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BOOK REVIEW ウェブ担当者なら読んでおきたいこの1冊
『明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法』
評者:山川 健(ジャーナリスト)
広告で訴求する点は消費者の視点から見て決め
買わせたい相手ではなく買いたい消費者に売る
- 佐藤 尚之 著
- ISBN:978-4-7561-5094-3
- 定価:743円+税
- アスキー
もはや、カネをかけてメディアに大量に広告を出せば売れる時代ではない。商品やサービスを直接消費者にアピールする広告の世界では、旧来の考え方は通用しなくなって来た。インターネットによって変化した消費者の心をつかまない限り、消費者は財布のひもを緩めない。ではネット時代の今、効果のある広告とは何か、どうすれば心をつかめるか、をクリエイティブディレクターである著者が具体的に論じたのが本書だ。
最も重要なこととして著者は「消費者本位の視点」を強調する。新商品を売り込む際、競合他社にない新機能を訴求するのが従来の広告の常とう手段。しかし、その新機能は本当に消費者に求められているのか、の考え方が抜け落ちている。消費者が何を望み、何をうれしく思うかをとことん調査して訴求点を決めるべきだという。作り手側の思い込みによる商品本位ではなく、消費者本位。「大量消費時代は商品の方が偉かった。売り手市場である。だから商品のイイトコロを整理して訴えれば消費者は買ってくれた」が、大量消費が否定された今は「消費者の方が商品より偉い時代なのだ」
著者は、広告は企業のソリューションから消費者のソリューションに変わらなければならない、と訴える。伝えたいことを消費者に伝えるのではなく、伝えてもらいたがっている消費者に伝える。言い換えると、買わせたい相手に売るのではなく、買いたがっている消費者に売る。そのために、まず買いたがっている人を作り出すことに注力する必要がある。商品に関して詳細に調査してみると、企業が想定するターゲット層と、実際に購入意欲のある層にずれがあるケースも多く、買いたいと考える層に合わせて、広告を出す媒体をはじめ、総合的に広告展開を考えていくことがポイントになる。
「いきなりコミュニケーションの主役に躍り出た感すらある」と著者はネットのクチコミを評し、消費者が作るメディア、CGM(コンシューマジェネレイテッドメディア)を「企業にとって宝の山」と呼ぶ。その一方で、ネットの興隆によって4マス(テレビ、ラジオ、新聞、雑誌)の力が衰えたとする論調には疑問を投げ掛ける。「どのメディアがどう伸びどう衰退するとか、そんな論ばかり言ってないで全部活用すればいいのだ」「既存マスメディアの良さももう一度いちから見直して、最大限活用するべきである」ともいう。
ネットでショートフイルムを流して成功した外国車がある。世界的な女性シンガーを乗せてエンターテインメントとして公開。年配のオーナーが多いその車が若者にまで浸透し、売り上げを伸ばした。若者に訴求するため、あえてネットを活用。テレビCMにかける費用をすべてネットにつぎこむことで質の高いコンテンツを作った。テレビCMで必要な高額な放映料が不要なため、その分で内容を充実させた。ネットではテレビCM以上に質の高いコンテンツを作らないと、ユーザーを引き付けらない。コストが抑えられるから、と短絡的にネットを使っても効果はなく、著者はコストを理由にネット広告に走りがちな現状を疑問視する。
ネットで欠点が暴かれる商品丸裸時代。本書の欠点は「くれぐれも『あ、オレ、~無理』とか引かないように」「え? ~は余計だって? スマン(笑)」など、説得力を下げかねない表現があることか。何せ著者はもう40歳代後半なのだから。
コメント
レビューとあまり関
レビューとあまり関係のないコメントで恐縮ですが
>本書の欠点は「くれぐれも『あ、オレ、~無理』とか引かないように」「え? ~は余計だって? スマン
>(笑)」など、説得力を下げかねない表現があることか。何せ著者はもう40歳代後半なのだから。
この文脈の意図するところがわかりませんでした。
「40代後半の人間が砕けた表現方法を利用すると説得力が下がる」という解釈であっているでしょうか?
お返事
筆者の山川です。コメントありがとうございました。
ご指摘いただいた件ですが、その解釈はやや異なります。
「40代後半の人間が砕けた表現方法を利用すると説得力が下がる」のではありません。
場にそぐわない表現を使うと、書き手の年齢に関係なく説得力は下がると思います。
それを説明しているのが、
の文です。
さまざまな経験を積み、実績もある40代後半の人間なら、こうしたことは当然分かっているはずだと考えます。それを表現したのが、
の文です。
せっかく有意義なことを語っている書籍なのに、こうした表現によって説得力を下げかねないのは残念。経験豊富な著者も分かっているとは思うのだけれど……という主旨です。
説得力を下げかねない表現と年齢には、直接的な関係はないと考えます。ポイントはTPOでしょう。
「砕けた表現方法を利用すると説得力が下がる」とも言えないと思います。これもTPO次第でしょう。
私は「砕けた表現」とは書いていません。
本書のようなしっかりとした内容のビジネス書では、このような表現(「このような表現」をどんな言葉で解釈していただいても良いのですが)は説得力を下げかねない、と感じるのです。
以上、ご理解いただけると幸いです。
伝えようとしている相手
作者が伝えようとしている相手が若手の広告マンなのだと私は読みました。
襟を正した表現も結構ですが、作者はあえてくだけた表現をして、伝えたい相手に合わせているのだと思います。そしてそれがこの本の趣旨なのではないかと思うのです。伝えたい相手に合わせたラブレター。その点を評者は読み取れてないと思いました。
Re: 伝えようとしている相手
編集部の安田です。コメントありがとうございます。
書評は客観的な解説ではなく、評者の主観を含めたものです。ですから、山川氏のとらえ方は1つの見方として存在するものだととらえていただければと。
もちろん、
という表現があるので、その辺りはご理解いただけているものだと思いますが。
ちなみに私個人でいうと、自分がこの書籍の編集を担当していたら、この件のような表現は「ちょっとよろしくないですね」と、著者さんに修正していただくよう頼む確率が75%ぐらいだと思います。
というのも、若手の広告マンといっても、いろいろな人がいますから、くだけた口調が合う人もいれば、そういった口調を好ましくないと思う人もいるでしょう。となると、あえてネガティブな要素を抱え込むのもよろしくない、という考えです。
……保守的すぎますかね?