広報、何から始める? 創業から一部上場した企業の広報担当が語る「成長フェーズごとの広報役割」
「広報活動ってどうしたらいいの? メディアとのコミュニケーションってどうしたら? PR代理店ってどう付き合うべき?」など広報担当者で、悩んでいる人も多いのではないだろうか。
本連載では、「未経験で広報担当者になってしまった」という人のために、先輩広報にインタビューして、「広報の基礎知識アップ Tips」としてさまざまな人の知見をまとめていく。
初回の今回、クラウドサービスを提供する「テラスカイ」の創業当時から、一部上場まで広報担当者として、企業の成長を支えてきた田中有紀子さんに話を聞いた。その内容を踏まえて、今回まとまった知見は以下の通り(それぞれの項目については、記事後半のインタビューで詳しく紹介)◎撮影:永友ヒロミ
広報の基礎知識アップ Tips
PR会社の選び方は?
Web制作会社にもそれぞれ特徴があるように、PR会社もそれぞれの特徴やサービス内容が違う。大きく分けると「伴走型」と「完全代行型」の2つがある。丸っと任せたいのか、ノウハウをもらって自走できるようにするのか、で選択するとよい。最近は副業やフリーランスでアドバイスをしてくれる個人も増え、選択の幅が広がっている。SNSの活用は?
あくまでも伝えるための手段の一つなので、毎日更新することが必須ではない。ブログに関しては、書き手を増やして個々の担当の負担を軽減&ロングテールなネタで長く読んでもらえるようにする。プレスリリースのネタ集めは?
情報が集まる仕組み作りが大事。たとえば、営業がクライアントと商談する時点で、事例先として露出して良いか確認・依頼しておく。だんだんと仕組みが定着すれば回り始める。記者とのコミュニケーションは?
メディアキャラバンができなくても、大きなネタがなくても、記者説明会は定期的に。記者は専門家にあらず、自分たちの当たり前を疑って記者向けの勉強会などを実施することで、そこから次の取材や記事化につながる。会社の成長フェーズで変わる広報の役割は?
会社が無名な時のプレスリリースは、すでに社会的に信頼がある会社のコメントを入れるなど工夫を。情報の受け手がどう感じるかを常に客観視する。
代行型 | 伴走型 | 顧問型 | |
---|---|---|---|
リテナー(月極定額) | 〇 | 〇 | 〇 |
プロジェクト単位 | 〇 | △ | × |
時間単位 | 〇 | × | × |
成功報酬 | 〇 | × | × |
今回インタビューした田中さんが所属するテラスカイは、2018年11月に一部上場を果たした。創業当時から広報として、会社の成長を下支えしている。そんな田中さんも広報としてのキャリアスタート時は、未経験、先輩社員もいない、という状況だったという。
外部のPR会社とともにノウハウを蓄積し、自ら勉強しに行くスタイルで広報としてのキャリアを歩んできた。以下、会社に成長とともに変化する広報としての役割などを聞いたインタビューをお届けする。
PR会社の選び方は? 役割は大きく2つ、自社の目的に応じて選択する
加藤: 田中さんが広報を担当したきっかけはなんですか?
田中: テラスカイに入社したことがきっかけです。入社当時は、エンジニアとして働いていました。その後、ユーティリティープレイヤー(いくつものポジションを一人でこなす人)という形で広報やマーケティングを担当することになりました。創業から4年ぐらい、必要にせまられてプレスリリースを書いていましたが、何が正しいのかもわからずで……。ですから、積極的に広報をやるとか、マーケをやるという状況ではなかったです。
加藤: 広報に専念するようになったきっかけはなんですか?
田中: 実は、もっと広報に専念したい気持ちがあったものの、目の前のお客様や仕事を優先せざるを得ない状況でした。転機となったのは、NTTグループと資本提携をした際に、行った記者発表会でのことです。
その記者発表会は、NTTが契約しているPR会社が間に入っていました。この時、PR会社の仕事ぶりを見て、「広報とは、こういう仕事なのか」とハッとさせられました。その体験を社長に共有すると、すぐにPR会社と契約することになりました。
加藤: 「PR会社と一緒に動きましょう」と提案しても、その有用性を経営層に理解してもらえないことも多いんですよね。
田中: すんなり理解してもらえた背景には、社長の経歴が関係しているかもしれません。社長はもともとIBMにいて、その後、セールスフォース・ドットコムの日本法人立ち上げに携わっています。
「知名度がある企業が行う広報」と「企業名を知ってもらう(認知)から始める広報」の仕方は異なります。営業活動においても、知名度がある・なしでは、商談に影響が出るのは、明らかです。社長自ら、その違いを体験していたからこそ、創業当時、広報に力を入れなければならないという、私たちの訴えを理解してもらえたのだと思います。
加藤: PR会社と一緒にやってみて、どうでしたか。
田中: 広報の基礎的な知識が身に付いたと思います。たとえば、プレスリリースの添削をしっかり学べましたし、配信先のメディアリストが圧倒的に増えました。マスコミ関係者にアポイントを取って面会して、取材の依頼をする活動を「メディアキャラバン」ということを知ったのもこの時でした。
PR会社と契約して1~2年経ってから、彼らがなんでもやってくれるものの、自社にノウハウが貯まっていないことに、ふと気が付きました。
加藤: 具体的には、どんなことが貯まっていないと感じていたのですか。
田中: たとえば、プレスリリース配信時に必要になる、メディアのリスト化ですが、まるっとお願いしてしまうと私たちの手元には何も残らないんですね。PR会社がいると、なんとなくプレスリリースの配信もできて、記者発表会もできてしまうんです。
将来的にはPR会社を入れずに、社内の広報組織だけでPR活動をしたいと思っていたので、PR会社との契約が切れたときに私たちに何ができるんだろうと、ハッとしました。
加藤: なるほど。PRの仕方には大きく2つあると思っています。
- 社内には窓口となる担当はいるものの、実際の活動は外部のプロに任せるという方法
- 社内にちゃんと広報の組織を作って機能させる方法
田中さんは、後者を目指していたわけですね。広報初心者だった田中さんですか、どうやって広報のチーム作りを実践されたのですか?
