コンバージョン率を最適化する「CRO」という概念と、すぐに役立つ3つのCRO秘策
コンバージョン率の向上で最重要なのは、CRO(Conversion Rate Optimization)だ。しかし、Web担当者でこれをきちんと理解して実践している人は、あまり多くないのではないか。また、小手先のテクニックに陥っていないだろうか。顧客を知り、仮説を立て、効果的に改善を進めるための基本フローと、具体的な「フォーム」「反応装置」「導線」の改善テクニックを紹介する。
「Web担当者Forum ミーティング 2016 春」では、株式会社ミスターフュージョンの石嶋洋平氏による「コンバージョン率最適化 CROのための3つの秘策」と題したプレゼンテーションが行われた。
CROとは小手先のテクニックではない
Webサイトやリスティング広告の運用でいちばん重要なのは「どれだけコンバージョンさせるか」であり、CRO(Conversion Rate Optimization)とは、コンバージョン率を改善、最適化するためのさまざまな施策や取り組みのことを指す言葉だ。
石嶋氏は、発信側に立つ人は「コンバージョンさせるためにホームページを作っている」という認識を共有してほしいという思いから、CROを普及する取り組みを始めたという。
では、具体的にコンバージョン率の最適化とはどのような作業なのだろうか。
石嶋氏は次のように言う。
ただコンバージョン率を上げるだけなら簡単です
たとえばリスティング広告の場合、効果のないキーワードを全部削除し無駄を省いていけば数パーセントはすぐに上がります
もちろんCROとは、このような小手先のテクニックだけではない。
よくありがちな罠として石嶋氏は、手がけた中古車買い取りサイトの例を挙げる。
一般的にエントリーフォームでは項目数を減らすことでコンバージョン率が上がると言われている。もちろん成功例も多いのだが、このサイトでは減らしたことによって逆にコンバージョン率が落ちてしまったという。
その理由は、とにかく連絡先だけを取得しようと、ユーザーが売ろうとしている車種や年式を入力するフォームを削除してしまったことにあった。
ユーザーは買取業者に電話する前に、まず自分の車の買取価格を知りたい。にもかかわらず、車種や年式を取得しなかったばかりに、その期待に応えられなくなってしまった。
このことから石嶋氏は次のように強調する。
どんな施策も主観で決めるのではなく、お客様の声を集め仮説を立てて検証することが重要だ
A/Bテストを実施する場合も同様だ。欲張ってあれもこれもやるのではなく、きちんと仮説を立て1つか2つの要素に絞ってテストするか、もしくは全然違うパターンでテストしないと効果が測定できないという。
CROを実施するための基本的なフローは仮説→テスト→解析
石嶋氏は次に、CROを実施する際の基本的なフローを示した。
重要なのは仮説を立てる際に定量調査だけではなく定性調査も行う点だ。
定量調査とはPV数、UU数、CV率、直帰率などGoogle アナリティクスなどのツールを使って数値を測定する調査のこと。しかし、石嶋氏は定量調査はあくまで「数字でしかない」と言い切る。
数字だけを見ていると、たとえば直帰率が他と比べて高いページが見つかったとすると、単純にそのページの直帰率を落とそうと考えてしまいがちですが、大事なのは“それってコンバージョンに関係あるの?”という点です。それを考えずに直帰率だけを落とす施策を考えても意味がありません
そこで石嶋氏が提唱するのが、定性調査の実施だ。
定性調査とはアンケートやユーザーインタビュー、グループインタビューなどによって、数字や割合では表現できないユーザーの意見を吸い上げる手法だ。
ミスターフュージョンでは、このようなテストの経験のある一般ユーザーに、自宅で対象となるサイトを体験してもらい、その際にどう思ったか、どのような不便を感じたかなどの意見をすべて動画で撮影し、分析しているという。
定性調査とは、ある意味主観です
と石嶋氏は語る。たったひとりの主観を鵜呑みにするのではなく、最低5人に見てもらい、全員が共通して指摘する項目、それだけを改善するのが正解だという。
また、クライアントには必ず商品アンケートを取ってもらうようにしている。実際に商品を買った/売ったことがある人の意見を定性調査として取り込む仕組みを作るのだ。
