広報・PR術入門/インタビュー

エバンジェリストのPR・プレゼン力に学べ! マイクロソフト 西脇さんに聞いた「今、広報がパワーアップできるノウハウとは?」

コロナ禍で広報活動も新しいスタイルが求められている今だからこそ、参考になるエバンジェリストのノウハウを西脇さんが紹介してくれた。
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広報経験があまりないという方のために、ビーコミ 加藤恭子さんが、活躍中の広報担当者にインタビューし、広報として役立つTipsを紹介する本連載。

ニューノーマルが模索されている現在、広報もオンラインを活用して自ら発信する機会が増えてきた。そこで今回は、日本マイクロソフトのエバンジェリスト 西脇資哲さんに、広報活動に役立つノウハウについてお話を伺った。

撮影:永友ヒロミ

短時間にたくさんのTIPSを語ってくださった日本マイクロソフト エバンジェリスト(業務執行役員)の西脇資哲さん(左)と本連載のモデレーターであるビーコミの加藤恭子さん(右)

広報はエバンジェリストの活動を真似てみよう

カリスマエバンジェリストの西脇さんがマイクロソフトでその職に就いたのは12年前。現在では、マイクロソフトの製品・サービスなどの啓蒙活動だけでなく、個人としての活動も増えているという。

たとえば、プレゼンテーションセミナー講師やドローンマニアとしても活動しており、京都大学 iPS細胞研究所の所長 山中伸弥さんのコミュニケーションアドバイザーでもある。そのうえ、保護猫活動も。こうした活動をする西脇さんの働き方は、1つのロールモデルになりそうだ。

個人的にもさまざまな活動をされている西脇資哲さん。そんな中でも軸においているのは、「エバンジェリストというブランド」と「エバンジェリストという役割」だと語る。近著は『エバンジェリストの教科書』(シーアンドアール研究所:刊)

ファンがファンを連れてくる仕組みを作る

では改めてエバンジェリストの仕事とは何だろうか? その加藤さんの問いに、西脇さんは次の1~4のような仕組みを作ることだと説明してくれた。

  1. 世の中に知らせる
  2. 広める
  3. ある人たちに定着させる
  4. その人たちから他の人に広めてもらう

最初の「世の中に知らせる」という活動は広報活動と似ていると思います。エバンジェリストは、知らせてから広めて、ある人たちに定着させて、その人たちがまた他の人に広めていく…つまり、ファンをつくって、さらにそのファンがまたファンを連れてくるっていう、この仕組みをつくります(西脇さん)

「市場寄り」「お客様寄り」から情報発信する

最近では”エバンジェリスト”という名称をよく耳にするようになり、さまざまな分野のエバンジェリストが誕生している。たとえば、観光エバンジェリスト、ファイナンスエバンジェリスト、居酒屋エバンジェリストなど、さまざまなエバンジェリストが増えているという。

そうなると、もはや「エバンジェリスト=社員」とはいえないのでは?との疑問がわく。

会社の中の製品、技術、戦略、想い、情熱などを広める、という役割においては、エバンジェリストも会社の従業員だといえます。でも会社に属してしまうと、どうしても営業に近くなりますよね。そうした活動よりも、もう少し「市場寄り」「お客様寄り」に情報発信できるのがエバンジェリストのポイントだと思います(西脇さん)

加藤さん

加藤さんからのTips1
好きなものをどんどん語って広めてみると、楽しいことが起きて世界が広がる

仕事の役割が広報であっても、それ以外に好きなもの、人に言いたいことはあるはずです。それをどんどん発信してみるのがオススメです。広めると気持ちがいいし、新しい情報が入ってきます。情報の感度は上がるし、情報の収集力や発信力もパワーアップしていきます。
あるIT企業のマーケティング担当である塚田さんという方がいるのですが、彼はまさに餃子のエバンジェリスト(https://www.tokyogyoza.net/)です。自分が大好きな餃子についてブログで発信していたら「マツコの知らない世界」をはじめ、さまざまなテレビ番組や雑誌で餃子特集があると声が掛かり、その分野の著名人になりました。

業界や世の中を動かす広報が出てきてもいい!

