広報・PR術入門/インタビュー

リーダーを目指すには?「広報/PRパーソンのキャリア」の積み上げ方

広報/PRパーソンがリーダーを目指すとき、意識しておきたいこと、学び方を、玉川さんが伝授。
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広報経験があまりないという方のために、ビーコミ 加藤恭子さんが、活躍中の広報担当者にインタビューし、広報として役立つTipsを紹介する本連載。

今回のテーマは「広報/PRのキャリアパス」。そこで、リード エグジビション ジャパンや日本オラクル、日本IBM、日本マクドナルドといった企業で広報を担当されてきた、工機ホールディングスの玉川岳郎さんを訪問。業種・業態にとらわれない、「広報/PRパーソンとしてのキャリアの積み上げ方」を伺った。

撮影:永友ヒロミ

終始真摯にお話くださった工機ホールディングス マーケティング・コミュニケーション室長の玉川岳郎さん(左)と本連載のモデレーターであるビーコミの加藤恭子さん(右)

BtoBとBtoCの違いで、知っておくべきポイントは?

あらためて玉川さんの職歴を紹介すると、次の通り。

  • 1992年早稲田大学を卒業後、リード エグジビション ジャパンで広報宣伝を担当。
  • 1996年、日本オラクル 広報室長。
  • 2013年5月、日本IBM 広報部長。
  • 2016年3月、日本マクドナルド コミュニケーション本部上席部長。
  • 2018年5月~現在、工機ホールディングス マーケティング・コミュニケーション室長。

リード エグジビション ジャパン、日本オラクル、日本IBMでBtoB、日本マクドナルドでBtoC、現在の工機ホールディングスでBtoBtoCを経験している。その玉川さんは、BtoBとBtoCの違いを考えるときに一番大事なのは、「お客さんが誰なのかをちゃんと理解することだ」と語る。

BtoBの場合

お客さんが法人組織の場合、意思決定をする際は「事業戦略に合っているか」「予算に適合しているか」といった「論理的」な検討がなされるという。現在では、複数の人たちの合議によって判断され、誰か一人の感情だけで決定されることはほぼない。そして、一度判断されたらそれが覆ることも、ほとんどない。

何か共同でプロジェクトを推進する際、広報やPRチームとして論理的な物の考え方で進めないと、お客様はなかなかイエスと言ってくれないですよね。社内外問わず、マスコミやインフルエンサーに対しても、事実に基づいて、整合性、確からしさを基盤にしたコミュニケーションが必要になります(玉川さん)

BtoCの場合

一方で、BtoCの場合は「感情」によって判断されることが多い。それを、日本マクドナルドにいたときに玉川さんは実感したという。たとえば、「マクドナルドならビッグマックだよね」と思いながら店舗を訪れた人が、いざ注文するときに、ビッグマックではなく期間限定の月見バーガーやグラコロを注文することがある。実際に注文されるものが何かは、お客さんが商品を購入するまで、本当のところはわからないのだ。

たとえ論理的に食べたいものを決めていても、結局はそのときのその欲求とか、その瞬間に感じたことに左右されて、変わったりするわけです。日本マクドナルドのときに一緒に仕事をした当時のCMOは「背徳感」という言葉を使っていましたが、「わかっちゃいるけど、これなんだよね」という感覚が行動を変えるわけです。だから、人間の本能とか欲求という感情的なところに働きかけていくのが、BtoCの場合の大事なアプローチの1つだと思うんです(玉川さん)

BtoB、BtoCを経験され、現在はBtoBtoCの企業「工機ホールディングス」のコミュニケーション室長となった玉川岳郎さん

読者の中には、現在BtoB企業にいる人も、今後はBtoCを経験したいと考えている人、その逆の人もいるかもしれない。そんな方々に、「BtoB、BtoCといってもまずお客様の違いを知り、お客様のことを学び、理解し、語れるようになることが大切だ」と玉川さんは語す。

加藤さん

加藤さんからのTips1
BtoBとBtoCは違う。Cの場合は感情(エモーション)が重要になる

市場シェアの首位獲得によって得られる豊富な導入実績や、適切な機能や高い性能やサービスによって高く支持されるBtoBと違い、BtoCの場合は、事例や機能・性能と同じかそれ以上に、いかに相手の感情に訴えるかが大事になります。情報を出す際には、この違いを忘れずにアクションを起こす必要があります。常日頃から、自分が何か商品を選定したときに「なぜ選んだのか」を記録しておくと後で参考になるでしょう。また、行動経済学で有名なダン・アリエリーの『予想通りに不合理』が未読であればぜひ目を通してみてください。

