効果があるのはリタゲ広告だけって、それホント? 「嫌われるより好かれる」ディスプレイ広告活用術
ウェブ担当者:こないだ社内の会議でボスに、「あのウザい広告、何とかならないの?」って言われました……。効果は出てるし、除外とかもいろいろやってるんですけど……。自分がウザいって言われてるみたいで凹みます。
寳:まあまあ、元気出してくださいな。ところで、ディスプレイ広告の種類って、リターゲティング広告だけだと思っていませんか?
ウェブ担当者:前に他の広告もやったことありますけど、結局パフォーマンスが良いのってリターゲティング広告になりますし……。
寳:そうですね。じゃあ今日は、ユーザー心理や区分を踏まえつつ、リターゲティング広告も含めたディスプレイ広告全般について、考えてみましょう。
記事の最後では、ディスプレイ広告の運用に役立つ「プランニングシート」も紹介しますね。
リターゲティング広告は目の前の成果を増やすのに効果的
「リスティング広告でディスプレイ広告を使う」と言ったとき、多くの方はまず、リターゲティング広告を思い浮かべるのではないでしょうか。リターゲティング広告は、文字どおり「一度サイトを訪問したユーザーに再訪問を促すために使われる広告」です。
簡単に説明すると、前に見たことのある(アクセスしたことのある)サイトの製品・サービスに関する広告を表示する仕組みです。ある製品を調べた後にニュースサイトを見ていたら、「さっき見ていた製品の広告が表示されていた」という経験はないでしょうか。
リターゲティング広告は、2010年の開始以降、広く普及しました。最近は、「ディスプレイ広告はリターゲティングしか使ったことがない」という広告主の話を聞く機会もあります。それほどまでに、日本では現在、リターゲティング広告偏重になっています。表示される広告を見て、ユーザーとして「またこの広告か、正直ウザいな……」と感じた経験をお持ちの方もいるかもしれません。
では、なぜこんなにリターゲティング広告が使われるのでしょうか? それは端的に言って、効率よくコンバージョンを増やしやすいからだと考えられます。多くの企業のマーケティングの現場では、「目の前の成果=コンバージョン」が最優先されています。限られた予算で目の前の成果を最優先するとき、「コンバージョンにつながる見込みが高いユーザーに、広告を見せられる」という意味では、リターゲティング広告が強力な打ち手であることに疑いはありません。
リターゲティング広告は、耐え難いノイズにもなる諸刃の剣
しかし、実はディスプレイ広告をリターゲティングでしか使わないことは、危険をはらんでいます。冒頭に記した「ウザいな……」という感覚を思い出してください。もう必要ない製品の広告が、スマホと自宅のPCで何度も表示されると、ウザいと感じることがあるのではないでしょうか。
たとえば、コンバージョン率3%のリターゲティング広告があるとしましょう。効率としては優れていると仮定します。この広告のコンバージョン率は3%ですから、広告をクリックした100人中の3人が製品を買ったり、会員登録をしたりしますが、同時に想像してみてください。
コンバージョンしなかった97人は広告を見てどう感じたのか?
広告を見たけどクリックしなかった人のうち、何人が「ウザいな」と感じたのか?