次に加藤さんが質問したのは、広報とエバンジェリストとの違いだ。 これまでの広報には、会社のために、会社の情報を知らしめる黒子的な役割を果たすイメージがある。一方、エバンジェリストは、自身の名前を出して、会社だけでなく業界や顧客を巻き込んだ活動を行っている。

こうした違いをふまえて、加藤さんは「これからの広報は、会社にとらわれずもっと外に出る活動をしてもよいのではないか」と提案。これには西脇さんも「その通りです」と大賛成だった。

これからの広報には、会社、業界、世の中を動かすっていう目線が必要になってきていると思います。たとえば、広報パーソンがユーチューバーやインスタグラマーになってもいいですよね(西脇さん)

加藤さん

加藤さんからのTips2
広報担当が自ら製品を語っていい

「社長がXXのメディアに出ました!」という投稿。これは企業の広報担当のソーシャルメディア投稿でよく見かけるパターンです。広報担当はコミュニケーション戦略を立て、自らは黒子になってメディアに出るのは社長ということも多いのですが、目的は「社長が出る」ではなく、適切な露出を増やすことです。
そうであれば、状況に合わせて自ら語るのもありです。「裏方だから」と決めつけず、自分自身が露出してみることをおススメします。本連載で以前取り上げたSansanの小池さんも、前職の時に自らテレビに出て、当時担当されていたプロダクトを語られていました。

プロダクトを自分で使ってみて、顧客目線で体験を語ろう

では、広報パーソンが表に出ていくために心がけたほうが良いことは何だろうか? 西脇さんがエバンジェリストとして心がけていることは、2つあるという。1つめは、プロダクトを出している会社目線からではなく、顧客目線から語るということ。2つめは、製品やサービスを細かく説明するのではなく、体験を語ることだ。

  • 顧客目線で語る
  • 自ら体験を語る

SNSによって体験が伝播しやすくなった今、体験を語ることはますます重要になってきているという。

たとえばタピオカミルクティを広めている人は、タピオカの成分や糖分、容量よりも、「めっちゃ美味しい、楽しい」という体験を語って拡散しています(西脇さん)

そこで西脇さんは、広報パーソンには「自分がPRしているモノをとことん使いこなしてほしい」と語る。自身が使えば、自然と顧客目線になった発信にもなるはずだ。

広報パーソンは昔から「自社の優位性」を上手に発信してきました。さらにこれからは、自分でも自社製品・サービスを使いこなして、悪いところも、足りないところも、スゲー良いところも、まんべんなく十分に知って、その体験を愛情をもって発信してほしいですね。そうすれば、その発信を読んだ人に「使ってみよう」と思ってもらえる活動につながると思います(西脇さん)

加藤さん

加藤さんからのTips3
2つの「体験」を大事にする

「体験」はエクスペリエンスなどといわれ、CX(Customer Experience)、EX(Employee Experience)、WX(Workplace Experience)など、マーケティングや人事の分野でもホットなワードになっています。
PR文脈での重要な体験は2つあります。1つめは、自分自身が自社製品を使う「体験」をすることで使い手側の気持ちがわかり、より良い情報発信ができるようになるということです。体験しない「語り」は薄っぺらになりがちです。本連載で取り上げた工機ホールディングスの玉川さんも自社製品を体験していましたし、他にも自社で取り扱っているIT商材の資格を取得した方もいました。
もう1つはその情報に接する相手(取材する記者)の「体験」を考えることです。問い合わせフォームがわかりづらい、なかなか連絡が取れない、頼んだ資料が来ない、記者会見が時間通りに始まらない、プレスキットがない…このような、些細なネガティブ「体験」を記者にさせてしまうことで取材から足が遠のくこともあります。相手がどんな体験をするのかを考えて活動をしていくことも、忘れないようにしたいものです。

オンライン会見で心がけたいこと

ここからは、オンライン活用で心がけるべきポイントを紹介しよう。加藤さんはいろいろな広報パーソンに相談をもちかけられる機会が多いが、「オンライン会見や取材だと、自社の情報や思いが伝わりにくい」と思い悩んでいる広報パーソンも多いのだという。

本連載モデレーターの加藤恭子さん。広報パーソンの抱える現在の悩みを受けとめ、西脇さんに質問をぶつける

オンラインの方が良い、という前提に立つ

確かに、対面での会見や取材をオンラインでの開催にしかたなく切り替えている企業広報が多いようだ。しかし西脇さんは「まず、オンラインの方が良い、優れているということを前提にしてください」と気持ちのチェンジを促す。

たとえば、オンライン記者会見で広報の方が「本日はこんな状況ですので、オンラインでお届けします」と話すと、マイナスイメージになりますよね。一方で、「これからの時代にふさわしく、オンラインで今まで以上の情報をお届けします」と話せば、”オンラインの方が良い”と伝わります。視聴している記者にも影響があるはずです。製品説明やプレスリリースでも、こうしたプラスの言葉を使ってほしいですね(西脇さん)

