人くるかやってみないと分からない」では予算は取れない。ウェブの「標準値」を知ろう
「ホームページをつくったら何人の人が訪れるのか、やってみないと分からない」と言われたことはないだろうか? 数字の見込みがたてられない状態では、企業はウェブにいくらの予算をかけるのが適切なのか分からず、予算を出せない。石井氏は「見込みが立てられなければ、ウェブは商売にならない」と語る。続いて、石井氏はウェブの標準値を解説していった。
「東京率」を見ていますか?
全国向けのウェブサイトの都道府県別アクセス数シェアは、日本の都道府県別の人口分布シェアに近づくと考えられる。ただ、会社の方針などで都道府県別シェアは変わる。「北海道にある会社のホームページは、北海道のシェアが1番になるはず。にもかかわらず、東京のシェアが一番多かったらうれしいですか?」と石井氏は問う。
先に紹介した48サイトのデータで東京率(ウェブサイトの都道府県別アクセスの東京が占める割合)を見てみよう。サイトの規模を以下の4つに分類し、規模別に東京率の最大値・最小値・中央値・平均値を示したのが次の図だ。
- 1万ページ以上
- 1千ページ以上
- 100ページ以上
- 100ページ未満
1万ページ以上・1千ページ以上のサイトの「東京率」の中央値は12%と、全国人口に占める東京の人口割合(「人口推計(2022年10月1日現在)」(総務省統計局))の11.2%に近くなっている。だが、それ未満の規模のサイトでは東京率が2倍近い、21~22%になることが分かった。小規模サイトにはローカルビジネスのサイトも含まれているが、東京率が高くなっている。「ぜひ自社のサイトを確認してください。来てほしい地域の人が来ている、これがウェブ運営の鉄則ですよ」と石井氏。
総ページビュー数を増やすには、まず「平均ページ数」を伸ばすことからはじめよう
続いては、アクセス数の基本計算式をおさらいしていこう。
- 総ページビュー数(GA4では「表示回数」) ÷ 総訪問数(GA4では「セッション」) = 平均ページ数
たとえば、100万ページビューのサイトで、50万の訪問がある場合、平均2ページしか見ていないことになる。石井氏は「総ページビュー数はあくまで結果論。『総訪問数』に『平均ページ数』を掛けたら『総ページビュー数』が算出される、と考えるほうが実際的」と語る。
- 総訪問数 × 平均ページ数 = 総ページビュー数
ウェブで成果を出していくには、「総訪問数」を増やすか、「平均ページ数」を伸ばすかしかない。「総訪問数」を増やすにはSEOやリスティング広告などコストが掛かる。「お金がかからないところから改善していかないと、うまくいかないですよ」と石井氏。まず、「平均ページ数」を伸ばす施策を行うのが、サイト改善の第一歩だ。
「トップページ比率」や「スマホ閲覧率」の割合は?
「トップページが見られる比率はどんどん下がっている」と石井氏。48サイトの調査では、大規模サイトほどトップページの閲覧率および集客率(トップページから流入した割合)は小さくなることが分かった。小さなサイトではトップページの閲覧率と集客率の割合が高く、トップ以外で集客できるページが少ない。
また、スマホの訪問者割合は、48サイトの調査では全体では55%であった。ページ数の少ないサイトはBtoBのサイトが多く、スマホの訪問割合は低くなる傾向があるという。いずれも自社のサイト規模、目的と照らし合わせて適正な数値か把握しよう。
集客施策は予算とゴール数の目標に応じて、チャネルのバランスを考えよう
検索からの訪問者はどのくらいなのか? リスティング広告未実施、SEOにも費用をかけていないサイトの調査では、サイトの規模にかかわらず、自然検索率は6〜7割であった。
集客を流入チャネルごとに紐解いてみよう。自然検索が6割、直接アクセスが2割、「その他」(他サイトや、メールからの流入など)が1.5〜2割を占めるとすれば、どのように集客施策を考えればよいか。石井氏は「予算とゴール数の目標に応じて、バランスを考えることが大事」と語る。
たとえば、現状のゴール数は月5件の問い合わせ、訪問数は月5,000、CVRは0.1%というサイトがあったとする。このゴール数(問い合わせ数)を50件にあげようとする。必要訪問数を月10,000とすると、CVRは0.5%が必要だと分かる。これを集客チャネルごとに割り振ってみたのが、下記の図だ。集客チャネルごとに、目標とする訪問数、ゴール数、CVRの見込みをつくることができる。この見込みを代理店や制作会社と相談して、バランスを考えてみるとよい。
上記のサイトの例では、自然検索ではCVRを0.82%増加させる必要がある。石井氏は、「自然検索で人を集めるといっても、問い合わせと関連のないページに、適当に人が入ってきているという状態では達成できない。問い合わせをしてくれそうなお客様だけ集めないといけないというのが、これをみると分かる」と語る。
バランスを考える例として、石井氏は月50件の問い合わせは難しいという場合、中間目標として必要訪問数を7,500で考えたプランを紹介した。
月50件のプランから「リスティング」を後回しにしたプランだ。たとえば、「リスティング広告」で2,500件の集客を獲得するにあたり、1クリックの単価が300円とすると、75万円が必要になる。75万円で、18件のゴール(問い合わせ)を獲得するので、1件あたりの獲得単価は41,667円だ。これが割に合うかどうか、バランスを考える必要がある。一旦、リスティング広告を後回しにし、サイトのゴールが増えた状態になってからリスティング広告を行う手もある。
制作費の見積りは、売上価値と照らし合わせて判断しよう