この視点で考えると、非常に強力に見えるリターゲティング広告は「諸刃の剣」であることがわかるはずです。つまり、リターゲティング広告は、あるユーザーにとっては非常に有益な情報となる一方で、他のユーザーにとっては耐え難いノイズになりえるのです。目の前の成果を最優先するあまり、最悪な場合、自社ブランドの毀損につながることさえ考えられます。
リターゲティング広告の成果が上がりやすいのは事実ですが、リターゲティング広告に依存し過ぎない使い方を考える必要があるでしょう。
ディスプレイ広告はどんな「顧客接点=扉」になりえるか
では、リターゲティング以外にどんなディスプレイ広告をどのように使えばいいのでしょうか。
ディスプレイ広告は、リターゲティング広告以外でも有望な顧客接点として活用できます。図1は、顧客が製品・サービスを初めて知ってから、末永く愛用するようになるまでの旅のプロセスをシンプルにモデル化したものです。購入以前を「ユーザー」、購入以後を「顧客」としています。
図の中にいくつか見える「扉」が、「顧客との接点」です。ディスプレイ広告は大きく分けて、次の3つの「顧客接点=扉」の役割になると考えられます。
知る前/考える前の扉
1. 新規の「ユーザー」に向けたディスプレイ広告
新しいユーザーを顧客にすることは、どんなビジネスであっても常に重要です。ここでのターゲットは、「将来顧客になるかもしれないが、まだ製品・サービスを知らない」あるいは「知っていてもまともには検討していない段階」のユーザーです。
年齢や性別、興味関心など、将来の顧客として「有望」だと考えられるユーザーに対して、まず知ってもらい、検討してもらうためのディスプレイ広告を見せることができます。図1に記している「年齢/性別」「興味関心」などのターゲティングは、広告媒体によって呼称や定義が異なりますが、GoogleとYahoo!の両ディスプレイ広告から、DSP、ソーシャルネットワーク広告まで、おおむね同様のターゲティング広告メニューが存在しています。
ユーザーに製品・サービスを知ってもらう、また検討してもらうという意味では、次のような指標が重要視されることがあります。
- 掛けた予算で得られた新規ユーザーの訪問数
- コンバージョン以前に広告がどれだけ見られていたか
- 見てほしい特定ページへの到達度
- 動画の再生数
- ボタンのクリック数
決める前の扉
2. リターゲティングのディスプレイ広告
いわゆるリターゲティング広告の役割です。ターゲットはサイトに訪問して製品・サービスを検討している段階のユーザーで、購入してもらうためのディスプレイ広告を見せることができます。
ページの階層に基づいた検討の深度、閲覧した個別の製品、「○ページ以上見た」などの特定のシグナルのほか、コンバージョンしそうなユーザーを機械学習で自動的にターゲットする手法などが出てきています。ここではほとんどの場合、「掛けた予算に対して得られた購入=コンバージョン」が重要指標になります。
愛用する前の扉
3. 既存の「顧客」に向けたディスプレイ広告
ここでのターゲットは既存顧客です。CRMデータを活用しながら、より好きになってもらい、繰り返し利用してもらうためにディスプレイ広告を見せます。この広告を行うには、CRMデータを広告に活用可能にするための開発が必要です。
たとえば、一定期間内の「○回以上の購入」「○円以上の購入」など、ユーザーの「愛用」に値する行動を定義したうえで、一歩手前のユーザーを引き上げることが考えられます。ここでは、掛けた予算で得られた「愛用」の数が重要指標になります。
顧客接点ごとの役割が違えば、広告の評価方法も変わる
こうして見ていくと、あらためてディスプレイ広告がリターゲティング偏重になりやすい背景が浮かび上がってきます。それは「接点ごとにユーザーの状況が異なるのに、『かけた予算で得られたコンバージョン』という、同じ指標でしか広告を評価・判断していないから」ではないでしょうか。
「なんだかんだ言ってリターゲティング広告は効率が良いから使う」のではなく「接点にはそれぞれ役割がある」と考えるほうが、コミュニケーションの考え方としては自然です。「すでに検討を進めているユーザーをコンバージョンに導く扉」と「これから検討してくれるユーザーを増やすための扉」のどちらも必要なのです。
「リターゲティングでの指標と、新規ユーザー向け・既存顧客向けディスプレイ広告の指標は分けること」を、強く心に留めておいてください。そうすれば、上司、代理店、コンサルタントなどと広告の予算や目標、指標の話をするとき、有効な議論を進められるはずです。
シートを活用して広告のプランニングをしよう
実際にディスプレイ広告の出稿を考える段階では、さまざま要素の検討が必要です。筆者のおすすめは「プランニングのためのシート」を関係者全員で作り、一目でわかるようにすることです。図2を参考に、まず白紙状態のプランニングシートを作ってください。
