ポストコロナの広報様式とは?「記者とのコミュニケーション、アポの取り方」「オンラインプレゼンのノウハウ」など
前回の「広報・PR術入門」に引き続き、イベント「こんな時だからこそ、広報どうする?」の内容を、TIPS中心に紹介する。5月にZoomで行われた第2回では、「記者とのコミュニケーション、アポの取り方」「オンラインプレゼンのノウハウ」がテーマとなった。登壇者は次のとおり。
モデレーター:ビーコミ 加藤恭子さん
プレゼンター:編集・ライター 谷川耕一さん
プレゼンター:ウォンツアンドバリュー 永井千佳さん
プレゼンター:パソナJOB HUB 森真紀さん(2020年6月からは、パソナテック所属)
記者と広報の関係性をもっとウェットに!
コロナ禍によるデジタル化、オンライン化で気付いたこと
デジタル化で記者と広報の関係性がドライになった
IT系メディアを中心に記事を書いている谷川耕一さんが感じているのは、コロナ禍でデジタル化が進み、記者と広報の関係性がドライになっていること。デジタルを使っての情報伝達はシンプルで効率的になり、無駄が排除されたが、企業広報側の思いなどが伝わりにくくなっているという。
リアルな記者会見だと現場そのものに空気感がありますが、オンライン会見にはそれがないので、たんたんと文字情報を受け取っているような感じがあって、重要性やその会社の入れ込み度合いが伝わりにくいです(谷川さん)
取材したくなる余白感がなくなってきた
また、「AはBです」だけのシンプルな情報伝達になり、「話の裏に何かありそうだ」という余白感がなくなったと感じているそうだ。
「裏にこういう思い、話がありそうだ、あとで取材してみたいなあ」というような余白感がなくなってきたような気がしています。デジタルでも、その余白感をどう実現していくかが今後の課題だとみています(谷川さん)
記者は集中しにくい環境で視聴している
オンライン記者会見は、記者にとって参加しやすい一方で、集中しにくい環境でもある。短時間で知ってほしいことを伝える工夫が必要になりそうだ。
視聴中にメールがきたり、チャットが入るとそっちに気持ちがいってしまって、オンライン記者会見に集中するのが難しいです。内職がしやすくて、聞いているようで聞いていないときがあります(谷川さん)
今後、広報担当者にお願いしたいこと
そして、記者として、企業の広報担当者にお願いしたいこととして次の点をあげた。
ウェットな対応で、会見内容を記者に届ける工夫を
デジタル化が進んでいるからこそ、記者と広報担当者の関係は「もっとウェットでもよいのでは?」と、谷川さんは話す。
たとえば記者会見の連絡も、メールかSNSによるものが多い。電話をかけてきたとしても、「別の用事があって行けない」と言うと、「わかりました。次回よろしくお願いします」で終わってしまう場合があるそうだ。
「せっかく電話をかけてきたのに、今回の会見はそれだけで済む内容なのか」と思うことがあります。一方で、「記者会見が終わったら録音を送ります」と言ってくれる人もいます。こういうウェットな対応をやってほしいな、とちょっと思います。でも、機械的に電話をして、機械的に録音を送り付けられても困るんですが…相手の様子をみた対応をお願いしたいですね(谷川さん)
資料提供にさらなる工夫を
本イベントが開催された時点(5月25日)で、オンライン会見資料の事前配布も増え、写真も用意されていることが多くなったそうだ。そのうえで、できればさらに工夫をし、たとえば写真もバラエティに富んだものにしてほしいとのリクエストがあった。
事前資料も工夫されていて、写真も1、2点用意してくれていることも多いですが、さらにリクエストできるとすれば、ろくろの写真を何種類か欲しいですね。右側から、あるいは左側から撮っているもの、またロゴ前で撮っているもの、服装が夏用/冬用のものなど、いろいろとストックして適宜使えるようにしたいです(谷川さん)
これまでのルールに縛られないで
ポストコロナ時代には、新しい広報の様式ができるはずだが、まだどんなものかは誰にもわからない。だからこそ、いろいろやってみて、効果があるものを深堀していく方がいいのではないかとの提案があった。
「トライアンドエラーでやってみて、反応をみて改善していく」のがいいと思っています。あまり怖がる必要はないです(谷川さん)
そして最後に再度、「ウェットな関係性の大切さ」について語った。
この人にどうしても書いてもらいたいということなら、しつこく情報を届ける工夫はしてもいいんじゃないかと思います。デジタル時代だからこそ、記者と広報の関係性は蜜にしていきたいと思って、最近は活動しています(谷川さん)
オンラインプレゼンのノウハウとは?