世の中の変化に対応して、学び続けよう

リード エグジビション ジャパンと日本オラクルでは、広報として黒子に徹して仕事をしていた玉川さん。しかし2008年頃のソーシャルメディアの台頭で、それまでの広報のあり方を考え直すことになった。かつて経験したことがないSNSについて、さまざまな機会を設けては学び、ブログなどによる情報発信を自ら行っていった。

SNSに携わっている人をお招きしたり、一回り以上若い人たちと飲みに行って話を聞いたりして、動画のこと、ブログのことなどを学びました。そして、自ら手を動かしてやってみたんです。自分でやってみると、わかることが山ほどあるんですよね。インプットがあればすぐさまアウトプットをして、そのフィードバックを受けてまたアウトプットする、このような行動を習慣づけました(玉川さん)

こうした日本オラクルでの玉川さんの挑戦は日本IBMの経営幹部らの耳にも届き、「面白いことをやっているな」と注目されて声をかけられ、転職のきっかけになったそうだ。加藤さんも、学び続けることはいくつになっても重要だと語る。

年齢に関係なく、学び続けることが大切ですね。私も、Facebookでいろいろ知りたいことを投稿すると、その分野について詳しい方が「これはこうですよ」と教えてくれたりします。それがヒントとなって新たな学びに繋がることもあります。学び続ける姿勢は、広報やPRの人間にとって欠かしてはならないことだと思います(加藤さん)

複数企業のPR/マーケティング支援を行うほか、企業向けOJTサービスやビーコミPRクラブで若き広報パーソンの育成もしているビーコミ 代表取締役の加藤恭子さん(本連載モデレーター)
加藤さん

加藤さんからのTips2
年齢や経験に惑わされず「正しい相手」から学ぼう、学び続けよう

広報を取り巻く環境は日々変化をしています。方法論は変わらなくても、新しい手法がどんどん出現しており、担当者はそれらを補足し、理解しておく必要があります。BtoBだからインスタグラムは使わない、Facebookはもはやシニア世代のもので自分に関係ない、では済まされません。

場合によっては、社外の専門家を招いて講義を受けたりワークショップを実践してもいいでしょう。広報担当が理解していなければ、役員に新しいツールやメディアを理解してもらうのは難しくなります。新進気鋭の若手から学ぶのもオススメです。得てして仕事が「回せる」ようになってくると学びを止めがちになりますが、世の中は常に変化しています。学び続けていかないと、自分の価値が劣化する危険性があります。

現場に行き、お客さんから学ぼう

学びは「お客さん」から得ることもある。現在玉川さんが広報を担当している工機ホールディングスのブランド「ハイコーキ」の製品は、電動工具や空気工具(空気の力を使って作業を行う工具)で、実際に商品を使うお客さんは、大工さんや金属やコンクリート、電気設備や水道・ガス等の職人さんになる。

玉川さんは自社製品の販売店を訪れて店頭に寄り添い、なるべく職人さんたちの話に耳を傾けるようにしている。

職人さんは、期日どおりにしっかりと良い仕事をして次の工程に渡していきます。そのため、自分の思い通りに仕事ができる工具が必要なんです。大切なのは、機能とか性能だけじゃなくて、「俺(私)に合っているな」というところ。一言でいうと、フィーリングですね。それを言語化することはとても難しいんですけれど、それに挑戦し続けるのが僕の仕事です。だから、僕自身がそのフィーリングを学ぶために、現場に出向くようにしています(玉川さん)

加藤さん

加藤さんからのTips3
顧客の声を知ると、記者に説明する時に役立つ

メディアに説明する場合に、実際に顧客の声を聞いているのと、いないのとでは大きな差が出ます。コロナ禍で動きづらくなっていても、実際に顧客の声が聞けるような機会を作って、自社の顧客がどんな人なのか、なぜ自社の商品(サービス)を選んだのかを知っておくといいでしょう。会えない場合でも、SNS の投稿にヒントがあることもありますし、アップセル/クロスセルや契約更新のためのテレセールスに関わったり、カスタマーサクセスの部署と連携してもいいかもしれません。自社のどこに顧客の生の声が蓄積されているか調べてみてはいかがでしょうか。

