話ベタでも明日から使える「オンラインプレゼン術」3選 MS西脇氏が解説
プレゼンテーションのスキルは、情報発信、伝える力、提案力といった観点からも、ビジネスにおいて不可欠であることはいうまでもない。さらに、オンライン時代となり、シナリオやスライド、魅力的な話し方など、新たに工夫すべき点も増えている。
そこで、日本マイクロソフトのエバンジェリストとして、魅力的なプレゼンテーションをされている西脇資哲氏が、「Web担当者Forumミーティング 2021 秋」に登壇し、プレゼンテーションの基本に加え、リモート時代に大きく差をつけるテクニックやノウハウを紹介した。
オンライン化で、プレゼンテーションの重要性も高まる
西脇氏は日本マイクロソフトでエバンジェリストとして活躍しているが、そもそもエバンジェリストとは、伝道者・伝道師の意味であり、企業の戦略や魅力、製品の価値や特徴、技術などを世の中に広める役割を担っている。その活動は、企業活動だけでなく業界全般にも広がっており、西脇氏はマイクロソフト製品だけでなく、デジタル化全般やドローンなども対象としてきた。そのため、毎日のようにプレゼンテーションを行っているという。
プレゼンテーションには、人を動かす力がある。たとえば、『セールスならばモノを売る』『選挙運動なら投票してもらう』というように、『無関心』だった層を『関心』以上に変化させ、さらに『関心』だった層をより『協力者』にできる。そしてそれは、エバンジェリストだけができることではなく、オンラインを使って誰もができるようになってきている(西脇氏)
ビジネス現場でのプレゼンテーション成功の秘訣
それでは、ビジネスの現場でプレゼンテーションを成功させるにはどうしたらよいのか。西脇氏は「コンテンツ=話の中身も重要」と前置きをしたうえで、テクニックも重要な要素になると語り、今回は「①シナリオ」「②スライド」「③魅力的な話し方」について詳しく解説した。
①シナリオ:小さな工夫で相手を動かす2つのテクニック
まず1つ目の「シナリオ」について、西脇氏は「起承転結が大事といわれるが、あまりこだわる必要がない」という。多くのシナリオの起承転結は論法であり、テクニックではない。ちょっとした工夫で大きな効果を得るのがテクニックというわけだ。そして、「ホラーストーリー」と「最初と最後のシンメトリック」の2つを紹介した。
まず、私たちは物事を語るうえで、「こんな機能がある良い製品があり、それを使うとこんなに良いことがある」というように、サクセスストーリーで語りがちだ。しかし、それでは意外と相手の心に届きにくい。
ホラーストーリーとは?
そこで西脇氏が提案するのが、その真逆の「ホラーストーリー」だ。提案したいものが導入される前の物語であり、「こんなふうに困っていて、大変だ」という課題提起から、「この〇〇を使用しないとどうなるか」「なぜ〇〇が必要なのか」という解決策を紹介する流れにする。「まずは相手の課題をなぞり、そのうえで解決策を示す。ホラーストーリーを伝えるだけでなく、サクセスストーリーにつなげていくことが大切。AだったことがBになるという“変化”を理解してもらうことで、行動につながる」と西脇氏は説明した。
その具体的な例が、ジャパネットたかたのテレビ販売だ。たとえば、掃除機を販売する時、いきなり最新式の掃除機が登場することはない。まずは現在の掃除機の「重い」「大変」という問題点を紹介し、その後「最軽量」「手軽」という解決策を提案する。つまり、古い掃除機からの脱却という“矢印”を見せているというわけだ。
最初と最後のシンメトリックとは?
