広報・PR術入門/インタビュー

パワーアップした広報/PR担当者の共通項とは? 会社も自分もメディアも三方良し

「広報・PR術入門」最終回。ビーコミの加藤恭子さんが、これまで取材してきた広報のプロフェッショナルの共通項からみえてきたことを総括。マーケと広報の連携にも言及した。

「広報・PR術入門」の連載も前回で15回を迎え、なんと最終回を迎えることとなりました。今回はその総括として、登場いただいた先輩たち、いわゆる広報のプロフェッショナルの共通項を探りつつ、新人広報さんに知って欲しいこと、やってみて欲しいことをまとめました。また、Web担当者Forumの読者の皆さんにとっては、自社の情報を適切に届ける広報PR活動とマーケティング活動との連携にも関心があると思うので、最後にそれにも触れます。

広報・PR術入門/インタビューのモデレーターとして、ご活躍されている広報パーソンにインタビューしてくださってきたビーコミの加藤恭子さん

新人広報さんに心がけてほしいこと

「広報特有スキル」と「ビジネススキル」を身に付けよう

まず言えるのは、「広報特有のスキル」と、「他のビジネスを行う場合でも必要となるビジネススキル」があり、その2つをバランスよく身につけると広報の仕事でも活躍できるということです。

必要な知識と実務のバランスが大切!

そして、基礎能力として何が必要かを把握し、知識を得たうえで、最低限のことはできるようになっておきましょう。たとえば、自動車運転のようなイメージです。標識だけ、ハンドル捌きだけを覚えてもダメで、バランスよく暗記し、実技として身につけることが免許取得へと繋がります。免許を取っても、人によって運転テクニックには違いがありますが、たとえ苦手な人でも、近所のスーパーへ行くレベルであればできるようになるものです。

広報には免許はありませんし、自動車学校のように座学と実技を組み合わせた学校もありませんが、自社の情報を適切に届けるという「目的」を果たすために、ある程度のレベルに達する必要がある点では似ています。

最初に身につけたい広報の知識

今回はビジネス全般スキルの話は別の機会に譲ることとし、「広報の知識」から見ていきましょう。知識を身につけて、広報の全体像を捉えることが大事です。これは本やセミナーなどから学べる部分です。PR協会のサイトも参考になります。PR手帳(広報マスコミハンドブック。11月下旬に最新版が発売されました)を購入したり、PRプランナーの公式テキスト『広報・PR概説』を勉強するのもお勧めです。

この時に大事なのは、「短期間で成果を出す裏技的なノウハウ」ではなく一般的にこうです、という比較的平易なものから学ぶこと。なぜならまずは基本を理解した上でできるようになり、そこから離れる形で応用していくという、いわゆる「守破離(しゅはり)」の順番で進んでいきたいからです。過去のインタビューでも、そのように仕事を進めていった先輩たちが能力を向上させています。

宣伝会議の広報担当者養成講座

このコロナ禍で、オンラインで基本が学べる講座がいくつも立ち上がっています。その中でも長年業界で定番となっているものとして宣伝会議の「広報担当者養成講座」があります。現在はオンラインでの提供ですが、私も対面の時代には何度か講師をさせてもらいました。複数講師によるカリキュラムがとてもよくできています。それなりにお値段はしますが、真剣に取り組めばリターンが大きいことでしょう。

LinkedIn Learning / Coursera

また、英語ではありますがLinkedIn LearningやCourseraでも広報の基本を学ぶ講座が、リーズナブルな金額で展開されています。「Public Relations」などのキーワードで探してみてください。

広報知識のチェックリスト6つ!

なお、広報で必要となる知識としては、以下の6つがあげられます。

  • 広報とは何か、何のために行うかを知っている。広告と広報の違いがわかり、使い方次第では広告も広報活動になることを知っている

  • プレスリリース、プレスリリース配信サービス、記者クラブ、記者会見、プレスリストなど、広報の手法や仕組み、道具などの基本を知っている

  • 従来メディアの特性やその仕組みを知っている

  • ソーシャルメディアを含めた新興メディア(アグリゲーションメディアを含む)の仕組みを知っている

  • 一般的な同業他社の広報活動のやり方を知っている

  • 会社の置かれたステージや規模、業種・業態(BtoBとBtoCの違いなど)により活動が変わることを知っている

PR会社と関わって、広報の実務を身につける

次に広報の実務です。広報の先輩方の多くは新人時代にPR会社に所属していたり、教えてくれる先輩がいて、実際に広報活動の現場で、大量のプレスリリースを書いたり、記者を訪問したり、記者会見を企画・運営する経験を積んでいます。

PR会社に在籍すると、PR業界標準のやり方を学べ、短期間にさまざまなクライアントの仕事を体験できるので基本的な技能が早く身につけることができます。そのほか、さまざまな事例も実体験できるので成長が早いということもあります。クライアントに説明をしなければならないので、なぜこの活動をするのかをうまく言語化する力も鍛えられます。そのため、活躍している広報のプロフェッショナルに話を伺うと、7割くらいの方から「PR会社で働いていました」と言われます。

