HCD-Net通信
「人間中心設計 (HCD)」を効果的に導入できるよう、公の立場で研究や人材育成などの社会活動を行っていくNPO「人間中心設計推進機構(HCD-Net)」から、HCDやHCD-Netに関連する話題をお送りしていきます。
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ユーザビリティテストの今昔/HCD-Net通信 #10

HCD-Net通信第10回は、黒須氏がユーザビリティテストの「今まで」と「これから」を読み解きます。
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ユーザビリティテストは長い歴史を持っている。その起源は心理学、人間工学、そしてマーケットリサーチにある。

1. 前史時代

実験心理学は実験室で被験者(現在は実験参加者という)もしくは被験体(動物)に対して、さまざまな条件を設定して刺激を与え、そこでの行動を観測することを基本的アプローチとしていた。このころの行動観察という考え方は、後のユーザビリティテストの基本的スタンスとなったといえる。

サーブリッグ

作業を構成する動作を17種類の記号で分析することにより、効率的な作業方法を研究する手法。

人間工学の研究が盛んだった1940年代から1960年代には、ラボを設置して、そこで生体計測や生理計測が行われていた。当時の人間工学では、工程や作業を概念的に図式化して整理する工程分析や作業分析の手法が使われていたが、そのほかに動作分析も行われ、サーブリッグ(1948)のような手法が観察データのモデル的表現に使われた。

フォーカスグループ

ある製品/サービスについて、グループ対話形式で自由に発言してもらう調査手法。

ラボと呼ばれる部屋にハーフミラーが導入されるようになったのは、マーケットリサーチのフォーカスグループが最初といえるだろう。もともと社会心理学の分野でも小集団実験の様子を観察するために同様の部屋が利用されていたが、フォーカスグループでは多数の企業関係者がその状況を観察するために別室が必要となったのである。もちろんハーフミラーそのものは警察などの取調室でも利用されていた。

2. 認知心理学との蜜月時代

プロトコル分析

製品を使用している(もしくは使用した後の)人間の発話をもとに認知プロセスを分析する手法。

ユーザビリティテストがその方法的基礎を固めたのは、問題解決に関する認知心理学の方法論を導入した時期だった。1980年代になってパソコンやワープロなどの機器が市場に出回るようになり、取扱いやすさだけでなく、わかりやすさが重要なポイントとなったため、なぜわかりにくいのかを分析する手法として発話思考法を含めたプロトコル分析の手法が導入された。機器の操作をやりとげるプロセスは、一種の問題解決場面と考えられたからである。

しかし、完全な発話記録としてのプロトコルを作成するためには、参加者の1時間の発話データをテキストに書き起こすのに、数時間かそれ以上の時間を要し、時間の限られた開発作業においては非効率的だといわざるを得なかった。さらにプロトコルの解析を認知心理学的に行うまでもなく、どこがわかりにくいのかは直感的に理解しうることから、徐々に正統心理学的なやり方は使われなくなり、簡便な手法が導入されるようになった。

3. ユーザビリティ工学の手法としての確立

ユーザビリティテストに関する著名な解説書が出版されたのは1990年代になってから(Dumas and Redish 1993Rubin 1994)である。この時期に、ユーザビリティ工学の手法としての体系化が行われたと言ってよい。参加者の集め方、同意書の取り方、ラポール(信頼関係)の構築法、プリテストの実施と課題の設定法、関係者の同席、発話思考(テスト中、頭に浮かんだことを口に出して話すことにより、課題を解こうとして何を考えているのかを知る手法)の教示と練習の与え方、テスト中の侵襲性(テスト参加者の個人的な事柄などを必要以上に聞き出そうとして感情を害するようなこと)に対する配慮、質問紙法との組み合わせ、謝礼金額の設定法、結果の解析法とウェイト付け、テストレポートとハイライトビデオの作成などが、基本的手法として固まった。

インスペクション法

評価者が、機器の操作仕様書や、ペーパープロトタイプやモックアップを使いながら、その使い勝手を検査して、問題点を発見し、改善案を探る手法。

しかし、プロトコル解析を除外したとはいえ、ユーザビリティテストが時間と費用のかかる手法であることには変わりなく、さらに効率的な手法としてインスペクション法が提案されたのもこの時期であった(Nielsen and Mack 1994)。

ただ、インスペクション法は評価者の直観にすぎないではないかとの批判もあった。これに対し、ユーザビリティテストが突きつけるユーザーの生の行動は、それを観察した設計者やデザイナなどの関係者に、インパクトをもってデザインの改善を動機づけることができ、ユーザビリティの必要性への認識を徐々に高める役割を果たした

4. Webユーザビリティの時代

2000年代になってWebが商用ツールとして重要な位置を占めるようになると、その成否の鍵のひとつとしてのユーザビリティが注目を浴びたのは当然といえる。同時に、ユーザビリティ工学の提唱者だったNielsenがWebのユーザビリティに着目し、積極的な活動をしたこともあり、ウェブユーザビリティが多くの関係者によって注目されるようになった。

ペーパープロトタイピング

ソフトウェアやハードウェアの試作版(プロトタイプ)を紙に書き起こす開発手法。

そのなかで、ペーパープロトタイピングという手法とリンクしたユーザビリティテストが、設計と評価の反復を高速化するやり方として注目されるようになった。このやり方では、通常のモデレータ(実験者)と参加者のほかに、コンピュータの動作をシミュレートするコンピュータ役が参加し、参加者の操作に応じてペーパープロトタイプの入れ替えを行う。

5. さらなる発展の時代

現在、ユーザビリティに対する関心はかなりの拡がりを見せており、また設計の上流工程におけるフィールドワーク的手法の開発も進んできた。その結果、ユーザビリティテストを上流工程で実施して、これから開発する機器やシステムの要件を見出そうという使い方や、ユーザビリティテストを実利用環境で行い、文脈における質問(contextual inquiry)法と融合したような使い方をするケースなども出てきた。

さらに、ユーザビリティテストが常識化してきた領域では、設計者やデザイナーもユーザビリティへの強い動機付けを持ちあわせるようになり、わざわざ彼らにユーザー行動を見せる必要がなくなってきた。そこで設計作業全体の効率化のために、ユーザビリティテストをやめてインスペクション法に移行する傾向も出てきている。

この傾向は今後も強まる可能性があるが、インスペクション法を行うにはユーザビリティテストを1、2年実施して、ユーザーの行動に関する予測力をつけておく必要がある。その意味で、安易にインスペクション法に移行するのではなく、特にユーザビリティ部門の初心者にはきちんとしたテストを経験させる必要がある。

幸い、評価の対象となるのはルーチン化した領域だけでなく、技術の進歩にともなって常に新たな機器やシステムが生み出されている。その意味で、発見的手法としてのユーザビリティテストの意義は永続的なものだといえるだろう。

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