CMSの費用対効果(ROI)をKPIで体感しよう!

作業効率に関するKPI
CMS導入の費用対効果(ROI)は、社内提案を通すための必殺技だといえる。CMSはコスト削減につながるのか?それとも必要なインフラへの設備投資なのか?まず重要なのは、導入効果を数値化することだ。自社の事情に合った目標を立てて、計測を開始しよう。今回は、導入前の費用対効果算出、または運用開始後の効果測定に使えるKPIの立て方について、具体的に検討する。
CMSを導入する結果、何が変わるのか?仮説を立てて、それぞれについてKPI(Key Performance Indicator=重要指標)を設定してみよう。まず、「CMSを導入することにより、コンテンツをより効率よく管理できるようになる」ということを数値化してみる。効率が良くなるため、より多くのコンテンツを作ったり、更新できるようになるはずだ。CMSから取り出しやすい指標として、次の3つを段階的に見ていこう。
- 新規作成または更新されたコンテンツのページ数
- 承認まで完了したワークフローの本数
- 生産性=新規・更新ページ数÷作業者全員の合計作業時間
新規作成または更新されたコンテンツのページ数

1月と4月にページ数が増えているのは、時期的な要因だ。また、ページ数が多ければ作業量も多いとは一概に言えない。たとえば「©2010」など、共通フッタにおけるコピーライトの年号表記を変更すると、全ページが更新されることになる。
どうも、この指標はCMS導入のROIとして使うには適切ではないようだ。
承認まで完了したワークフローの本数

制作の作業とワークフローは、公開のタイミングよりも前に仕込んでおくことがあるため、先ほどの「新規作成または更新されたコンテンツのページ数」よりも時期が前にズレこんでいる。
いずれにせよ、ページ数やワークフロー本数のようなボリュームに関する指標は、マーケティングの力の入れ具合や年度末などの季節要因、人員の増減などによってブレてしまう。
この指標も、CMS導入のROIを表しているわけではなさそうだ。
生産性=新規・更新ページ数÷作業者全員の合計作業時間

そこで、1人当たりの生産性、に注目してみよう。たとえば、デザイナーやデベロッパーは1時間あたりに何ページを生産したのか? などだ。例では、CMS導入後にアサインするスタッフ数を減らしたため、生産性が上がっていることがわかる。
これでようやく、CMSの導入効果が見えるようになってきた。
効率改善の結果としての知的生産性のKPI
資産蓄積のKPI
管理が強化される結果としてのKPI
総合的なKPI
ワークフローそのものを見直そう
ワークフローの導入により、制作スタッフだけでなくレビュー者の効率も改善されたかどうかを検証してみよう。どれくらい短時間でレビューから配信までを行えるようになったのか?
たとえば、レビューと承認、配信までのワークフローを次のように設計すると、ワークフロー全体のリードタイム(所要時間)はさらに3つに細分化できる。

実は、CMS導入によって直接的に時間が短縮されるのは、(3)の「承認が終わってから配信されるまでのリードタイム」のみだ。承認後に自動で配信が行われるため、ここの時差はほぼ消滅する。また、今まで紙ベースでレビューと承認を回していた場合は、物理的な移動にともなう時間がなくなる分、(2)が若干短縮されるが、その他の作業に関してはCMSを導入したからといって短くなるわけではない。CMSへのログインやレビュー結果入力などの画面操作が必要になるため、導入後しばらくの間は以前よりも時間がかかるようになる。
リードタイムを短縮するためには、ワークフローそのものを綿密に再構築する必要がある。リードタイムを長くする要因(つまり改善の余地)は、次のようなものがある。
- タスクの着手が遅れる
- タスクの所要時間が長引く
- タスク中に待ちが発生する
- タスクが終わったのに次のタスクへの通知が遅れる
このような遅延要因を回避するため、たとえば下記のようなワークフローにすれば、リスクを減らし、管理を強化できる。