数多くのオンライン会見を取材してきたウォンツアンドバリューの永井千佳さんからは、オンラインでのプレゼン技術について具体的な提案があった。
オンラインの課題点とよい点
まずは、オンラインによる会見の課題点とよい点を、次のようにあげた。
課題点
リアルな会見会場であれば、たとえ会見内容が期待と一致しなくとも聴き手が退席することは少ない。しかしオンラインでは離脱しても周囲にわからないため、聴き手は簡単に離脱できてしまう。加えてオンラインは、聴き手の表情や呼吸などの、反応がわからないことも課題の1つだという。
私の知人で、プレゼンの達人がオンライン会見をしたのですが、リアルな会見と比べてクオリティが大きく下がっていました。聴き手の反応を確認しつつロジカルに話す方なのですが、オンラインではその技が使えなかったためです(永井さん)
よい点
オンライン会見ならば会場を用意する手間が省けるので、リアルよりも比較的簡単に開催できる。さらにオンラインは記録が可能なので、後からの視聴が可能だ。そして今こそ、オンライン会見のチャンスだという。
多くの会社がまだちゃんとオンライン会見ができていません。今こそ、ライバルと差別化できるチャンスです。ぜひ挑戦してみてください(永井さん)
オンライン会見では何をすればよいのか?
では、オンライン会見での課題を解決して、チャンスを活かすには何をすればよいのだろうか? 永井さんは次の3点をあげた。
コンテンツをオンライン用に修正する
オンライン会見では、「聴き手は簡単に離脱する」「話し手は聴き手の反応を感じられない」という課題を解決するために、コンテンツをオンライン用に修正する必要がある。そのためには次の3点を修正する。
修正点1:美味しいネタを一番先に
美味しいネタとは、お客さんが知りたいこと。そしてその話し手しか話せないことだ。美味しいネタを冒頭にもってくれば、聴き手はネタにひきつけられて最後まで聞いてくれるのだ。
人の集中力が高いのは冒頭の15秒。この15秒で、離脱するかどうかが決まります。よくある会社紹介・広告・時事ネタは、冒頭では禁止です。リアル会見ではガマンして座っていてくれるかもしれません。でもオンラインだと簡単に離脱してしまいます(永井さん)
修正点2:時間は最短に
内容を絞り込み、最短のプレゼン時間で終わることもポイントの1つ。特に複数人が登壇する際には特定の人だけが長く話し過ぎないこと。登壇者の入れ替えをスムーズに行うことも大切だという。
リアル会見では、目の前で行われている登壇者の入れ替えはそれほど気になりません。でもオンライン会見ではこの作業が見えません。これは状況もわからずに待ち続ける聴き手にとってはストレスです。登壇者には短めに話すように依頼すること。さらに素早く登壇者が入れ替えできるようにリハーサルも必要です(永井さん)
修正点3:資料のチャートはシンプルに。スマホ視聴も前提に
大画面に投影できるリアルな会見とは異なり、オンライン会見はスマホで視聴している人もいる。資料で使うチャートはシンプルにして一目で理解できるようにすることも重要になる。1枚のチャートに細かい文字でギッシリ書かれた資料は厳禁だ。
どうしても詳細なグラフを使いたい場合は、会見前にあらかじめ配布しておくといいですね(永井さん)
環境整備と話し手のコンディション
オンライン会見で配慮しておきたいことは、次の2点だ。
配慮1:ノイズの配慮
永井さんは参加したあるオンライン会見で、駅前で大きなBGMを流す宣伝カーの音が聞こえてしまったことがあったという。これでは聴き手にノイズになるし、話し手も固まってしまい話に集中できない。ノイズが入らない環境で会見を行うことが大切だ。
配慮2:声のコンディション
オンラインでは、細かい音を拾う可能性も高いという。
