【レポート】Web担当者Forumミーティング 2021 秋

日常的にコミュニケーションを図る! ワコールのオウンドメディア活用術

潜在顧客との接点拡大だけでなく、既存顧客とのコミュニケーションツールとして利用している「ワコールのオウンドメディア活用法」を解説する。

直接肌に身に着けているのに、普段の生活であまり意識されることがないインナーウェア。だからこそ「ワコール」では、顧客との接点が途切れてしまわないように、長期的な顧客コミュニケーションの設計を心がけている。

Web担当者Forumミーティング 2021 秋」に登壇したワコールの広報・宣伝部 西島いくこ氏は、オウンドメディア「WACOAL BODY BOOK」を通じ、お客さまに日頃からワコールを意識してもらうための取り組みを紹介した。

株式会社ワコール 総合企画室 広報・宣伝部 コンテンツ企画課
西島いくこ氏

インナーウェア特有のコミュニケーション課題

最初に西島氏は、インナーウェアには3つのコミュニケーション課題があると解説した。

  1. 購入する頻度が少ない:下着はファッションアイテムではなく日用品として消費される傾向にある。ブラジャーは1年に1枚程度しか買わない人が多いようだ。
  2. 意識する機会が少ない:人に見られるのは旅行など限られた場面で、下着はアウターに比べると意識されにくい。
  3. 人と話す機会はほぼない:家族や友人でも、下着についてはあまり話題にしない。

つまり、何もしなければ下着もワコールも、気にしてもらえない。そこで、コミュニケーション課題の解決のために、まずはカスタマージャーニーマップを作成したという。

下着のカスタマージャーニーマップ

上図のようにカスタマージャーニーマップは4つのフェーズに分かれているが、実際にはオムニチャネル化など買い物が簡便になったことで、購入は一瞬で完了。下着についてリサーチする時間も短縮されてしまった。そこで、「リサーチや購入フェーズだけでなく、普段からいかにワコールを気にかけていただくかが重要になってきた」と、西島氏は語る。

潜在顧客とのつながりをつくる「WACOAL BODY BOOK」

ワコールに普段接点のない潜在顧客からも目を向けてもらおうと、ワコールが実施した施策がオウンドメディアの運用だ。2013年4月に「WACOAL BODY BOOK」を開設している。

オウンドメディア「WACOAL BODY BOOK」を開設

    コンセプトは「かしこくキレイなわたしをつくろう」で、美容・健康・ダイエットなど幅広いテーマで、美と健康のヒントを掲載している。編集方針は、単なる自社製品のアピールだけではなく、中立的な立場で正しい情報を発信することだ。

    運用体制は、社内メンバー4人に加えて、外部の編集者1人も参加している。月に一度の編集会議で前月のログの共有や全体方針を検討し、次回の特集テーマを決定。テーマが決まれば、編集スタッフにライターをアサインしてもらい、専門家のアポが取れたら取材に行って記事化。自分ごと化しやすいコンテンツを、毎週水曜日に掲載している。

    掲載コンテンツ

    具体的には、以下のようなコンテンツがある。

    【「からだ」について楽しく学ぶ】

    • 教えて、ドクター!:からだの真実、世の中のホントを専門家がズバリ解明。
    • 美の流儀:からだのために「やってる人」の奥の手公開! 学んで、すぐに真似たい、美の知恵袋。
    • こころとからだの二十四節気:毎日をすこやかに美しく過ごす「養生生活」

    【さまざまな「美しさ」に触れる】

    • 商品づくりの現場から:女性を美しくするヒット商品の数々。その背景を独占レポート。
    • ランジェリー★EXPRESS:うっとりする美しさ。世界のインナーファッション、流行のウオッチング。
    • 新訳からだ辞典「パンツ一丁」:カラダやシタギの言葉をひもとくコラム。
    • 服をめぐる:服飾の歴史や文化へ誘う、京都服飾文化研究財団(KCI)広報誌より。

    【「美しさ」を実践する、手に入れる】

    • スリムの法則「食に美あり!」:食にまつわるスリムの“ヒント”と日常でできる“プチ・ルール”
    • 1分楽トレ:たった1分の楽ちんトレーニングで、からだが変わる! キレイになる!
    • 潜入ルポ・ビューティ見聞録:さまざまな美のイベントをレポート。

    Googleは、人の生活や金融など、人生に大きく影響するジャンルのコンテンツ評価基準を厳格にしている。それがYMYL(Your Money or Your Life)というガイドラインだが、「WACOAL BODY BOOK」のコンテンツのうち「教えて、ドクター!」は、専門家が解説している記事なのでYMYLに当たる。検索アルゴリズムのアップデートが2017年12月にあったが、2018年以降、検索流入数は一気に底上げされたという。

    上位の検索キーワード

    実際にどのような検索キーワードで上位になっているのか、西島氏は次の3例を紹介した。

    • 検索キーワード「生理前 胸の張り ピーク」:このキーワードで流入している記事が東京医科歯科大学の医師に取材した“生理前のバスト増量、その正体とは?”。公開は2014年2月だが、今でもPV数がトップ5に入っている。
    生理前のバスト増量、その正体とは?
    • 検索キーワード「数秒前に考えていたことを忘れる」:流入先の記事は、 “何だっけ?…その物忘れは「脳疲労」です!”。西島氏自身が感じていた物忘れの不安から、この特集を企画した。
    何だっけ?…その物忘れは「脳疲労」です!
    • 検索キーワード「ヒハツ 効果」:流入先は、スリムの法則「食に美あり!」の“からだを温めるスパイス「ヒハツ」”という記事。
    からだを温めるスパイス「ヒハツ」