石嶋氏はCROの一番目のポイントとして次のように主張する。
作り手の意見はあまり重要ではない
イラストの差異、行間ピクセル数など小さなA/Bテストを繰り返していても無意味です。たとえコンバージョン率が上がったとしてもせいぜい0.03%くらいでやる意味はありません
作り手の意見を聞いていると、独りよがりになっていく傾向がある。主観を持たず、実際にコンバージョンする人の声を聞き、その人の気持ちになって作ることが重要だという。
このように、定性調査と定量調査の二つの調査を行ない、仮説を立てた上でA/Bテストを実施。コンバージョン結果から仮説の検証を行いサイクルを回していく。
A/Bテストのセッション数は、統計学的には2,000セッションほど行うのがベストだが、石嶋氏の場合はスピード感を重視し、かなり早めの800セッションほどで判断するという。その結果コンバージョン率が上がっていたらその施策は採用し、効果がなければ元に戻すことを繰り返していく。
石嶋氏は次のようにまとめた。
重要なのは、分析ではなく解析
数字の分析はアナリティクスに任せておけばいい。数字を読みとって次の一手を考える、すなわち解析が重要だとした。
CRO3つのポイント――フォーム、反応装置、導線
ここからはCROを実施する際にポイントとなる3つの要素について、それぞれ具体的なテクニックを交え詳しく解説が行われた。
CROのポイント①エントリーフォームを変える
まず最初に手をつけるべきなのは、コンバージョン率に直結するエントリーフォームの修正だ。
まずはフォーム要素一つ一つに対し、実際に営業の現場やCRMの施策に必要な項目なのかどうかを精査、FAXや誕生日など不必要なものは意味がないので削除する。
要素は仮説を立てたうえで、増減どちらも試すべきだという。
さらに石嶋氏はコンバージョン率に影響する細かいテクニックをいくつか紹介した。
基本編入力完了までのステップを入れる
フォームでは「情報の入力>内容の確認>送信完了」といったように、フォーム入力完了までのステップを画面上部に表示することが重要だ。
特にECサイトの場合は、クレジットカードの入力など決済に関する場所がいつ表示されるかを明示するだけでコンバージョン率が変わるという。
また、フォームではなくカートに入れる前に「VISA」、「MASTER」などクレジットカード利用可能なことを示すアイコンを表示することも効果的だという。
基本編必須・任意の表記を入れる
項目ごとに入力の「必須」、「任意」表記を必ず入れる。できれば行頭に入れるのが好ましい。
「必須」項目にだけ表記を入れ、任意項目には何も示さないのがトレンドではあるが、石嶋氏は両方入れるのを推奨している。また、必須項目の表示に「※」を使うのは絶対に避けるべきだとも指摘した。
基本編記入例を入れる
項目ごとになにを入力すればいいかがわかる、具体的な記入例を必ず表示する。
基本編フォーム回りにリンクを置かない
お客様に入力を完了してもらうためにはエントリーフォームに余計なものを置かないというのも重要だ。
ヘッダーやフッターにサイトナビや他サイトへのリンクなどがあると離脱の要因にしかならない。
基本編リセットボタンを設置しない
うっかり押してしまい入力内容が消えてしまいやる気をなくすといった経験は誰しもあるだろう。当たり前だがこのようなボタンを設置するメリットは皆無だ。
上級編入力するメリットを可視化する
限定特典や送料無料など、ユーザーが入力するメリットを明示的に表示する。
上級編初めの入力は考えなくても書き込める内容にする
最初の方に配置する項目は、名前や性別など考えなくても入力できる内容にする。
これに関して石嶋氏は、ある歯科医のウェブサイトの事例を紹介した。
最適化する前の来院予約フォームでは、先頭に「来院希望日時」を入力させていたという。これを「名前」に変えることでコンバージョン率が上がったという。
その理由は、日時を先頭にすると、手帳やスマホを見てスケジュールを確認するため、入力作業がいったん止まってしまうことにあった。
途中まで入力が進んでいれば、ある程度作業が止まっても最後まで入力してくれます。負荷がかかる入力項目はなるべく後半に配置することが鉄則です
このように、単純に項目を入れ替えるだけでコンバージョンは大きく変わるという。
上級編エラーチェックを入れる