工夫1制作者がすぐに作業に着手できるように、Webディレクターやプロジェクトマネージャがワークフロー開始の手続きを行うようにする。
工夫2突然レビュー依頼がメールで届いても時間の確保ができずにレビューの着手や実施が遅れることがある。制作の進捗を日々確認しながら、レビュー依頼できる日程がわかり次第、レビュー者に予定日時を事前連絡するようにする。この部分もワークフローに含めて自動化する、という方法もある。
工夫3レビュー者が1人しかいないと、不在や緊急対応中などのときはレビューが遅れがちとなる。予備のレビュー者を事前に設定しておく。
工夫4複数のレビュー者がレビューを行う場合は、最初に誰かがレビューを完了させた時点でレビュー完了とみなす。レビュー着手だと、後で着手したレビューに追い越される場合がある。レビュー内容の重要度に応じて、最初の2人がレビューを完成した時点にしてもよい。
実は、このワークフロー再構築は、CMSを導入しなくても実施できる。CMS導入は、コンテンツ管理に関わる仕事の方法を見直すキッカケでしかないのだ。
効率改善の結果としての知的生産性のKPI
単純作業が自動化され、効率が改善される結果、スタッフやより高次元の頭脳ワークにより多くの時間を使えるようになるはずだ。図のとおり、関係スタッフの労働時間を合計してみると、全体的にはあまり変化は見られないが、その質が変化していることが分かる。


資産蓄積のKPI
CMS導入の結果、コンテンツやテンプレートが、使いまわせる情報資産として組織のなかで蓄積されていく。この、生産ではない資産に関しても数値化をしておきたい。
- テンプレートの数と利用頻度
- アセットの数と再利用率
これらの指標が増加する結果、上記の効率や生産性がさらに改善されることになる。
また、コンテンツオーナー(ビジネスユーザー)が直接コンテンツの投入や編集を行えるようになる、という変化もある(ただしそれを実施するかは組織による)。
- ビジネスユーザーが編集したページ数の合計
- 上記(ビジネスユーザーが編集したページ数の合計)÷ビジネスユーザーの合計人数
管理が強化される結果としてのKPI
CMSによって、以前は無法状態だったコンテンツがより強固に管理される。効率や生産性だけでなく、管理の強さも数値化し、日々の推移を追いかけておく必要がある。
- 誤情報の発信回数
- コンテンツオーナー判明率
- アーカイブ化(公開期間を終了し取り下げ)されるコンテンツの量
- 希望スケジュール遵守率
総合的なKPI
最後に、上記の効果をトータルで計るための指標を紹介しておこう。
- 運用費÷売り上げ
- 運用費÷マーケティング費
さらに、資産が蓄積されて管理が強化される結果、次にリニューアルを行う場合にプロジェクトの費用対効果が改善されるはずだ。下記のようなKPIにも変化が見られるかもしれない。
- リニューアルのコスト÷対象ページ数合計
- リニューアルのリードタイム÷対象ページ数合計
今回はCMS導入の結果としての各種のKPIを紹介したが、それぞれの指標は単体で意味をなすわけでなない。複数の指標の相関関係を見ながら考察し、その結果をそえてレポートするようにしないと、数字が一人歩きして誤解を生むことがあるので注意したい。
また、導入の前後でKPIを比較するためには、導入前にKPIの設定と測定を行っておく必要がある。リードタイムや労働時間など、各スタッフの稼働に関するKPIを取得するために、工数管理(タイムトラッキング)やプロジェクト管理のソリューション導入も検討したい。Excelを作って地道に記入してもらう方法もあれば、Web上の無料サービスを使うという方法もある。
最後に、KPIは導入前後で比較するだけでなく、毎月観測し、マネージャや経営者間で共有できるような体制とプロセスを作っておくとよい。CMS導入を提案するときは、そこまでコミットしてみてはどうだろうか? 説得力が増すだけでなく、要件とゴールが明確になるため、CMS導入プロジェクト自体がスムーズに進行するようになるだろう。
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