そしてもう1つのテクニックが、「最初と最後のシンメトリック」だという。プレゼンテーションは最初に語ったことを最後に繰り返す、いわゆる「フラグを立てておいて回収を行う」と、話がまとまったように感じられる。真ん中の内容の順番は実はさほど重要ではなく、最初と最後の一致性こそ重要というわけだ。
②スライド:サイズと見え方の一工夫で、古く見せないテクニック
最近のプレゼンテーションに不可欠なのが「スライド」だ。オンラインによるプレゼンテーションがメインとなったことで、そのテクニックも大きく変化しているという。たとえば実際の会場を使ったプレゼンテーションの場合は、前方の人は見えるが、後方は見えづらい。
しかしながら、オンラインプレゼンテーションの場合は、参加者全員が“特等席”にいるようなもの。画面全体の細かいところまでしっかりと見え、全員が同じ情報を同じ品質で見ることができる。だからこそ、画質が悪いスライドは、内容すら古い印象を与えかねない。それも参加者全員に、だ。
そこで意識すべきが、プレゼンテーションシートのサイズだ。昔はプロジェクターのアスペクト比 4:3 が多かったが、現在のPowerPointのデフォルトサイズは16:9で、パソコンも画面が横に長い。つまり、そうした状況に合わせてプレゼンテーションスライドを作るべきというわけだ。
そして、スライドの作り方としては、「画ではなく島」がコツだという。PowerPointの場合、スライド画面を情報で埋めてしまいがちだ(下図左)。しかし、適切な余白と空白行を付け、項目名がわかりやすいように文字の大きさを変化させ、メリハリを付けたほうが目線誘導しやすくなるし、理解しやすい(下図右)。
また、数字や文字だけでなく「様子や状態」を表すイメージ図なども用いながら表現することも重要なポイントだ。それによって視覚的に訴求し、印象に残りやすくなるというわけだ。
③話し方:自分ではなく「相手の物語」を語って巻き込む
そして3つ目は、プレゼンテーションの真髄ともいえる「話し方」において「相手を巻き込むこと」が重要だという。そこで、西脇氏が「絶対にやめてほしい」というのが、「資料やスライド、原稿などを読むこと、つまり朗読すること」だ。
相手を巻き込むには、相手と会話をするつもりで話すことが重要であり、そのためには相手を意識することが大切だという。たとえば、西脇氏は「皆さん」という言葉を意図してよく使っている。つまり、「私が」「弊社が」と自分たちのことを話すのではなく、「相手」を主語にして話をするというわけだ。
これを実際に行うには、自分視点から顧客視点に変えて言葉にすることが重要になる。たとえば、「新種のりんごをお届けします」は自分視点だが、「新種のりんごを味わえるんです」といえば、顧客視点になる。「誰が体験するのか」が大切であり、それによって巻き込み力を増すことができる。
その実際の例として、西脇氏はある健康ドリンクのパッケージをあげた。昭和では「タウリン●mg」「●●エキス入り」など自分たちが提供できる機能・性能を表示していたものが、令和の今では「笑顔が輝く」「体が疲れた時の栄養補給に1日1回、いつでも服用できます」など、ユーザーが得られる体験をコピーにしている。
他にも、他者や他の引用によって、巻き込み力を高めるテクニックもある。自己紹介で「私は学生時代から水泳選手として活躍してきました」と話すのと、「私も先ほどの人と同じように、学生時代から水泳選手として活躍してきました」とでは、印象が変わるのがわかるだろう。
さらに、人を引きつける話し方としては、語尾が重要だという。たとえば、「我々が行ってきたことは、とても重要なこと」というように倒置法による体言止めの方法や、何か質問をして間髪入れずに回答を示すという方法などだ。
そして、もう1つ、「次のスライドになる前に接続詞などを入れて“ブリッジ”する」ことを紹介した。多くの人はそれぞれのスライドを1枚ずつ説明してしまうクセがある。そのため話の流れが分断して聞こえやすい。
たとえば「事故が多い」ことを説明するスライドの次に「事故の原因」を示すスライドがあった場合、「事故が多い」という話をした後で「では、事故の原因を探ってみましょう」とブリッジする一言を挟むだけでも話が分断されずに聞きやすくなる。一見簡単で当たり前のようだが、意外とできていない人が多いという。西脇氏は「最も簡単で効果的な方法なのでぜひ試してみてほしい」と語った。
オンラインでは「映像」と「音」が重要!
上述したように、プレゼンテーションにはさまざまなテクニックがあるが、オンライン化したことで、さらにその効果が高まりつつあるそうだ。そもそもセミナー会場や会議室などの物理的な場所が必要なくなったこと、参加者の移動が必要ないこと、そして、天候や交通事情に左右されずにすむようになったことのメリットは大きいという。
名古屋で開催予定だった西脇氏のセミナーも、定員100名しか入れなかったところ、オンライン化で参加者は600名になった。さらに他のオンラインセミナーも同日に行ったため、結果的に合計2,200名にアプローチできたそうだ。
Face to Faceでのセミナーを行いながら、並行してオンラインで動画をどんどん回す。そうしたハイブリッドによって、飛躍的に効果を高めることができるはずだ(西脇氏)
一方でオンラインでのプレゼンテーションの弱みは、「映像と音声」が残り、さらに比較されやすいということだ。プレゼンテーションが比較されやすい一例として、西脇氏は2020年5月に開催されたWHO総会での各国のメッセージ映像について紹介した。
フランス、中国、韓国などの首脳が、国旗やその国を象徴する画像をバックに入れて、“カメラ目線で”話しかけるのに対し、日本から登場した大臣は、政務室の背景がそのまま映り、目線は文書という状態だった。
その反省からか、翌年の2021年6月のCOVAXワクチンサミットに登壇した菅首相(当時)の映像では、背景に日本国旗が飾られ、ライティングもカメラ目線もしっかりなされていた。「できない」のではない、「やらない」のが問題というわけだ。
相手に届く情報は「映像」と「音」しかない。だからこそ、より印象に残る映像で、より良い品質の音である必要がある。オンラインの映像や品質が悪いだけで、プレゼンテーションおよび登場する人のイメージが悪くなってしまう。さらにオンラインでは、簡単に良い映像と比較されてしまう。リアル面談の場合は、服装、雰囲気、背格好、香り、持ち物、身体全体などしっかり意識するだろう。当たり前のことを当たり前に行うことが大切になる(西脇氏)
オンラインプレゼンテーションで差がつくコツ2選
ここから先は、オンラインでのプレゼンテーションで取り入れるだけで、差がつくコツを2つ紹介する。
ポイント① 映像に変化を!
