インタビュー

TikTokになぜ先行投資をするのか!? 宿泊予約サービス「Relux」のSNSマーケティング戦略

全社を挙げてコンスタントに動画を投稿し、ユーザーと毛づくろい型コミュニケーションを築いているというReluxのSNS運用をインタビュー。

ByteDance社が提供しているTikTokは、10代後半から20代前半が遊ぶ自撮り系アプリとして人気を得たが、企業での活用事例はまだ多くない。しかし、今後見込まれる機能追加を考えると、大きな可能性を秘めているSNSともいえる。

その可能性をふまえて、宿泊予約サービスReluxを運用するLoco Partners(ロコパートナーズ)ではTikTokをマーケティングのために使い始め、累計2,000万再生を突破(2019年4月25日時点)した。

そして、今後TikTokの人気投稿コンテンツとして期待される『旅行』の拡充を推進するためにTikTokと協力し、ユーザー参加型のコラボキャンペーン をスタート。なぜTikTokを始めたのか、またその利用法、運用法などを、Loco Partners上田氏、櫻井氏に伺った。

マーケティング統括部 上田涼平氏(左)、櫻井唯香氏(右)

後発だからこそSNSに注力! Facebookへの先行投資で成功体験

――「Relux」は、サービス開始から6年ですね。現在の会員数はどのくらいでしょうか?

櫻井氏(以下、櫻井):弊社は、「つながりをふやす」をMissionに掲げ、顧客満足度ナンバー1のOTA(Online Travel Agent)を目指してきました。

おかげさまで、2019年4月時点で会員は200万人です。そのうちインバウンドのグローバル会員は46万人。日本、台湾、中国、韓国の会員がメインです。

そのため、日本語だけでなく、繁体字、簡体字、韓国語、英語でもローカライズされたサービスを作っています。一流ホテルから、出張で使えるカジュアルなホテルまで、さまざまなシチュエーションでご予約いただいています。

Reluxのスマホ画面。地域などのキーワードや宿泊日、人数で検索すると一覧が表示されるので、そこからさらにReluxグレードや宿タイプ、貸切風呂がある等のこだわりなどによって絞り込める。コンシェルジュサービスでは、電話やメール、LINEで旅行相談も可能。

――掲載されている画像がどれもきれいですが、こだわりはありますか?

櫻井: PCでもスマホでも、最初に画像がとびこんでくるUIにし、画質も基準をもうけて掲載しています。

あと、宿泊施設様にはできるだけたくさんの写真をいただいています。印象的な画像はもちろん、外観、お部屋、お食事など、宿泊するにあたって気になるポイントは画像で見ることができるようにしています。

そして、FacebookやInstagramはこうしたきれいな画像を利用させていただいて運用しています。

上田氏(以下、上田): FacebookはReluxのサービスローンチ当初から運用しています。当時はまだ、Facebookを活用している宿泊予約サービスはなかった状況でしたが、「きっとFacebookは浸透していくだろう」とFacebookでのマーケティングを始めて、現在では国内OTAで一番のファン数を獲得しています。

――Facebookをなぜ開始されたのでしょうか?

上田:Reluxは、宿泊予約サービスでは後発です。OTAとしてはSEOで勝っていくのがセオリーですが、コンテンツ量、リソースなども多い他社と戦って勝つのは難しいということで、SNSに注力しました。

有名なSNSは全部使っています。ファン数はFacebookで115万人、LINEで20.6万人、Instagramで23万人、TikTokで1.6万人になります(4月10日現在: 編集部注)。

TikTokとほかのSNSとの使い分け

――そして、TikTokもマーケティングで活用され始めたのですね。

上田: TikTokは、Facebookでの成功体験をふまえて、同じ文脈で先行投資をしました。弊社は中国にも拠点があり、中国のマーケティング情報が入ってきやすいです。そのなかで、中国版のTikTok「抖音(ドウイン)」が中国国内の生活に深く浸透していると聞きました。(DAU2.5億、MAU5億、政府系アカウント5,700個以上、メディアアカウント1,300個以上)

それで、TikTokが完全に日本に浸透しきる前に先行投資をして、早めにシェアをとっておきたいと始めました。

ReluxのTikTok画面。

――各SNSの使い分けはどうされているのでしょう?

上田: 考え方としては、各プラットフォームに最適なコンテンツを届けて、そのプラットフォームがもっているそれぞれのセグメントに、まんべんなくリーチしていくようにしています。

櫻井: たとえばTikTokやInstagramは、宿泊施設やReluxを知ってもらうものですが、LINEはReluxを知っていただいている方に登録していただいているので、予約をしてもらうことに注力しています。フェーズが1個先という感じです。

――プラットフォームによる年齢層の違いはいかがでしょうか?

