「97,000,000(千円)」を速読できる?今さら聞けないマーケター必須の算数とは
「統計学を活用したいけど、実は算数がよくわかっていないんです」。心当たりある方もいるだろう。タイトルの「97,000,000(千円)」は「970億」であるが、速読できただろうか。
「Web担当者Forumミーティング 2022 春」では累計受講者数が2万人を超える「大人向けの数学教室」を主催する和から株式会社の堀口智之氏が登壇。割り算(%)や大きい数の読み方など、今さら人に聞けない算数をレクチャー。必須事項を押さえつつ、マーケターに必要な指標LTV(顧客生涯価値)の算出方法を解説していく。
数字に強い人とはどんな人?
「大人向けの数学教室」を主催する堀口氏は授業を重ねるなか、数学というより算数を苦手としている人が非常に多いことに気付き、6年前から算数や数字に力を入れて教育をおこなっている。当セッションでは最初に参加者に向け「数学への苦手意識はどのくらいからはじまりましたか」というアンケートを実施した。
【結果】
- 特に苦手意識はもっていない 11%
- 小学校くらい 24%
- 中学校くらい 26%
- 高校くらい 35%
- 大学・社会人になってから 4%
この結果からも多くの情報を読み取れるという。たとえば「特に苦手意識はもっていない=11%」は、およそ9割の方はなんらかの苦手意識を持っていることを意味する。「小学校くらい=24%」「中学校くらい=26%」は、それぞれ4人に1人を意味し、「大学・社会人から=4%」は25人に1人を意味する。
「『%』を見てどのように解釈するかはマーケターにとって重要な能力」と指摘し、「数字に強いと誇れる自分になってもらいたい」と堀口氏。そして以下の問題が出題された。
15×20=?
もちろん簡単と思う人も多いだろう。しかし、桁を間違えてしまう人もいる。30? 300? 3000? 答えはどれだろうか。ピンとこない方、まずは20の右側にある0に注目。この0を15にシフトさせると「15×20」が「150×2」となる。150円が2つで300円と考えられるように、ほとんどの人が「300」と即答できる。
このように我々は数字に意味を持たせることによって、答えを直感的に測ることができ、ひいては数字に強いといえるようになります(堀口氏)
「数字に強い人」の3つの特徴
「数字に強い人」とはどういう人だろうか。堀口氏は3つの特徴を語った。
①物事を数字でとらえられる
マーケティングやWEBサイトの運営において、数字そのものにはあまり意味がなく、その数字をどう捉え、どのように解釈・意味付けするのかに価値があるといえる。
②コミュニケーションに数字を交えて回答できる
たとえば「1%ぐらいコンバージョンが下がったよね」と言われたときに「1%ってどれくらいなんだろう」と瞬時に頭の中で概算できる能力だ。
③数字に対しての強い自信を持っている
「自分の答えは合っている」と確信をもっている。それは、数字に意味をもたせているからであり、そのために必要なセンスを「データセンス(大人に必要な数的感覚)」と堀口氏は名付けている。
データセンスのあるマーケターになるために、押さえておきたい数学は「割り算(%)」と「大きい数」であるという。特に割り算は重要であり、WEBサイトを運営していくうえでは、避けて通ることはできないと強調する。
最低数学①:「割り算(%)」を理解しよう
堀口氏はコンバージョン率について「訪問者数を割るの? それとも訪問者数で割るの?」という質問をよく受けるという。
コンバージョン率はレポートなどに最初から計算されているため、計算方法を知る必要はないが、「どちらをどちらで割るか」を間違えるとまったく答えが異なるため理解しておいてほしい。
ここで例にあげられたのが「隣の芝生は青い」という言葉。これは「自分の家」を基準として「隣の家」と比べた際に「自分の家よりも隣の家の芝生の方が青い」ということを意味している。割り算に表すと以下になる。
隣の家÷自分の家=自分の家よりも青い
このように割り算はあらゆる日本語の中で表現することができる。例えば「青い」の代わりに「美しい」「おもしろい」などを使っても可能だ。基準になるものが分母、それに対して言いたいものが分子に相当する。
割り算には3種類の意味がある
割り算は「分ける」ことだと理解している人が多い。たとえば「12個のクッキーを3人で分けると1人4個ずつ」といった例だ。これは「12÷3=4」という非常にシンプルな数式で表現できる。
だが、割り算には「分ける」以外にもう2つの意味があるという。
- 分子は、分母何個分か
- 分子は、分母を1とするとどのくらいの量か
当セッションでは、マーケティングで最も重要となる「分子は、分母を1とするとどのくらいの量か」に注目して学んでいく。
堀口氏は「売上成長率」を例に取る。「今年の売上は12億、去年は10億でした。どのくらいの売上成長率でしょうか?」といった問題だ。
答えは「1.2」と簡単に出てくるが、「分ける」で解釈すると「12億を10億人で分ける?」となってしまい意味をなさない。
そこで分数で考えてみる。「12億÷10億」を「10億分の12億」と捉えるのだ。先程の「隣の家の芝生は青い」の例にならうと、分母が「基準」で上にあるものが「言いたいもの」ということだ。
では、この売上成長率である「1.2」という数字はどういう解釈になるのだろうか。
「10億分の12億」を計算して「1分の1.2」となり、分母の「1」を省略して最終的に「1.2」。つまり、去年の売上が「1」だとすると今年の売上は「1.2」、去年からの増加は「0.2」となり、これは売上成長率が20%という解釈になるのだ。
以上を頭に入れたうえでコンバージョン率を考えていく。
コンバージョン率は、どう求める?