田中: 本当に手探りだったので、広報担当者が集まるコミュニティや勉強会に参加したり、書籍を読んだりしました。コミュニティで出会った先輩広報さんに、別途機会を作ってもらって教えを乞うこともありましたね。また、前PR会社との契約終了後に、今日聞き手を務めている加藤さんを知人に紹介してもらって、PRのノウハウを社内に蓄積させて、仕組みとして回るように支援いただきました。
エンジニアによる技術ブログの書き手は30人
加藤: 情報の見せ方(人への伝え方)で工夫していることなどあれば、教えてください。
田中: 社外に対して情報発信できるタレント的な役割の人を、多く育てたいと思っています。私たちの会社の特長は「技術力」です。企業ブログでも、週1本記事を更新することを6~7年ほど続けています。ネタは、ニッチなものから、万人受けするものまで幅広いです。この書き手をどんどん増やしていきたいですね。
加藤: すごいですね。
田中: 週1本ペースでも書き手が30人位いるので、執筆頻度は1人につき年に1~2回です。「年に1度なら」ということで、書き手の皆さんの負担にもならずに、ここまで続けてこられたのだと思います。
特にニッチなネタの記事の場合は、ロングテールを狙ったキーワードを盛り込むことで、検索上位に表示されることが多いです。「技術力がある会社だ」と、外部からも評価していただける1つの要因になっていると思います。
加藤: なるほど。瞬間的に大量のページビューを稼ぐ記事ではなく、わかる人には伝わる、長く読まれる記事を蓄積していくわけですね。企業ブログを続けることの利点として、受注につながったり、人材難が叫ばれているエンジニアの採用に効果があったりすると思いますが、いかがですか?
田中: 受注、採用双方で「知ってもらう」きっかけにはなっていると思います。ただ、採用面に関して言えば、別の角度で苦労しているところがあります。ブログを通じて、技術力があることは、わかってもらえるものの、会社の雰囲気がわからないということを最近入社した数名のメンバーに言われました。採用面も考えるのであれば、会社の雰囲気が伝わるようにしていくべきだなと感じています。
加藤: 「技術力を伝えること」だけでなく、「会社の雰囲気を伝えること」という視点は大事ですね。あとロングテールを狙うというのは、とてもいいですね。
田中: 今でこそ書き手は30人いますが、運営するなかで何度かブログの閉鎖危機を経験しています。更新頻度が高すぎて書けないとか、そもそも記事を書くことが苦手とか。こればっかりは、書いてみないとわからないので。
加藤: 「書く」ことに関しては、個人差がありそうですね。いろいろな経験から、ちょっとずつ調整をして、今の形ができあがってきているということですね。
更新頻度は週1~2回のSNS、公式情報を拡散してもらうときに有効
加藤: SNSの活用方法を教えてください。
田中: ブログや、リリース情報をFacebookやTwitterで紹介しています。弊社の場合ですが、Facebookでの反応は技術ブログよりもリリースの方がいいです。案外、社員がいいねしたり、シェアしたり、してくれています。SNSを活用することで、情報のミスリードが減らせるとも思っています。
加藤: と、言いますと?
田中: たとえば、文章の表現の仕方によって、伝わり方が変わってきてしまうこともあります。ですから、私たちがまずプレスリリースやブログなどを出して、それをシェアしてもらえれば、間違った伝わり方になることが減らせます。
加藤: 公式の情報として広報が出した内容を、SNSでシェアしてもらうことで、正確な情報が拡散されていきますもんね。FacebookとTwitterの使い分けはどうしていますか?
田中: 現時点では、FacebookとTwitterは同じ内容を出しています。実は以前、出し分けをしていたのですが、運用が大変なのでSalesforceのMAツール「Pardot」で同時配信、同時に投稿しています。シェア率はFacebookの方が多いです。
加藤: 更新の頻度はどのくらいですか?
