ビジネスに役立つSNS

Twitterはこれからどうなるのか? 企業・自治体の今後の運用を考える

イーロン・マスク氏に買収されたTwitter(現X)は、今後どうなるのか? アユダンテ代表取締役の安川洋氏とITジャーナリストの高橋暁子氏がこれからのTwitterの可能性について議論した。

2022年秋にイーロン・マスク氏が買収した後に、APIの制限が掛かるなど何かと話題になってきたSNS「X」(旧Twitter、記事内ではTwitter表記とする)。2023年6月に元NBCユニバーサルの広告担当責任者だった、リンダ・ヤッカリーノ氏が新CEOに就任し、新たな事業展開を見せています。

日本では瞬間ツイート数で世界記録を持っていたり、月間アクティブユーザー数が4500万UUに達していたり、非常に愛されているSNSでもあります。そんなTwitterを「どの企業も活用すべき」と語るのは、企業向けTwitterクライアント「つぶやきデスク」を提供するアユダンテ代表取締役の安川洋氏とITジャーナリストの高橋暁子氏。これからのTwitterの可能性について議論しました。

(左から)アユダンテ代表取締役 安川洋氏、ITジャーナリスト 高橋暁子氏

Twitterの唯一無二のポジションニングは変わらない

――SNSとしてのTwitterについて、お二人はどのように見ているのでしょうか?

高橋: Twitterは唯一無二のSNSとしての地位を築いていますよね。イーロン・マスク氏の買収や仕様変更などがあるたびに、毎度ユーザーからは「無くなったら困る」と言われ、「次のTwitter」が取り沙汰されますが、そもそも「みんなで引っ越し」とはなっていません。

たとえ乗り換えしたとしても、そのSNSにはまだ人は少ないし、Twitterでのみつながっている人とつながれなくなってしまうなどの問題があります。Twitterはもはやネットワーク。必要としている方が多く、熱烈に愛されているSNSです。

最近Treads(スレッズ)が話題になりましたが、見た目こそ似ているものの、Instagramの人間関係と紐づいているので、やはり乗り換え先とはならず、別物として使われていくと考えています。

安川: Twitterはリリース当初からその構造が変わっていませんよね。140文字でつぶやくタイムラインがあり、フォローするとその人のツイートが見られて、時系列に呼応してタイムラインが流れてくる。デザインもほぼ変わっていません。近年、月額有料サブスクリプションの「Twitter Blue」が登場し140文字の制限が撤廃される、といった多少の変化はありますが、多くのユーザーに変わらず使い続けられているSNSは本当に稀有な存在ですよね。

高橋: 私が教鞭を執る大学の学生たちをはじめとしたZ世代は、「コストパフォーマンス」「タイムパフォーマンス」を重視します。いかに短時間で濃い情報を得られるかで行動を決める。映画や動画サイトも2倍速で見ていたりしますが、彼らが特に重宝しているSNSの一つがTwitterです。有限な時間のなかで、フォローを絞れば20~30のツイートで、欲しい情報が一気に手に入る。必要としている“知りたい情報”を“無料”で得られるメディアがTwitterなのだと思います。

安川: もう一つ、Twitterがこれだけ日本人から利用されている背景に「既存メディアの限界」があると思います。テレビ、新聞などの旧来のメディアは一定の文脈の上で決まった報道をしています。それがときに、フェイクニュースを産み、朝日新聞のサンゴ礁落書き捏造事件のような信頼を揺るがす出来事が起こってしまう。その点、Twitterは個人や企業が自身について直接発信できるツールで、しかも読み手は情報のサマリーも入手できるので、信頼できる情報か否かを判断しやすいです。

高橋: Twitter新CEOのリンダ・ヤッカリーノ氏は、就任に際して「広告への改革」にも言及しています。これらの変革は広告主に「より安心して堂々と出稿できるプラットフォーム」として期待を持って良いのではないでしょうか。

安川: メディア出身のヤッカリーノ氏がCEOに就任したということは、Twitterはコンテンツを充実させる方向になるのではと思います。今後、ニュースが動画で見られたり、コミュニケーションツールとしての側面をさらに強めたりする可能性があります。加えて、サブスクリプションモデルも強化していくのだと思います。いずれにしても、今後の施策に注目ですね。

アユダンテ代表取締役 安川洋氏

個人の声を拾えるから、地域貢献や社会活動にも活用される

――SNSとしてTwitterが優れている理由について、お二人の考えを聞かせて頂けますか?

