データ分析で成果を出すには「シンプル」に課題を分解する。マーケターが知っておきたいデータ活用入門
「マーケターがやらなければならないのは、顧客理解のためのデータ分析だ!」ということはわかっているものの、なかなか組織にデータ分析をする仕組みが根付かない、うまく進まないというケースも多い。
「Web担当者Forumミーティング 2018 秋」に登壇したブレインパッドの佐藤氏は、その理由について、「複雑なことをそのまま分析しようとしているから」だと看破し、データ活用を成功させるための2ステップを解説した。
データ分析で結果を出すには、課題をシンプルにする
「貯まったデータを分析して顧客を理解し、売上をアップしろ」と言われても、どの数値とどの数値を計測して、どのような関係性の時にどのような変化があればいいのかなど、要因は大量にあって複雑だ。専門家に分析を依頼してその結果を見ても、難しいグラフや予測結果が並んでいて、何が書いてあるかよくわからないということになってしまう。
ある課題について、要因が大量にあって、要因同士の関係が複雑ならば、結果も複雑になるのは当然。結果が複雑だと解釈するために知識が必要になる。そこで挫折してしまうというわけだ。
佐藤氏は、複雑な課題を解決するために複雑な分析をするのではなく、「課題自体をシンプルにしようと考える方が正しい」と言う。これは、ビジネスのうえでは普通にやっていることだろう。
売上を1.2倍にしろ! と言われたら、あなたならどう考える?
たとえば、ワイン専門店の店長が「どうにかして売上を1.2倍にしろ」と本社から言われた場合、いきなり「売上アップするにはどうすればよいか」と考えるのでは、要因が多く複雑すぎる。
「どうすればお客様に来てもらえるのか」「どうすればお客様に買ってもらえるのか」とシンプルな課題に分解して考えるのが一般的だろう。さらに、「お客様に来てもらうためには/買ってもらうためには、何をすべきか」と考えを掘り下げていくとよい。
まず、「目の前のお客様にどのように接するか」と考えたとしよう。「売上を1.2倍にする」という複雑な課題を、「目の前にいるお客様にどう接するか」というシンプルな課題に分解したわけだ。そうすると、以下のような会話が想像できる。
店長「今日はどのようなものをお探しですか?」
お客様「お買い得なワインがないかなと思って……」
店長「こちらのセットなど、とてもお買い得ですよ」
お客様「どういうセットなんですか?」
このように会話をしながら、商品をお勧めして購入してもらう。この会話で行ったことを模式化すると、以下の図のようになる。
顧客との会話で顧客を理解し、自分の商品知識に照らしてお勧め商品を考える。一度で購入してくれるとは限らないので、顧客の反応を見て会話を続け、さらに詳細に理解して商品を勧める。こういったサイクルを繰り返すことによって、結果的に売上アップにつながる。これは店舗での接客だが、Webマーケティングでも同様のことをしているはずだ。
ただし、Webの場合は顧客と直接には対話できない。そこで、データ分析が必要になる。つまり、Webマーケターが最初にやるべき分析は、顧客理解のためのデータ分析ということだ。
データ活用を成功させるための2ステップ
Webマーケターが取り組むべきデータ活用について、佐藤氏は2つのステップに分けて解説した。
- ステップ1: 顧客理解のためのデータ活用
- ステップ2: マーケターがシステムとコラボレーションするデータ活用
ステップ1: 顧客理解のためのデータ活用
ステップ1では、顧客理解の第一歩、顧客をとりあえずグループに分けること。そのために以下のことを行う。
- グループ化の視点を決める
- グループによる違いを確認
- 違いの理由を考える
- 仮説検証
「データで顧客を理解する」というと漠然としているので、まず顧客をグループ分けする。佐藤氏によれば、「最初は根拠がなくていい。顧客を、何らかの視点で2~3つのグループに分けることから始めるのが間違いない」という。
具体的には、以下のような手順で行う。
グループ化の視点を決める
- 直近でいつ来たか
- 何回購入したか
- 購入金額
- 属性
- ランディングページ
- 検索ワード
- サイト訪問曜日・時間
まず、どの視点でも構わないので、グループ分けをする視点を決める。視点は多すぎてもよくないので、ここでも決める要素は2~3個でいい。
グループによる違いを確認
各グループについて、PVやCVRなどのサイトのKPIとなり得る値を比較し、それぞれがどういうグループか確認する。
違いの理由を考える
グループ間の共通点と相違点について、その理由を考える。これにより、顧客の性質を推定する仮説ができる。
仮説検証
仮説ができたら、検証するためのA/Bテストを行う。
たとえば、以下の図は、ENOTECA(エノテカ)という通販ワイン専門店の事例だ。トップページにランディングしたユーザーが購入に至るまでに見たページ数を、横軸がPV数、縦軸が相対度数でプロットしている。
最も人数が多いのはPV=30で、釣り鐘型に分布している。これを、中央で2分割し、比較したのが以下の図。
この図からは、次のような仮説が構築できる。
- PVが30以下(PV≤30)でコンバージョンする人は、セット購入が多い。早い段階でセットの購入に的を絞って、限られた選択肢から購入商品を決めるユーザーなのでは?
- PVが30以上(PV>30)でコンバージョンする人は、30以下よりもギフト購入が多い。ギフト購入目的で来訪する人は、商品を吟味するユーザーなのでは?