田中: 発信する情報があるたびなので、頻度を定めてはいないんですけど、結果的に週1~2回は発信しています。イベントが重なると、もう少し頻度が上がります。
加藤: 弊社も週1~2回更新しているのですが、広報の相談会を行うと「毎日更新することにしていて、ものすごく疲れる」といった声をよく聞くんです。
田中: 何のためにやるかなんですが、無理を強いるとどこかに影響が出てしまうと思います。継続を目的とするのであれば、自然と無理なくできる仕組みで運用することが大事ですね。
加藤: SNSを含めたオンライン上での投稿についての研修はどうしていますか?
田中: SNS運用のガイドラインはありますし、研修も行いました。どちらかというと、個人情報の取り扱い、社内情報の何が社外秘にあたるのか、といった研修は入社すると、全員を対象に行っています。
プレスリリースの情報収集は、営業との定例MTG
田中: プレスリリースを出す回数を年間で定めています。プレスリリースのネタとして、導入事例を紹介するというものがあるのですが、最初は広報側がヒアリングをして事例先を管理して、随時プッシュしながらリリースにしていく、という形で進めていました。
ですが、この仕組みだとかなり大変で……。そこで、営業と行う定例MTGで、事例先のネタだしを一緒にやるにようにしたんです。1年目は、一緒にネタを出してもなかなか、リリースとして表に出せない状況が続きましたが、2年目、3年目と経るごとに、営業提案するときに、事例として掲載して可能かを聞いてももらえるようになり、計画通りにリリース配信ができるようになりました。
加藤: 素晴らしいですね。広報が社内を駆け回って、ネタ集めをするのではなく、集まる仕組みを作るという視点は、ヒントになると思います。
記者とのコミュニケーションの取り方は?
加藤: 記者の方との直接のかかわり方や工夫されていることはありますか? 普段やられていることがあれば教えてください。
田中: 私もそこが課題ではあります(笑)。記者に限らずメディアとの関係を持続するのは、難しいなと思っています。ネタがないと記者発表会をやりづらいとは思いますが、定期的に開催するべきだと思っています。
ネタがなければ、「事業戦略発表会」という形で開催して、来てくれた記者さんから、どういうことに興味があるとか、質問をされる内容などから、興味を持たれるポイントを探ります。発表会となると、経営層など誰かに話してもらうことになりますが、継続して続けることが大事かなと思っています。
加藤: そこで記者さんと直接お話もできますし、記者発表会がきっかけで、次の取材につながることもありますもんね。
田中: はい。私たちにとって当たり前だと思っていることが、メディアの方にはそんなに当たり前じゃなかったりします。
実は先日、社員が行った量子コンピューターの勉強会に記者の方にも来てもらったんです。その後、取材につながったということもありました。自分たちが持っている情報をメディアの特長を見極めて発信していくといいかなと思いました。
会社の成長を3フェーズに分けると、どんな広報活動が必要?
加藤: 田中さんの広報としての経験を「創業当時」、「拡大期」、「上場後」と3つのフェーズに分けたとすると、どんな活動をそのタイミングで行っていたか教えてください。
田中: 第一フェーズの「創業当時」は、「テラスカイ」という会社を知ってもらう認知フェーズです。記者であったり、お客さまだったり、情報を届けたい人にどのように、どう伝えていくべきか、どうすれば興味を持ってもらえるか、フックを考えるのが難しかったですね。
実際には、社内にある情報を見つけて、プレスリリースにする、ということをしていました。
ただ、戦略的に情報は発信できておらず、「製品を作りました」「機能が追加されました」といったリリースが中心だったなと思います。
知名度のない会社のプレスリリースをどう扱うべきか、記者も判断に困ると思うんですよね。そこで必要になってくるのが、第三者の視点です。
すでに社会的に信頼のある企業から、「パートナーとしてテラスカイを選んだ」と語ってもらうことで、信頼度や信ぴょう性が伝わりやすくなると思います。
加藤: 創業フェーズだと、なかなか気付けないですよね。とりあえず、プレスリリース出すのが精いっぱいというのもうなずけます。次のフェーズでは?
田中: 第二フェーズの「拡大期」では、情報に持続性と関連性を持たせることを意識していました。情報発信がワンタイムで終了するのではなく、ストーリー化させるということです。
具体的な例を挙げると、イベントの前に大き目の発表をして、イベントの認知や集客につなげるとか。新サービスの発表に合わせて、デモユーザーの声を掲載するとか。導入企業も一緒に掲載するとか。
情報発信も広報だけでやるのではなく、営業担当者と事前MTGをしたり、イベント担当者と事後の情報発信まで設計したりしていました。
加藤: なるほど。最後のフェーズではどうですか?
田中: 第三フェーズの「上場期」になると、大きく変わることはステークホルダーの数です。たとえば、
お客様はもちろん、株主、従業員の家族、メディアなど多岐にわたります。ステークホルダーそれぞれに向けた情報発信が必要になってきていると感じています。
まとめ
加藤: 最後に悩んでいる広報担当者さんに一言お願いします。
田中: まず、何のためにその情報を出しているのか、といったことを1回立ち止まって考えてみてください。情報を出すのが目的ではなく、それはあくまでも知っていただくための手段です。会社のフェーズにあった情報の優先度を考えて、無理なく回せる仕組みを作る方にパワーを割いて欲しいです。
――貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。
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