グーグルの独占は終わり? 独禁法訴訟の判決で「手放したこと」と「死守したこと」
「グーグルが検索分野で意図的に独占状態を維持していた」との判決が出てから1年以上が経ち、この独占状態に対する裁判所の是正措置が発表された。
1年の間にさまざまなことが起こったため、230ページに及ぶ最終判決には生成AIなど、市場を揺るがしている要因の影響が反映されている。5年近く続いているこの訴訟は、検索業界に地殻変動的な影響をもたらすものだ。
僕は弁護士ではないが、検索業界の専門家としてこの訴訟を詳細に追ってきた。総じてグーグルは個々の争点で負けるより勝つ方が多かったが、科された罰則は重い。今回の判決は今後5年間の検索業界と競争環境を一変させることになるだろう。
グーグルに対する訴訟の内容
2024年8月、米連邦地方裁判所のアミット・メータ判事は、次の判断を下した:
グーグルは独占企業であり、独占企業として振る舞うことでその独占を維持してきた
この訴訟が始まったのは5年ほど前で、米司法省と11州がシャーマン法に基づきグーグルを独占禁止法違反で提訴した。
2か月後、さらに38の州・準州・特別区が提訴し、訴訟は統合された。この独禁法訴訟の判決では、次の2つによる支配が「競争を阻害し、貴重なデータの収集が可能だったために独占が固定化された」との判断が示された:
- グーグルの独占契約
- 検索と検索広告の両エコシステム
グーグルは何を放棄しなければならないか
当然ながら、司法省とグーグルは提示された是正措置(これは「罰則」を意味する法律用語だ)について激しく対立した。グーグルが放棄しなければならない主なものは、次のとおりだ:
- グーグルは独占契約を禁じられる
- グーグルは検索データを提供しなければならない
- グーグルはシンジケートデータを提供しなければならない
1つずつ、詳しくみていこう。
放棄1グーグルは独占契約を禁じられる
判決文では、次のように書かれている:
グーグルは、Google検索、Chrome、Googleアシスタント、Geminiアプリの配布に関するいかなる独占契約も締結または維持することを禁じられる
これは2024年の判決から最も直接的に導かれる結論であり、グーグルが契約を利用して競合他社に対し市場を閉ざすことを禁じる措置だ。
放棄2グーグルは検索データを提供しなければならない
「適格な競合他社」は、特定の検索インデックスやユーザーインタラクションデータに、1回限りかつ限界費用でアクセスできるようになる。これらのデータには、次のものが含まれる(一部の詳細は未定):
インデックス内にある各ドキュメント固有のDocID
URL/ページに対するDocIDのマップ
各URLが初めて検出された日時と、最後にクロールされた日時
スパムスコア(おそらくURL別だと思われるが不明)
オーソリティなどの品質指標
「人気度」や「デバイスタイプ別フラグ」などのユーザーシグナル
こうしたGoogle検索データのダンプは、一般ユーザーには意味がないかもしれないが、僕たち検索マーケターはその重要性を認識している。グーグルがこの是正措置に強く反発した結果、「データ共有を1回限りのスナップショットに限定」し、さらに「主要なデータポイントを除外」できることになった。
裁判所はまた、グーグルがGlueおよびRankEmbedシステムのデータを「適格な競合他社」と、1社につき最大2回まで共有することを命じた。このデータは多くの独自システムに関わるものであり、詳細は不明だ。
グーグルはこうしたデータについて、競合他社がアルゴリズムをリバースエンジニアリングするために使われる可能性があるとして異議を唱えたが、裁判所はその可能性は低いとの判断を示した。
放棄3グーグルはシンジケートデータを提供しなければならない
判決に基づくと、「適格な競合他社」は次の情報にアクセスできるようになる:
- オーガニック検索結果
- ローカル検索結果
- マップ
- 動画
- 画像
- ナレッジパネル機能を含むシンジケート検索データ