口内の乾いた音も、マイクが拾ってしまうことがあります。その音を何度も耳にすると、聴き手も気になります。そこで登壇前はたっぷりと水分を取るようにしてください。話しているときにのどが乾いたら、「すみません」と言ってお水を飲むと良いと思いますよ(永井さん)
オンラインの話にくさを克服する
オンライン会見ではカメラを前に話すので、そこに苦手意識をもつ話し手が多い。その1つの原因は、オンラインでは聴き手の反応が感じられないからだ。この課題の克服方法として、永井さんは「カメラの真下や横に聴き手を配置するなどしてはどうか」と提案した。
たとえばZoomなどを使って会見する場合は、パソコンディスプレイの上部にカメラを置いて、そのカメラの真下のディスプレイ画面に熱心な聴き手の画像が表示されるように配置すれば、カメラ目線で人に語りかけるように話ができる。あるいはスタジオ撮影の場合は、カメラの横に知り合いを座らせるとよい。
それでも「オンラインは嫌だ」という話し手の場合は、「対談形式にする」方法もあるという。
どんどんオンラインアポをとって取材につなげよう!
パソナJOB HUBの森真紀さん(現在はパソナテック所属)は、新型コロナ拡大で記者と会えないなか、「このままではぼける。記者さんと話がしたい」と思い、オンラインアポをとっていこうと考えたという。
とりあえず連絡しやすい記者さんから連絡していこうと始めました。メッセンジャー、LINE、メール、ショートメールなど、相手に合わせていろいろなツールで連絡して、メールで返事がない場合は1週間後にショートメールでかぶせてもいきました(森さん)
アポの際に工夫したこと
アポをとる際に、森さんが工夫したことは次のとおり。
- メール件名を、「ご挨拶:オンラインアポのお伺い/社名・名前」とした:4月は異動の時期。あえてメールの件名に「ご挨拶」と入れ、異動のニュアンスを入れた。
- 冒頭で異動のお伺いなど、近況について短く伝えた。
- 相手が今は何に興味をもつかを考えて、それを自社サービスと照らし合わせ、ピッタリとくるネタを3行くらいで記載した。
- 情報交換のツールは、ZoomやTeamsなど2、3種類提案し、相手の状況に合わせた。
- アポ日時を5日時ほど提案した:来週中といった漠然としたものだと、相手が日時を考えることになり、負担をかけることになるため。
- アポ日の午前中にリマインドメールをした。
- 双方ですり合わせ済のネタが決まっているなら、参考資料を事前に送付した。
- アポ後のフォローとして、御礼とともに、追加資料、関連URLなどを送付した。
オンラインアポの成果例
そしてアポをとり、オンラインで話すことで、記事掲載等につながった3つの具体例が紹介された。
ケース1 近況報告で盛り上がり、取材につながる
ケース1は3年半ぶりの女性記者さんの例。4月1日にメールで打診したところ即レスが返ってきて、3日にアポが確定。「リモートワークでの生活の変化」「Zoom雑談会をやっている」などの話で盛り上がり、そのときの話が「在宅勤務、緊急事態宣言で拡大」というタイトルで、某紙半10段ほどの記事になったという。
そのときは個人名による記事で社名は出なかったが、5月にあらためて「Zoom雑談会」の取材依頼があったそうだ。
主に若手の子が煮詰まっていたので、仕事の話はしないZoom雑談会の時間をあえて作っています、という話が「いいですね」ということで、取材が入りました。今週、掲載予定です(森さん)
ケース2 コロナ禍のなかでの中小企業支援ネタが記者にはまり、掲載された
次は、森さんがモンスター・ラボに広報支援で出向に行っていたときに知り合った、新聞の男性記者さんの例。やはり即レスで、9日にアポが確定。3月末に発表したフリーランス協会と提携した「中小企業経営支援」について話し、さらにすぐに資料を送付した。その後記事化の打診をもらい、16日の某紙デジタル版に、「パソナJOB HUBは営業自粛時のプロ人材活用でがんばっています」といった内容の記事が掲載されたという。
ケース3 Eight経由で気になる記者とつながった
