売上が伸びるECサイトの必須条件。不快な体験を徹底的に取り除く顧客体験設計とは
顧客体験という言葉は、「バズワードのように世の中に広まっていると感じているが、驚くような体験だけが顧客体験ではない」と、「Web担当者Forum ミーティング 2019 秋」に登壇したサンスター 兒嶋仁視氏は言う。
ECサイトで良い顧客体験を提供するには、加点される体験、減点される体験を明確にして、減点される体験を徹底的に取り除くことが大事だという。顧客体験の向上に取り組んでいるサンスターの事例を中心に解説する。
顧客が評価する視点は時間とともに変化する
顧客体験について議論をしていて、次のようなことを言われた経験はないだろうか?
- ウチならではのことをしてくれ
- 他社はなにしているんだ
- なにかおもしろいことしてくれ
- バズらせてくれ
これらに共通して言えるのは、「特別なもの」だと捉えすぎているということだ。「顧客体験」を辞書で引くと、次のように書かれている。
“顧客にとって、ある企業の製品・サービスに接する際の総合的な印象や体験。ある単一の製品・サービスを対象とするユーザーエクスペリエンスより広い概念であり、顧客と企業の長期的な関係の上に成り立つ、企業のブランドイメージやアフターサービスも含まれる。顧客体験。CX。”(デジタル大辞泉より)
顧客体験とはあくまで、「全体設計の話」だと兒嶋氏は言う。
驚くようなことも、些細なことも、体験のひとつ。顧客体験の細部にわたるまで気を配らないと、良いCXは成り立たない(兒嶋氏)
加点方式
世の中には加点方式・減点方式という考え方があるが、これは顧客体験にも当てはまる。加点とは、それがなくても成り立つもので、期待値を超えたものを提供した時に発生する。たとえば、サプライズや気の利いた手紙や案内など、それがなくてもサービス提供のうえでは支障ないが、あると気が利いているという時に加点される。
減点方式
一方、減点は、なくてはならないものに不備があると発生する。たとえば、サービスへの導線がわかりにくい、飲食店で食器が汚れているなど、「そこにあるべきものがない」状態の時に減点される。そして減点が発生すると「不快感」という感情が生まれやすい。
商品やサービスを評価する際に何を重視するかは、顧客によって異なるが、時間経過とともに、評価する軸が変化することがあると兒嶋氏は言う。
顧客体験の評価の軸が変化する事例
たとえば、サンスターの「健康道場」では、「コレステロールを下げる」という効果をもった特定保健用食品を取り扱っている。
初回購入時は、顧客は「コレステロールを下げる」という機能に期待して購入するため、体験全体で最も評価されるポイントは、「商品」の効果・効能である。
一方、2回目以降、リピート購入するような状態になってくると、「ECサイト上でのサービスや購入から商品到着までの導線(UI)」、「ブランドや理念」といった体験全体の要素が複合的に評価されるようになってくる。
しかし、単品通販の場合は顧客との接点が限られているため、ブランドや理念を伝える場が少ない。そのため、そこに期待されることは少なく、理念を伝えるには時間がかかる。
「2回目以降はサービスやUIに満足してもらえないと買い続けてもらえない」ということだ。「この視点の変化を考えることで、施策の優先順位がつけやすくなる」と兒嶋氏は言う。
顧客のやりたいことを阻害してはいけない
購入体験において不快感を取り除くために、サンスターが自社通販のサイトで行った改善が以下のようなものだ。
① 導線をわかりやすくする
減点が発生するのは「そこにあるべきものがない」状態の時だが、導線についても同様だ。たとえば「退会の申し込みは電話のみ、平日の9:00~17:00で受け付ける」というケースをたまに見かける。退会までの導線が複雑だったり、わかりづらかったり、電話でしか解約ができないといった状況だと一度やめた人は、二度と戻ってこない。
そこで「2018年に実施したサイトリニューアルでは、定期購入の解約や購入間隔の変更の導線をわかりやすく変更した。その結果、解約率は増加するどころか減少し、自分のペースに合わせて間隔や商品を変更する人が増えた」と兒嶋氏は言う。
② ページの表示スピードを最適化