とはいえ、そのために急にPR会社に転職するわけには行きません。ちなみに執筆している私もPR会社での勤務経験はありません(記者の経験と、企業側でPR会社のクライアントになり、連携して活動した経験、他のPR会社と組んで仕事をした経験はあります)。PR会社に所属するような経験を積み、能力アップを図るにはいくつかおすすめの方法があります。

副業でPR会社と関わってみよう

1つ目は副業です。副業でPR会社と関わることで、PR会社の仕事の進め方を学べて、自社製品、サービス以外の商品やPRに関わることができ、より多くの経験も積めますし、視野も広がります。そこまでできなくても、PR会社の社員の書いた本を読み、自分でも手を動かしてみることでPR会社の仕事の進め方、考え方に触れることができます。たとえば、『PR思考』(翔泳社)、『サニーサイドアップの手とり足とりPR』(クロスメディア・パブリッシング)などです。それぞれ電通PRコンサルティング、サニーサイドアップの社員が執筆しています。

体験しておきたい8つの広報実務

ざっくりと広報実務をリストアップすると、以下のようなものがあります。

  • プレスリリースの執筆・配信

  • プレスリリース配信サービスの活用(送信先設定、画像やロゴの設定も含む)

  • メディアリストの作成、管理

  • 取材のアポとり、事前準備、当日立ち会い、取材後の対応(専門誌、新聞、テレビ等)

  • 記者会見の一連の準備から対応まで(必要となる運営マニュアルやFAQ作成、対面とオンライン)

  • メディア訪問

  • ソーシャルメディアを活用した情報発信

  • 広報活動結果のレポート作成

広報の先輩方は複数企業での広報業務を経験している方も多く、その過程でさまざまな方法を体験してきています。広報初心者の場合、実際に体験できないものは架空のシチュエーションを想定して練習することをお勧めします。以前弊社でも「模擬記者会見」を実施し、広報担当者が集まって記者と発表企業に分かれ、架空のサービスの記者会見をやってみました。発表企業役の人たちは準備の一連の流れを全部をやり、記者役になった広報は、プレゼンを聞き、配られた提供資料を参考に、実際に記事を書いてもらいました。

「文章を書くのがこんなに難しいとは思わなかった。大事な要素を資料から見つけ出すだけでも大変だった」などと、さまざまな気づきがあったと参加者は語っていました。知識として「わかる」だけでなく、実践してみることでパターンが掴め、応用も効くようになります。理想と現実の違いや、理屈ではこうだけど実際はこうだった、というようなことが実感でき、それが自分に蓄積されます。これは座学だけでは学べない活動です。

何のための広報PRなのか?

知識と実践に加えて企業広報にとって大事なのは、「何のためにやるのか」という認識をもつことです。ついついたくさんプレスリリースを出すと達成感があり、頑張った自分に酔いしれそうになりませんか? 会社からも「頑張ったね」といわれるかもしれませんが、そこで1歩立ち止まる勇気も必要です。単なるプレスリリース職人になっていないでしょうか? 周りは見えていますでしょうか?

がむしゃらにやっても、必ず振り返る

私は「がむしゃら期」と言っているのですが、とにかく最初は良さそうな活動をがむしゃらにやってみる。それは「あり」だと思っています。しかし、ある程度突き進んだら「これって何のためにやってるんだっけ? 目的の達成に効果が出ているのはどれ? 効果が出ていないのに大変だったりして、活動を変更すべきものはどれ? 単に惰性で繰り返しているものはない?」と、振り返る必要があります。いわゆる四半期レビューのようなものですね。

経営に貢献する活動を目指す

会社によって置かれている状況やステージが違い、一概には言えないのですが、広報には「経営に貢献する」活動が求められていることが多いです。「経営に貢献する」をもう少し分解すると「社名や製品名を会社と関係ある多くの人に正しく知ってもらってよいイメージをもってもらい、企業の価値を高める、製品の売上げを伸ばす、良い人を採用しやすくする」ということだろうと思います。

先のプレスリリースの例で考えてみましょう。とにかく本数を出そうと、あまりに小さなネタで大量に送っていないでしょうか? また、流行り物と結びつけよう、無理矢理ネタに仕立て上げようと思うあまり、会社の方向性がぐちゃぐちゃになっていませんか? 小さなネタで本数が多すぎると受け手のメディアは「この会社のネタは、たいしたことがないな」と社名を見ただけで読んでくれなくなるリスクもあります。

たとえば、1月にはサステナブル、2月には女性活躍、3月にはさまざまな企業と提携…といったリリースの「痕跡」は「過去のプレスリリース一覧」に残ります。プレスリリースはたくさん出ているのに、「複数企業と提携していても全然成果が発表されていない」「新製品ばかり出しているのにユーザー事例が出ていない」「会社のメッセージが一貫していなくて、何を目指しているのかがわからない」、こうした状態になってしまうと、頑張ったのに逆効果になる場合もあります。