コンバージョン率は、WEBサイトの訪問者のうち、購入・問い合わせ数の割合を表す。
購入・問い合わせ数だが、同じ100件の購入でも、「100アクセスに対し100件購入された場合」と「1億アクセスに対して100件購入された場合」とでは全く意味が異なる。前者の方が購入を促してくれる良いWEBサイトである。したがってコンバージョン率は、WEBサイトの訪問者数を基準に置き、「購入・問い合わせ件数÷WEBサイト訪問者数」という数式で表す。
「小数」や「%」を理解する
このように割り算を活用していくと、必ず「小数」や「%」という概念が出てくる。たとえば「0.04」という小数は「4%」に相当する。では、なぜ小数を%に直す必要があるのだろうか。
我々が物事を認識するとき、そもそも1よりも小さいものは認識しづらいのです。たとえばスーパーでリンゴを買うとき、1個、2個ならわかるけど、0.1個、0.2個買いますってちょっと意味がわからないですよね。ですので普通に1、2、3……と、数えられるものにしたいんですよ(堀口氏)
堀口氏は「“%”は小さな微生物を観察する際に使用する100倍の虫眼鏡のようなもの」と喩える。
「100倍というのは小数点を右に2つ動かすこと」であり、拡大した印に末尾に「%」を付けるという解釈だ。「0.04」と「4%」は同じ意味だが後者の方が認識しやすいのは一目瞭然だ。
「1%」をどう捉える?
堀口氏はさらに「%」という概念について考察を深めていく。
「1%」というのは、あることが100回起こったときに1回その出来事が起こることだ。例えばWEBサイトに100人訪問者があり、そのうちの1人が購入した場合、1%(1/100)の確率になる。
「2%」は「1%」の2倍。つまり50回何かが起こった時に1回その出来事が起こる。同様に「3%」は33回に1回、「4%」は25回に1回、「5%」は20回に1回となる。
この50や33がどのように導き出されたかは非常に簡単で、分数に直してみればよい。例えば「2%」は100回中2回(100分の2)のことなので「50分の1」になる。「このような感覚が身につくと%に対して実感が湧いてくる」と堀口氏。
また「3%」「4%」というのは、月に1回起こることだと解釈できる。では「1%」はどのくらいの確率なのだろうか。
堀口氏は「1年365日の中で、3、4日は雪や台風などで電車が止まりますよね。これがだいたい1%の確率です」と説明。
つまり1%というのは「ほとんど起こらないけど絶対起こらないとは言えない」というくらいの確率である(もちろんこの解釈は起こる事象によって違うので「1%はかなりよく起こるよね」という人もいる)。
0.1%は「何人中1人」?
「%」と「○人中1人」の関係も是非覚えていただきたいと堀口氏は解説を続ける。
例えば「10%」というのは「10人中の1人」、「1%」というのは「100人中1人」のことだ。さらに「0.1%」はそこから一桁下げて「1,000人中1人」。
WEBサイトのコンバージョン率は「1%」を切ることもあるので「1,000人中1人」というのは覚えておく必要がある。また「0.01%」すなわち「10,000分の1」に関しても、チラシの反応率などでは普通の数字だ。
1,000分の1が0.1%、10,000分の1が0.01%というのは覚えておくべきと堀口氏はポイントを挙げる。
さらに応用で、0.02%は「何人中1人」だろうか。
先述した「0.01%=1万人中1人」を応用すると、「0.02%」は「0.01%」の2倍、つまり「10000分の2」ということがわかる。これを約分すると「5000分の1」、つまり「0.02%」は「5000人中の1人」という意味になる。
最低数学②:「大きい数」を素早く読もう
次のテーマである「大きい数」についての解説。
「1000」「10000」くらいまでは誰でも普通に読めるだろうが「1000000000000」といった「大きい数」になるとなかなか難しいのではないだろうか。
そこで注目したいのはカンマ( , )。カンマは3桁ごとに打つルールになっているので、それぞれ新しくカンマが増えるときの数だけを覚えておくと、大きい数を速読できる。
「1,000」「1,000,000」「1,000,000,000」「1,000,000,000,000」 をそれぞれ読んでいくと「千、百万、十億、一兆」となる。これを覚えてしまうのだ。それだけで大きな数が劇的に読みやすくなるという。
「97,000,000(千円)」はいくら?