多くのプレゼンテーションでは、スライドを表示して、ただ喋っているだけとなっていることが多い。しかし、YouTubeで15秒同じ映像が続くと消されてしまうように、人は静止画が続くと飽きてしまう。そこで、スライドを表示しながらも、人物を入れてその人物が動くようにする、カメラ割りを変えるなど、動きを与えることが必要だ。さらにテロップや蛍光ペンなどでスライドに動きを与えても良いという。
ポイント② 音声・映像の品質を上げる!
音声はできるだけ品質を上げ、環境音を拾わないよう工夫することが大事になる。PCマイクではなくヘッドセット、できれば有線の専用マイクを使うことが望ましい。さらにスマホなどよりも、高解像度なカメラを使うことで映像の品質を上げると良い。照明を工夫するとより効果的だ。全く同じ部屋でも、自分の顔が明かりを受けるようにするだけで印象はぐっとよくなる。
カメラやマイク、照明などにコストがかかりすぎるという方は、ぜひとも考えてほしい。私たちは良い印象を与えるために、スーツや靴などの投資をしてきた。オンラインだからといって投資をしない理由などない。むしろオンラインだからこそ、プレゼンテーションの品質が明らかになってしまう。その品質を上げるためにも、カメラや照明などに十分な投資をすべきではないか(西脇氏)
さらにカメラ目線にする方法として、ノートパソコンのカメラ位置をアナログな方法で目線の高さに合わせ、カメラの位置に目のあるキャラクターや人物の写真を配置することを紹介。好きなキャラクターや人ならば、語りかける表情も自然と良くなり、笑顔も出るからだ。西脇氏も同様に実践しているという。
そして、画面中に占める登場人物の割合にも注意が必要だ。必要以上に人物が小さいのは印象がよくない。実際、マイクロソフトでは頭上の「空間=クリアランス」について「必要以上に取らないこと」を求めているという。
YouTubeで収益化基準を2か月でクリア
プレゼンテーションの品質向上について語ってきた西脇氏だが、最後にYouTubeについて紹介した。西脇氏が自らYouTubeで試行錯誤する中で、プレゼンテーションにも活かせるナレッジが蓄積されたという。
YouTubeの収益化基準としては、チャンネル登録者数1,000人以上、年間再生数4,000時間以上という数字がある。西脇氏はこの数字を目指して動画投稿を開始し、約2か月で収益化基準を達成させた。そのために西脇氏が実際に行ったのが、「サムネイルを工夫すること」と「平均再生率(視聴維持率)を上げる工夫をすること」の2つだったという。
サムネイルを工夫する
クリックしたくなる「サムネイルの工夫」については、以下の4つを意識した。
- チャンネル名を必ず入れる
- キーワードだけを大きく入れる
- 人物を入れる
- 感情を入れる
これらによって「動画を見た人がどうなるのか」を端的に知らせることができる。プレゼンテーションのコツと同様、「自分のストーリー」として感じさせられるというわけだ。
平均再生率を上げる工夫をする
続いて、ほとんどの動画が平均20秒で50%が離脱するところ、できるだけ閲覧維持を継続させ、平均再生率を上げる工夫を行った。平均再生率の高い動画は長く視聴される動画であり、広告収入が多い動画となるため、YouTubeでは、より平均再生率が高い動画ほどおすすめし、検索の上位に表示する傾向があるからだという。そして、「10分の動画なら、3~4分まで絶対に相手を離さないように注力する方が、全体に力を注ぐより効果的だ」と語った。
それでは「長く見てもらえる動画」にするために、どのしたら良いのか。西脇氏は、「飽きられない動き、変化のある映像であることが大切だ」と強調し、次の方法を紹介した。
- 画面切り替えを多くする
- スピード感を高める
- どんどんと内容が進む
- 新たなコンテンツ・新たな内容が次々に出る
- 頭の中で想像させる言葉や問いかけがある
- 感情を動かす言葉がある
- テロップは数秒単位で表示する
なお、YouTubeに誘導できるSNSは「圧倒的にTikTok」だという。フォローしていなくてもザッピング(おすすめ)が可能であり、新しいプレーヤーがアピールできるからだ。
最後に、西脇氏は「プレゼンテーションでは、相手(顧客)目線で会話をし、巻き込むことをしよう。そうすれば、オンラインでも距離を超えて、プレゼンテーションで人を動かすことができる」と改めて語り、セッションのまとめとした。
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