このシートは5W1H(Why、When、Where、Who、What、How)をベースにしながら、ディスプレイ広告の運用プランを立てるとき、さらに考えるべき要素を付け加えたものです。
まずシートの上部に、どんなビジネスの現場でも必ず考慮されるだろう、「タイトル」「施策目的とKPI」「予算」を記入します。
次に、「誰に」「何を提供するか」を記入します。この2つは、マーケティングを考えるうえで重要なポイントを、最大限シンプルに表す項目だと言えるでしょう。真ん中のブロック「ターゲティングと文脈」が「誰に」にあたります。
現代のマーケティングでは、「誰に」というターゲットの部分に「文脈を読む」要素が加わると考えられます。同じ人間でも、その製品・サービスを知る前なのか、買う直前なのかによって気持ちは大きく異なります。同様に、平日の忙しい朝の情報収集なのか、日曜の夜にじっくり閲覧できるタイミングなのか、どのようなメディアを閲覧・利用しているかによっても違うと考えられます。
「文脈を読む」とは、このように「ターゲットとなるユーザーのTPO(時・場所・場合)に応じた気持ちを推し量る」ことです。これらを記入することで、一番下のブロックに記入する内容が定まってきます。
一番下のブロックの「メッセージ」が「何を提供するか」にあたります。真ん中のブロックで書き出したターゲットの文脈に合わせて、何をどのように伝えるかを記入します。企業にとって広告出稿の最終的なゴールは収益を上げることですが、ユーザーにとってのゴールは製品・サービスを通して課題を解決することです。製品・サービスを提供することで、ターゲットユーザーにどうなってほしいかを考えると、何をどのように伝えるかというメッセージがより明確になります。
最後もう1つ、右下に「計測」があります。ディスプレイ広告を代表とするデジタルマーケティング施策は計測可能ですが、計測するためには準備が必要です。施策の効果を評価して次につなげるために、何のツールを使ってどの指標を評価するか、プランニングの段階で決めておきましょう。しっかり考え、あらかじめ関係者全員で共有しておくと、評価の際に無駄な労力を使わなくて済むのでおすすめです。
実際に「男性向けの冷えとり靴下を使ってもらう」という架空の例で、プランニングシートを埋めてみました。ぜひ参考にしてください。
プランニングシートを作成・共有することで、関係者の行き違い、抜け漏れを防げますし、成果につながってくるはずです。自社の製品・サービスのプランニングに活かしてみてください。
ユーザーを身近に感じるための「小さな努力」を続けよう
今回の記事では、
- ウザいと思われがちなリターゲティングは、諸刃の剣である
- ディスプレイ広告は、リターゲティング広告以外にも有望な顧客接点になる
- 実際の広告プランニングには、プランニングシートを使うのが有効
という話をしてきました。ディスプレイ広告に限らず、マーケティングにより成果を上げるためには、「ユーザーの気持ちを文脈まで含めて理解し、ふさわしいメッセージを届ける必要がある」ということです。
では、どうやって「ユーザーの気持ち」を理解すればいいのでしょうか。担当している製品・サービスのターゲットユーザーが自分自身に近ければ、その気持ちになってみる、というのは比較的容易でしょう。でもターゲットユーザーが自分自身と大きくかけ離れていたり、自分の好みと合わなかったりすると、買う人の気持ちがわからないこともありえます。
そんなときは、身近にユーザーを感じられるように「小さな努力」をしてみてください。小さな努力というのは、根を詰めて何時間も勉強するような特別なことではない、という意味です。
具体的には、「ターゲットユーザーから直接話を聞く」「SNS上の発言を読む」「本や雑誌、テレビドラマ、ファッション、遊びなどに触れるようにする」といったことです。ターゲットユーザーそのものでなくとも、「周囲にいるユーザーに近い人間と、食事やカフェに行って、おしゃべりする」のもとても効果的です。何もしていないよりもずっと、ユーザーの気持ちを想像できるようになります。
「小さな努力」を一度切りでなく継続的に、自分自身のなかにユーザーを育てるつもりで実践していくと、ユーザーの気持ちがグッと身近になり、的確な施策を打てる確率が上がっていくはずです。
主催:CSS Nite
この記事を執筆している寳洋平氏が、新しいリスティング広告の作り方を学びたい人向けに、Google広告の新フォーマット『レスポンシブ検索広告』を解説するワークショップを、3月27日(水)に銀座で開催します。
「レスポンシブ化した」広告はこれまでの広告とどう違っていて、何に気を付けるべきなのか、どう作っていくのがよいのか? グループワークを通じて、新しい広告の作り方を身に付けられます。
詳細・お申し込みはこちらから↓↓↓↓
ソーシャルもやってます!