CVRを追い求めるのはもう限界!? “カスタマーエンゲージメント”重視のマーケティング手法とは
CVR(コンバージョン率)やCPA(顧客獲得単価)といった指標は重要だが、そういった“点”の施策だけで長期的な成果を上げることはできない。
「Web担当者Forum ミーティング 2019 秋」に登壇したReproの實川節朗氏は、同社のカスタマーエンゲージメントプラットフォーム「Repro」による改善事例をもとに、“点”を“線”に繋げ、顧客と長期の関係性を築くための手法を解説した。
顧客と信頼関係を築くには、期待を超える体験を提供する
まず實川氏は、よくないマーケティングの例として、以下の3つをあげた。
- 全員に同じようにクーポンを配布する
- 全員に同じ内容のメルマガを毎日のように送信する
- 自社サービスの本質と異なるクリエイティブで訴求する
コンテンツを作る時には、この3つを意識すべきだ。
極端な部分最適は“ウザい”コミュニケーションを生み出す
前述したようなコミュニケーションは、ユーザーから「ウザい」と思われてしまう。それなのにやってしまうのは、次のような理由からだと實川氏はいう。
簡単に見られるデータだけに注目して、極端な部分最適をしてしまうためだ。
デジタルマーケティングは、データをすぐに簡単に見られるが、見られるデータはごく一部に過ぎない。本来は最初の接触で認知されてからロイヤルカスタマーになってもらうまで、一貫したシナリオで適切に誘導するのが理想。だが、PVやセッション、コンバージョンなど、簡単に見られるデータだけに注目して数値を改善しようとするため、いわゆる“ウザい”コミュニケーションになってしまうというわけだ。
カスタマーエンゲージメントの実現が必要
こうなってしまう環境要因としては、人口減少で需要が減っていること、情報爆発により自社のメッセージを見つけてもらうのが難しくなっていることがあげられる。そのため、企業側は焦って余計にコミュニケーションを“ウザく”してしまう。結果的に、広告単価の高騰やリピート率の低下につながるという悪循環に陥っている。
そのため、カスタマーエンゲージメント、企業と顧客の信頼関係を長期的に築いていくアプローチに変更していくべきだ。
刈り取りを効率化するのは限界で、CVRやCPAではなくLTV(顧客生涯価値)という指標を見ていかなければいけない(實川氏)
カスタマーエンゲージメントが実現するために必要なこととして、實川氏は「欲しい商品があってそれが提供されたというだけでなく、その瞬間の体験が顧客の期待を超えるものでないと、印象に残らない」という。
「欲しい商品見つかればいいな」程度に思っていたお客さんに対して、「実はこういうメリットがあり、こうするともっとお得です」という話が、まさに欲しいと思っている瞬間にできれば、長期的な信頼関係の一歩目が築ける。それを積み重ねれば、消費者から信頼されるブランドになるということだ。
カスタマーエンゲージメントを実現するためのキーワード
實川氏は、カスタマーエンゲージメントを実現するためのキーワードを2つあげた。「モーメント」と「ジャーニー」だ。
モーメント:その瞬間の意図に適した情報を提供する
1つ目の「モーメント」は、ビデオオンデマンドのサービス「ビデオマーケット」のサイト改善例で説明があった。
ビデオマーケットは、見られる動画の数が日本一のネット動画配信サービス。トップページのCVR改善は実施済みだが、SEOにも注力しているため、各動画の詳細ページへのランディングも多かった。そのようなユーザーは見たい動画があって来訪しているのですぐにでも視聴したいが、視聴には会員登録が必要ということがわからず、そこで体験が阻害されているという課題があった。そこで、初月無料というポップアップで会員登録ページへ誘導したところ、CVRが向上した。
一方で、トップページから動画詳細ページに行った場合、初月無料などの特徴はトップページですでに知らせているため、ポップアップは邪魔になる。そこで、その場合は動画の多さをアピールするようなポップアップを出すようにした。
このように、検索から直接詳細ページにランディングしたか、トップページ経由でアクセスしたかという経路によって、ポップアップで出すメッセージを変えたことにより、サイト全体のCVR(有料会員登録)が37%増加、無料会員登録は100%増加したという。
Webサイトを訪れたわずかな瞬間にカスタマーの期待に応え、サービスの魅力を理解してもらうことが重要だ
それを実現するために必要なデータとして、以下のようなものがある。
ジャーニー:その先の利用につながるキッカケを捉える
2つ目のキーワードは「ジャーニー」。例えば、以下はワイン好きの實川氏がとあるワイン通販サイトの優良顧客になるまでのカスタマージャーニーだ。