高橋: Twitterでは誰しも分け隔てなく発信ができます。その個人の声を拾えるのもTwitterの大きなメリットですよね。海外ではTwitterをきっかけに民主化運動である「アラブの春」につながったり、ハラスメントを告発する「#MeToo」運動につながっていたりします。この意義は大きいですよね。

また、災害でもTwitterは重宝されてきました。東日本大震災の際にも電話がつながらなくても、Twitterでつながって「どこ地区がどんな被害に遭っているか」という一次情報を得られたり、助けを発信できたりできました。

安川: 家族同士の安否確認はメッセンジャーアプリでもできますが、広い範囲に発信できるのは強みですよね。自治体でもTwitterの公式アカウントを運用することが推奨されています。

Twitterは発言の炎上が多い!? 企業はどう炎上対策をすればいい?

――「Twitterは炎上する」というイメージもあり、個々の対応についてメディアが報じているケースもあります。Twitterにデメリットはないのでしょうか?

安川: Twitterのデメリットをしいて挙げるとすれば、なりすましアカウントが発生して、悪用される恐れがある点でしょうか。ただ、それはどのSNSにも言える事象だと思います。呟いたことが意図した内容ではなく、曲解されて誹謗中傷に晒されるリスクもあるのですが……。それでも使うメリットが大きいからこそ、これだけ世界中で利用されているのでしょうね。

高橋: 企業が誹謗中傷や炎上を恐れる理由はよく分かります。メディアやステークホルダーに対しての謝罪対応は本当に骨が折れますし、海外では不買運動につながるケースもあります。会社の信用を傷つけるような出来事はサラリーマンとしては想像したくはありませんよね。

ただ、怖がるだけではいけないと思います。よく私は「Twitterは料理における刃物」と表現します。失敗すると怪我をしてしまう可能性があって怖いモノですが、上手く使えれば美味しい料理ができあがります。炎上を必要以上に恐れることはありません。多くの企業は誠実に対応して、その対応が逆にファンを増やすこともあります。

たとえ小さな炎上が起きてしまっても、企業アカウントはなくならず、受け入れられ続けています。それまでにフォロワーさんとしっかりとした信頼関係が築けているのであれば、自浄作用が働くと思います。ですから、Twitterの運用では素直に発信をすることをオススメしますね。

ITジャーナリスト 高橋暁子氏

つぶやきには人柄こそが、共感を生む

――企業や自治体がTwitterを運用する際にはどのようにしていくのが良いでしょうか?

高橋: Twitterというメディアの性格を理解して関係を作ることですよね。一つは人柄を出して、真面目にきちんと発言すること。これは人付き合いと同じことですね。自分の人となりが相手にも伝わることが大切です。アカウントを通じて人柄が分かれば、共感してフォロワーになり、ファンになりやすい。

企業のTwitterを見ていると、一方的に発信したいことを呟いて「もったいない……!」となっている例は多いように思います。防災にしても、身の回りのモノで作れる防災グッズを紹介したり。ハザードマップで危険な箇所を紹介したり。「あ、これは役立つな」と思ってもらえるための、一工夫が重要ですよね。

安川: 企業も同じですよね。プレスリリースの情報は企業が発信したいことが詰まっていますけど、ユーザーの欲しい情報をまとめて、その商材やサービスで「何が得られて、どんな困りごとが解決されるか」といったメリットがわからないと、どのメディアも取り上げません。その構図はTwitterも同じです。

Twitterでは上述のメリットに加えて、「楽しい」という要素が含まれます。それは大きな価値ですよね。楽しそうに見えれば、そのアカウントをフォローする理由になります。どんな企業にも必ず「この分野では」という一家言があるはずですから、そこに没頭している姿を見せられるとユーザーは「面白い!」と思いますよね。プレスリリースをそのまま同じ内容でもう一度Twitterで流す必要はありません。140文字のフォーマットに合わせてわかりやすくして、写真を使うといった工夫が欲しいですよね。

高橋: 自治体のアカウントでも、面白ネタを中心に動画や防災につなげていく投稿もありますよね。そんな情報があると「中の人、(Twitterのことを)わかってるな~!」と思いますよね。業務的にアカウントを1人で運用するのが難しい場合には、あらかじめニックネームなどを決めて複数人で運用するのも手だと思います。「チームで運用している」とユーザーに理解されれば、誠実さも伝わり「チーム感」や「会社の雰囲気」も伝わると思います。無理をしないで、運用することも大切です。

それから、重要なのはTwitterを使うときには専用の「ツール」を使うこと。複数人でアカウントを運用する際には特に必須だと思います。どうしても、リーチしたい層が一番Twitterを見ているのが通勤時間帯の朝7時台やお昼休憩の12時台となれば「予約投稿機能」が求められますよね。

専用ツールを使えば上長とメンバー間で投稿の「承認」なども容易になります。メンバーの異動などがあっても、権限の削除/追加が簡単にでき、効率化を考えたら必須だと思います。それこそ、“タイムパフォーマンス”である“タイパ”がいい投資になると思いますよ。

企業がアカウントを運用する場合、目標はどうする!?