商品を買おうとしているにもかかわらず、なかなか商品画像が表示されなかったり、ページ間の移動で時間がかかったりすることは、あるべきもの(スピード)がないという点で、顧客にとって不快な体験となる。リニューアルでは、ページスピードを改善したことで、直帰率が下がり、CVRが上がったという。
表示スピードの調べ方としては、Googleが提供しているサイトの表示速度を計測するツール「PageSpeed Insights(ページスピードインサイト)」を使う方法がある。また、速度制限のかかったスマホを持っている人を社内で探して、そのスマホで買い物をしてみるという方法もあるだろう。さまざまなデバイス・シチュエーションで試して、違和感のないスピードを目指すのがいい」と兒嶋氏は言う。
③ ポップアップを廃止
兒嶋氏は、ECサイト内で訪問者に対して「いきなりクーポンを表示するといったポップアップはやらないと決めている」という。なぜなら、「お客さんはサイトの商品やコンテンツを見たいから来たのに、いきなり全画面にポップアップを表示してしまうと、それを隠してしまうことになる」からだ。
あるべきものがない状態を作り出し、不快感につながる(兒嶋氏)
スマートフォンやパソコンといったデジタルメディアは能動的に視聴していて、視界の占有率は100%だ。そこに想定していなかったものが割り込んでくると、非常に鬱陶しい。兒嶋氏は、「サイトを作る時には、リアル店舗だと仮定して考えることを意識している」という。お店に入って、いきなり進行方向を塞がれ、店員がクーポンや広告を眼前に広げて見せてきたら不快なのだから、Webサイトでもそれはやらないということだ。
物理接点でもがっかりさせない
ECサイトの場合、最終的に商品は配送されて顧客の手元に届く。そのため、顧客体験の向上では物流についても気を遣う必要がある。もちろん、運送会社の質にも関るので自社だけではどうにもならない部分もあるが、たとえば「段ボール箱」などは改善が可能だ。
ECにおいて箱は顧客との最初の物理接点で、開けづらい箱は商品を使いたいという意図を邪魔するものになるし、中の商品がきれいでも、箱がボロボロだったらがっかりする(兒嶋氏)
広告は意図や文脈を無視してはいけない
広告で重要なことは、「モーメントごとの意図や文脈を無視してはいけない」ということだと兒嶋氏は言う。たとえば「コレステロール」と検索した人に、広告が表示されたとする。
その場合検索した人は、「コレステロールについて調べたいのか」、「商品を購入したいのか」、検索意図をしっかり認識して広告を出さなければいけないということだ。
コレステロールについて調べているのに、情報ではなく突然、商品へ誘導されたら、それは不快な体験です。コレステロールについて調べているのであれば、まずそれに関する情報を得た後に、コレステロールを下げる商品をおススメされた方が自然です(兒嶋氏)
リスティング広告で成果を出すためには、自社の商品を見せることがユーザーの求めていることに合致しているかどうかをきちんと整理して使う必要がある。
また、SNSでは、プラットフォームの世界観や文脈を大事にしなければならないという。それを壊すような広告が入ってくると不快感につながる。そこで、UGC(User Generated Content)風のクリエイティブにしたことで成果が出たという。具体的には、「自分でSNSにあげるなら」というテーマで社員に自社製品の写真を募集する「社内クリエイティブ選手権」を開催した。そして、集まった写真から基準を満たし魅力的なものを選んで、SNS広告として出稿したのだという。
クリエイティブ制作はパートナー企業に依存しているが、ソーシャルの写真くらい自分たちで撮れる。そして、一番のユーザーは社員だと思っているので、社員が自分のSNSのフィードで商品を勧める時には、魅力が伝えられるはず(兒嶋氏)
最後に兒嶋氏は、「レスポンス重視のPUSH型施策だけを続けると、短期的に成果は上るが、そこで不快感を与えてしまったユーザーは戻ってこなくなる。CVしないユーザーでも不快感を与えることなく去ってもらえれば、再訪の可能性がある。それが、長期にわたるおつきあいができる真の意味でのLTVの向上につながる」とまとめて、講演を終了した。
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