「魅力的なUIに向けて ― iPhoneに超えるには」セミナーレポート/HCD-Net通信 #9
1月に、京都工芸繊維大学でHCD-Netサロンを開催した。テーマは「魅力的なUIに向けて ― iPhoneに超えるには」。今回は、このHCD-Netサロンをレポートする。
セッション
原田養正氏(U'eyes Design)
原田さんは、昨年度にiPhoneのユーザー調査を実施した。
調査の目的は「初見ユーザーの反応」を見るというもの。
調査方法は「ユーザーに使ってもらってインタビューをするユーザビリティテスト」と「iPhoneを貸し出して日記を書いてもらう調査」の2種類。
そのユーザー調査結果では、下記のような反応を得ることができた。
- 自分の思ったとおりに動く
- ものごとの順番どおりに操作できる、考えられている(例:写真を撮ったら、見られる)
- 使う人の気持ちになっている。見透かされている(こうしたいと思うときに使える。従来の携帯はあくまでも機械)。
- もはやケータイではない。便利メカ。究極の特化商品。
アップルのデザインの目で見てわかるUIだけをまねてもしょうがない。その裏の深い洞察が必要である。このアップルのデザインは、よく才能に基づくデザインなどと言われているが、本当に才能に基づくデザインなのだろうか?ユーザーの言うことを聞いてもiPhoneは作れないだろう。ユーザーの気持ちを見透かして、先回りしてデザインして初めて、ユーザーがとても満足するiPhoneのようなUIができるのだと思う。
篠原稔和氏(ソシオメディア)
エンドユーザーのニーズからUIを設計することが重要である。ユーザーのニーズから機能要件を定義して、技術的な実現方法とあわせてUIを設計するということである。デザインプロセスの課題を解決するためにデザインパターンの活用がある。なかでも、要求分析から画面設計の間にはギャップあり、このギャップをデザインパターンで埋めることができる。
iPhoneでは、「サービス設計」「デザイン原則を適用したUI」と「デザインパターンを適応した効率的なデザイン」が活用されている。
「サービス設計」とは機能の要件をユーザー視点より大胆な再定義することによりサービスを設計をする。
「デザイン原則を適用したUI」とは、基礎的なデザイン原則(ユーザビリティやインタラクション)に基づいたUIのことであり、「iPhone Human Interface Guideline」がiPhoneには用いられている。
「デザインパターンを適応した効率的なデザイン」とは、小さなスクリーン、モバイル利用に最適な機能制限、タッチ操作に最適なデザインなどを考慮したデザインパターンを活用することで効率的なデザインができることである。
八田晃氏(ソフトデバイス)
iPhoneアプリへのコメントで、「iPhoneらしくない」と書かれることがある。つまりユーザーは暗黙にiPhoneらしいかどうか判断しているのである。それを支えるものの1つとして「iPhone Human Interface Guideline」がある。その中に「触っている間はフィードバックしつづけろ!」とあるが、これはまずは動き出し、動きながら、まっすぐか斜めかを判断することである。リアルタイムに予測することが大事で、もちろんハズレることもある。
これまでは、設計の決めごとによってUIを作って、それをユーザーが理解することが多かった。これからはユーザーの行動をUIが察知して理解して、ユーザーに合った反応をすることだ。そのためには、ユーザーの行動をUIがどのようにして察知、理解するかが重要である。つまり認知行動をどのように理論化するかということだ。
また、動くことがもっているアフォーダンスを考慮したダイナミックUI設計、アクティングやペーパープロトタイプを作ってユーザーやクライアントと一緒にデザインすること、ハードウェアスケッチなどと呼ばれるように動くプロトタイプをいかに簡単に早く作るかなども重要だ。
iPhoneを超えるには、もっと深く人を知ることが必要であり、日本では昔から言われている「以心伝心、あうんの呼吸、空気を読む」などの文化があるので、それを生かすことではないかと思う。
ディスカッション & まとめ
今回はディスカッションの時間が90分あったので、参加者同士が自己紹介をしたり、議論をゆっくりすることができた。今回の議論でとても感じるのは、幅広い分野の参加者が来てくれているが、皆さんとてもUIに関して興味をもっていることである。UIは誰もが触れて、感じることができる共通の部分であり、その裏の部分はもちろん重要であるが、表の部分に興味をもって初めて、その裏に興味が沸くのである。
僕はまだiPhoneを使い始めてひと月ぐらいなので、よくわかっていないことが多いのだが、今日の感想としては、アップルがMacとiPodで長年苦労をしてやってきたこと、学んだことを基盤としてiPhoneの存在があるのだなと思った。僕らも、そのときは成功しないかもしれないが、積み重ねが重要であることを再認識したい。
HCD-Netサロンも2008年度は、「エスノグラフィー」「デザインパターン」「感性とHCD」と最後に「魅力的なUI」という多様な専門分野をテーマにした。2009年度はどのようなテーマにするかまだ決定していないが、「HCD事例」「質的調査」「WebとHCD」「感性とHCD」「UIデザイン」「高齢者とHCD」などを取り上げてみたいと思っている。
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