入力漏れなどがあれば警告するエラーチェック機能を設置する。
上級編入力の補助を行う
郵便番号から住所を自動入力したり、全角/半角/英数字など文字切り替えの制限をかけたりするなど、入力補助機能を設置する。この仕組みはほぼ必須項目と言える。
石嶋氏は、次のように指摘する。
フォームに関しては項目ごとにエラー回数を細かく集計し、フォームのどの時点で離脱したかを把握・分析するのが重要だ
CROのポイント②反応装置を変える
反応装置とは「申し込みはこちら」といったコンバージョンに直結するボタンなどを指すミスターフュージョン独自の用語だ。一般にはCTA(コール・トゥ・アクション)と呼ばれる。
反応装置の色、形、文言、設置場所などによってコンバージョン率改善のポイントになるという。
石嶋氏は、次のように指摘する。
コンバージョン率が低いサイトの多くは反応装置を設置する場所が間違っていることが多い
作り手側の都合で場所を決めずに、お客様のニーズを定性調査と定量調査で把握して改善するべきだ。
また、文言も重要だ。もちろん目的はコンバージョンなので「購入」「申し込み」といった文言を使用したくなるが、これらの直接的な文言は、成約率は高いがクリック率は悪くなる諸刃の剣である。
石嶋氏はこの件に関し、2,400万円もする分譲コンドミニアムのWebサイトに設置された反応装置が「購入はこちら」だったため、リスティング広告でほとんどコンバージョンしなかったが、「無料資料請求」に変更しただけでコンバージョン率が上がったとの事例を挙げて説明した。
色に関しては、だいたい14色くらいで試すという。
一般的にコンンバージョンが高い色としてオレンジがある。ある調査では、最終候補として残ったグリーンと比較して、オレンジのほうが2.67倍良かったこともあるという。
なぜオレンジが良いかというと、オレンジは白い背景で目立ち、誘目性が高いためだ。
コンバージョン率は反応装置の色だけではなく、背景色にも左右されるため、背景色とのバランスで考えるべきだと指摘した。
とはいえ、これが絶対ではない。
たとえば、コンバージョンしたいものが数万円以上の高級商品の場合は黒にした方が良かった場合などもあり、サイトや消費によって一つ一つ違うという。一概に「オレンジが良い」や「緑が良い」といった判断をすると危険だということだ。
なお、一番使用してはいけない色はピンクとのことだ。
前半に紹介した定性調査、定量調査からなる検証サイクルを使い、反応装置の設置ポイント、色、文言、形をお客様のニーズに合わせて最適化することがコンバージョン率改善の秘訣だ。
CROのポイント③導線を見直す
最後に見直すのがコンバージョンに至るまでの導線だ。
まずはトップページ(またはLP)。これは直帰率が60%以下であれば許容していい。
比較するのは二つ。一つはトップページや商品サービスページからエントリーフォームに突入する割合、もう一つはフォームの入力を完了して無事送信(コンバージョン)する割合だ。
前者の方が低い場合は反応装置に、後者の方が低い場合はエントリーフォームに問題があるので、そのどちらかから取り掛かるのが定石だ。
同時に二つをやろうとしてはいけません。まずは数字の悪い方に絞って着手するべきです(石嶋氏)
どちらも基準値は10%だという。反応装置、フォーム双方が10%をクリアすれば、全体でコンバージョン率1%を達成できると主張した。
これらの作業に役立つのが、同社が提供するオンラインユーザビリティテストツール「ghostrec(ゴーストレック)」だ。
オンライン上で対象となるサイトを指定するなど簡単な設定を行いテストを実施、ヒートマップやマウス録画機能などを使い、途中離脱するユーザーの行動分析が可能になるという。
手頃な価格で、ボトルネックとなっているページや項目を突き止めることができると、サービスのPRを行った。
最後に石嶋氏は次のことばでセミナーを終えた。
以上の施策は変更した直後から目に見えて成果が出るものばかりです。ページを作り、PDCAを回して改善していくのはもはや当たり前。もう一歩進んで、どのようにコンバージョン率を改善、ビジネスにインパクトを与えていくかという意識を関係者全員で共有することが重要です
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