対面であれば、人が集まる場所の確保、会場の照明や換気の調整、来場者チェック、紙で印刷してセットした資料の配布など、やらなくてはいけないことは山ほどある。しかしオンラインであれば、それらは必要がなくなるわけだ。

「これからはオンラインの方が優れている時代だ、ということを前提に全プロセスを見直してほしい」と西脇さんはアドバイスしてくれた。

高品質を保証する機材(照明、カメラ、マイク等)を用意する

では、具体的にオンライン会見の注意ポイントは何だろうか? それは「画面の中と音を高品質にする」ことだいう。テレワークが定着した現在では、画面が途中で切れる可能性があることはほとんどの人が知っている。気にすべきは、「画面と音の品質を保証する機材」だ。

わかりやすい例でいうと、記者発表する時には格式の高いホテルで、全員スーツで、ピカピカの靴を用意しますよね。これがオンラインだったら、良いカメラ、良いマイク、良い照明、良い画角なんです。お金をかけるべきところが変わっただけですね(西脇さん)

とはいえ、照明やマイク、カメラといっても、どういったものを選べば良いのかわからない、という人も多いだろう。西脇さんは、次の方法を提案してくれた。

  • SNSや書籍で情報を取得する
  • 社内の人材を探す(動画作成を得意にしている人がいるかもしれない)
  • 内製が難しいようであれば、プロの手を借りる

なお、西脇さんもYouTubeでマイクなどの解説を行っている。

西脇さんのYouTubeチャンネルでは、マイクなど機材の説明(https://youtu.be/nmBfzXD-dAU)やプレゼンテクニックについての解説を行っている

ジェスチャーファーストを意識する

また、オンラインでのプレゼンテーションの課題は、対面のような空気感が伝わりにくいことだ。

そこで心がけてほしいのが「ジェスチャーファースト」。たとえば、「今日お伝えしたいことは3つあります」というのではなく、「(指を3つ立てて)3つ、今日お伝えしたいことがあります」と、ジェスチャーを先に行うことが大切になるという。

画面のなかが動いていないのは、印象が悪いんですよね。プレゼンテーションをしている人はカメラ目線で、ジェスチャーを使ってコミュニケーションをしっかりとる。一番心がけてほしい点ですね(西脇さん)

画面の絵ずらも大切だ。たとえば国際会議の際、オンラインであっても、国のリーダーたちはバリっとしたスーツを着て正面を向き、横には国旗がある。企業ロゴもないオフィスで、下を向いて資料を読んでいる画面では、記者も記事に使いたいとは思わないはずだ。

加藤さん

加藤さんからのTips4
オンライン会見を視聴してみよう

オンライン会見を企画する場合、「主催者」の立場からついつい発信側の論理でものを考えがちです。まずは参加者がどう感じるのか体験することが差別化につながります。
今はYouTubeやTwitterなどでさまざまな規模・業種業態の記者会見を見ることができますので、いくつか視聴してみてください。そのときは必ずメモを取り、ここが良かった、ここは改善した方がいいといった記録を残しましょう。それを参考に自社の会見を開くと、初回であっても参加者の気持ちを汲んだものになるはずです。

SNSを利用して、コンテンツを発信しよう

自らコンテンツを発信しよう

SNSが浸透している現在、実は社内には動画が得意な人、なかにはユーチューバーがいるかもしれない。「そういう人たちを巻き込みながら、広報活動の新しい武器にしていく必要があると思う」と西脇さんはいう。

広報パーソンもまた、動画に限らずコンテンツを作って発信している人が増えていると、加藤さんは実感しているそうだ。SNSであれば、24時間365日閲覧してもらえる。広報に活動を支えてくれるツールだといえる。

とはいえ、スタート直後は登録者数も再生回数も少ないのが普通だ。そんなとき、次の2点を思い出してほしい。

  • あきらめずに続ける
    ヒカキンだって最初は一人から始まっています。今からでも決して遅くありません(西脇さん)
  • キーワードを意識してたくさんのタグを使い、シンプルに表現する
    発信をするときにはキーワードが大事になってきています。なるべくたくさんのタグを使って、20文字を切るくらいのシンプルなテキストが良いですね(西脇さん)
加藤さん

加藤さんからのTips5
広報の周辺領域の理解が必須に。対面以外の情報提供方法を見直してみよう

「記者を訪問できないから、記事化してもらえない」という悩みを聞きますが、そうであれば自ら情報を見てもらえるようにするなど、別の方法があります。そしてその際には、コンテンツマーケティングの知識などが役立ちます。
自社のマーケティング担当に相談したり(オンラインでも可能だと思います)、Web担当者Forumに掲載されているコンテンツマーケティングの記事を参考にしても良いでしょう。