このようにして、仮説が構築できたら、テストして検証していけばいい。
ステップ2: マーケターがシステムとコラボレーションするデータ活用
とりあえず顧客をグループ化して、仮説を立てられるようになると、グループを増やして詳細化したくなるものだ。これをどんどん進められれば、最終的には(理論上は)パーソナライズになっていく。10人のパーソナライズならともかく、多人数の場合は人間では処理しきれなくし、運用が大変になる。そこで、システム(ツール)にやらせるという発想が出てくるというわけだ。
最近流行りの機械学習やAIといったシステムも、顧客理解ができるようになってきた。しかし、コンテンツを作ることはできない(佐藤氏)
コンテンツを作ることはできないが、コンテンツ作りの基礎となる情報をシステムに組み込んでいくことで、マーケターの仕事の負担を軽減させることができる。その手順は次の通りだ。
- マーケターが企画したコンテンツをシステム(ツール)に理解させる
- システム(ツール)がコンテンツと顧客をマッチングする
システム(ツール)にコンテンツを理解させるには
システムは2つの情報でコンテンツを理解する。
① そのコンテンツに接したユーザーの情報
- Aを見たユーザーは、よくBも見る
- Cを購入したユーザーは、よくAも購入する
- Aは20代男性に良く購入される
上記のような情報はすでにたくさんのツールが利用しており、比較的簡単に自動化できる。ただし当然ながら、ツールは「このユーザーがなぜこのコンテンツを閲覧したか」「なぜコンバージョンしたか」については考慮しない。
② そのコンテンツそのものの情報
- Aの紹介ページには、○○という単語が良く使われている
- AとBは、レビューの××軸の評価が高い
こういった情報は、あまりツールが対応していないデータで、システムに理解させるには、マーケターがデータを作らなければならない場合が多く、二の足を踏む分野だ。
しかし佐藤氏は、「ここは成果向上のためにすごく大切な分野である」と言う。なぜなら、「この商品を見るということは、おそらくユーザーはこう考えている」というようなユーザーの閲覧/コンバージョンの仮説をツールに組み込めるからだ。
システム(ツール)がコンテンツと顧客をマッチングする
引き続き、ワイン専門店の事例で見てみよう。ENOTECAでは、お勧め商品を表示する枠がある。「このワインを見た/買ったユーザーはこのワインを見ている」という1.の情報は当然活用しているが、ここでやっかいなことが起きるという。
ワインは、同じ産地、同じ種類でも、価格に大きな開きがある。たとえば、「ボルドーの赤ワインを買おう」と思った時に、3,000円と27,000円のワインが並んでいたら、たとえ27,000円のワインが予算に合わないとしても、どんなワインだろうと見たくなるものだ。これがノイズになり、「Aを見た人はよくBも見る」のような単純な情報によるレコメンドは精度が低くなってしまう。
このような場合、人間ならどのように対応するだろうか。
お客様「参考までに、このワインは何がすごいんですか?」
ソムリエ「27,000円のワインの特長は…」
と、27,000円のワインの特長を説明するが、それと同時に「これより下の価格帯を探しているんだな」と理解する。そして、説明の後で次のようなやり取りをするだろう。
ソムリエ「ちなみにこちらのワインはいかがですか(下の価格のワインを提案)」
お客様「これはどんなワインですか(予算内か確認)」
ソムリエがやっているのは、会話による顧客理解とワインに対する豊富な知識によって、商品をお勧めし、それによって売上アップに導くことだ。これをシステムにやらせるには、システムにワインそのものの情報として単純なデータを教えるのではなく、ソムリエのように理解させる必要がある。
そこでENOTECAでは、ソムリエがどのようにワインを理解しているかを調べ、「味わいデータベース」を構築した。そのためには、まずソムリエがワインをどのように理解しているかを考えなければならない。
ソムリエによるワイン理解の要素は下記の5つとなる。
- タイプ
- 産地
- 品種
- 価格帯
- ソムリエが評価した味(酸味、果実味、コクなど)
こうして、システムにワインというコンテンツを理解させたところでマッチングを行う。本当に的確にレコメンドできるか、ソムリエやマーケターがチェックして、テストとチューニングを繰り返した後に、実際にレコメンドを行った。これにより、「おすすめワイン枠」からの購入率が、従来の2倍になったという。
レコメンドは簡易ツールもあるが、このようにWebマーケターが自社独自のナレッジや強みをシステムに理解させ、コラボレーションすることでいい成果につながる(佐藤氏)
まとめ
佐藤氏は、セッションのポイントを以下のようにまとめた。
- 課題をシンプルにする:Webマーケターは顧客を理解して、顧客に合わせたコンテンツを企画、そのコンテンツを顧客にマッチングすることで、売り上げに貢献する。機械学習などのテクノロジーを使っても、基本は同じこと。
- まず簡単なことを自分でやってみる:できることをやってみると、何をやるべきかわかってくる。まずは顧客のグループ化から。
- システム(ツール)はコラボレーションの相手:AIに任せられるようになる、なんて思わない方がいい、システム(ツール)にどう情報を与えるのか考えるのは人間。
3年連続市場No.1シェアのプライベートDMP
最後に佐藤氏は、エノテカでの「味わいデータベース」の構築に活用されたブレインパッドのレコメンドエンジンを搭載したプライベートDMP「Rtoaster(アールトースター)」を紹介した。Rtoasterの機能は下記のとおりだ。
- 顧客、自社サービスなどの多様なデータ収集・統合
- 顧客を分析し、戦略的・自動的なターゲティング
- 多様なチャネルでのアクション(施策)
豊富なコンサルティングサービスも提供しており、企業の課題解決をサポートしている。DMP市場において3年連続シェアNo.1(※)となり、幅広い業種での導入実績も有しているという。
(※)DMP市場:ベンダー別売上金額シェア【2014年、2015年、2016年度実績】 出典:ITR「ITR Market View:メール/Webマーケティング市場2018」「ITR Market View:マーケティング管理市場2017」
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