制作会社からの見積りは、成果の観点から妥当性を判断するのはなかなか難しい。仮に、制作会社からサイトリニューアルの制作費として、30ページを120万円で制作する見積りをもらったらどう判断すればよいだろうか。
高いと感じて値引きをする、前の会社と比較して相場だと思う、言葉の意味も分からないし現場に任せておこうと思う、高い項目を削ろうとする……。石井氏は「この考え方はいずれも損をする」と語る。「ホームページは儲かるようにつくりましょう」と、石井氏は見積りの判断ポイントを解説していった。
ホームページから新規契約できたときの売上を考えてみよう。たとえば、ホームページから平均単価100万円の契約が月1件取れたら、年間売上は1,200万円になる。サイト制作費が120万円であれば、2ヶ月で売上200万円となり、すぐに元が取れてお釣りがくる。新規契約を毎月1件取るための営業成約率が10%としたら、問い合わせは10件必要となる。問い合わせ率1%とすれば、訪問数1,000人という数字が出てくる。制作会社から提案されたプランは、月に1,000人集められるか、問い合わせ率は1%あるかで判断していくのがよい。
問い合わせが10件で、月売上が100万円なので、問い合わせ1件あたりは10万円の売上価値があると言える。石井氏は「この売上価値を考えることによって、ようやく企業側が分かる利益の言葉に換算することができる。採用や、ブランディングでも同様に計算する方法があります。みなさん、お金勘定で考えるようにしてください」と語る。
損益分岐点がどこになるかを考え、予算を考えよう
「利益がでるなら、120万と言わず、250万円を支払ってもいいかもしれません」と石井氏は次の図を示した。
250万円で制作し、月10万円の保守費を支払う場合、年間累計370万円のコストが掛かる。しかし、見るべきは売上だ。当初の計画では毎月1件の契約で100万円の売上のはずが、2ヶ月に1件の契約獲得となり、月あたり50万円の売上が続くとする。その場合、8ヶ月目で支出と売上の累計が同額となり、損益分岐点となる。「損益分岐点がどこになるかを睨んで、ウェブの予算を考えましょう」と石井氏。
「問い合わせ」数の改善は、フォームの前と後に分けてどちらに原因があるか調べよう
問い合わせ(ゴール)が少ない場合、多くの場合、フォームを疑うが、フォーム完了率は5〜10%が多い。「これだけ数字があったら合格! フォームを触ったらぜったいダメです!」と石井氏。問題は、フォームへの誘導力が足りないことである場合が多い。フォームの前と後ろに分け、どちらが悪いのかを特定し、悪い方を改善しよう。
図のようにCVRの計算式「フォーム完了率÷総訪問数」を変形し、「フォーム完了率×フォーム到達率」でCVRが導きだせる。この計算式を使って、フォームに到達する前と後を分別し、どちらが原因でCVRが低くなっているのか調べ、数字の悪い方を改善しよう。
「ホームページに何人が訪れるか」のプランを制作会社と一緒に確認しよう
ウェブの標準値を紹介してきたが、結局ホームページをつくったら何人が訪れるのか? 上記の事例だと、「月間1,000人の訪問」と、「1%のCVR」を目標とするなら、あとはそれをどう達成するかだ。前述の48サイトの調査で、1ページあたりの集客数は概ね決まっていると石井氏。100ページ未満の規模のサイトの1ページあたりの集客数は、14.2人だ。つまり、30ページを制作する提案ならば30ページ×14.2人/ページで、426人は何もしなくても集客できる期待値がある。ただ、集客目標は1,000人なので、到底足りていない。制作会社からは30ページで提案をもらっているので、1,000人を集めるためには、1ページあたり33人が集客できるプランを提案しているはずだ。
石井氏は「これは制作会社を詰めるためのものではないですよ。提案内容について、お互いにどんなことを考えていたのかを確認する土壌をつくりましょう」と語った。30ページで1,000人を集めることを想定し、各ページの集客数を積算したのが次の図だ。これを実際と比較し、集客できていないページの手直し・調整を行うことができる。
「サイト構成図上に数字をおいて、どんなことが見えるか確認してみてください」と石井氏。たとえば、採用に関心のある人が訪れていないのでエントリーしなさそうや、製品関係のページでは事例や技術情報の閲覧は多いが、そこから製品の特長や仕様ページを見てくれたらお問い合わせにつながりそう! など。
企業側(発注側)であれば、無茶ぶりを考えてください。もっと人を集めてほしいページはどれか。それを制作会社さんにぶつけてください。数字を描くことは誰でもできます。そのページに人を集めるために行うのが、SEOやリスティング広告です。サイトに適当に集客するのではなく、『このページたち』が人を集めてくれないと困る! ということをやってください(石井氏)
売上から逆算でウェブサイトを計画する流れをつくり、成果を高めていこう
訪問者をサイト認知から製品認知、お問い合わせ到達、お問い合わせ完了へと押し上げるのがマーケティングの仕事だ。このフェーズごとの数値を、四半期ごとに取ることを石井氏はすすめる(月次では季節変動などで数字のブレがあるため)。四半期であれば、その変化を「確からしく」確認することができるという。
石井氏は、改めて「売上から逆算でウェブサイトを計画する流れをつくろう。数字で示せば、間違った方向に行くことなく、ホームページの成果を高めていくことができる」と語った。最後に、ホームページの数字を把握・分析できる、ミルズの「サイトグラスレポート」を紹介した。GA4からデータを抽出・分析し、レポートしてくれるサービスだ。興味のある方は検討してみてはいかがだろうか。
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