映像づくりでは、テレビ番組を参考にしよう

映像づくりで意識したいことは、「テレビ番組を参考にする」ことだ。西脇さんのYouTubeチャンネルでは、動画の上にほかの動画を表示するピクチャーインピクチャーを使うことが多くなったそうだ。次の画像にあるように、動く資料を出しながら、スピーカーが説明するので、テレビのようなインパクトのあるものを作ることができるからだという。

西脇さんのYouTubeチャンネルでは、ピクチャーインピクチャーを使っている(https://youtu.be/PZGW6fJPv38?t=287)。右下が解説している西脇さん。回線速度によって動画の品質がどのように変わるかを、自分がプレゼンしている動画を実際に流すことで説明している

たとえば、社長をニュースキャスターのように演出するなど、テレビ番組のような映像を意識して、ほかのコンテンツとの差別化をはかるといいですね(西脇さん)

資料づくりでは、シンプルな表現と映像の美しさを意識しよう

さてここで、リアルな記者会見場を思い出してみてほしい。あなたがリアル会場のための投影用資料づくりで気をつけていたことは何だろうか? 

後ろの席では、前の人の頭で資料の下の方が見えなかったり、細かい文字が読めなかったりした。そのため、投影資料の下の方は空欄にしたり、字を大きくするといった配慮をしていたのではないだろうか。

しかし、オンラインであればそのような配慮は必要ない。「オンラインでは全員が特等席。資料づくりで必要なのは、見せ方にこることだ」という。つまり、「シンプルな表現と画像の美しさが大切」になる。

記者にとっては、自分の書いた記事がたくさん読まれないと意味がないですよね。だから、目をひくようなシンプルなワンワードかツーワードで表現できて、映像・画像としてすごくきれいなものが好まれると思います(西脇さん)

若き広報パーソンへ 皆さんがリードする時代です

最後に、西脇さんに、若き広報担当者へのメッセージをお願いした。

西脇さん

若い方は、YouTubeなどソーシャルメディアに自然にふれていますよね。ところが会社ってそういうものからちょっと距離があるんです。だから、若い方がそれを会社に持ち込むっていうことを、やってほしいですね。
理由は、今までやっていた会社のスタイルは、もしかしたらオールドスタイルかもしれないからです。コロナ禍もあって、どんどんオンラインに移行しています。だから、若い方が今まで経験しているもの、見てきたものが活きる時代になってきていると思います。会社に転用していくにはどうすればいいかってことを、皆さんがリードしていく時代になったんじゃないかなと思っています。

取材を終えて

今までは広報の先輩に話を聞いてきたこのシリーズ。今回初めて異なる肩書きの方のお話を伺いました。というのも、コロナ禍で広報関連の相談を受けていると、正解のないなか、手探りで答えを探している人が多いと感じたからです。エバンジェリストの活動には、そのヒントがあるように思いました。
積極的に新しいことにチャレンジをして情報発信をし続けている西脇さんのお話は、広報パーソンの未来像と重なる気がしました。今回コロナ禍ということもあり、取材はごく短時間で実施したのですが、内容が凝縮されておりわかりやすく、そこでも西脇さんのプレゼン力のすごさを改めて感じました(加藤さん)

*本インタビューは2020年12月に行い、撮影時のみマスクを外しています。インタビュー時には、距離を保ってマスクを装着して、コロナ対策に考慮した取材を行っています。

西脇資哲 OS/2モジュール開発、MS-DOS/Windowsでの業務アプリケーションソフト開発業務、ISPの立上げなどを行う。その後日本オラクルに入社し、プロダクトマーケティング業務、エバンジェリストを担当。2009年にマイクロソフトへ移籍し、テクニカル・ソリューション・エバンジェリストとなる。インターネット関連製品を中心に、さまざまなテクノロジーに精通。IT業界のカリスマプレゼンターとして有名。近著は『エバンジェリストの教科書』(シーアンドアール研究所:刊)。

加藤恭子 IT系月刊誌、オンラインメディアでの記者・編集者を経て、BtoBのIT企業でPR/マーケティングマネージャーを歴任。2006年に個人事業としてビーコミュニケーションをスタート。2007年より株式会社ビーコミとして法人化。複数企業のPR/マーケティング支援を行うほか、各種媒体で執筆活動や企業・団体向けに講演活動もしている。PRSJ認定PRプランナー。日本マーケティング学会理事、サイバー大学客員講師(コミュニケーション論)。

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