噛み合わない議論から抜け出す! ダッシュボード+ストーリーの技術で溝を越える方法
ウェブ担当者:聞いてくださいよ、私、目標を達成してるのに、ボスが全然ほめてくれないんですよ。「実際の成約につながっていない」と言われて。そんなの知らないですよ……。ほら(といってレポートを見せる)。
寳:ここ、コンバージョンというのは、広告媒体のコンバージョンですか?
ウェブ担当者:そうですよ。でもボスは違うものを見ていて、いろいろ理由を言われて。めちゃめちゃがんばったのに……。私、なにか間違ってますか?
寳:なるほど。わかりました。今日は「ダッシュボード」について話しましょう。
ビジネスの現場は溝だらけ
経営者と現場の担当者、事業会社と代理店、営業とマーケティング……。仕事に携わっていれば、至るところに“溝”があることに気づくでしょう。溝のこちら側と向こう側の意見は決して交わらず、物事がなかなか先に進まなかったり、声の大きい側の声が通されもう片側が不本意ながら従っていたりする、といったことが頻繁に起こります。
ある事業会社(A社とします)と、そのリスティング広告運用を行っている代理店のエピソードをご紹介しましょう。その代理店ではA社に対し、毎月の報告レポートを丸3日かけてPDF50枚もの資料として作成し、定例ミーティングで報告をしていたのだそうです。一方、A社はというと、社内の会議でA社のWebマーケティング担当者がリスティング広告に触れるパートは月に5分に満たないものだとのこと。このことがわかってから、代理店の担当者とA社の担当者とは話し合い、レポートの不要な個所を大胆にカットすることにしました。
現在では、両社ともが過去のレポートが無駄だったことを認めています。そして捻出した時間を新しい打ち手を考えるディスカッションに活用しています。
あなたの周囲でも近いことは起きていませんか?
もしかすると、もし無駄があったり理不尽さを感じたりしても「そういうものだ」と諦めてしまっているかもしれません。しかし、諦めてしまう前に、この溝がどうして起きるかをいっしょに考えてみましょう。
【原因 その1】視点の違い
対立する両者のあいだに溝があるとき「視点」が違っていることがほとんどです。視点とは「物事を見る立場」のことです。
広告の成果を報告しているとき、ボスや上司から「よくわからない」という表情をされたことはありませんか?
リスティング広告は、ユーザーが検索した検索語句をはじめ、ディスプレイ広告が表示されたプレースメント、曜日時間帯、地域、デバイス、直接効果、さらには間接効果に至るまで、細部のデータを見られます。リスティング広告の担当者にとっては、それらのデータはヒントを得て次の施策につなげられるために重要です。報告していれば、おのずと出てくるトピックでしょう。
その報告を聞いているボスや上司は、多くの場合、担当者とは異なる視点で広告を捉えています。事業を継続・発展するために利益を増やそうと考えており、リスティング広告はその手段の1つとなっています。投資した広告費を活用していくらのリターンを得られたか、また、今後得られるかを気にしている。
そのため、担当者がいくらのリターンを得られるかという文脈を離れて細部のデータの話におよぶとき、自分のもっとも重要な関心事からズレるために、ついていけずに「よくわからない」となってしまうのだと考えられます。これは、とてもありがちです。
念のために言っておきますが、データからヒントを得て次の施策に活かそうとする姿勢は、マーケティングではきわめて重要です。どんなときでも目の前のリターンしか見えなくなってしまわないように、気を付けたいものです。
【原因 その2】言葉の定義のズレ
視点に加えて、「話している言葉の定義」がズレてしまっていることも多くあります。たとえば、リスティング広告にとって最重要である「コンバージョン」という言葉の定義さえも話す人間によって意味合いが変わってしまっていることがしばしばです。
「リスティング広告のコンバージョン」「Googleアナリティクスの目標」「ビジネスにおける実際の成約」。それらはすべて異なっているにもかかわらず、違うものを見て同じ「コンバージョン」という言葉を使ってしまっているのです。
近年、複数のリスティング広告媒体のコンバージョンを足し上げる限界が見えつつあります。
- 広告媒体間でのコンバージョンの定義が違う。
- マイクロコンバージョンが一般的に使われてきている。
- アトリビューションのコンバージョン。
Google、Yahoo!、Facebookなど、広告媒体はそれぞれの設計思想に基づいて定義されたコンバージョンを採用しています。それぞれのコンバージョンは揃わないので、足し上げて全体を示すことに無理があります。
また、機械学習を機能させるために一定のコンバージョンの量が必要であることから、実際のコンバージョンよりも前のページにマイクロコンバージョンとして母数を増やし、入札を自動化する方法が使われるようになってきたことや、ラストクリック以外の接点を評価するアトリビューションモデルによるコンバージョンを表現するためにコンバージョンに小数点がつくようになっていることも、広告媒体のコンバージョンをそのままビジネスの評価とするのを難しくさせている理由です。
視点の違い、そして言葉の定義のズレを解消しないことには、冒頭で担当者がボスとのやりとりで感じたようなすれ違いはずっと続くことになるでしょう。
では、どうすればよいのでしょうか?