ビジネスモデルを徹底的に理解しよう

玉川さんは、どの企業に転職しても、お客さんから学ぶことを大切にしてきた。同時に、その企業のビジネスモデルを徹底的に理解して、それを視野に入れた活動をしてきた。

たとえばBtoCのネットビジネスは、人と会わないで仕事をすることが多いですよね。だからこそ、徹底してビジネスモデルを理解して、お客さんの行動を理解する。そのうえで何が自分たちの事業を促進するのに役立つのかを掘り下げていく。そして、立てた仮説を実験して繰り返し学んでいくことが大切ですね(玉川さん)

加藤さん

加藤さんからのTips4
自社のビジネスモデルを理解すると、アプローチすべきメディアがわかる

広報を行ううえでは、自社のビジネスモデルを正しく把握し、アプローチするメディアを検討する必要があります。たとえば、代理店販売をしているのであれば、代理店になるような企業・人が読んでいるメディアがターゲットとなることでしょう。英語圏の人向けの商材であれば、英語で発信しているメディアにアプローチすべきです。単に自分が知っているメディアや著名なメディアだけに対してアプローチを行うのは得策ではありません。

本は読むだけじゃなく、実践して学ぼう

これから広報経験を積んでいく人たちに、まずは本による学びがオススメだ。玉川さんは「本は一番安い投資だ」という。

本田直之さん初期の著作『レバレッジ・リーディング』にも書いてありますが、本は一番安い投資だと思います。誰かの血と汗と涙の結晶を数百円から数千円で学べるなんて、すばらしいと思いませんか?(玉川さん)

しかし、本は読むだけではだめ。学んだことをアウトプットをし、フィードバックを受けてまたアウトプットをていくという繰り返しこそが、重要になるという。現在の仕事の中で実践することで、自分のスキルにしていくわけだ。

本を読むことに成功したなら、学んだことをすぐに試してみたり、その道の専門家と会話をしてみたり、いろんな人とプロジェクトを一緒にやってみたりするといいですね。実践して検証をすることで学びが深くなります。一方で、「本に書いてあること、そのままではうまくいかないなぁ」と、失敗という経験から実感することも大切です(玉川さん)

コミュニケーションの仕事をしている人が自信をもつには、実践をした経験を証拠としてもつ必要があるからだ。

ぼくらの会社は、「現場」「現物」「現実」という三現主義という製造業のコトバに、「現在」を足して四現主義を採択しています。本で学ぶだけだと机上の空論に陥りやすくなりますが、実践して身になっていく。行動して確かめないことには、それが正しいかどうか、自分が正しく学べたかの答え合わせができない。四現と向き合うことで答え合わせをすることで生きている実感がわきますし、とても楽しくて良いと思います(玉川さん)

加藤さん

加藤さんからのTips5
広報のセミナーや書籍で学んだら、ぜひアウトプットを。

Web担当者フォーラムや、Peatixなどのイベント登録サイトにも掲載されているように、さまざまな広報/PR関連の(オンライン)セミナーや書籍があります。数百円から数千円で先人の知恵から学べる利点は大きいですが、イベントの参加数だけを誇って満足していませんか? 学んだことは、実践しないとあっという間に忘れてしまいます。そのときだけ頭でわかって感動すること、それが自分の身になること、実際の活動にその知恵を利用できることには大きな違いがあります。

セミナーや書籍で学びがあったら「自分はこんな風に理解した」とわかったところまでをブログなどで発信してみましょう。また、学びを実務に活かして、うまくいくかどうかを体験すると飛躍的に能力が伸びます。

もし、自分が話を聞きたいスピーカーのセミナーがない場合は、自分で企画してしまう方法もありますよ。

リーダーを目指すなら、もっていたいものとは?

これまで、広報/PRパーソンに望まれる資質として、「学び続けること、お客さんを理解すること、ものごとを俯瞰してビジネスモデルを理解する」ことが必要だと語ってくれた玉川さん。そしてさらに、将来リーダーを目指すなら、次の4つは心にとどめるべきだと話す。

  • 大志、使命感、情熱があること
  • 聞き上手であること
  • チームメンバーと向き合い、自分のためだけではなく、人のために働くこと
  • 戦略を立て、論理的に試行錯誤すること

PRの仕事は時間給では語れない。そこに大志があるかを問おう

インタビュー時に気になったのは、玉川さんが身に付けられているマスクや洋服の色。時計やベルトまで、ハイコーキのコーポレイトカラーのグリーンで統一されている。それは、「会社や商品を愛するためというより、会社・ブランドを盛り立てることへの使命感」からだという。

PRの仕事って、時間給じゃ語れないんですよね。特にグローバル企業だと、各国との時差もあり、時には24時間対応を覚悟しなくてはいけない。そうなると、何をさしおいても向き合うというモチベーションを高くもたないと続かないんです。大志があって、それを貫くなかで使命感になって、それが人に影響する情熱につながると思うんですよね(玉川さん)