例えば「97,000,000(千円)」という数字を見てみよう。
決算書類などではこのように最後に(千円)といった表示になっていることが多く、「一番右側の0が千」ということを意味している。指で一桁ずつ「千、万、十万、百万、千万、一億、十億、百億」と数えて「970億」と読むことはできるが、それではスピードが遅いし、数え間違うこともある。何回か繰り返し指で数えないと絶対に合っていると確認を持つことも難しい。
そこでカンマの位置を確認しながら、速読してみよう。
まずいちばん右にある「0」に指を置く。これが「千」だ。
次にカンマの左側の「0」に指を置く。これが「百万」。
その次に2個目のカンマの左側、「7」のところが「十億」になる。
最後は「十億」の隣なので「百億」。これで「970億」と簡単に読めてしまう。
大きい数を扱う際に覚えるべき数字は『千、百万、十億、一兆』。覚えられないよ、という方は、紙に書いてトイレの入口や洗面台に貼って毎日見てください。これだけで覚えられますので、ぜひ数字に強くなっていきましょう(堀口氏)
とは言え大きい数はとても読みづらいことは堀口氏も認める。
その理由は日本語の桁の数え方にあるという。日本は「万、億、兆、京」とゼロが4個ずつ増える万進法が採用されている。だが、カンマはゼロが3個ずつになっている。これは「Thousand(千)、Million(百万)、Billion(10億)、Trillion(一兆)」にそれぞれ対応しているためだ。
応用問題:顧客生涯価値(LTV)を求めてみよう
最後に応用問題として、LTV(Life Time Value)と呼ばれる「顧客生涯価値」の算出方法を解説。顧客生涯価値とは、1人の顧客が生涯に渡ってどのくらいサービスの売上に貢献するかの指標のこと。NetflixやAmazon Primeのような毎月定額を支払うサブスクリプサービスの売上を計上する場合は以下の数式になる。
顧客生涯価値(LTV)=月あたりの収益×継続月数
月あたりの収益は固定なので、ユーザーがサービスを何カ月使用するか、継続月数がポイントになる。マーケティング的には、いかに解約せずに継続してもらえるかが極めて大切。また顧客生涯価値を算出することで、1人の顧客を獲得するために必要なコストを求められる。
1人の顧客が生涯で支払ってくれるお金(LTV)が1万円なのに、1人獲得するのに10万円かけていたら大赤字ですよね。ですから、期待できる売上が1万円なら、獲得にかけられる予算は1000円〜2000円くらいだよね、というようにLTVがわかれば広告予算を逆算して求めることができるのです(堀口氏)
だが問題がある。1人の顧客が何カ月サービスを使用してくれるかを表す継続月数の計測がとても難しい。そこで考えられたのが解約率という視点だ。毎月の解約率であれば何人が入会し、何人が辞めていくかを計測しやすいというわけだ。
解約率100%=継続月数1カ月くらい
例えば、解約率が100%(加入の翌月には全員やめる)なら、すべての顧客が1カ月程度使用してもらえると考えられる。逆にいうと2カ月目を利用する人はいない。
では解約率が50%ならどうなるだろう。これは顧客の半分が1カ月目に解約するということになる。ということは2カ月で顧客が一巡するため、2カ月程度使用してもらえると考えられる。
25%なら顧客の4人中1人が解約するということになる。つまり平均4カ月使用してもらえそうということだ。同様に10%なら10カ月ということになる。
ここで注目してほしいのが、解約率と継続月数の両者を掛け算すると100%になることだ。「100%×1カ月」「50%×2カ月」「25%×4カ月」「10%×10カ月」となり「継続月数×解約率=1(100%)」という式が成り立つ。さらに両辺を解約率で割ると「継続月数=解約率分の1」になるのがわかる。
ここで最初の公式「顧客生涯価値(LTV)=月あたりの収益×継続月数」に戻る。継続月数に「解約率分の1」を代入すると「顧客生涯価値(LTV)=月額支払い×解約率分の1」となり、最終的に「顧客生涯価値(LTV)=月あたりの収益÷解約率」という式が導けるのだ。
さっそく問題を解いてみよう。
練習問題:月額1,000円で解約率5%の顧客生涯価値(LTV)は?
式に当てはめると「顧客生涯価値(LTV)=1,000÷5%=20,000」となる。よって顧客1人が支払ってくれる金額は生涯20,000円くらいを期待できる。
また、広告費を10〜20%に押さえたい場合、2,000〜4,000円がコストの指標になるということだ。
練習問題:解約率が4%に改善。その際の顧客生涯価値(LTV)は?
さらに「サービス改善により解約率が5%から
4%に下がった。LTVはいくらになるか?」を考えてみよう。これも数式的には全く同じで「顧客生涯価値(LTV)=1,000÷4%=25,000円」となる。サービス改善をおこなうことによって解約率が1%下がると顧客生涯価値(LTV)が20,000円から25,000円、つまり25%上昇したことになる。このように、5%から4%の
たった1%の改善が売上に大きな影響を及ぼすこともあるのだ。「ぜひここで学んだ割り算、大きい数、そしてLTVの計算を活用し、数字に強くなって活躍していきましょう」と堀口氏はセッションという名の授業を終了した。
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