櫻井: Reluxユーザーの中心層は30代、40代で、FacebookとLINEの登録者属性と近いですね。一方でTikTokとInstagramは20代が中心で若いです。そこで、コンテンツの出し分けというのは行っています。投稿内容もそうですし、コトバの選び方とか、細かいところまでチューニングをしています。

マーケティング統括部の櫻井唯香氏

上田: TikTokはいまの日本だと、10代前半から20代前半がメインユーザーですが、中国版では男女比率は同じ程度で、日本より更に幅広い年齢層で 使われていると聞いており、お父さんお母さん、祖父母の代まで使っていると考えられます。中国の初期は現在の日本と同じで、年齢層が低いところから始まっていますから、日本でも幅広い年齢層に広がるだろうと予想しています。

――年齢層が広がると、TikTokの使い方が変わってきますね。

上田: 現在の日本でも、TikTokのトレンドにはおもしろい変化がありまして、リップシンクという、歌にあわせて口パクをして踊って、というコンテンツから始まって、それからダンスの振り付けになりました。そして今は、旅行とかメイク、グルメとか、自撮りではなくて、ライフスタイルを切り取るという動画がユースケースとして広まってきています。自撮りではないので投稿するハードルが下がって、まずは投稿してみる、みたいなモチベーションが出てきています。

旅行コンテンツとTikTokは相性がいい!?

マーケティング統括部の上田涼平氏

上田: それからアプリ自体の機能も増えてきました。中国版に付いていた位置情報機能が、最近日本でも使用されているグローバル版にも付きました。弊社が3月から行っている「#Relux思い出 TikTokキャンペーン」も、位置情報を使ってやっています。

――位置情報と旅行コンテンツは相性がよさそうですが、どんな投稿が人気ですか?

上田: たとえば中国では、誰かがニッチな観光地に行って動画で撮ってTikTokにあげて、それを見た人がそこに行ってまた動画をあげて……と、TikTokにアップするために旅行するという例がありました。そのことで、観光地としてあまり目立たなかったところが、かなり盛り上がったようです。

インバウンドの事例では、奈良のおじぎをする鹿の動画がバズりました。その鹿を撮りたいということで奈良へ撮影しに行く人が増えて、東京のハッシュタグよりも奈良のハッシュタグが多いという現象がありました。

TikTokのおもしろみの1つは、初めて投稿した動画でもバズる可能性があることです。そこがYouTubeと違うところですね。思いもしなかったところで拡散して、地域の活性化につながるところがおもしろいです。

――3月から始められたTikTokキャンペーンも、旅行、旅が題材ですよね。

上田: そうです。TikTokと協働して、人気宿の無料宿泊ペア券が当たるキャンペーンを始めました。旅に関連した動画を撮影して、「#Relux思い出」というハッシュタグと位置情報を付けてもらって投稿してもらうものです 。

#Relux思い出キャンペーン画面

櫻井: 人気のあった動画には、Reluxで人気の宿泊施設の無料ペア宿泊券を5名にプレゼント。参加者全員にもReluxの5%オフクーポンをプレゼントします。多くのお客さまや、宿泊施設の方が投稿して盛り上げてくださっています。

主要KPIは「動画の質」「投稿頻度」「制作コスト」

――TikTokの利用に関して、一番ご苦労されている点、気を付けている点は何でしょうか?

上田: 主要KPIに関しては、できるかぎり「動画の質」と「投稿頻度」をあげつつ、「制作コスト」を下げるという3点に絞って、それぞれPDCAをまわしています。その上で動画のノウハウのポイントをまとめると、次の8点をあげることができると思います。

  1. 縦動画にする
  2. 動画にマッチした音楽を選ぶ
  3. 盛り上がる場面を入れる
  4. チャレンジ/キャンペーンに参加する
  5. 適切なハッシュタグをつける
  6. 位置情報を追加する
  7. 高い頻度で投稿する
  8. アカウントのテーマを統一する

たとえば「動画の質」の部分でいうと、TikTokユーザーは動画の質にはかなり敏感で、チープなものはあまり反応がよくありません。始めた当初は、横長の動画をそのまま投稿して、上下に帯が出て小さくなってしまったりしていました。いまは、基本的にはそもそもきちんと縦で撮影した動画をメインに投稿しています。

それと、TikTokでは音楽と合っているかというのも重要です。早回しの曲を流す場合は、動画も早回しにするなど工夫しています。

そのため、撮影のフレームレートをあげておくと、編集したときになめらかです。なるべく4Kで撮影し、圧縮せずにストレージへアップロードする、ということもしています。

――頻度に関してはいかがでしょう?

