顧客企業×法人向けサイト―サポートツールとして機能させるための法則
この記事では、企業のWebサイトが持つ役割を、対象とするユーザー(ステークホルダー)とサイトのビジネス目標の2軸に分け、それぞれのケースに合った事例と対策を具体的に紹介していきます。各記事の最後には、チートシート形式としてまとめたPDFファイルを掲載しています。全17パターンの業務に直結する実践的なノウハウの中から、あなたのサイトに合ったものをぜひ活用してください。
背景 | テーマごとのWebサイトの現状を説明 | |
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課題 | そのテーマに関して、Web担当者の多くが抱える問題を提起 | |
サイト構築のポイント | データ全体を通しての重要ポイントを解説 | |
コンテンツの具体例 | 数ある具体的なコンテンツの例を提示 | |
リスクと解決策 | 陥りやすい間違いやそれらをうまく回避するためのヒントなど | |
サイトの要素 | サイトに必要な要素の洗い出し | |
サイト構造図 | サイトの構造図や位置づけなど | |
成果の判定指標 | サイトの成果を判定するために確認する指標 | |
補足事項 | その他補足事項 |
対象ユーザーとサイトの目的ごとにまとめた全17パターンの記事一覧はこちらからどうぞ。
顧客企業×法人向けサイト―サポートツールとして機能させるための法則
これまで、法人向けサイトの基本コンテンツと営業連携施策についてお伝えしてきました。3回目となる今回は、法人向けビジネスにおける「サポート」についてお話しします。消費者向けサイトのシリーズでもサポートについて解説しましたが、基本的なサポート――商品情報提供やFAQなどはもちろん法人向けサイトにも同じように必要になります。ここでは、特に法人向けビジネスにおける特徴的な状況にフォーカスして、法人向けサイトでどんなサポートコンテンツを提供すればいいのかをお話ししていきます。
企業組織の特性に注目しよう
法人向けサイトのユーザーは法人の担当者です。プライベートモードで訪問する人もいるかもしれませんが、ほとんどは業務としてあなたの担当するWebサイトを訪れるのです。つまり、あなたのWebサイトのユーザーは、一個人としてではなく、その企業でその業務を担っている人ということになります。
企業には組織変更というものが存在します。顧客企業が中~大企業の場合は2~3年で配属替えをする企業が多いため、あなたのWebサイトのユーザーも2~3年で替わってしまう可能性が高いのです。仮に企業の規模がそれほど大きくなくても、終身雇用制が崩壊しつつある今日、人材は活発に流動しています。また、コンプライアンスを重要視する企業が増えてきている社会背景をとっても、特定の個人が1つの業務の担当者でありつづけることは少ないと考えるべきでしょう。企業組織に属するユーザーは、消費者向けサイトのユーザーとは異なり、その業務に携わっている間だけあなたのWebサイトのユーザーとなり、その業務から離れたらもはやあなたのWebサイトに用はなくなってしまうのです。しかし、その一方で、また別の誰かその業務を担う人が必ず登場し、あなたのWebサイトを利用していく……。このような状況が、消費者向けにはない法人向けサイトに特徴的な現象といえるでしょう。
途切れ途切れになるサポート
前述のように、法人向けサイトのユーザーは個人(担当者)であり、そして企業全体でもあると捉えなければなりません。にもかかわらず、実に多くの法人向けサイトが消費者向けサイトと同様の仕組みでサービスを展開しています。登録ユーザーを変更するには解約が必要だったり、Webサイトから以前の取引情報の照会ができなかったり、前任の担当者のメールマガジンの解除には本人同意が必要だったりなど、細かな点ですがかゆいところに手が届いていない印象を受けます。
「ユーザー=企業」と考えた場合、稟議というプロセスにも注目しなければなりません。企業が何かを購入しようとする場合、社内の稟議が必要になります。購買部門が一括して調達することもあれば、総務が購入手続きをする場合もあるでしょう。たとえば企業が内線電話用のモバイル端末を導入するとします。そういった場合には、自社のシステムに合うものを選んで稟議を挙げるのは情報システム部、社員数を把握し購入手続きから納入までの手配を行うのは総務部、納入された後で実際に端末を利用するのは営業部となり、以下のようにそれぞれの局面でプレイヤーが別になるのも企業組織に特徴的な事柄です。
- 購入にあたり情報収集し商品を吟味して選択する人・部署
- 購入手続きをする人・部署
- その商品・サービスを利用する人・部署
こういった事象を想定した機能やサービスが充実している法人向けサイトというのはまだまだ稀な存在です。いずれの場合も「ユーザーは特定の個人である」「ユーザーは不変である」という一般消費者の利用状況を想定した機能やサービスとして設計されていることが根本的な原因だといえるでしょう。