このデータは現行の検索シンジケーション契約と同等のものでなければならない。競合他社がホワイトラベル※の検索エンジンを作成するだけにならないように、グーグルはシンジケートデータに対して競争力のある市場価格を請求できる。
グーグルは何を放棄しなくて済むか
司法省は勝訴したとしているが、グーグルはより厳しい是正措置の多くに抵抗し、主張を認めさせた。グーグルが勝ち取った主な譲歩は、次のようなものだ:
- グーグルはChromeやAndroidを売却する必要はない
- グーグルは、デフォルトプレースメントに対する支払いに応じてもよい
- グーグルは、ナレッジグラフの全データを共有する必要はない
- グーグルは、学習データからのオプトアウトを許可する必要はない
- グーグルが、Google広告でキーワードの類似パターンオプションを復活させることはない
これも詳しくみていこう。
譲歩1グーグルはChromeやAndroidを売却する必要はない
裁判所はChromeの売却について、「実行可能かつ構造的な是正措置である」としながらも、Chromeはグーグルのインフラや製品にあまりに依拠しており、売却は合理的ではないと判断した。
言い換えると「Chromeは、グーグルなしでは存在し得ない」ということだ。裁判所はまた、Chromeが国際的な製品であるのに対し、この訴訟の是正措置は米国に限定されるため、Chromeの売却はこの判決の範囲を超えると判断した。同様に、裁判所は司法省が求めたAndroidの(5年後の)条件付き売却も却下した。
譲歩2グーグルは、デフォルトプレースメントに対する支払いに応じてもよい
司法省は、グーグルがベンダーに料金を支払ってデフォルトプレースメントなどの優遇措置※を獲得することの禁止を求めていた。
これに対し裁判所は、次のように判断した:
支払いを禁止すれば、OEMメーカー、通信事業者、ブラウザ開発者を含むエコシステム全体に悪影響を及ぼす可能性がある
また、プロバイダーは支払いを受けなくてもグーグルの製品やサービスを使い続ける可能性があるため、支払いを禁止すると短期的にはグーグルに有利に働くかもしれないとも考えた。つまり支払いを禁止すれば「グーグルの独占的地位を逆に評価する結果になりかねない」ということだ。
譲歩3グーグルは、ナレッジグラフの全データを共有する必要はない
裁判所は、競合他社がナレッジグラフを再現できるようなデータをグーグルが共有する必要はないと判断した。
実際、この罰則は罪に見合わなかった。というのも、グーグルはナレッジグラフを「第三者のものを含め、●●件※を超えるデータフィードとパイプラインから」構築しており、ユーザーデータをめぐる自らの優位な立場を利用して構築しているわけではないからだ。
譲歩4グーグルは、学習データからのオプトアウトを許可する必要はない
司法省は、自社のデータが機械学習モデルの学習に使われないよう、パブリッシャーが選択的にオプトアウトできるようにすることを求めていた。
裁判所はこの是正措置について、「原告側の主張が不十分であり、生成AI分野で直接競合する他社(OpenAIを含む)の見解に依拠しすぎている」と判断した。
譲歩5グーグルが、Google広告でキーワードの類似パターンオプションを復活させることはない
僕の分析はオーガニック検索の方に重点を置いてきたが、キーワードの問題はペイドサーチの大きな障害となっていた。
基本的に裁判所はこの問題について、「変更から10年が経っており、オプションを復活させたとしてもその影響を測定するのはあまりに困難なため、この是正措置が現状にどう合致するかは不明」だと判断した。
この判決はSEO担当者にとって何を意味するか
まず、グーグルの独禁法違反に対する是正措置はいずれもすぐに実施されるわけではない。裁判所は実施と執行のための専門委員会を設置し、その活動期間は6年に及ぶ。現実的には、この委員会の設置に最大1年かかると裁判所は考えている。
次に、判決文にある「適格な競合他社」の定義は委員会が決めるが、次の2つは対象になる可能性は低いだろう:
- SEOツール提供会社
- 代理店
また、グーグルは間違いなくこのデータの共有に厳しい罰則を求めるはずなので、次の2つが大量に流出する事態にはならないだろう:
- 検索インデックス
- ユーザーデータ
独占状態が解消された場合、その影響が表れるまでには時間がかかる。裁判所が賢明にも指摘したように、デフォルトの検索エンジンであることの力は絶大だ。しかし、時間の経過とともに独占状態が解消されてデータ共有が進めば、競争が促されるはずだ。シンジケートデータが開放されれば、独自の機能で競争するサードパーティの検索エンジンが生まれ、消費者やマーケターの選択肢が増え、間接的にグーグル検索の仕組みもいくらか明らかになるかもしれない。
この独禁法訴訟では、グーグルの内部事情の一端がたしかに垣間見えた。最終判決にはいくつか興味深い情報が含まれている。次のようなものだ:
グーグルが1日に受けるクエリは競合他社全体の9倍、モバイルでは19倍に上る。グーグルが13か月で獲得するクリック・アンド・クエリ※データの量は、マイクロソフトであれば17.5年かかる
※訳注:ユーザーによる検索クエリの入力とその後のクリック行動
2020年時点で、米国におけるクエリ全体の約90%は、グーグルに流れる検索アクセスポイントを通じて入力されている。モバイル機器では、グーグルのシェアはさらに高い(95%)
グーグルのナレッジグラフ(中略)データベースは巨大だ。50億のエンティティと、それらをつなぐ5000億の関連情報が含まれている
グーグルは、今後の独禁法訴訟を回避することに強い意欲を示している。罰則を科される可能性があるからだけでなく、証言を通じてグーグル検索の仕組みが暴露される可能性があるからだ。
メータ判事は正しい判決を下したか
念を押しておくが、僕は弁護士ではない。個人的な見解として、メータ判事とそのチームは専門性が高く、誠実で、ときには度胸さえ見せたと思う。グーグルも判決後に「独占条項を撤回する」という賢明な判断をして、従う姿勢を示した。
僕はマイクロソフトとAT&T(愛称「マーベル」)の独禁法訴訟をどちらも覚えている年齢であり、是正措置が業界や米国経済全体に与える影響を予測することの難しさを、身にしみて理解している。また、裁判所が指摘したように、市場におけるグーグルの独占的地位のどれほどが、「投資とイノベーションによって正当に獲得」されたものか判断するのも極めて難しい。
裁判所は特に、「生成AI/大規模言語モデル(LLM)が検索分野にもたらす大きな変革に強い影響を受け、そこから新たな競争が生まれる可能性もある」と考えた。具体的には、生成AIが検索分野への投資急増を牽引していることを指摘し、次のように述べている:
この分野に流入する資金とその速度は驚異的だ
この点に異議を唱える人はほとんどいないだろう。
僕の見解が異なるのはここだ。僕は、裁判所がグーグルの独占的優位性について自らの論点を見失ったものと確信している。
OpenAIなどの競合企業はたしかに検索市場に変革をもたらし、検索のような機能を積極的に追求しているが、グーグルが依然として圧倒的優位をもつ要素として次のようなものがある:
- インフラ
- インデックス
- ユーザーデータ
グーグルは今なお機械学習やAIの分野でうらやましいほどの人材を維持しており、生成AI革命を牽引したトランスフォーマーや自己注意機構における画期的な取り組みを含め、この分野で重要なイノベーションを主導している。検索市場には生成AIの競合各社が乗り越えるべき巨大な障壁があり、メータ判事の判決は業界のほとんどの人のように、「AIへの過剰な熱気に左右された可能性」があると思う。
結局のところ、5年に及ぶこれほどの規模の訴訟が終わりを迎えたといっても、1件の判決で業界の構図が一変することは期待できない。今回の是正措置は重大であり、グーグルは今後、再び独禁法違反を疑われかねない行為には慎重になるだろう。
インターネット業界の基準から見ても、検索と生成AIをめぐる今後2~3年の動向を予測するのは不可能に思えるが、今回の判決は、揺れ動く均衡に大きな影響を与えることになると思う。
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