SEO×AI グーグルのSGEがオーガニック検索トラフィックに与える影響とは?【前編】
グーグル検索は常に変化している。最近の大きな変化の1つは、グーグルが検索結果に人工知能(AI)機能を導入したことだろう。
「Search Generative Experience(SGE:生成AIによる検索体験)」が、そのAI機能だ。ChatGPTなどのAIツールによってチャットインターフェイスが広く知られるようになったのを受けて導入された。
これまでもグーグルの検索結果に新たな機能が導入されたときに見てきたように、SGEがオーガニックトラフィックにさまざまな影響を与える可能性がある。SGEがサイトのオーガニックトラフィックに与える影響は、次の3つによって異なる:
- 検索意図
- ニッチキーワード
- オーガニック検索順位
この記事では、SGEについて説明するとともに、君のサイトが直面するかもしれないトラフィックの増減を推計できる君のGoogleスプレッドシートで利用できるテンプレートとその使い方を、ステップバイステップで紹介する。
それでは詳しく見ていこう。
グーグルのSGEとは
グーグルのSGEは、AIで生成された回答が検索結果に組み込まれる実験的な機能だ。
SGEの結果はウェブソースに基づいており、それらの情報から検索クエリへの簡潔な回答が生成される(SGEの結果には、ソースへのリンクが含まれる)。検索結果での表示は次のようなものだ:
これらの検索結果には、あらかじめ追加の質問も組み込まれており、グーグルのAIに質問できるほか、自分で考えたプロンプトを入力することもできる(今では見慣れたチャットインターフェイスだ)。
次の図は、「Domain Authority(ドメインオーソリティ)」というトピックのSGE表示例だ。解説の下に、
- ドメインオーソリティが低いと被リンクに悪影響がある?
- ドメインオーソリティとドメインレーティングのどちらが重要?
といった追加の質問があらかじめ表示されていて、クリックすると新たに独自の回答が得られる。
注意すべきは、AIによる回答がすべて完全に正確だとは限らないことだ。
この例でいうと、ドメインオーソリティはリンク中心の指標であり、コンテンツの質とは関係がない。しかし、SERPに表示されている解説ではドメインオーソリティをコンテンツの指標だとする混乱が生じており、「検索エンジンはドメインオーソリティを使って表示順位を決定している」との誤った記述がある。僕たちの知る限り、これは正しくない!
SEOにとってグーグルのSGEはなぜ重要なのか
SGEがSEOに与える影響について考えてみることは重要だ。なぜなら、SERPの変更やアルゴリズムの変更と同様に、SGEもSEOにとって「リスク」と「チャンス」をもたらすからだ。SGEは、次のどちらにもなり得る:
SGEは、グーグルが検索を自社のエコシステム内にとどめる手段である
SGEは、SEO担当者に探求して最適化してもらうための新たな「機能」を提供する手段である
これまでにも、グーグルが検索結果ページ(SERP)に表示するさまざまな機能(SERP機能)を導入したことで、ウェブサイトのオーガニックトラフィックに影響があった例を、僕たちはすでに見てきた。たとえばSERP機能としてナレッジカードが導入されたことで、ゼロクリック検索の増加をはじめとして、オーガニックトラフィックのリスクにつながった。
こうした動きを整理すると、次のような流れがある:
グーグルは、SERP機能を増やすことによって、検索結果でユーザーに表示する情報の量を次第に増やしてきた(しかも検索結果リストの上に表示する)。
そのため、ユーザーが検索結果リストの項目をクリックすることなく検索意図を充足することが増えた(つまり、ユーザーが検索策結果リストをクリックする必要性が徐々に減っていった)。
それにより、ユーザーはグーグルのサイトにとどまって、買い物をしたり、航空機を予約したり、リスティング広告をクリックしたりするようになった。
そして今度は、ユーザーがAIとやり取りできる機能が加わった。
少し脅すような表現になってしまったが、悪いことばかりではない。SERP機能と同様、SGEの結果もオーガニックトラフィックにプラスの影響を与える可能性がある。というのも、現時点で検索結果に表示されないキーワードに対して生成されるSGEの回答に自分のリンクが含まれていれば、まったく新しいトラフィックを獲得できるチャンスがあるからだ。
グーグルのSGEによる検索結果は、検索結果ページ上で縦方向に大きなスペースを占める。トップニュースの記事や著名人の名前を検索した場合に表示される巨大なナレッジパネルを除けば、検索結果でこれほど目に付くSERP機能はこれまで見たことがない。グーグルはまた、同じSERPでナレッジパネルとSGEの要素を組み合わせている。
次の例では、検索結果でナレッジパネルの上にAIで生成された回答を表示できる:
検索結果にSGEの回答が表示されるようにするには
検索結果にSGEの回答が表示されるようにするには、グーグルアカウントを取得し、Search Labsに登録したうえで、SGEを有効にする必要がある。
Search Labsに登録しても、すべての検索でSGEの結果が表示されるわけではない。これは、そもそもこの調査をしたかった理由の1つであり、目的はSGEが最も重要なキーワードに影響を与えるかどうかを理解することにある。