ユーザーシナリオを活用して整理する
消費者向けサイトと同様、まずはユーザーの動きとニーズを整理することが重要です。ユーザーシナリオをもちいて登場人物の関わり方やそれぞれのニーズをマッピングします。法人向けサイトにおけるユーザーシナリオのポイントは、前述のとおり必ずしもユーザーが一人・一部署ではないこと、工程の終わりに担当者変更の引継ぎなどが必要な点です。タスクフローの書き方や工程を参考に、あなたが担当する法人向けサイトのユーザー企業のシナリオを書いてみてください。
法人向けサポートとして有効なコンテンツ
それでは、法人向け企業サイトにおける「サポートコンテンツ」について、具体例をあげていきましょう。
- 履歴の管理
商品の購入履歴や買い足し、納入の履歴、契約内容の参照、故障の依頼、保障期間の参照など、取引の経緯を記録した履歴を閲覧できる機能を提供します。長く利用しているユーザーほど「前と同じものを簡単に選びたい」というニーズが高いといえます。履歴が確認できるだけでなく、そこからすぐに購入できる機能もあるといいでしょう。
また、問い合わせ内容がユーザー企業の複数の担当者で共有できる機能も有効だといえます。業務として利用しているのであれば、同じ業務を担うメンバーや上長と情報共有したいというのは当然です。消費者の利用形態にはない法人向けならではのニーズといえるでしょう。
- アカウントの管理
企業全体で管理したい情報と、個人ユーザー単位で管理したい情報を分けてアカウント管理ができるのが望ましいです。メールアドレスや氏名・部署、質問した内容などは個別に管理できるのが望ましい情報だといえます。また、パスワードなどは個人単位で他のユーザーにもれることなく管理する必要があるでしょう。ただし、個人に属する情報管理体系であっても、担当者が変更になる場合の手続きはWebサイトからできると便利だと思われます。
個人単位で使用する状況が想定しづらいサービスであれば、「管理者アカウント」を設けて、他のユーザーは管理者に対して紐づけたアカウントとして管理するのが望ましいといえます。
- 商品情報の提供
新規商品のリリースや廃盤・代替機種の通知も、購買記録などからその企業にあった内容を優先的に表示します。また、契約を更新し続けてもらう(=他社と契約するよりもメリットがあると感じてもらう)ためにユーザーの業務が便利になるような施策を展開できるといいでしょう。例として、設計事務所での使い勝手が良くなるように、自社製品のCADデータをWebサイト上で提供している建材メーカーがあります。顧客は使用したい製品のCADデータをダウンロードし、設計図面の中に読み込むことで、建材パーツの寸法を自分で確認でき、書き込む手間が省けて効率的な作業ができるという優れものです。便利さで競合優位を図るサービスといえます。
- 稟議書類の補足資料
企業の担当者の負荷を軽減させるサポートサービスと位置付けた、各種稟議書類に添付するための資料の提供は、法人独特の支援コンテンツとして有効です。最近ではペーパーレスで稟議を回す企業も増えてきているので、デジタルのファイルで商品情報や性能データが提供できるといいでしょう。広く一般に開示したくない情報も、すでに取引が成立している企業に対してのみ閲覧・提供するのであれば、開示許可のハードルは下がり、社内のコンセンサスも得やすいのではないでしょうか。
Webサイトを「守りの営業」ツールとして捉える
上記にあげたような有効なコンテンツを用意すればすべてうまくいくかというと、そんなに簡単ではありません。必ずどこかに落とし穴が潜んでいるものです。Web担当者が陥りやすい問題点を挙げてみました。個別に詳しくみていきましょう。
「守りの営業」プロセスをよく吟味し営業連携を
営業には「攻め」と「守り」があります。新規顧客を開拓しクロージングする過程が攻めの営業で、獲得した顧客に定着してもらい自社と契約を維持し続けてもらうために尽力するのが守りの営業です。法人向けサイトでサポートコンテンツを提供するということは、Webサイトが「守りの営業」を担うということです。守りの営業では高いサービス満足度を維持し続けることが重要なのですが、攻めと守りに同じだけの労力を割ける企業は多くありません。そのため、Webサイトを利用したサポートが果たす役割が重要になるのです。
しかし、これまで幾度となく述べてきたように、法人向けのビジネスの多くは、Webサイトで簡単には購入できないような製品ばかりです。いくら守りの営業といっても、すべてをWebサイトで完結することはできません。人が対応すべき事柄とWebサイトですべき事柄を使い分けることが必要なのです。無理に高度な技術を導入する必要はなく、まずは自社ビジネスにおける守り営業のプロセスをよく吟味し、営業部署と連携できる機能やサービスを実現しましょう。
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