インタビュー

元Google 長山氏とso.la 辻氏が「JADE」を設立。「日本のインターネットを良くする」がミッション

6/1から営業を開始する株式会社JADEの設立背景やミッションなどサイバーエージェントの木村氏が聞いた。
 

株式会社so.laの辻正浩氏が、Googleを退職した長山一石氏とタッグを組んで、新会社「JADE(ジェイド)」を設立、2019年6月1日から営業を開始する。創業の背景や新会社のミッション、さらには現在のSEO業界における課題まで、サイバーエージェントの木村賢氏が聞いた。◎撮影:吉田浩章

普通の生活をしていて、一人でSEOなんてできるわけない

木村: 辻さんと長山さんが新会社を設立するということで、詳しく話を聞いていきます。とりあえず簡単に自己紹介からいきましょうか。僕はサイバーエージェントの木村です。インタビューはしたことがないですが、編集部からオファーをもらったので、ここにいます。

辻: 私から編集部に依頼をしました。木村さん、引き受けていただいてありがとうございます。私の経歴は、営業や広告制作などいろいろやりましてから、北海道でWeb制作をした後に、2007年から東京で株式会社アイレップに転職後SEOに専念。4年後にSEOコンサルとして独立して、株式会社so.laを設立し、大規模サイトのSEOをやってきました。株式会社JADEは13社目で、SEO専任になってから、12年くらいでしょうか。

株式会社JADE COO 辻正浩氏

長山: 2011年にGoogleに入って、2014年にマウンテンビューのGoogle Inc.に転職しました。それからGoogle LLCになって、直近ではGoogle Playの仕事に携わっていました。2019年3月29日で退職。5月7日に株式会社JADEを登記したので、これで4社目ですね。

株式会社JADE CEO 長山一石氏

木村: それ、転職っていいます?(笑) どうしてGoogleを辞めたんですか。

長山: 理由は複合的ですね。わかりやすいところで言うと、「アメリカに永住するのか」「日本に帰るのか」という選択でもありました。自分はL-1(企業内転勤者)ビザで米国で働いていましたが、このビザは5年がマックスです。変えるなら「グリーンカード」なのですが、これは永住権で、アメリカにずっと住むことに対してコミットすることになります。できるだけ母の近くにいたいなど、家族の事情もあって、帰国することにしました。

木村: Googleに戻るという選択肢もあったのでは?

長山: 確かにそうですね。Googleの職場環境、仕事、給与どれも素晴らしいと思います。でも、8年近く在籍していたので、会社のことがある程度わかってしまい、5年後の自分が想像できてしまったんです。自分は「5年後何をしているか想像がつく選択肢よりも、想像がつかない方の選択肢を選ぶ」というポリシーを持っているので、それに従って退職しました。その上で、「自分が社会に与えるよいインパクトを最大化するには、どうすればよいか」を考えて、辻さんに話しかけてみた、という経緯です。

木村: では、長山さんから辻さんに、新会社設立の相談をしたんですね。辻さんはその提案を聞いてどう感じましたか?

辻: 正直驚きましたが、渡りに船で乗ってみようと思いました。というのも実は、SEOに行き詰まっていたところがありまして。

木村: と言いますと?

辻: SEOの領域はどんどん広がり、やらなければいけないこと、見なければいけない領域、考えなければいけないことが増えています。会社としてお客様のサポートをしている以上、自分が自信を持てるデータや実績が無ければ、お客様に「これをやるべきだ」なんて言えませんよね。

それを実現しようとすると、寝ている時間がないんです。私も今年45歳で、1徹ならなんとかなりますが、2徹は完全に無理。できるのはあと2、3年で、その後は引退するしかないかなと思っていたんです。

木村: 辻さんはお一人でやってますからね…。

辻: 「各分野のエキスパートが集まったチームが作れれば、事業として継続できる可能性がある」と思いつつ、現実的には無理だろうと諦めていました。そんなとき、長山から「一緒にインターネットをよくしませんか?」と声をかけられて、これは乗ってみようと思ったわけです。

株式会社サイバーエージェント SEOラボ室長 木村賢氏

Googleの手がまわらない部分は、外に出た方がやりやすい

長山: 会社のミッションにもつながりますが、Googleを辞めてやりたいことは2つあります。

一つは、「Googleがミッション上やらないことをやる」です。Googleのミッションは、世界の情報を整理してアクセス可能にして便利にすること。つまり、情報そのものの生成は本来のGoogleのミッションからは外れます。

情報そのものを生成して円滑な分配を促進するのが、いわゆるSEOですね。この点について辻さんはすでに素晴らしい仕事をされていますが、それはあまりに属人的で、辻さんが引退したら失われてしまうものです。この知識・スキルがすべて消えてしまうのは、日本のインターネットにとって損失が大きすぎる。分析・提案装置としての辻さんを、自動化し、組織化し、スケールさせて、持続可能なものにしていかなくてはならない。

木村: もう一つは?