    このように、下着とは関係のなさそうなキーワードからの流入が上位に入っていた。つまり、「女性の普段の関心に寄り添うコンテンツを配信することによって、ワコールにあまり接点のない潜在顧客とつながることができた」(西島氏)と解説。さらに、情報接点を広げるため、女性誌など親和性のあるメディアと記事提携を行っており、「検索流入だけでなく、外部メディアからの流入も増やすべく、現在も提携先強化を目指している」(西島氏)という。

    品質・信頼・親近感、コンテンツの具体例

    もちろん、自社製品に関するコンテンツがまったくないわけではない。ただし、それも単に商品を紹介するのではなく、第三者視点をもちながらわかりやすく伝える記事としてつくっているそうだ。

    事例1:ワコールの研究発表を「潜入ルポ・ビューティ見聞録」で紹介

    ワコールでは、長年にわたりバストや体の動きに関する研究を続けている。無重力状態でのバスト計測を行った研究もあり、その結果をワコールの情報資料室「ボディブックライブラリー by Wacol」に掲載している。また、「重力からバストを守ること」に関する研究発表を兼ねたカンファレンスを2020年1月に開催し、その様子を「WACOAL BODY BOOK」の「潜入ルポ・ビューティ見聞録」で紹介した。「このようにワコールの研究、独自性をわかりやすく伝えることで、商品への信頼を深め、購入に満足していただく」(西島氏)ことを目指している。

    ワコールの研究発表を「潜入ルポ・ビューティ見聞録」で紹介

    事例2:ワコールのものづくりを「商品づくりの現場から」で紹介

    「商品づくりの現場から」では、商品に親近感をもってもらえるよう、商品開発ストーリーを掲載しているという。また、より商品への理解を深めてもらうため、記事を商品ブランドサイトと相互リンクした。さらに商品への興味を高めるため、記事公開のタイミングでクイズに答えてプレゼントが当たるキャンペーンも開催。感想コメントは、商品づくりや「WACOAL BODY BOOK」のサイト運営の参考にしている。

    ワコールのものづくりを「商品づくりの現場から」で紹介

    つくったコンテンツを別の場でも活用する

    「WACOAL BODY BOOK」で作成したコンテンツは、オウンドメディア以外でも活用している。

    コンテンツ活用1:社内報アプリでの活用

    ワコールでは、「Chikiアプリ」という社内報アプリを運用している。このアプリには開発秘話の記事の更新情報を掲載しているが、商品担当者から「次はこの商品を取り上げてほしい」と取材依頼がくることもあるそうだ。また、販売スタッフからは店頭でのコミュケーションに役立てているという声もある。

    コンテンツ活用2:顧客向けアプリへ配信し、利用を喚起

    ワコールの公式アプリ「WACOAL CARNET」では、商品や直営店舗の情報を届けているが、ここにも「WACOAL BODY BOOK」の記事を掲載している。また、採寸データや購入履歴が見ることができるアプリ「Wacoal/Personal」でも、プッシュ通知で記事情報を配信。記事を掲載することで、「顧客向けアプリの定着率向上や利用のアクティブ化を後押ししている」(西島氏)という。

    コンテンツ活用3:販促ツールなど紙媒体へ流用

    コロナ禍でリアル店舗での営業が難しいときには、店頭に代わるコミュニケーションとしてお客さまには「1分楽トレ」の情報を掲載したはがきDMを作成して届けたという。

    このように、「WACOAL BODY BOOK」の当初の目的は潜在顧客とのつながりをつくることだったが、コンテンツの活用の幅が既存の顧客にも広がっている。

    「WACOAL BODY BOOK」が目指すこと

    オウンドメディアの運営では、長期施策で考えなければならないのに効率を求められ、社内理解を得るのが難しい。サイト運営が、顧客の行動や態度変容に寄与しているかどうかの価値を検証できていないと感じる人も多いそうだ。そこで「WACOAL BODY BOOK」では、運営から丸8年のタイミングで初のブランドリフト調査を実施した。

    結果、ワコールの認知は「WACOAL BODY BOOK」のサイト接触者、非接触者のどちらも9割を超えているが、好意度や購入意向は、サイト接触者かつ認知者ほど高かった。また、サイト接触者かつ認知者では、ブランド(商品)イメージとして「商品開発のための研究をしている」、企業イメージとして「親しみを感じる」とのイメージが強かった。この調査により、「接触したお客様に正しくワコールの思いが伝えられていることが示され、運営方針は間違っていなかったと実感できた」(西島氏)という。

    最後に西島氏は、今後「WACOAL BODY BOOK」の方針として以下の2点をあげ、「これからも、調和のとれた美にたどりつくための、正しい方法を楽しく学べる」ことを目指していくと結んだ。

    • サイト接触者を増やすべく、検索流入のプル型コミュニケーションに加え、メルマガやアプリ、外部メディアへの記事提携も積極的に広げ、プッシュ型コミュニケーションも強化する。
    • コト系コンテンツに加え、企業活動の情報なども客観的に発信し、一人ひとりのお客様とより深く広く長くつながるための情報発信を続けていく。

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