上田: 毎日2投稿くらいです。といっても、動画は集めるのが大変です。部署を問わず全社員に協力してもらっています。旅行に行ったり、営業に行ったりしたときは動画を撮ってきてもらっていますね(笑)。

さらに、なるべく一定以上のクオリティになるように気を付けています。施設は撮るときはこう、風景をとるときはこう、というように撮影法はマニュアル化しています。

そうして集めた動画を、TikTok運用担当メンバーが投稿計画を立てて編集し、アップしています。

――なるほど。全社員で取り組むことで投稿頻度も保ち、コスト削減もはかっているわけですね。

TikTokは毛づくろいコミュニケーションの場

上田: 撮影で気を付けていることといえば……こちらは社内のメンバーがベトナムに行ったときに撮影したものですが、タイムラプスで撮影して、TikTok映えをねらっています。

数秒や数分ごとに撮影した写真をつなげ、コマ送りのように行うタイムラプス撮影を利用。ベトナムの日常を撮ったこの動画は、再生数75,200、いいね1,522、コメント50を獲得した(3月25日現在)

上田:それと、内容的に意識していることは、コメントが付くようにしていることです。『アーキテクチャの生態系』(濱野智史: 著)に出てくるのですが、コミュニケーションの形としてパケット型とグルーミング型があります。

パケット型は伝える内容が大事で、グルーミング型は毛づくろいなので、コミュニケーション自体で一体感が得られることが大事、というものです。それでいうとTikTokはグルーミング型かなと思いました。

たとえば、美しい棚田の動画に「神秘的すぎるコレ、、どこかわかるひといるかな?」というクイズを出したら、たくさんコメントが付きました。

棚田の動画画面。再生数73,600、いいね4,203、コメント257(3月25日現在)

「コメント欄で叫んで、ストレスを解消してみて」と、コメントの方向性を定める文にしたときには、2,000コメントを超えました。

「叫んで」とコメントを求めた六義園の動画画面。
再生数340,400、いいね16,100、コメント2,171(3月25日現在)

まだTikTokが各ユーザーに表示するアルゴリズムにはわからない部分が多くありますが、基本的には再生数、いいね、コメントなどによって定期的に判断していると考えているので、コメントしてもらえるかどうかは意識しています。

「一体感を生むための場を提供する」イメージで、動画を投稿しているところはありますね。コメントのなかでコミュニケーションをとって楽しむ場を提供していると、アカウントもフォローしてもらいやすい。そうした毛づくろいコミュニケーションみたいなところを意識しています。

――TikTokの活用としては、どのような展望をおもちでしょうか?

上田: まずは先行投資としてやっていますが、中国版で先行している機能がグローバル版に追加されてきたときに、旅行業界で一番シェアをとっている状態をつくっておきたいですね。

中国ではTikTokは外部ECと連携していたり、ライブ配信機能や投げ銭機能があったりしますから。それがグローバル版にも追加されることを見越してアカウントをもりあげていくというのが、短期的な目標です。

――そうすることで、Reluxサービスの認知もあがりますね。

櫻井: Reluxは3月で6年たち、7年目に差し掛かっていますが、まだ規模としては大きくはないです。宿泊施設様を増やしていきたいですし、会員数もさらに伸ばしたいですね。Reluxは高級旅館の宿泊予約サービスからスタートしていて、それが強みの1つでもあります。それだけではなく、質の高いビジネスホテルやホステルも掲載しているので、多種多様な視点で使えることも伝えていきたいと思っています。

価格だけでなく、部屋に特典がついているとか、朝食が美味しいとか、単に泊まる以外にもう一段上のポイントをおさえたいです。

SNSは、Reluxを知らない、知っていても使ったことがないという層にアプローチしやすいチャネルなので、そこから認知拡大を始めて、よりファンになってもらいたいと思います。

上田: TikTokで扱う動画のテーマを今は「旅」と広げていますが、将来的にはReluxの魅力や宿泊施設様の魅力にもフォーカスしていけると、より良いチャネルになっていけると思います。

――具体的なノウハウも含めて、本日はいろいろお聞かせいただき、ありがとうございました。

最初は主に10代、20代が使っていたLINEが、いつの間にかさまざまな世代で使われるようになった現実を私たちは知っている。TikTokが日本の日常に浸透する日も間近かもしれない。

※ 本文の一部を修正いたしました(2019-05-09 編集部)

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