長山: 「Googleの手が回っていないことをしっかりとサポートしていく」ことです。Googleはグローバルスケールで物事を考える必要がありますから、日本の特徴的な部分に関して手が回らないことがしばしばあると思います。検索エンジンに関することにとどまらず、Googleの視点や考え方に関する知識を広めていく啓蒙活動や、日本に未だ残っているブラックハットSEOへの対策、DMCA(デジタルミレニアム著作権法)の正しい利用法の促進など、むしろ外に出た方がやりやすいことはいくつかあるかなと思います。

社名の由来、建前は日本の国石「翡翠」、ホンネは「ドメイン」

木村: 長山さんと辻さんがタッグを組んで、株式会社JADEができたわけですが、「JADE」の由来は?

辻: JADEというのは、英語で「翡翠(ひすい)」のことです。翡翠は、勾玉にも使われた、日本の国石なんです。日本にこだわる、日本のインターネットをよくしたいという思いがあって、日本を示す石のJADEはいいなと。JAで日本という意味にもなりますし。

長山: 僕の名前が一石と書いて「かずし」というのですが、石の名前を社名にするのはいいなと思いました。

辻: というのが建前で、実は良いドメインがあったからなんですが。

長山: まず、ドメインを取ったんです。ちょうど「.dev」というTLD(トップレベルドメイン)がリリースされたところで、僕は「nagayama.dev」も取ったし、いろいろ取ったのですが、短くて覚えやすいドメインが.devで取れないかなと。

「jp.dev」は取れなかったのですが、「ja.dev」が取れた。jaは日本語の言語コードですし、これをベースに大喜利で名前を決めようということになりました。社名としては、「JA」とか、あるいはそのまま「ja.dev」とか、Japan Analyticsの略だということにするとか、いろいろ案はあったのですが、翡翠の話を思いついて「JADE」がいいねと。

辻: 日本にこだわるというのを後付けで考えたのですが、本心はドメインマターでした。

長山: でも、思いついた時は「これ、来たんちゃうか」と思いましたよね。

辻: 「ドメインがいいドメインじゃないとイヤ」という気持ちはすごくありました。

 

Growth & Integrityでインターネットをよくする

木村: JADEのミッションは?

長山: 「インターネットをよくする」というのがミッションで、キーワードはGrowth & Integrity(成長と誠実)です。Webのプロダクトを持っている会社向けに、GrowthとIntegrityという両輪で、総合的なプロダクトに関わるコンサルティングを提供していきます。我々の一番の強みは検索ですが、今後、広告なども含めて、全体をサポートできる会社にしていくつもりです。

木村: Growth(成長)とは具体的に何を指しますか?

長山: Growthは、「サービスのユーザーをいかに増やして、Webサービスを成長させるか」という部分です。未だに検索エンジンは多くのサービスにとって最大の流入経路ですが、検索エンジンのことだけ考えていれば、SEOができる時代は既に終わりを告げ、ユーザーにとって価値あるプロダクトやサービスが、検索エンジンでも成功する時代になっています。では、どのような組織づくり、プロダクトデザイン、サービス運用、そしてもちろんマーケティング施策を行っていけば、より「強い」ものになるのか、に関する知見を我々は持っていると思っています。

一方で、ユーザーに価値あるものを提供するだけでは不十分です。たとえば、数万URLあるような大規模サイトでは、それらのURL群がどのようにクロールされて、インデックスされるかを、きちんと意識しておく必要があります。つまり、Growthにおいては、まず「ユーザー」と「検索エンジン」の両輪でコンサルティングをしていく予定です。

木村: Integrity(誠実)は?

長山: Integrityは、最近「Trust & Safety」という言葉でも表現されますが、Webサービスを運営していくうえで、いかにして自社のプラットフォームをさまざまなリスクから守るかということです。

スパムやブログサービスで大量生成される不適切な記事といったものはもちろん、青少年保護、著作権保護、ランキング操作の対策など、いかにプラットフォームを守り、ひいてはユーザーを守るかを考えながら運営する必要があります。

ただ、ここに関して知見や体制がある組織は意外と少ないのが現状です。そこに対して、戦略・戦術からノウハウのレベルまで、総合的にコンサルティングを提供する。そういうことができる会社は、日本で唯一くらいになるのではと思います。

木村: お二人の役割分担は?

長山: 僕がCEO、代表取締役社長で、辻がCOOです。COOは、よくあるチーフ・オペレーティング・オフィサーではなく、チーフ・オプティマイゼーション・オフィサーです。

辻: 前の会社のso.laでは、社長ではなく実務をやり続けますという覚悟で、代表取締役SEOとずっと名乗り続けていました。それは今度の会社でも同じです。お客様の最適化のために、Growthにこだわる形で、実務をずっとやっていきます。それと、長山が元Googleということで、Googleのアルゴリズムとか裏技とかが聞けると期待されると困るのですが、ピュアSEOの部分は私が担当します。

長山: そうですね、NDA(秘密保持契約)の範囲内でしかお話しできません。

木村: so.la時代の仕事は、JADEで引き続き対応する? 新規の依頼は可能になるんですか?