この問題について、解決のきっかけになるのが、近年注目を浴びている「ダッシュボード」であると筆者は考えています。
「ダッシュボード」とは?
「ダッシュボード」は、企業のビジネスがうまくいっているのかどうかを、すばやく把握し判断できるように、リアルタイムでデータを視覚化したものです。
自動車の運転席の正面部分にはさまざまな計器類がついていて、車の速度やガソリンの残量などがひと目でわかるようになっていますよね。運転する人はそれらを見ながら、随時現状を把握し、速度を落としたり、ガソリンを補給するためにガソリンスタンドに向かったりすることを決めるわけです。
ビジネスにおけるダッシュボードも、同じようなものだと考えてください。「月の半ばで、『今月は○円売上を増やす必要がある』といったことを即時把握し、広告を強化する、メルマガを送る」といった判断を行えるようにするため、重要な指標をわかりやすいようまとめて表示したもの、それがダッシュボードです。
このダッシュボードは、Googleが提供するデータポータルで作られたサンプルです。データポータルはダッシュボードを作るツールとして無料で使えます。
Googleアナリティクスやサーチコンソールは、ダッシュボードの代表例ですが、以下の特長を持っています。
- さまざまなデータソースに接続してデータをまとめて表示できる
- 表やグラフなどを直感的に作って手軽に視覚化できる
- 作ったダッシュボードの共有が簡単にできる
- 誰でも始めやすい。
テンプレートのギャラリーも充実していて、他の人がどのようにまとめているのか参考にすることもできます。ぜひ触ってみるとよいでしょう。
ダッシュボードは「KGI」と「KPI」から考える
「グラフとかいっぱい使ってきれいなものを作るのが楽しそう!」と思う人がいるかもしれません。反対に、同じ理由で自分にはセンスがないから大変そう……と思う人も少なくないでしょう。
ダッシュボードに関する話をしていると、「きれいに作るにはどうすればいいのだろう?」と、見た目の話になることが結構あります。もちろん、見た目がよいのは望ましいことなのですが、その前に、何の情報を載せると、ダッシュボードとして機能するのか?がもっと重要です。
「KGI」と「KPI」というキーワードがあります。
「KGI」はKey Goal Indicator、日本語では「重要目標達成指標」と訳されますが、KGIのまま使うことのほうが多いかもしれません。一言で言えば、事業のゴールを数値化したもの。「何をもって成功とするか?」を決める指標とも言えます。もっとも一般的なKGIは「売上」です。あなたの勤める会社でも、年初に全員が集まるような会議で、年間売上目標の数値が発表されるのではないでしょうか? それがKGIです。
「KPI」はKey Perfomancel Indicator、日本語では「重要業績評価指標」と訳されますが、こちらもKPIのまま使うことが多いです。噛み砕いていうと「目標達成のために注力するべき指標」になりますが、もうすこし具体的に考えてみます。たとえばKGIを「売上」とします。その売上を達成するためには?と考えたとき、売上がどんな要素で構成されているかを分解します。中学校で学ぶ因数分解のようなものです。これは、以下の関係で表せます。
売上を上げるには「訪問数」「コンバージョン率」「購入単価」のいずれか、あるいはすべての指標が重要です。これらの指標を「KPI」と定めて、売上目標を達成するための評価として注視していきます。
ダッシュボードでは、これらKGIおよびKPIの動きが表現されており、誰が見てもわかるようになっていることが重要なのです。この前提が抜けると、見た目は美しいけれども見るに耐えないダッシュボードになってしまうので、注意が必要です。
KGIとKPIでは、KPIのほうをよく耳にする方が多いかもしれません。ただ、その上にはKGIがあるはずです。視点の違いを乗り越えるために、ボスや上司とKPIの話題が出てきたときには、併せてKGIについても確認するとよいでしょう。そして、それらKGIとKPIの「動き」を反映させることを意識してデータポータルなどのダッシュボードツールに触れてみてください。
ストーリーが溝を埋める
2017~2018年にかけて、ダッシュボードを作る支援に関わる機会が何度かありました。そして、実際ダッシュボードを作ってみて、作ったダッシュボードを機能させるには、もう1つ重要な要素があることに気づきました。その要素とは「ストーリー」です。
「ストーリー」とは、一般には映画や小説における物語の筋のことです。もちろん私たちは映画や小説ではなく、ビジネスについて考えています。しかしストーリーのことに関して言えば、映画に関わる人々の考え方は、非常に大きなヒントになります。
たとえば、アメリカの著名な脚本家のシド・フィールドは、「映画のストーリーは“三幕構成”で成り立っている」と書いています。これをビジネスの文脈に置き換えたとき、どうなるかを以下の表にまとめました。ビジネスの現場はハリウッド映画ほど波乱万丈ではないかもしれませんが、構造として考えると共通点ばかりです。
前述したように、経営者から現場の担当者、パートナーまで、視点の異なるメンバーはだいたいいつもバラバラで、全然違うことを考えています。ダッシュボードを作っただけで視点や言葉の定義がぴったり合うようになる、と甘く考えないほうがよいでしょう。
だからこそ、ダッシュボードを作った上で、自社のビジネスの進捗を「ストーリー」として語ることにより、共通の理解を持ってプロジェクトを前に進める必要があるのです。
ストーリーを共有するための5つのテクニック
では、どのように語るべきなのか? プロジェクトに参加するとき、その物語はすでに始まっており、途中から巻き込まれる状態で入っていくことが多いのではないでしょうか。とするならば、壮大な設計をすることよりも「小さなトーク」を重ねていくことから始めるのが現実的だと思います。
ダッシュボードを見ながらミーティングをするとき、こんな話題を振ることでストーリーとして共有しやすくなる、そんなテクニックを5つ紹介します。
- (1)前回までのあらすじ
- (2)今どこにいるか? 予定どおり?