ケース3は、名刺アプリ「Eight」経由で初対面の男性記者とつながった例。気になっていたキーワードで署名記事を検索し、目に留まった記者さんをピックアップ。Eightで検索してメッセージを送ると、本人は異動していたが後任を紹介してもらい、アポをとることができたという。パソナJOB HUBが運営受託しているトヨタグループシェアオフィスの話をしたところ、興味をもってもらい、Facebookでもつながったそうだ。
オンラインアポで気づいた点
森さんが1ヶ月でアプローチしたのは60名。アポ数は30本なので、打率的には5割だったそうだ。その活動のなかで気づいた点は次のとおり。
- 記者もテレワークで人と話したくなっている。
- 地方にいた人でも東京へ異動していたり、担当先の業種が変更していたりするので、最初から相手の状況を決めつけない。
- 相手によって早く終わって欲しい人もいれば、1時間以上話したい人もいるので、雰囲気をみながら要点をまとめて切り上げる。
- アポの時間は長めに設定しておく(話が盛り上がる場合もあり)。
- オンライン疲れしている記者もいるので、打診したとき、そこの見極めが大切。
- バーチャル背景のアイデア次第でアイスブレイクが盛り上がる。
バーチャル背景のアイデア次第で、冒頭すぐに盛り上がります。私はTwitterやInstagramで50種類くらいをダウンロードして、相手の好みに合わせたものにしていました(森さん)
積極的にアポを獲得していく森さんは、記者はこのネタに興味をもつだろうか、アポの打診をスルーされたらどうしようなど、1人で悩んであれこれ考えず「Don‘t think,move!! まず動こう」と語った。
Withコロナ時代のオンライン取材/会見の今後はどうなる?
今回のイベントの主催者である加藤恭子さんからは、ウィズコロナのオンライン取材、会見の段階表が紹介された。
4段階中、第1段階の手探り期を経て、現在は第2段階のレベルアップ期。上長や広報部内を巻き込んで、実践的な取り組みを行っている時期になる。
最初は手探りで、試行錯誤でやっていたものの、いまのオンライン会見はレベルアップしてきましたね。対面による会見が再開しても、密にはなれないですし、現場に行かずに参加できる利点も大きいので、オンライン会見は残っていくと思います(加藤さん)
そのうえで、これまでの広報活動ではあまりみられなかった、次のようなことが目にとまったと報告があった。
- 一般の問い合わせ先から連絡して、取り上げてもらえた。
- 自分で動画を作成したものが、テレビ局でとりあげられた(局側もテレワークが増え、人手不足になっている?)。
- お蔵入りになったと思った以前の取材記事が掲載された(メディア側もネタ不足なのか、ストックを探しいている?)。
- 個別のオンライン取材が、記事掲載につながるなど、非常に効果的(会わずとも記事を書いていただける)。
- Twitterに回帰する広報担当、マーケティング担当が増えてきた(対面の機会が激減するなか、ソーシャルメディアで人と繋がることがより重要に)。
こうした傾向があるなかで、まずは1歩を踏み出していこうと語った。
前回とかぶりますが、「小さく試す、実験する」をどんどんやっていきましょう(加藤さん)
モデレーター:加藤恭子さんプロフィール
IT系月刊誌、オンラインメディアでの記者・編集者を経て、BtoBのIT企業でPR/マーケティングマネージャーを歴任。2006年に個人事業、2007年より株式会社ビーコミとして法人化。複数企業のPR/マーケティング支援を行うほか、各種媒体で執筆活動や企業・団体向けに講演活動もしている。PRSJ認定PRプランナー。日本マーケティング学会理事、サイバー大学客員講師(コミュニケーション論)
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