プレスリリースだけでなく、広報活動を行う前には「目的」を考えましょう。①会社として発信したい内容があって、②それを伝える手段は何か、という順番で考えていければ良いですね。広報の先輩たちも、プレスリリースだけに固執せず、さまざまな活動をうまく組み合わせて、企業の伝えたいことを最大限に伝える計画を立てて、全体のプロジェクトを進めていました。

広報とマーケティングを連携させると効果が出やすい

広報とマーケティング、セールスの関係について気になっている人もいるのではないでしょうか? 広報担当者の中には、広報とマーケティングを兼務している人もいるかもしれません。絶対に知っておいて欲しいのは、「広報とマーケティングを連携させると効果が出やすい、広報活動に意義を感じやすい」ということです。

まず、広報活動を連携させていない会社のマーケティング活動を見てみましょう。次図のような感じです。

広報/PRのないマーケティング/営業のサイクル

オンラインセミナーがコロナ禍で増えたせいか、集客のための広告宣伝費にかなりのお金を投入しても苦戦している場合も多いと聞きます。せっかく集めたリードも精度が低く、MQL(Marketing Qualified Lead)の数はほんの少しだけ。慌ててフォーム営業やSEO対策に乗り出すものの、なかなかうまくいかず逆効果になるケースもあるようです。ここに広報/PR活動を盛り込んだものが次の図です。

広報/マーケティング/営業サイクルを設計して回す

キャンペーンのタイミングに合わせてメディア露出が最大化するように設計することで、「参加して欲しい人」に情報が届きやすくなるわけです。大事なことは、「活動を連携させる」ことです。闇雲にプレスリリースを打ったり、とにかくイベントに全てを集中させようとイベントの日にメディア向け説明会を行うのでは、効果が出にくくなります。

点から線へ。マーケティングと広報を連動させて仕掛けを作る

会社への貢献と個人のスキルアップを両立させる

最後に、とても大事なことに触れておきたいと思います。それは会社に貢献することと、個人のスキルアップ(そしてプライベートの充実)をバランスよく両立させるようにするということです。

燃え尽きる前に気づいて相談しよう

一人広報の体験談として時々聞くのは燃え尽きてしまうケースです。とにかく仕事が大量にあり、成果が残せたものの「これだけ成果が出せるなら次はもっとできる」「テレビのニュースに出たんだから今度は経済新聞の1面だ」などと期待され、リソースがない中で抱え込んでしまい、疲弊して身体を壊してしまう場合もあります。

これは絶対に避けないといけません。この危険性を感じたら、早めに人員の追加や外部の会社に発注するなどを上司に掛け合い、全く理解されないようであれば、転職も視野に入れた方がいいかもしれません。PR会社に依頼すれば数百万円に匹敵する活動を一人で行って、月給25万円で身体を壊してはダメです。

個人のスキルアップを

スキルアップとしては、広報の先輩たちのように外資系企業の広報担当として通用するような英語力や管理能力を身につけたり、社会人大学院に通ったりすることも良いと思います。

避けたいのは、自身のスキルアップを行わず、現在所属している会社の知名度を活用して転職を繰り返してしまうことです。30代まではまだいいのですが、40を過ぎたあたりからは「A社に在籍してました!」だけではもう条件の良い会社では雇ってもらえなくなる可能性が高いです。なぜなら、経験に見合った能力が上がっていないことが見破られてしまうからです。40代ともなると広報だけでなく、さまざまな業務知識やマネジメント能力なども問われるようになります。年代にあわせて、自分自身のスキルアップをはかっていきましょう。

また、リファレル採用も増えていますし、採用時に元同僚や上司の推薦文が必須の会社も増えています。「あれ俺詐欺」にならないよう、業務に積極的に取り組んでいきたいものです。業務の成果やスキルアップは、万が一リストラにあっても、自分を救ってくれます。

それから絶対に忘れてはならないのは、会社への貢献と自分のスキルアップに加えて、メディア、そしてメディアの向こう側にいる読み手もHappyにするということです。この三方良しが成り立っているかどうかを時々気にしながら、仕事を進めていってください。

◇◇◇


この連載は一旦終わりますが、ぜひFacebookやツイッター、または弊社への問い合わせフォームなどで感想やご意見などをいただければと思います。今までありがとうございました。Web担当者フォーラムではまた違った形で寄稿できればと思っています。

加藤恭子 IT系月刊誌、オンラインメディアでの記者・編集者を経て、BtoBのIT企業でPR/マーケティングマネージャーを歴任。2006年に個人事業としてビーコミュニケーションをスタート。2007年より株式会社ビーコミとして法人化。複数企業のPR/マーケティング支援を行うほか、各種媒体で執筆活動や企業・団体向けに講演活動もしている。PRSJ認定PRプランナー。日本マーケティング学会常任理事(PR担当)、サイバー大学客員講師(コミュニケーション論)。

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