- (3)障害は何? 対処法は?
- (4)味方は誰? 増やす方法は?
- (5)次回予告
1.前回までのあらすじ
この1と続く2は、三幕構成でいうところの第一幕、状況設定のパートと言えます。ダッシュボードを見る前に、前回までの話し合いで見えてきたことのサマリを簡潔に述べます。
「何が問題だったのか」「何を解決しようとしているか」。メンバーが話し合いのテーマを思い出せて、認識が揃っていきます。前回結論が出ている議論を繰り返しするような時間のムダを減らせるはずです。
2.今どこにいるか? 予定どおり?
ダッシュボードを見て、予定どおりゴールに向かっているか、進捗の度合いを事実として確認します。週ごと、月ごと、四半期ごと、半期ごとなど、話し合いの頻度によって対象期間も異なりますが、前期や前年との比較ができるようになっていれば、順調かそうでないか、評価しやすくなります。
3.障害は何? 対処法は?
2で確認できた現在地点をふまえ、ゴールに進むための障害が何かをあきらかにします。
この3と続く4が三幕構成というところの第二幕、対立・葛藤のパートにあたります。競合の存在はもちろん、地震や台風などの天災や、社会状況の急激な変化なども障害になります。
ミーティングの場では、どうすればその障害を乗り越えることができるかについて話し合います。乗り越えるのにかかる時間、乗り越えたときにできるインパクトを加味して、タスクの優先順位を決めていくのがよいでしょう。
4.味方は誰? 増やす方法は?
2で確認できた現在地点をふまえ、何がゴールに進むための追い風になっているのかをあきらかにします。
たとえば、ソーシャルメディアで自社のサービスについてポジティブに話してくれる人は、まさに味方と言ってよいでしょう。人にかぎらず、効果が非常に高い広告の切り口などを擬人化してもかまいません。
映画でもマンガでも、主人公の味方になってくれる心強い存在がいますよね。ちょうどあのイメージです。そういう味方をどうやって増やしていけるかを考えます。
5.次回予告
1と併せてよく知っているよ、という人は、テレビドラマをよく観ている方かもしれません。実はあれと同じ手法です。
テレビドラマでは、前回までのあらすじと次回予告を繰り返すことで、視聴者にストーリーを強く印象付けているのです。ミーティングを終える際に、おもに3、4で出てきたアクションアイテムのうち、次回までに何を行って、何を話し合うのかを簡潔に述べます。
これによりミーティングが終わるともに、次回につながることが全員に共有されます。ストーリーとしてのつながりが保たれることが重要です。三幕構成における解決のパートです。映画のようにうまく解決はできはしなくても、前には進むはずです。
難しくないですよね? プロジェクトに“継続的に”携わる意志のある人間になら誰にでもできます。ぜひ、あなたからこんな話題をふることを始めてみてください。作ったダッシュボードをストーリーとセットで使うのが、溝を越える近道です。
ミーティングのときにストーリーを意識できると、自社に降りかかっている困難などの障害や自社の味方についても、冷静に見つめることができます。同時に、自社のゴールを目指して成長していく道筋をイメージできるようになるはずです。
主催:CSS Nite
この記事を執筆している寳洋平氏が、新しいリスティング広告の作り方を学びたい人向けに、Google広告の新フォーマット『レスポンシブ検索広告』を解説するワークショップを、3月27日(水)に銀座で開催します。
「レスポンシブ化した」広告はこれまでの広告とどう違っていて、何に気を付けるべきなのか、どう作っていくのがよいのか? グループワークを通じて、新しい広告の作り方を身に付けられます。
詳細・お申し込みはこちらから↓↓↓↓
ソーシャルもやってます!