SGEがサイトのオーガニックトラフィックに与える影響を判断する方法[テンプレート]
SGEがサイトのオーガニックトラフィックに与える影響を判断するには、SGEが上位のキーワードにどのような影響を与える可能性があるかを調査する必要がある。
ここから、このSGE影響モデルを構築するためのステップを次の順で説明する:
- オーガニック検索におけるCTRの想定値を算出する
- SGEにおけるCTRの想定値を算出する
- サンプルキーワードを決める(後編)
- SERPを分析し、SGEの表示状況を記録する(後編)
- オーガニックトラフィックの増加・減少を予測する(後編)
- 定期的に確認する(後編)
そのうえで、SGEの回答に対してサイトをどのように最適化すべきかを解説していく(後編)。
僕たちがこのツールを作成した目的は、SGEがMoz自身のオーガニックトラフィックに与える影響を予測したかったからだ。
SGEの導入については、Search Labs内でテスターたちが実験を重ねているだけでまだ不確実な面があるが、僕たちは多様なシナリオに対応するオーガニックトラフィックの予測に備えたかった。そのため
- 楽観的なシナリオ(SGEが段階的に廃止される)
- 悲観的なシナリオ(グーグル検索でSGEが全面的に導入される)
のように、さまざまなシナリオでSGEの影響を予測しようと試みた。
この実習と無料テンプレートが、ウェブサイトのトラフィックに対するSGEの潜在的な影響について理解を深めるのに役立つことを願っている。
ではまず、方法論から見ていこう。
ステップ1オーガニック検索におけるCTRの想定値を算出する
まず、SGEが導入されていない現在のSERPにおけるクリック率(CTR)について、想定値を算出する必要があった。これはキーワードのベースライン設定に役立つほか、SGEを含む検索を取り入れる際の測定基準になる。
CTRのベンチマークを最も手っ取り早く設定する方法は、Advanced Web Rankingの例のようなCTR調査の結果を使うことだ。これは、自ら調査しなくてもデータに裏打ちされた想定値を算出できる優れた方法だ。この調査では2015年からCTRデータを収集しており、この記事を書いている時点では2024年2月に更新されている(テンプレートには、あらかじめこの数値を記入してある)。
Google Search Consoleで、パーソナライズされたCTRの想定値を算出する
一般的なCTRを使うのではなく、自分のサイトに合わせてもっと独自のベンチマークを作りたい場合、Google Search Consoleは、サイトのCTRを順位別に把握するための、すばらしいソースとなる。少し追加のステップがあるだけで、やり方は簡単だ。
まず、Google Search Consoleアカウントにログインし、[検索パフォーマンス]>[検索結果]の全データを、次のいずれかにエクスポートする:
- Googleスプレッドシート(僕だったらこれを使う)
- Excel
- CSV
エクスポートしたデータでは、掲載順位が小数点第2位まで入っているので、平均値を計算しやすくするために整数にしておく。スプレッドシートにデータを取り込んだら、小数点第2位まで表示される「掲載順位」列を四捨五入して表示するための新しい列を作成する。これにより、1~10位までのわかりやすい一覧にして作業できる。GoogleスプレッドシートではROUND
関数を使えば簡単だ(1行つくったらあとはコピペでも自動入力でもいいので、全行を整数にしておく)。
「掲載順位(四捨五入)」列ができたら、ピボットテーブルを作る。スプレッドシート上で、「掲載順位(四捨五入)」列から「CTR」列を選択した状態で、メニューから[挿入]>[ピボットテーブル]を選ぶ(ピボットテーブルは新しいシートに作るほうがわかりやすいだろう)。
ピボットテーブルエディタで「掲載順位(四捨五入)」を行に、「CTR」を値に追加する。値を「AVERAGE(平均)」で集計するのを忘れないでほしい。次のように、「掲載順位(四捨五入)」の1~10のみを含めるフィルタを作成してもいい。
次のようなCTR想定値のテーブルができたら、自分のサイトに合わせてパーソナライズされたCTR分析として有効だ。
ブランド名を含まない場合のCTR想定値のみにしたい場合は、ピボットテーブルを作成する前に、エクスポートしたデータからブランド検索キーワードの行を削除しておけばいい。ただし、SGEの影響を調べるこの実習では、SGEの調査にブランド検索キーワードも含めることを推奨する。そうすることで、自社の製品名やブランドの強みを含むウェブサイトの全範囲にSGEが及ぼし得る影響を把握しやすくなる。
1位~10位のオーガニックCTRベンチマークを設定したら、モデルの「CTR想定」シートのB列に貼り付ける(デフォルトではAdvanced Web Rankingの値が入っているので、上書きする。わかりやすいように見出しも「CTR想定(自社データ)」などにしておくといいだろう)。
ステップ2SGEにおけるCTRの想定値を算出する
ここでは少し工夫が要る。この記事を書いている時点では、Google Search Console内でグーグルのSGEにおける、次の3つ数値を確認できない:
- クリック数
- 順位
- CTR