ハイコーキ(HiKOKI)のコーポレイトカラーであるグリーンを身に付けられている玉川さん。マスクまでグリーンだった。日本オラクルでは赤、日本IBMではブルー、日本マクドナルドでは黄色と、会社を変わるたびに服を総入れ替えしてきたという

本当のコミュニケーションのプロは聞き上手

広報/PRパーソンはコミュニケーションのプロ。話し上手な人も多いが、さらに聞き上手であることはリーダーにとって必要なスキルになる。玉川さん自身も、経験しながら学んできた。

なかには相手の話を聞きながら「でもさ」「けどさ」「いや、それは」という言葉を返す人がいますが、相手が否定された気分になった瞬間、その心の扉が閉まるんです。聞き上手な人は、「いいね」「なるほど」「なんすば(なんてすばらしい)」「それで? もっと教えて」とか言うんですよ。これを繰り返す人とは、誰もが話しやすいですよね(玉川さん)

リーダーとしてのポテンシャルは「誰のために仕事をしているか」でわかる

一般的な人事の評価では、「現在の能力」「ポテンシャル」をみているが、ポテンシャルについては、「誰のために仕事をしているか」「大志はもっているか」を見極めることが大切だと玉川さんは話す。

部長以上になると、自身のパフォーマンスだけではなく人の成長にも責任をもつし、部の成果、会社の成果にも責任が出てきます。そうなると、自分のためだけに仕事をしている人には無理なんですよ。組織を越えた連携を積極的にやらないとか、私の仕事はここまでですと言っていては、他者を導くという本当の意味でのリーダーには向かないですね(玉川さん)

話が最も論理的な人をリーダーに抜擢

玉川さんは、工機ホールディングスに室長として入社後すぐに、チームメンバー全員とワンオンワン(1対1の会議)を行ったという。そして、その時の役職や職責に関係なく、話が最も論理的だった人財をリーダーに抜擢した。戦略を立て、まずは論理的に行動できることがリーダーにとって必要だからだ。

ビジネスという戦場で「戦略なき行動は最悪の結果を生む」と言われるように、闇雲な行動は良い選択とは言えませんし、その戦略を考えるには、論理的思考力が欠かせません。

入社直後にリーダーに抜擢したメンバーの一人はデザイナーでありながら、意志が強く、論理的かつ言語化能力の高かった方。派遣から契約社員、そして正社員になってまだ1年目の女性でした。リーダー登用当初はいろいろと物議を醸したんですが、結果、大活躍をして1年ちょっとで課長になりました。マネージャ―がその人のポテンシャルを正しく見極めたうえで、本人が実力を発揮できた好例ですね(玉川さん)

取材を終えて

玉川さんは熱い人だけど冷静で、感情と論理的な部分が良いバランスで共存しているなと改めて思いました。広報の仕事は、相手の気持ちを動かすことが必要なのですが、感情の部分だけが強いとうまく回らなくなるのです。玉川さんの元で学び、次世代の広報リーダーとなっている方は複数います。ただ、スタートアップで一人広報を行う場合は、そういった経験のあるリーダーの元で学びながら能力を高めていける機会が限られるのが現状です。そんな場合は社外に頼れる先輩を見つけて、そこから学んでいくこともスキルアップに繋がると思います(加藤さん)

*本インタビューは、撮影時のみマスクを外しています。インタビュー時には、距離を保ってマスクを装着して、コロナ対策に考慮した取材を行っています。

玉川岳郎 1992年早稲田大学を卒業。リード エグジビション ジャパンで広報宣伝を担当。1996年、日本オラクルにて広報室長を経て、2013年5月、日本IBM マーケティングコミュニケーションズ広報部長。2016年3月、日本マクドナルド コミュニケーション本部上席部長。2018年5月~現在、工機ホールディングス マーケティング・コミュニケーション室長。

加藤恭子 IT系月刊誌、オンラインメディアでの記者・編集者を経て、BtoBのIT企業でPR/マーケティングマネージャーを歴任。2006年に個人事業としてビーコミュニケーションをスタート。2007年より株式会社ビーコミとして法人化。複数企業のPR/マーケティング支援を行うほか、各種媒体で執筆活動や企業・団体向けに講演活動もしている。PRSJ認定PRプランナー。日本マーケティング学会理事、サイバー大学客員講師(コミュニケーション論)。

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