――企業がTwitterアカウントを運用する際には「数値目標」などを置くケースもあると思いますが、どのようにすれば良いでしょうか?

安川: 経営者としての立場からみれば、「ちゃんと数値化して見える指標を追う」という論は理解できます。ただ、フォロワー数をKPIに置くのは違うように思います。フォローやリツイートが多ければ多い方がいいわけではない。長い目で見ることが大切ではないでしょうか。

高橋: Tweetのインプレッション数など色々な数字はありますが……。それを目標にすることで、「何が何でも達成しなきゃ」となって、何のために運用しているのかわからない状態に陥っている企業を数多く見てきました。インプレッション数の多さではなく、大切なのはエンゲージメントだったり、少数のリピーターを育てていくことだったりする。数字を追うことはわかりやすいですが、本来の目的と乖離することもあり、難しい面がありますよね。

まずはTwitterを使ってたくさんフォローしてみよう

――「SNSは不特定多数の目に触れて炎上するリスクが高いから駄目」といった意見が社内からあるかもしれません。そんな場合はどのようにしたら良いのでしょうか?

高橋: 運用が大変だからか、「このアカウントは発信専用で返信はしません」と書いてあるアカウントとかもありますよね。コンプライアンスを維持するための対応かもしれませんが、Twitterを通じて双方向のコミュニケーションのすばらしさを経験できないとこのような対応になってしまうのかもしれません。

安川: そもそもTwitterがどんなSNSなのか、勉強会を開いてみることから始めてはいかがでしょうか。また、「不特定多数に見られて炎上するリスクが…」という人は、TwitterやSNSをやったことがない人が多いはず。まずは、自ら使ってみてもらうことをお勧めします。

高橋: 使い方として、知り合いを30人程度フォローしているだけではTwitterの面白さはわかりませんよね。スペシャリストを数百人フォローすれば新聞の代替になります。事件が起きてニュースが入ってきたら、その次の瞬間にはもう専門家の解説情報がタイムラインに流れてきます。うまく使えば、テレビや新聞の報道よりずっと早く良質な情報を得られますよね。

――フォローする人やアカウントでオススメなどはあるのでしょうか?

高橋: 自身と似た属性の方が良いのではないでしょうか。企業であれば、同規模の同業他社のアカウントは参考になるはずです。自治体の場合は自分の住んでいる地区の企業や、議員さん、著名な出身者をフォローしておくと、その地区の濃厚な情報が入ってくるでしょう。まったく違う自治体のアカウントなども、きっと運用の参考になるはずです。

Twitterには企業アカウントも沢山あり、中には数十万人単位でフォロワーを得ているアカウントもありますから、勿論参考にして、真似できる点はぜひ真似て自社の発信に使ってみるべきです。

安川: 以前、南アフリカのKFCでプロポーズしたカップルを、KFCの公式アカウントがツイートをしたところ、「KFCでプロポーズなんて」と揶揄したジャーナリストがいたそうです。それに対して、マクドナルドやアウディ、プーマなどの名だたる企業がお祝いの提供を申し出て心温まるエピソードになったことがありました。SNSでは色々な企業同士のつながりがあり、手を差し伸べることができる。わずかなお金と手間で、これだけポジティブな感情を抱けたら、費用対効果としても絶大ですし、メディアにも報道されて残ったり、働くメンバーにとっても「こんな企業で働けて嬉しい!」と誇りを持つことにもつながっていきます。

高橋: タイムライン上のムーブメントに乗っかってツイートするのはTwitter上級者編かもしれません(笑)。そこまでの領域になると、脊髄反射で大喜利ができる要素も必要なので、向いている人いない人が出てくるでしょうね。とはいえ、発信をして返信が来たら、更に一言返したり、「いいね」を返したりと、双方向のやりとりになるとよいですよね。

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