インタビュー

プロキックボクサーからLINE O2OカンパニーのCMOへ。「位置情報×購買データ」「3rd Partyデータ」でマーケティングを実現する

LINE株式会社 O2Oカンパニー カンパニーエグゼクティブCMO 藤原 彰二 さんのキャリアとO2Oカンパニーの構想も聞いた。

元プロキックボクサーというユニークなキャリアをお持ちで、2019年からLINE O2OカンパニーでCMOを務める藤原 彰二 さん。新しいことへチャレンジは、淀みなく遂行する一方で、「立ち上げるサービスの業種自体を好き過ぎないから、一歩引いて俯瞰して見られる」と独自の仕事観を教えてくれた。

O2Oカンパニーで携わっている、「LINEショッピング」などの話題になると、ネットからリアル店舗に誘導するといった従来の考え方に留まらず、「3rd Partyデータでマーケティングができる世界を目指しています」や「位置情報を使ってターゲティングできるMAを自前で作成中」とスケールの大きな話に発展。O2Oカンパニーの今後の展望も淀みなくストレートに語ってくれた。

LINE株式会社 O2Oカンパニー カンパニーエグゼクティブCMO 藤原 彰二 さん

プロキックボクサーから紆余曲折経て、LINE O2OカンパニーCMOへ

――藤原さんは元プロキックボクサーなんですよね? キックボクサーからCMOというキャリアがとてもユニークですね。

プロキックボクサーは本当です。試合中にケガをして引退しました。その後、フルスピードに入社したんですが、営業採用のつもりで面接を受けたら、マーケティング担当で採用されてしまったんです。

――え、間違えられたってことですか?

はい(笑)。そのおかげで今はマーケティングにどっぷりです。実は当時パソコンが苦手で、Excelも触ったことがないくらいでした。でも、業務では必須だったので、勉強して最終的には、関数が直打ちできるくらいになりました。その後、トランスコスモスに転職します。ただ、Webマーケティングをしていてずっと「空想」を売っているという感覚がありました。

――空想ですか?

たとえば、何らかのツールの管理画面の数値を見て、分析や仮説検証、施策立案をしていきますよね。でも、そこにずっと疑問がありました。ツールに表示されている数字の根拠がわからないし、お店と違って実際に商品を買っている人を見られるわけでもない。

――なるほど。

実際のお客さんを目の当たりにしてみたい、ということで友人と起業しました。年商数億円規模の企業に成長させることができました。起業することで、さまざまな経験ができましたが、4年間で経験できた事業は1つだけなんですね。もっといろんな事業を立ち上げたいと思い、オプトに入社して、英語が話せないのに1年間渡米しました。

英語はしゃべれないけど、1年間渡米

――チャレンジすることへの淀みがありませんね。どういった目的で米国に?

米国で流行りだした「O2O(オンライン・ツー・オフライン)」というビジネスモデルを調査する、という目的でした。たとえば、LINEを例にしますと、LINE上でクーポンを配布して、リアル店舗へ誘導するといったことですね。

――その後、LINEへ入社されるんですか?

はい。帰国後、2015年にLINEに入社し、2017年からO2O部門で「LINEショッピング」、「LINEデリマ」、「LINEトラベルjp」、「SHOPPING GO」、「LINEポケオ」、「おでかけNOW」の6つのサービスを立ち上げました。最初の立ち上げは1人で企画するんです。

LINEショッピングは、ローンチから2年が経ち、友だち数は3,200万人を超え、取扱高も順調に伸ばしています。2019年1月にはショッピング内での行動履歴に応じて、おすすめ商品やショップを表示される「パーソナライズ化したUI」に刷新しました。

「LINEショッピング」のパーソナライズ化したUI(サンプル)

CMOとしての役割

――たくさんの事業を立ち上げることを実践されているのですね。現在は、どんな仕事をされているのでしょうか?

新規事業の立ち上げと、既存事業の成長をデータ含めて複合的に見ています。たとえば、LINEには「プッシュ型」、「プル型」、「シェア型」といった3つの特長があります。この3つをうまく組み合わせて、LINEが持つ8,100万人にどうアプローチすれば、新規ビジネスが成長できるか、といった戦略を考えています。

LINEの特長×日常×価格を軸にして、各サービスをプロットしたマトリックス図

――わかりやすい例などありますか?

「LINEデリマ」は、寿司・ラーメン・ピザといった16,500店のメニューを会員登録不要で簡単に注文できるサービスです。よくリテール(小売)の場合、「曜日×時間」というデータで分析しますよね。

――はい。

LINEデリマの場合は、「曜日×時間」に「位置情報」を掛け合わせることができます。たとえば、東京都内でも、住宅街とビジネス街では、注文する時間が異なるとデータで明らかになっています。

「曜日×時間×地域別」といった軸で、LINE上で施策を行える環境が整ってきていますし、商品やサービス別に戦略を立てて、それに対応できる手法もかなり整ってきています。

「曜日」や「時間」に「位置情報」を掛け合わせることで、商品やサービス別に戦略を立てることができる

時間×曜日×位置情報でターゲティング可能なMAを自社開発中

――ということは、LINE内でエリア×セグメントのターゲティングができるということですか?