こういったデータは、現時点でBingのAIにおける同様の機能でも提供されていない。SGEの回答からサイトの正確なCTRを判断できないため、独自の想定値を算出する必要がある。
一般に提供されているグーグルのツールの中にSGEのCTRデータはないが、ナレッジカードなど他のSERP機能のCTRを測定した調査はいくつかあり、これらを参考にするといい。
既存のナレッジカードと新しいSGEインターフェイスにはいくつか大きな違いがあるが、類似点も多い。これらの機能はどちらも通常、従来の「青いリンク」によるオーガニック検索結果の上に表示される。どちらも、本来ならオーガニックリンクが表示される画面領域を占有する。どちらも、ユーザーがウェブサイトへのリンクをクリックできるようにしながら、そうしなくて済む情報をSERP内に表示する。
■SGEのCTRシナリオ
SGEの楽観的なCTRシナリオ
ナレッジカードの導入後にMozが調査したところ、1ページ目のナレッジカードの平均CTRは12.68%だった。僕たちの実験では、これをSGEのCTRの楽観的な想定値にした。
このシナリオで、SGEの結果はユーザーがグーグルから第三者のウェブサイトへ移動する際によく使われる経路であり、SGEの結果に表示されるカルーセル内の各リンクから、獲得可能なトラフィックのかなりの部分が得られる。そのため、Moz.comのキーワードに対するSGEの影響分析では、CTR想定値の上限を12.68%にした。この値はテンプレートに組み込まれている。
これにはどの程度の可能性があるだろうか。僕の意見では、あまり高くない。しかし、だからこそこれが想定値の上限となる。
SGEの悲観的なCTRシナリオ
SGEの悲観的なシナリオでは、12.68%という楽観的なCTRがAIによる結果で最大10本のリンクによって希釈される可能性があると想定した。SGEの回答には、いずれもリンクが3~10本含まれていることを確認している。
SGEが表示されている場合の、SGE以外のCTR低下
オーガニックリンクは、オーガニック検索順位の1ランク分に相当するCTRを失うと仮定する。つまり、SGEボックスが表示されている場合、1位のキーワードのCTRには、表示されていない2位のキーワードのCTR値を用いるということだ。この場合、「CTR想定」シートのB列に読み込んだベンチマークによれば、1位のキーワードに対して想定されるCTRは32.01%から14.66%に低下する。
こうした調整を加えることにしたのは、ナレッジカードが表示されている場合も同様にCTRが低下する傾向が見られるためだ。
■SGEに表示されるリンクのCTRシナリオ
現時点で、検索結果におけるSGEのビジビリティに関しては、3つの可能性がある。ユーザーにデフォルトでAIの回答を表示するか、あるいは手動で表示するよう促されるかによって、想定されるCTRを調整する必要がある。
パターンは次の3種類だ:
- 自動のSGE
- オプションのSGE
- SGEがない場合
自動のSGE
これは、クエリ検索するとすぐにSGEボックスが自動的に表示される場合だ。
テンプレートのF列「SGEに表示されるか?」列が「Yes」になっている場合は、上述したSGEに対するCTRの想定値をそのまま使用する。
オプションのSGE
オプションのSGE結果は、「デフォルトではSGEは表示されないが、生成可能な場合に検索結果の上部に生成用のボタンが表示される」もの。必ずボタンが表示されるわけではない。
テンプレートのF列「SGEに表示されるか?」列が「Optional」になっている場合は、ユーザーの約半数がSGEの回答を生成することを選ぶと想定して、楽観的なCTRと悲観的なCTRの予測を自動的に半分に減らしている。この想定はテンプレートで変更することもできる。
SGEがない場合
キーワードに対してSGEの結果が表示されず、SGEを生成する機能もない場合、このモデルによるとCTRへの影響はない(F列「SGEに表示されるか?」が「No」の場合)。
SGEの結果が“表示されない”キーワードを把握することも、AIの回答に合わせた最適化にかける時間を効率化できるという点で、同じくらい有益だろう。
想定値に関する注意事項
これらの想定値は、個々のモデルで自由に使ってほしい。あり得ない値と感じたら、それは数年後にわかることかもしれないが、無視してもらって構わない。無料のテンプレートを使えば、オーガニック検索とSGEのCTRのどちらの想定値も簡単に変更できる。
この実習の目的は、一般ユーザーがSGEをどう利用するかを完璧に予測することではない。どう使われるかはまだわからないが、グーグルの検索結果に対する過去の変更から得たデータを指針にできる。
この実習の狙いは、自分にとって特に重要なオーガニックキーワードのうち、導入が見込まれるこの機能によって影響を受ける可能性があるキーワードはどれかをいち早く把握することだ。このモデルはさらに、さまざまなSGE導入シナリオで直面する可能性のあるトラフィックの減少(または増加)の方向性を示すことにもなる。
この記事は、前後編の2回に分けてお届けする。後編では、SGEがオーガニックトラフィックに与える影響を予測する方法を説明し、加えてSGEに向けたサイトの最適化について考察する。
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