辻: はい、so.laでのお仕事はJADEで対応します。また、JADE設立で新規の仕事も受けられるようになると思います。すぐにではありませんが、増やしていくつもりです。

 

大量生産でなんとかなるSEOは既に終わっている

木村: SEO業界にはいろいろ問題もあると思います。「ここがダメだよ、SEO業界」という話をしたいと思います。

辻: SEOが明らかに変わっているにもかかわらず、SEO会社側が変わっていないというのが、現状の問題だと思います。リンクがほぼ死んだ時代、それこそ「人工リンクはリスクになる時代」にもかかわらず、自作自演のリンクを売り続けているSEO会社は今でもあります。これは明らかな問題です。

また、コンテンツに関しても、コンテンツが死んだわけではありませんが、コンテンツの大量生産では費用対効果は大きく落ちている。それはデータを見ればわかることです。にもかかわらず、みんな気付かないふりをしてコンテンツの大量生産を続けているというのが、やはり問題です。

長山: 同感です。リンクやコンテンツでどうにかなる、という旧来のSEOはすでに終わりを告げ、SEO単体で「成果を出す」ことは難しいと言えます。検索エンジンも進化しており、「ユーザーが何を求めているのか」という意図を理解し、最適解を返せるようになってきたからです。

サービスやプロダクトの持つ「本来の価値を最大化して、ユーザーに届ける」には、SEOだけでなく、組織作りやプロダクト設計、運用までを考えた総合的な観点が必要です。

木村: どうすればよくなっていくと思いますか。

辻: 正しい情報が拡散されて、人々の知識として定着していくしかないんでしょうね。ただ、情報発信で救えるのは、情報が届くところだけなんですよね。Webサイトを運営している人の大半が、Twitterを開いたこともなければ、Googleのブログすら読んだことがないというのが現実です。

問題が起きて初めて、気が付く…というパターンも少なくありません。JADEではそういう人たちをサポートするような「駆け込み寺」としての役割を担いたいと思っています。

 

木村: 「駆け込み寺」はどんなことをやるんですか?

辻: 悪質業者に騙された方の相談に無償で乗ります。私たちの会社ミッション「インターネットを良くする」ことにもつながると思っていますし、相談者からの情報で、悪質な業者をあぶりだすこともできるでしょう。今までそういう会社と戦う人がいなかったのも問題ですね。

長山: こういった取り組みが、「Googleにはできないところ」だと思っています。

木村: SEO及びその周辺をやる若い世代を、どう成長させたらいいか、どうなっていって欲しいか。若い世代へのメッセージと、若い人を成長させる側の人へのメッセージがあれば。

長山: 愛です。

木村: 出たー(笑)。

長山: 本当にそうだと思っていて、結局、愛を持ってやれるかどうかがすべてだと思います。

木村: 好きこそ物の上手なれ、ということかな。

辻: 若い人にもっとSEOに触れて欲しいというのは、ありますね。SEOを突き詰めるのではなく(もちろん突き詰めても欲しいけれど)、SEOという考え方、概念をちゃんと理解してビジネスに転換してほしいと思います。

長山: 検索エンジンからの流入というのは、やはり重要であり続けると思います。SEO担当だけが検索流入を考えるというのがそもそもおかしくて、プロダクトやサービスに関わる全ての人が「検索に関する知識」を持って、全体設計できるのが理想的ですよね。

木村: メーカーだと、物づくりの部分でもう決まってくる部分もありますよね。

 

「SEOとしてのキャリア」ではなく、「SEOをキャリアとして」利用する

木村: 最後に、編集部からSEO担当者のキャリアパスについて聞いて欲しいと言われているので、お二人の考えをお聞かせください。

辻: 「SEOとしてのキャリア」ではなく、「SEOをキャリアとして」利用するという考え方をして欲しいです。ただ、SEO担当者の「キャリアパスがない」というわけではないと思います。上場企業で、SEO担当者から役員になった人を何人も知っていますし。単に成果を上げていないからじゃないかな。ちゃんとやれば成果は上がるし、成果が上がれば評価は上がると思うけれど。

長山: 自分はキャリアについてあんまり考えたことがないので、参考にならないかもしれませんが……自分の仕事を「やれること」「やりたいこと」「やったらお金になること」の3つでしっかり捉えて、できるだけ3つの円が重なり合うところにボールを投げることが大切だと思います。

辻: おこがましいですが、アドバイスできるとすると、日本でSEOの専任が機能するのは十数社でしょう。今のSEOで大きな成果を上げようとすると、SEO以外をやるしかないと思います。

マーケティング活動の一環として、たとえば、広報や広告その他との連携を考えていく必要があるんでしょうね。いまSEOをやっている人は、SEOを理解しながら、その知識を武器に自分の担当領域を広げられる最後の人なのかも。これはチャンスかもしれません。

木村: 大規模サイトのインハウスSEO以外は、自分のロールを広げるしかないということですね。「隣にあることもやっていく」くらいの感じにしないと、評価されるのは難しいのかもしれません。ありがとうございました。

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