はい、実はゼロから自前でマーケティングオートメーション(MA)を作成中です。「時間×曜日×位置情報」でターゲティングできるツールはこれまで見たことがなく、初めてではないでしょうか。

――自前でMAを作ってしまうとは、やることのスケールが違いますね。のちのち、広告のプラットフォームにも転換できそうですね。

未来のことは不確定要素が多いので明言は避けますが、現状は、自前で作ったMAを使い倒して、いろんなデータ検証をしてみるというフェーズです。

 

3rd Partyデータで、顧客データベースを作るという構想からスタートしたLINEショッピング

――企業がLINEショッピングなどのサービスに出店するメリットを教えてください。

まず、LINEの強みはLINE IDを軸にしたデータ分析と活用です。

IDに紐づいたオンラインの購買データだけではなく、LINEは日常で利用するサービスのため位置情報の取得率と先述した「プッシュ型」、「プル型」、「シェア型」の3つの特長を生かしたマーケティングを掛け合わせられることが強みです。

企業の方からは「オンライン・オフラインの顧客情報をデータで一元管理して、もっとマーケティングに活用したい」という要望が多くあります。LINEショッピングやSHOPPING GO、LINEデリマなどO2Oカンパニーが展開しているサービスの多くは、その要望を叶えるものだと思います。たとえば、多くの企業で会員カードってありますよね?

――オフラインだとプラスチックや紙、オンラインだとアプリで提供されているものですよね。

そうです。もともと、「LINEショッピングは、3rd Partyデータで、出店企業ごとの顧客データベースを作ろう」という発想があったんです。つまり、企業における「会員カード」をLINE上で提供するということです。たとえば、自前で会員カードをアプリで開発したとしても、マーケティングに使えて、費用対効果に見合うような成果が得られるのは、ごく限られた企業だけです。

LINEの場合は、LINE IDでログインした状態で、LINE上のさまざまなサービスを使えます。利用者からすると、わざわざ特定のアプリをダウンロードする必要もなければ、利用開始するためにIDを登録して…といった煩わしさがなくスムーズに利用できます。一方、企業からすると自前でアプリ開発する必要はないうえに、オンライン、オフラインのデータが簡単に取れます。

LINEの担うところは、新規ユーザー獲得とリフトアップ

――でも、企業からすると自社ECとLINEで、お客さんを取り合うことになりませんか?

LINEが担っていることの多くは、新規ユーザーの獲得とライトユーザーのリフトアップです。たとえば、LINEのポイントをフックにして、新規ユーザーに知ってもらって、その後プッシュ通知などを利用して、ロイヤルユーザーに引き上げていく。

すでにロイヤルティの高いユーザーに対しては、自社でオムニチャネルしていただければいいんです。ですから、お客さんを取り合うことにはなりません。

写真:藤原さん
LINEの特長

――なるほど。

事業をスタートして2年、オンライン・オフラインのデータを融合した分析、3rd Partyデータで、出店企業ごとの顧客データベースを作る、という理想に近いプラットフォームになってきました。

――藤原さんが考えるLINEの強みを教えてください。

「位置情報によるターゲティングができて、データ分析もできる」といったところが強みの1つですね。どんなに購買頻度が高いユーザーでも、週1回買えばいい方です。だとすると、週1回サイトしかサイトに来ないので、位置情報のデータって、週1回しか取れません。

規約に承諾しているユーザーに限りますが、LINEにログインしたら、位置情報が取れます。位置情報だけで、リアル店舗に入店したまでは、Beaconを使わずともわかるんです。店舗の中をどう動いたかといった話になると、Beaconが必要ですが……。

オンライン・オフラインのデータ分析が可能に

――データが取れることで、オフライン施策の精度も上がりそうですね。

位置情報×購買データ
位置情報×時間別のサービス起動時間(サンプル)

たとえば、チラシはどこまで配るべきか、という問題がリテール(小売店舗)ではよくあります。LINEのデータを使えば、リアル店舗のターゲティング精度、マーケティング施策の精度を上げられるんです。LINEを活用することで、これまで見えなかったデータを活用できるようになるので、そういった課題解決の糸口にもなります。

――通常だと「今後の展望は?」で締めるんですが、こういったプロダクトを発想する着眼点が気になります。

あー、それは僕が「買い物」や「旅行」など各プロダクトの分野を好き過ぎないからですね(笑)。というと、語弊があるかもしれませんが、自分がすごく好きな業種のマーケティングをやったことがなく、そこまでその分野を好きではないからこそ、プロダクトを作る時に客観的に、俯瞰して全体を眺められると思っています。

「誰のために、何をやっているか」という目的を忘れず、目的から分解していくことが大切です。O2Oカンパニーで立ち上げているサービスの多くは、BtoBtoCなので、企業のニーズとユーザーのニーズをマッチングさせていくことが我々のミッションです。

今後の展望

――なるほど、では最後に今後の展望を教えてください。

特定のエリアにいるユーザーにプッシュ通知を送れたり、ポイントキャンペーン情報を送ったりすることはすでに実現可能です。課題としては、在庫情報の連携ですね。オンラインとオフライン(実店舗)の在庫情報がマージされれば、今すぐこの商品が欲しいというユーザーに対して、購入可能な店舗を具体的にお知らせすることも実現可能です。

すべてのショップでオン・オフの在庫情報がマージされて、リアルタイムに取得できるようになれば、3rd Partyデータでマーケティングができるという新しい世界が待っていると思います。これはユーザーにとっても、優れた購買体験ができるということです。そんな未来を実現していきたいですね。

――お話ありがとうございました。

取材・文・構成/四谷志穂(Web担編集部)
写真/二村茜(Web担編集部)

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