あるワイン通販サイトを勧められてとりあえず買ったみたところ、安くて美味しかった。さらに、そこで登録したメルマガの内容が非常にアツく、そんなにいうなら買ってみようという気になった。買ってみたら、満足のいくワインだった。その結果常連となり、友人にもサイトを勧めるようになったという流れだ。この例では、メルマガの内容が實川氏に非常に刺さったことが、「その先の利用につながるキッカケ」だった。
カスタマージャーニーが先に進む、熱量が蓄積されるタイミングを捉え、適切なコミュニケーションをとることが重要
ジャーニーを知る:マジックナンバー分析の利用
そしてジャーニーを知るには、「データ分析と個の理解がカギ」だと實川氏はいう。例えばアプリの世界では、マジックナンバー分析というものが知られている。リテンション(既存顧客維持)率が高くなる分岐点となる数値を分析し、どの行動がKPIに作用しているかを割り出すものだ。
Twitterでは、ユーザーを分析した結果「5人フォローしたユーザーは継続利用する率が高い」というマジックナンバーがある。そこで、新規登録の際にお勧めユーザーをレコメンドして5人以上フォローをさせるように動線改善したところ、新規ユーザーの継続利用率が3倍になったという。Reproのツールでは、このマジックナンバー分析の機能も提供している。
ジャーニーの事例:コンテンツの強化とプッシュ通知の工夫
ジャーニーの事例としては、若年層向けのコスメ情報などを提供するフリュー株式会社の女子高生向けマガジン「HARUHARU」というサイトが紹介された。継続につながっているコンテンツを抽出し、コンテンツを強化したという事例で、以下のような施策を行ったところ、リテンション率が10%増加したという。
- リテンションとの相関性のあるコンテンツを強化
- アプリDL後3日連続ログインキャンペーンを実施
- プッシュ通知の工夫
- プッシュ通知後の行動分析と改善
以下はプッシュ通知の内容だが、ユーザーが若年層ということもあり、くだけた内容になっている。
単純に『戻ってきてください』ではなく、ちょっと凝った世界観にすると気持ちが動く
AIの利用やモーメントとジャーニーの掛け合わせ
その他、離反しそうなユーザーをAIで予測し、離反しそうなユーザーだけにポイントを配布することで特典コストの削減をした例もあるという。さらに、次のようにモーメントとジャーニーを組み合わせることも重要だ。
- モーメント:今この瞬間にどういう状態で何をしようとしているかを考え、だからどういうメッセージが喜ばれるか、カスタマーのモーメントに合致した接客を提供する。
- ジャーニー:さらに、体験を重ねていくうちに、どこのタイミングでエンゲージメントが高まるか、ジャーニーを分析。ある効果的な接点で高LTVのロイヤルカスタマーになってくれるので、そのタイミングを捉えて注力する。
例えば、新規ユーザーであればそのサービスならではの特徴を伝える。購入に不安があるユーザーには後押しになる情報をその瞬間に出す。既存ユーザーにはメールでオファーしたり、ヘビーユーザーに対しては友達を紹介してくれたらクーポンを進呈したり、そろそろ買い替えはどうかなど、いろいろなコミュニケーションがある
マーケターだけで小さく回せる施策を実施し、成果を出す
そして、カスタマーエンゲージメントを高めるためは、以下の2点が必要になるという。
①ユーザー分析&効果検証のためのデータ取得
PVなど、取得しやすいデータだけに着目するのには限界がある。何でもかんでも取ろうとすると収拾がつかなくなる。どのような分析・施策を行うかを念頭に置いて、取得データを設計する必要がある。
②施策を高速で回すためのオペレーション体制
マーケターとエンジニアやデザイナーが密に連携をとって分析がすぐに反映できるのが理想だが、実際には複数部署でのリソースの奪い合いや外注丸投げなど、課題も多い。そこで實川氏のお勧めするのがマーケターだけで施策を拘束に回せるような体制を作ることだ。
マーケターだけで小さく回せる施策を実施し成果を出すことで、予算が増えたり社内に味方ができていく
最後に實川氏は、カスタマーエンゲージメントを実現してLTVを上げるためのポイントを、以下の4点にまとめた。
- モーメントに合致したコミュニケーションを行う
- エンゲージメントにつながるキーを見つける数値分析を行う
- 分析や施策から逆算してデータを取得・蓄積する
- 小さく始めて成果を出し、大きく育てていく
そして、カスタマーエンゲージメントプラットフォーム「Repro」は、さまざまな行動データ・属性データを元に1to1のコミュニケーションを実現するプラットフォームで、サイトにタグを入れるだけでパーソナライズされたメッセージを送信でき、広告配信やMA、レコメンドエンジンなどさまざまなツールとの連携が可能であることをアピールし、講演を締めくくった。
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